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論文記事 | 一般財団法人厚生労働統計協会|国民衛生の動向、厚生労働統計情報を提供

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論文

第60巻第5号 2013年5月

社会保障費(特に総医療費)と今後の国民負担増について

-大阪府医師会府民調査より-
遠山 祐司(トオヤマ ユウジ) 島田 永和(シマダ ナガカズ) 中村 正廣(ナカムラ マサヒロ)
鈴木 隆一郎(スズキ タカイチロウ) 加納 康至(カノウ ヤスシ) 松原 謙二(マツバラ ケンジ)
伯井 俊明(ハクイ トシアキ)

目的 日本の総医療費は,対GDP比でみると先進国の中でも下位に属し,民主党は,2009年のマニフェストにおいて,総医療費をOECD加盟国平均並みに引き上げるとしたが,いまだ達成されていない。医療崩壊をくい止め,地域医療を再生させるためには,総医療費を増額する必要があると考えるが,現在の経済状況や国民負担の増加などをも考慮して国民が納得するよう慎重に対応すべきである。そこで,総医療費や,医療費を構成する公費・保険料・患者負担,それぞれについての大阪府民の意識を調査し,今後の総医療費のあり方についての国民的議論と,広報活動の方向性を決定する指針とすべく,その結果を分析し,まとめた。

方法 大阪府医師会は,平成7年より府民調査を隔年実施している。エリアサンプリング(調査会社の調査員が訪問し記入を依頼)により1,320件の完了票を得た。今回は,これらの調査結果から主として医療費に関する質問を使用し,検討した。

結果 平成23年調査において,日本の総医療費が低いことを「知らなかった」は61.5%であり,「知っている」38.4%をかなり上回った。政府の社会保障費抑制政策に「反対」は59.6%,社会保障分野を増やすべきが43.6%と多かった。健康保険料については,「高い」が61.0%であり,窓口負担金についても42.8%と「高い」が多かった。受診を考えたけれども受診しなかった理由として「窓口での診察代金の支払いが負担であるから」は17.6%であった。また, 47.3%が,窓口負担金が「高い」ため「日本の総医療費も多い」と誤解していた。

結論 医療機関で支払う窓口負担金の負担感は強く,諸外国と比べても著しく高いことから,今後これ以上の負担増は難しいと思われた。また,窓口負担金の「高さ」ゆえ,「日本の総医療費も多い」と思い込んでいる国民(府民)の誤解を解く必要がある。健康保険料については,就業年齢の人々を中心に負担感が強いものの,被保険者・事業主の負担割合は年々減少しており,増額の余地はありそうである。公費負担については,国庫負担割合は横ばいであり,国の歳出増による適正額の支出が必要である。日本の医療水準を維持し,さらに向上させるには,医療費総額を引き上げる必要がある。そのためどのような負担増を受け入れていくのか,国民的な議論のための正確な資料提示と広報が急務である。

キーワード 社会保障費,国民負担増,窓口負担金,健康保険料,公費

 

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第60巻第5号 2013年5月

都道府県における自殺死亡率の推移と地域要因の分析

鈴木 隆司(スズキ タカシ) 須賀 万智(スカ マチ) 柳澤 裕之(ヤナギサワ ヒロユキ)

目的 日本の自殺者数は1998年から急増し,13年連続で年間3万人を超えた。以前より自殺死亡率には地域差を認めることが指摘されているが,その要因は十分に明らかにされていない。本研究では1990,1995,2000,2005年の自殺の都道府県別年齢調整死亡率について,地域要因との関係を男女別に解析した。

方法 自殺の都道府県別年齢調整死亡率(人口10万対)は,平成2,7,12,17年の都道府県別年齢調整死亡率(人口動態特殊報告)より得た。地域要因として人口・世帯,自然環境,経済基盤,労働,健康・医療,社会保障の6分野,計25指標は各官公庁の統計資料より得た。年別・性別に自殺死亡率と各指標との相関を調べ,重回帰分析(逐次変数選択法)を行った。

結果 地域要因25指標のうち有意な相関を認めた指標は,男性で最大15指標(2000年),女性では最大9指標(1995年)に上ったが,そのうち重回帰分析で有意に選択された指標は,男性で課税対象所得(1990,1995,2000,2005年:β=-0.68~-0.58,p<0.001)と日照時間(1995,2000,2005年:β=-0.39~-0.30,p<0.001~0.01),女性では第1次産業就業者比率(1990年:β=0.62,1995年:β=0.61,いずれもp<0.001)と日照時間(2000年:β=-0.47,p<0.001)であった。また,2005年の女性の解析では有意な指標を認めなかった。モデルの自由度調整済決定係数は,男性が0.45~0.61,女性は0.20~0.37(2005年を除く)であった。

結論 自殺と関連する地域要因として,男性で課税対象所得(1990,1995,2000,2005年)と日照時間(1995,2000,2005年),女性では第1次産業就業者比率(1990,1995年)と日照時間(2000年)が示され,自殺者数が急増した1998年前後で有意となる指標は変わらなかった。

キーワード 自殺死亡率,生態学的研究,地域要因,課税対象所得,第1次産業就業者比率,日照時間

 

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第60巻第5号 2013年5月

要介護認定データを用いた
特別養護老人ホームにおけるケアの質評価の試み

-11指標群の作成と施設間比較-
伊藤 美智予(イトウ ミチヨ) 近藤 克則(コンドウ カツノリ) 泉 真奈美(イズミ マナミ)
藤田 欽也(フジタ キンヤ)

目的 本研究の目的は,ケアの質評価指標の開発に向けた基礎的分析として,既存の要介護認定データから要介護度維持改善率など11指標を作成し,活用可能性を検証することである。

方法 A県内40保険者から提供を受けた要介護認定データと保険者向け給付実績情報を結合し,データセットを作成した。分析対象は,2007年6月と2008年11月の2時点で継続して特別養護老人ホームを利用していた者(n=4,923)と施設(n=91)であった。2時点における利用者の状態像変化を把握したうえで, 11指標を用いてケアの質評価を行った場合,施設間にどの程度の差がみられるのか,また指標間にはどのような関連があるのかについて検討した。

結果 指標ごとに,要介護度別の2時点における利用者の状態像変化をみると,大きく3つの類型に分けることができた。A群は軽度の人ほど悪化する指標であり,B群は重度な人ほど悪化する傾向にある指標,C群は中間にある要介護2~3の群で悪化する傾向にある指標であった。施設間比較では,より包括的な指標である要介護度維持改善率や寝たきり度維持改善率,認知症自立度維持改善率は,いずれも76%程度であった。これらの指標の平均値は全指標の中でも相対的に低く,悪化する人が多い傾向にあった。一方,褥瘡2時点でなしの割合は,平均値が92.2%(最小値75.0%,最大値100%)と高かった。指標間では,指標値に最小約21ポイント(歩行維持改善率)から最大約74ポイント(拘縮部位の維持減少率)の差がみられ,多くの指標で40ポイント程度の差があった。また,褥瘡2時点でなしの割合を除く10指標間では全体的に相関が高く,いずれも有意な正の相関がみられた。

結論 内容的妥当性の検討を踏まえると,今回試作した11指標のうち要介護度維持改善率は包括的指標として,食事摂取維持改善率と排尿・排便維持改善率は個別的指標として活用可能性があると思われた。指標を作成・解釈するうえで,分析対象をどうするか,死亡データを含めるかどうか,利用者の属性の調整をどこまで行うかについて検討する必要がある。既存データをケアの質評価に活用することは,評価のための新たなデータ収集が発生しないなどの利点がある。他方で,縦断データを作成する作業を簡略化するためのデータ仕様と収集・蓄積方法の開発や,事業所内で評価結果をうまく活用することができる仕組みづくりが求められる。

キーワード 特別養護老人ホーム,ケアの質評価,要介護認定データ,施設間比較

 

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第60巻第5号 2013年5月

認知症対応型共同生活介護・小規模多機能型居宅介護事業所
における外部評価によるサービス向上の考察

渡辺 康文(ワタナベ ヤスフミ)

目的 社会福祉事業の経営者にはサービスの質の評価が求められている。本調査は,地域密着型外部評価の対象である認知症対応型共同生活介護(グループホーム)と小規模多機能型居宅介護(小規模多機能),両事業所のサービス向上を支援するため,全国の事業所の外部評価結果から,現状における問題点・課題およびサービス向上に向けた目標達成計画の実態を明らかにすることを目的とした。

方法 平成23年度に外部評価を実施しワムネットに公開した45道府県の事業所10,196カ所を対象に目標達成計画を調査し,現状における問題点・課題の項目が何であったかを明らかにし,件数の多い上位3項目は目標達成計画の内容を分類・区分して分析した。調査時期は2012年1月15日から9月5日である。

結果 問題点・課題のある項目は21,961件で特定の項目に集中し「災害対策」「運営推進会議を活かした取り組み」「重度化や終末期に向けた方針の共有と支援」の上位3項目が過半数を占めた。災害対策は「地域へのはたらきかけ」の計画が4割で地域からの協力が十分でないことが示され,運営推進会議では「多様な参加者」を得る計画が3割で年6回の会議頻度での参加確保が容易でない実態が確認された。重度化・終末期では「職員の資質向上」の計画が3割でマンパワーの重要性が示された。情報公開上の課題としては,一部の目標達成計画がわかりにくいほか,項目番号の記載がない,そもそも目標達成計画の掲載がないなどが見られ,ユーザー・閲覧者への配慮が必要である。

結論 グループホーム・小規模多機能事業所には共通の課題が多く,計画の内容も同じ傾向のものが多かった。外部評価の本質は継続にある。今の仕組みを確実に実行して問題点・課題を発見し計画を実行することが,結局,サービス向上の最善策である。外部評価の仕組みについても,現場の意向を踏まえての見直しが必要である。

キーワード 外部評価,認知症対応型共同生活介護(グループホーム),小規模多機能型居宅介護(小規模多機能),目標達成計画,現状における問題点・課題

 

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第60巻第5号 2013年5月

特定保健指導の予防介入施策の効果に関する研究

-大規模データベースを使用した傾向スコアによる因果分析-
石川 善樹(イシカワ ヨシキ) 今井 博久(イマイ ヒロヒサ) 中尾 裕之(ナカオ ヒロユキ)
齋藤 聡弥(サイトウ トシヤ) 福田 吉治(フクダ ヨシハル)

目的 先進諸国では共通して非感染性疾患(NCD)が深刻な健康問題になっている。メタボリック症候群の要素の1つである肥満状態に陥っている人は,通常体重の人に比べて平均8年から10年寿命が短く,年間医療費が25%多いと推計されている。日本は2008年からメタボリック症候群の予防施策として,すべての医療保険者に40歳以上の加入者に対して特定健診と該当者の保健指導を義務づけ,メタボリック症候群予防政策を世界で初めて施行した。本研究の目的はこの予防政策の効果を検討することである。

方法 北海道から九州に至る地域(北海道,岩手県,東京都,石川県,三重県,山口県,香川県,高知県,宮崎県)の特定健診受診者のデータベースが使用された。これらの道都県における市区町村の国保加入者で,特定健診の受診者355,374人のデータを基に,2009年積極的支援の該当者かつ2010年の特定検診を受診した40~64歳までの4,052人を分析対象者とした。この対象者において積極的支援の利用の有無により,身体計測数値および検査数値に改善がみられるか検証を行った。分析には,傾向スコアによる重み付け推定法を用いた。

結果 解析対象となった4,052人のうち,積極的支援を利用した者は924人,積極的支援を利用しなかった者は3,128人であった。傾向スコアで調整した結果,積極的支援を利用した群は,利用しなかった群に比べて,体重は-0.88㎏(p<0.001),BMIは-0.33㎏/㎡(p<0.001),腹囲は-0.71㎝(p<0.001),ヘモグロビンA1cは-0.04%(p<0.05),中性脂肪は-11.30㎎/㎗(p<0.001),HDLコレステロールは+1.01㎎/㎗(p<0.001)と,統計学的に有意な改善がみられた。一方,収縮期血圧は-0.79㎜Hg(p=0.11)および拡張期血圧は+0.06㎜Hg(p=0.85)と,積極的支援の利用による統計学的に有意な改善はみられなかった。

考察 メタボリック症候群に対する国の予防政策として,積極的支援対象者に対する特定保健指導の効果について検証を行った。これまで日本人のリスクのある人を対象に,6カ月間の保健指導(非薬物療法,食事指導,運動指導など)により効果があるか否かについて,大規模データを使用して正確に検討されていなかった。本研究は,積極的支援対象者に対する特定保健指導について,一定の効果があることを明らかにした。

キーワード 特定健康診断・特定保健指導,積極的支援型プログラム,メタボリック症候群,傾向スコア,逆確率処理推定法,因果推論

 

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第60巻第6号 2013年6月

共働き世帯の両親の育児・仕事関連DHに
対する認知と育児行動の関係

小山 嘉紀(コヤマ ヨシノリ) 中島 望(ナカシマ ノゾミ) 朴 志先(パク ジソン)
近藤 理恵(コンドウ リエ) 桐野 匡史(キリノ マサフミ) 中嶋 和夫(ナカジマ カズオ)

目的 本調査研究は,共働きの両親を対象に育児と仕事に関連した日常的ないら立ちごとDaily Hassles(DH)に対するストレス認知が,彼らの育児行動に及ぼす影響を明らかにすることを目的とした。

方法 K県の保育所2カ所を利用する500世帯の養育者を対象に,無記名の質問紙調査を留め置き法にて実施した。本研究の分析では,属性(年齢,子どもの数,家族構成,末子の年齢,就労状況),育児関連DHに対するストレス認知,仕事関連DHに対するストレス認知,適切な育児行動,不適切な育児行動(マルトリートメント)を抜粋し,これらの項目に欠損値のない父親164名,母親170名のデータを使用した。

結果 両親に共通して,育児関連DHに対するストレス認知が児に対する教育的育児行動,心理的虐待,身体的虐待に影響していることを明らかにした。さらに父親では仕事関連DHのうちの職務ハッスルズに対するストレス認知が強くなると保護的育児を放棄する傾向にあり,他方,母親では職場環境ハッスルズに対するストレス認知が強くなるほど身体的虐待の発生頻度が高くなる傾向が認められた。

結論 共働きの乳幼児の両親,特に母親においてはワーク・ライフ・バランスの充実に向けた喫緊の施策の展開が強く望まれることが示唆された。

キーワード 共働き,育児ストレス,仕事ストレス,育児行動,マルトリートメント

 

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第60巻第6号 2013年6月

メタボリックシンドロームのリスク因子が
循環器疾患死亡に及ぼす影響について

-福島県郡山市における基本健康診査受診者の追跡調査から-
浜尾 綾子(ハマオ アヤコ) 阿部 孝一(アベ コウイチ) 早川 岳人(ハヤカワ タケヒト)

目的 郡山市の保健指導を効果的に実施することを目的に,肥満の有無やメタボリックシンドロームを構成するリスク因子の重積が循環器系の疾患(心疾患,脳血管疾患,循環器疾患)の死亡に影響を与えているかを検討した。

方法 後ろ向きコホート調査により,平成11年度の基本健康診査の受診者の内19,107人を対象とし,循環器系の疾患の死亡の有無を平成13年から平成20年まで追跡調査した。メタボリックシンドロームのリスク因子をわが国の診断基準で定義し,肥満の有無別にメタボリックシンドロームのリスク因子の保有数と心疾患,脳血管疾患,循環器疾患調整死亡ハザード比を算出した。また,リスク因子ごとの調整ハザード比も算出した。ハザード比とその95%信頼区間の算出はCox比例ハザードモデルを用いた。

結果 経過中,心疾患,脳血管疾患,循環器疾患の死亡者はそれぞれ209人,168人,425人であった。リスク因子数0個の非肥満群を基準とした循環器疾患死亡ハザード比はリスク因子2個または3個の非肥満群およびリスク因子2個および3個の肥満群でそれぞれ1.55(95%信頼区間:1.06-2.29),1.55(95%信頼区間:1.03-2.35),脳血管疾患死亡ハザード比はリスク因子数2個または3個の非肥満群で2.10(95%信頼区間:1.17-3.95)と有意なリスク増加を認めた。心疾患死亡ハザード比は肥満の有無,リスク因子数と関連のある有意な増加は認めなかった。リスク因子ごとのハザード比では,高血圧が脳血管疾患,循環器疾患の死亡リスクを有意に上昇させ,高血糖は脳血管疾患,循環器疾患,心疾患の死亡リスクを有意に上昇させたが,肥満によるリスク増加は認めなかった。

結論 肥満の有無に関係なくリスク因子数2個または3個の群で,循環器疾患による死亡リスクが有意に増加していた。また,リスク因子としては高血圧,高血糖が死亡リスクを有意に影響していた。以上より,本市での循環器疾患死亡に寄与するリスクとして肥満よりも高血圧および高血糖が重要であることが明らかになった。

キーワード メタボリックシンドローム,肥満,高血圧,高血糖,コホート調査

 

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第60巻第6号 2013年6月

高齢者における首尾一貫感覚(Sense of Coherence:SOC)
と自己効力感との関連

松井 美帆(マツイ ミホ) 大野 安里沙(オオノ アリサ)

目的 高齢者の首尾一貫感覚(Sense of Coherence:SOC)は人間を身体面だけでなく,精神的,社会的,さらには価値観・信念が反映された全体的な存在として捉えることが重要であるが,わが国のこれまでの報告ではSOC短縮版を用いたものが多く,類似概念との関連を検討した研究は十分に行われていない。そこで本研究では,一般高齢者を対象にSOCと自己効力感との関連を明らかにする。

方法 対象は九州地方のA県B市の老人クラブ会員300人で,このうち質問紙調査に有効回答の得られた182人を分析対象とした。調査内容は29項目からなるSOC評価スケール日本語版,一般性セルフ・エフィカシー尺度(General Self-Efficacy Scale:GSES),基本属性として年齢,性別,世帯構成,教育歴,健康状態,経済状態,別居家族・友人との交流等であった。

結果 対象者の平均SOC得点は平均137.4±20.4点であった。SOCとGSESの相関については,総得点では有意な正の相関(r=0.464,p<0.001)を認めた。また,各尺度の因子間および,両尺度の因子間についてもすべて有意な正の相関が認められた。さらに,単変量解析においてSOCと関連が示唆された経済状態,友人との交流,GSESに年齢,性別を加えて独立変数とし,SOCを従属変数として重回帰分析を行った結果,GSESが関連要因として認められた。

結論 高齢者のSOCは一般成人よりも強く,老年期においても生命力あふれる人生を生きる可能性が開かれていることが示唆された。また,自己効力感との関連も認められたことから,身体面だけでなく,社会面や価値観・信念について考慮することが重要である。

キーワード 首尾一貫感覚,自己効力感,高齢者,ストレス

 

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第60巻第6号 2013年6月

命の意味づけ尺度の開発

池田 幸恭(イケダ ユキタカ) 落合 亮太(オチアイ リョウタ) 菱谷 純子(ヒシヤ スミコ)
高木 有子(タカギ ユウコ)

目的 命や生命の問題を考える上では,個人がどのように命を意味づけているかが重要になると考え,命の意味づけ尺度を作成し,その信頼性と妥当性を確かめることを目的とした。

方法 生命および命に関連する先行研究と医療系大学生より収集した命の意味づけに関する自由記述に基づいて項目を作成した。作成した命の意味づけ尺度68項目について質問紙調査を医療系大学生に実施した。質問紙調査への協力者484名のうち,回答不備などを除いた434名の回答を分析した(有効回答率89.7%)。因子分析によって命の意味づけ尺度の下位尺度を構成し,α係数および再検査法による安定性から信頼性を検討した。さらに,命の意味づけ尺度について,死生観尺度との相関や,生死に関する経験による得点差から妥当性を検討した。

結果 命の意味づけ尺度は,因子分析の結果に基づき,「命としてあることの実感」「自分の命を人のために役立てたいという使命感」「世代を超えた命のつながり感」「命の相互のつながり感」「自他の命の証を遺したいという願い」「限りある命の実感」という6下位尺度から構成された。各下位尺度のα係数は0.63~0.87,再検査時の相関係数は0.35~0.56であり,「限りある命の実感」以外の5下位尺度に死生観尺度における『人生における目的意識』と0.18~0.35の相関係数が得られた。命の意味づけ尺度について,内的整合性と安定性,死生観および生死に関する経験との関連から,一定水準の信頼性と妥当性が確かめられた。

結論 命の意味づけ尺度は6下位尺度から構成され,一定水準の信頼性と妥当性が確かめられた。開発された命の意味づけ尺度を命の教育での授業評価あるいは看護や医療における臨床現場に活用することができると考えられた。

キーワード 命の意味づけ,生命,死生観,尺度

 

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第60巻第6号 2013年6月

離島地域における医療・福祉サービスと島内での看取りとの関連

堀越 直子(ホリコシ ナオコ) 桑原 雄樹(クワハラ ユウキ) 田口 敦子(タグチ アツコ)
小澤 卓(オザワ タカシ) 永田 智子(ナガタ トモコ) 村嶋 幸代(ムラシマ サチヨ)

目的 日本の高齢化率は23.1%であり,今後も増加傾向にあることが予想されるが,すでに離島地域の高齢化率は30%を超え,高齢社会を先取りする地域である。離島地域で暮らす高齢者の島内に住み続けたいというニーズに対し,島内での看取り体制の構築に向けた示唆を得るため,人口規模別に医療・福祉サービスの整備状況と島内での看取りとの関連について明らかにすることを目的とした。

方法 離島振興法等に指定された有人離島310島のうち,全国離島振興協議会に属する309島を管轄する137市町村を対象とし,2011年8月に郵送および電子メールを用いて,島の人口規模,医療・福祉サービスの有無,要支援・要介護認定者数,島内および島外での65歳以上の死亡者数などについて質問紙調査を実施した。また,島内看取り率(=島内での65歳以上の死亡数/対象地域に住民票を有する65歳以上の1年間の死亡数)の平均値を2群に分けて,島内の人口規模別に医療・福祉サービスの整備状況と島内看取り率の高低の関連を検討した。

結果 人口が99人以下の島(以下,少人口群),100~999人以下の島(以下,中人口群),1,000人以上の島(以下,多人口群)の島内看取り率の平均値は,それぞれ33.3%・19.5%・57.6%と多人口群で最も高かった。また,多人口群の島内看取り率高群の割合は65.4%で,少人口群38.5%・中人口群28.3%と比べ,有意に高かった(p=0.009)。さらに,多人口群のなかで,有床診療所あるいは病院(p=0.001)および介護保険施設(p=0.008)のある島は,ない島と比べ,島内看取り率高群の割合が有意に高かった。

結論 全国の離島地域の約8割が1,000人未満の島であることから,多くの離島地域に暮らす高齢者は,住み慣れた島ではなく,島外で亡くなる者が多いという実態が明らかになった。また,多人口群では,医療・福祉サービスの充実が島内看取り率に関連があった。しかし,現実的な解決策として,病院や介護保険施設などを新たに整備することは難しい。そのため,離島の特性にあった地域密着型のサービスの導入を検討していくことは重要であろう。

キーワード 医療・福祉サービス,高齢者,死亡場所,離島

 

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第60巻第6号 2013年6月

日本人自殺者数とその増減による空間集積性の評価

冨田 誠(トミタ マコト) 石岡 文生(イシオカ フミオ) 久保田 貴文(クボタ タカフミ)
藤田 利治(フジタ トシハル)

目的 日本における自殺者数は,長年にわたって高い水準で推移しており,この問題の解決のためには統計的な把握が重要であることは明白である。日本人の大規模かつ大量データを用いて,地理的な空間集積性を把握し,さらに時間的な増減の変化も考慮し,各地域における詳細な傾向・推移を考察する。

方法 「自殺死亡についての地域統計」を2008年の隣接情報に従って空間・時空間的な集積性構造を明らかにし,Echelon scan法によって得られた最大尤度比となる領域をmost likely clusterとして同定した。

結果 時空間解析を用いた結果と異なり,期間ごとの増減率を用いた結果では,男性は特に急増した第3~5期に大都市圏に近い領域が集積地域として検出され,また,女性は第4~6期に大都市圏に近い領域が検出された。

結論 男性・女性ともに,首都圏または近畿圏などの大都市圏を中心とした領域が集積地域として検出され,先行研究とそれぞれ異なる推移・傾向を示した。年間の自殺者数が3万人を超えた第5期以降(1998年以降)の超高水準期に移る前の大都市圏での変化が,現在の自殺者数増加という状況に影響を与えた何らかの兆候を示しているのではないかと考えられた。

キーワード 自殺データ,空間集積性,空間スキャン統計量,時空間解析

 

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第60巻第7号 2013年7月

日本人の感染症に対する脆弱性認識とリスク認知

稲益 智子(イナマス トモコ) 堀口 逸子(ホリグチ イツコ) 丸井 英二(マルイ エイジ)

目的 感染症のリスク認知は,感染症予防対策において,人がどの程度予防対策を順守するかを決定づけるため,その効果を左右する重要な要因の一つである。本研究は,日本人一般の感染症に対するリスク認知と,性別,年齢,主観的な脆弱性レベルとの関連を明らかにすることを目的とした。

方法 2008年に実施した20~59歳の日本人を対象としたウェブ調査の一部を解析した。感染症に対する脆弱性認識のレベルは,回答者が評価した「感染症で死に至る可能性」から測定した。リスク認知は,「個人へのリスク」「社会に対するリスク」として5段階評定で測定し,感染症12項目の合計点および各感染症項目の得点の平均を算出した。算出したリスク認知の平均値を,性別,年齢,感染症に対する脆弱性認識のレベル別に比較した。

結果 回答者全体においても各人口集団においても,新型インフルエンザのリスク認知が最も高く,「社会に対するリスク」を「個人へのリスク」より高く評価する傾向にあった。エイズとノロウイルスに対するリスク認知で年齢との相関が,感染症7項目で性差が認められた。感染症に対する脆弱性認識のレベルの高い「悲観群」は有効回答の23.8%を占め,すべての感染症項目で,「楽観群」より顕著に高いリスク認知を示した。回答者全体および「楽観群」では,リスク認知の平均点が4点を超えたのは新型インフルエンザのみだったが,「悲観群」は12項目中7項目で4点を超え,鳥インフルエンザに対するリスク認知が新型インフルエンザに次いで高かった。

考察 日本人一般における感染症に対するリスク認知の傾向は,日本における実際の罹患状況と連動しており,妥当なものといえる。リスク認知の差は,性別や年齢よりも,感染症に対する脆弱性認識のレベルの異なる2群間で最も顕著であり,日本人一般に一定数含まれると推定される「悲観群」の存在は,感染症のアウトブレイクや予防に際し,考慮すべきである。

キーワード リスク認知,感染症,脆弱性認識

 

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第60巻第7号 2013年7月

原爆被爆者健診における肺がん検診の効果

横田 賢一(ヨコタ ケンイチ) 三根 真理子(ミネ マリコ) 柴田 義貞(シバタ ヨシサダ)

目的 本研究は高齢化する原爆被爆者に対する肺がん対策としての肺がん検診の有効性を評価するため,一般住民を対象とした日本での先行研究と同様に,がん診断日以前のがん検診の受診ががん死亡にもたらす効果について症例対象研究による評価を行うことを目的とした。

方法 2000年1月1日から2007年12月31日までの肺がん死亡448人のうち,死亡時年齢が80歳以上の170人と喫煙状況の情報が得られなかった39人を除外した239人(男168人,女71人)を症例群とした。対照は,症例と対照の比を1対3として,各症例にその死亡時点で生存していた被爆者を,性(男/女),出生年(1年ごと),喫煙習慣(有/無)並びに被爆状況(3区分)でマッチさせた717人(男504人,女213人)を対照とした。症例のがん診断日を基準として遡り,それ以前の肺がん検診受診の有無について症例と対照を比較することとし,がん診断前の受診時期別と診断前10年間の平均受診頻度別との比較を行った。解析は条件付きロジスティック回帰分析(SAS PHREGプロシージャ)により,喫煙指数で調整した検診受診のオッズ比を求めた。

結果 がんの診断前1年以内の受診は症例群で12.6%,対照群で23.6%,オッズ比は0.56(95%信頼区間0.35-0.88,P=0.012)と検診受診は肺がん死亡群で有意に低かった。また,診断前の10年間における受診頻度別の解析では,ほぼ毎年~3年に2回以上は症例群6.3%,対照群12.3%であり,オッズ比は0.52(95%信頼区間0.27-1.00,P=0.050)であった。

結論 被爆者検診における肺がん検診の有効性について症例対照研究により評価した。がん診断前の1年間のがん検診受診により肺がん死亡リスクを44%低減でき,毎年ないし3年に2回以上の受診を継続すれば48%の効果が期待できることが示唆された。高齢化する被爆者の肺がん対策として毎年の検診受診を勧奨しなければならない。しかし,がんに関連する症状や兆候があるための受診を考慮した解析がさらに必要である。

キーワード 肺がん,がん検診の有効性,肺がん死亡,症例対照研究,原爆被爆者

 

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第60巻第7号 2013年7月

子どもの心の診療拠点病院機構推進事業に
かかる人的費用推計

植田 紀美子 (ウエダ キミコ) 奥山 眞紀子(オクヤマ マキコ)

目的 子どもの心の診療システムの整備を目的とした「子どもの心の診療拠点病院機構推進事業(以下,拠点病院事業)」が,平成20年度からの3年間実施された。今後,子どもの心の診療が推進されていくためには,拠点病院事業の実態を把握し,それに伴う人的費用を明らかにすることが重要である。本研究の目的は,分析の立場を事業提供者側として,拠点病院事業の実施状況と人的費用を記述し,部分的経済的評価を行うことである。

方法 平成23年11月,11自治体18カ所の拠点病院に対して電子メールで記名式自記式質問票による調査を実施した。調査内容は,拠点病院の基本情報,子どもの心の診療従事者,拠点病院事業の基本情報および事業従事者の内訳などである。本稿では,事業の実態を明らかにし,事業最終年度の事業内容別職種別の年間人的費用を解析した。

結果 10自治体14病院から回答があった。拠点病院間で,診療報酬上の病院の機能が異なっていた。この相違が診療報酬の相違として大きかった。医師数の多い病院ほど,診療支援や医師への初期研修や後期研修,コメディカルへの実施研修などの専門的かつ継続的な研修事業を実施していた。拠点病院事業のほとんどすべての事業項目で医師が関与していた。 子どもの心の診療医は,小児領域での他の診療分野や大人の精神科領域に従事する医師とは異なり,診療業務に加えて,調整業務,連携業務等が要求されていた。出張医学的支援・巡回相談は,医師数の多い拠点病院のみ行っており,1人1回当たりの時間が比較的長く人的費用も高かった。診療支援にかかる人的費用は普及啓発や研修事業にかかる人的費用よりもそれぞれ5倍,2倍と極めて高く,約570万円であった。本調査により,拠点病院事業の必要経費である人的費用が総額約955万円と推計できた。

結論 子どもの心の診療の需要ニーズは年々増加する一方,専門医や対応可能な医療機関の不足等のため,政策医療としての対応が望まれる。今後,子どもの心の診療が充足されるためには,拠点病院事業の後継事業である「子どもの心の診療ネットワーク事業」が全国規模で推進される必要がある。中でも出張医学的支援・巡回相談は効果的な連携強化,タイムリーな介入が期待できるものであるからこそ,費用面の対策も必要である。また,子どもの心の診療に関わる専門職の育成は,全国的に事業展開される前提条件となる重要課題である。

キーワード 子どもの心の診療拠点病院機構推進事業,人的費用,部分的経済的評価,子どもの心の診療医,ネットワーク

 

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第60巻第7号 2013年7月

入院児の母親の睡眠に関する研究

-小児専門病院における分析-
萱場 桃子(カヤバ モモコ) 小澤 三枝子(オザワ ミエコ)

目的 乳幼児を持つ母親の多くは,子どもの不安を軽減するために入院における母親の付き添いは必要であると考え,夜間の付き添いを希望している。しかし,付き添い家族のための環境は十分に整備されておらず,入院児の母親は心身ともに多大な負担を抱えていることが予測される。入院児の母親の主観的な睡眠(入眠,中途覚醒,熟睡感)が入院後にどのように変化したかを調査し,付き添い家族のための援助について検討した。

方法 2006年7~10月,小学2年生以下の入院児の家族を対象に自己記入式の質問紙調査を実施した。調査票の配布は看護師長に依頼し,郵送で回収した。面会・付き添い状況と入院児の母親の睡眠との関連について明らかにするために,小児専門病院2施設に入院している入院児の母親からの回答を対象に分析を行った。

結果 小児専門病院2施設に入院する児の母親94名のうち,付き添いをしている母親は57名(60.6%)であった。「入院児の年齢」「入院日数」「同胞の有無」の変数で調整した多変量ロジスティック回帰分析を行った。付き添いをしている母親は,面会をしている母親に比べ,「入眠困難」になるリスクが7.2倍(95%信頼区間(CI):1.9-27.6,p=0.004),中途覚醒が増加するリスクが12.9倍(95%CI:3.5-47.6,p=0.000),熟睡感が低下するリスクが6.0倍(95%CI:1.8-19.9,p=0.004)であった。付き添いをしている母親のうち,病院貸出しの寝具を利用している母親は48.3%であり,51.7%は児のベッドで添い寝をしていた。児のベッドで添い寝をしている母親に比べ,病院貸出しの寝具を利用している母親の方が寝具に対する満足度が低かった。

結論 入院児と家族のための環境が整っていると考えられる小児専門病院においてさえも,付き添いをしている入院児の母親は面会をしている母親に比べ,主観的な睡眠の質が低いことが示された。付き添いをしている母親の約半数は子どもと添い寝をしていること,病院貸出しの寝具を利用している母親の寝具に対する満足度が低いことから,母親の添い寝を想定した寝具の導入や付き添い家族のための睡眠環境の整備を行うことにより,付き添い家族の負担軽減が見込まれる。

キーワード 入院児の母親,付き添い,睡眠,入院環境,小児専門病院,寝具

 

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第60巻第7号 2013年7月

地域在宅75歳以上の介護保険利用者における転帰

-小田原市お達者チェック調査5年間のデータ分析-
相原 洋子(アイハラ ヨウコ) 山縣 然太朗(ヤマガタ ゼンタロウ)

目的 75歳以上高齢者人口の増加に伴い,同年齢グループにおける要介護認定者の数も増加している。要介護状態にある高齢者は,日常生活動作機能の低下から,自立している高齢者と比較し,生命予後が悪い,転居や施設入所といった居住移動の可能性が高いことが示唆されている。本調査では,75歳以上の居宅高齢者を対象に,介護保険サービス利用と転帰との関連について検証することを目的とした。

方法 平成19~23年度に実施された,75歳以上高齢者の見守り調査の回答者23,620人を分析対象とした。調査時の介護保険利用状況と,5年間の累積生存率をKaplan-Meier法にて,性・年齢階級別に算出した。またCox比例ハザードモデルを用いて,死亡,転出,施設入所のハザード比を性別に算出した。

結果 介護保険サービスを利用している人は,3,031人(12.8%)であった。介護保険利用者は,男女ならびにすべての年齢階級において,5年間の累積生存率が有意に低く,特に男性において生命予後が悪くなる傾向にあった。多変量によるハザードモデルでは,80歳以上男性,75~79歳の女性において,介護保険サービスの利用と死亡との関連が有意であった。また男女ともに介護保険サービスの利用は,施設入所のリスクとなっていたが,転出との関連はなかった。

結論 介護保険サービスを利用している75歳以上在宅高齢者は,生命予後は男性において悪く,施設入所する傾向は女性において高いことが明らかとなった。要介護状態となっても,住み慣れた環境で生活できる支援が重要であると考えられる。

キーワード 介護保険サービス,後期高齢者,転帰,日常生活動作

 

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第60巻第7号 2013年7月

地域社会での人的関わりと高齢者の主観的健康との関連

立福 家徳(タテフク イエノリ)

目的 高齢者が社会的に孤立したり地縁社会が弱体化したりする中で,高齢者が地域社会で主体的に活動し健康でいることは,高齢者個人の問題ではなく,高齢化の進む日本社会全体の問題となってきている。そこで,日本においてそれほど多くみられないそのような関係性に関する全国規模の実証研究を行い,関係を明らかにする。

方法 高齢者の健康と地域社会との関わりについての調査項目を含む「老研-ミシガン大学全国高齢者パネル調査」の個票データを用いて,60歳から95歳までの高齢者を対象に5段階の主観的健康感を被説明変数に用いた順序ロジット分析を行った。

結果 分析結果からは,親友の人数と行き来のある隣人の人数,参加しているグループの会合への参加の頻度,人からの頼まれごとの程度,ちょっとした事を頼める人の存在が高齢者の主観的健康感を高めていることが明らかとなった。また,女性のみに対象を限定した分析では,親友の人数は統計的に説明力を持たず行き来のある隣人の数が健康に良い影響を与えていた。また,オッズ比から見る影響の大きさでは頼まれごとの程度の与える影響が男女を対象にした場合と男性のみを対象にした場合よりも大きくなっていた。

結論 加齢や,所得といった個人の社会経済的な要因をコントロールしても,地域社会との積極的な関わりが高齢者の健康に良い影響を与えていることが明らかになった。今日の日本において,高齢者の健康に地域社会が与える影響の重要性は,保健医療政策を考える上で十分認識されているとはいえない。さらに頼りにされているという充足感が健康に大きな影響を与えている点は今後の高齢者と地域との関わり方についてその一方策を示すものであると考える。

キーワード 順序ロジット,高齢者,地域社会,人的交流,主観的健康

 

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第60巻第7号 2013年7月

東京都23区ごとの孤独死実態の地域格差に関する統計

金涌 佳雅(カナワク ヨシマサ) 阿部 伸幸(アベ ノブユキ) 谷藤 隆信(タニフジ タカノブ)
野崎 一郎(ノザキ イチロウ) 森 晋二郎(モリ シンジロウ) 福永 龍繁(フクナガ タツシゲ)
舟山 眞人(フナヤマ マサト) 金武 潤(カネタケ ジュン)

目的 区役所や各区の住民組織等に資することのできる孤独死問題への施策立案のための基礎資料や,孤独死の社会疫学的分析に資する基礎データを提供することを目的に,東京都の区ごとで発生した孤独死数・率,死後経過日数ならび死亡時年齢を集計した。

方法 異状死のうち,死亡場所が自宅である単身世帯者の事例を孤独死と定義し,平成2・7・12・17・22年に東京都監察医務院が取り扱った孤独死を調査対象とした。調査項目は性,年齢,世帯分類,住所(区)であり,集計項目は住所別・性別の孤独死数,孤独死率,死後経過日数,死亡時年齢とした。また,孤独死の発生が統計的に有意に高い区があるか否かを,性・年別孤独死について空間集積性の検定を実施した。さらに,性・年・区ごとの死後経過日数と死亡時年齢について分散分析・多重比較を行い,これらの値の区ごとの差を検出した。

結果 いずれの区でも,男女とも孤独死数は経年的に増加傾向が認められた。男性孤独死は23区の東部・北部地域で,統計的に有意に集積していたが,女性孤独死の孤独死発生の地域格差は明確にはみられなかった。死後経過日数は全般に男性の方が女性よりも長い傾向にあり,死亡時年齢は男女共に年々上昇している傾向が認められた。

結論 孤独死事例の生前の様子を死後に詳細に分析することは難しいことが多く,孤独死の個別の特徴を把握するのは困難と考える。しかし,本研究で観察された区ごとの男性孤独死の地域格差に基づき,孤独死の地域的特徴といった統計的実態を明らかにできる可能性は示唆される。

キーワード 孤独死,孤立死,監察医,単身世帯

 

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第60巻第8号 2013年8月

摂食・嚥下障害が在宅療養に及ぼす影響

川辺 千秋(カワベ チアキ) 成瀬 優知(ナルセ ユウチ) 寺西 敬子(テラニシ ケイコ)
新鞍 真理子(ニイクラ マリコ) 下田 裕子(シモダ ユウコ ) 廣田 和美(ヒロタ カズミ)
東海 奈津子(トウカイ ナツコ) 道券 夕紀子(ドウケン ユキコ) 梅村 俊彰(ウメムラ トシアキ)
吉井 忍(ヨシイ シノブ) 安田 智美(ヤスダ トモミ)

目的 摂食・嚥下障害が在宅療養に影響しているかどうかを明らかにする。

方法 A県B地区において,2000年4月1日~2008年12月31日の期間に初回介護認定を受けた第1号被保険者5,185人のうち,初回介護認定から1年以内に2回目の介護認定を受けた人の中で,初回介護認定調査場所が自宅で,かつ初回介護認定時の嚥下能力が「出来る」「見守り等」に該当し,経管栄養を使用していない2,724人の介護認定審査会資料を対象とし,性別,年齢,嚥下能力,排泄行為(排尿・排便)の介助の方法,要介護度,認知症高齢者の日常生活自立度,脳血管疾患の有無を調査した。認定調査場所を療養場所と仮定し,初回・2回目介護認定時ともに自宅の者を在宅療養継続群,初回が自宅で2回目介護認定時が自宅以外の者を在宅療養中断群とした。また,嚥下能力の変化について,初回介護認定時と2回目介護認定時の判定結果から,「嚥下出来る状態維持」群,「嚥下出来る状態から悪化」群,「嚥下見守り等の状態維持または改善」群,「嚥下見守り等の状態から悪化」群の4群に分類した。嚥下能力の変化が在宅療養の継続に及ぼす影響をみるため,性別,年齢,排便行為の介助の方法の変化,初回の認知症高齢者の日常生活自立度および脳血管疾患の有無を調整し,二項ロジスティック回帰分析を行った。

結果 初回介護認定時は男性923人,女性1,801人で,平均年齢は81.7±6.8歳であった。在宅療養継続群は2,423人,中断群が301人であり,初回介護認定時,嚥下能力は「嚥下出来る」群が2,367人,「嚥下見守り等」群は357人であった。また,二項ロジスティック回帰分析の結果,嚥下能力の変化では,「嚥下出来る状態から悪化」群は「嚥下出来る状態維持」群に比べて,在宅療養中断のオッズ比が3.13と有意(p<0.01)に高かった。

結論 在宅療養を中断する要因として,嚥下能力の変化の中でも嚥下出来る状態から悪化することが影響していることが示唆された。

キーワード 在宅療養,摂食・嚥下障害,介護認定,嚥下能力

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第60巻第8号 2013年8月

23価肺炎球菌ワクチンの再接種およびインフルエンザワクチン
との同時接種に関する実態

-自治体の接種に対する助成の有無による相違について-
星 淑玲(ホシ シュリン) 近藤 正英(コンドウ マサヒデ) 大久保 一郎( オオクボ イチロウ)

目的 2009年10月に23価肺炎球菌ワクチン(以下,23-PPV)の再接種(以下,再接種)およびインフルエンザワクチンを含む他の不活化ワクチンとの同時接種(以下,同時接種)が承認された。本研究は,診療所における再接種および同時接種の承認に対する医師の認知状況,同時接種または再接種に対する医師の態度とその理由,接種の実施状況や自治体の23-PPV接種に対する助成の有無がこれらの項目とどのように関連するかを明らかにすることを目的とした。

方法 2010年8月までに23-PPV接種に対する公費助成を実施した374自治体にある14,953の内科を標ぼうする診療所(以下,助成あり群)と公費助成を行っていない1,376自治体にある50,421の内科を標ぼうする診療所(以下,助成なし群)から,それぞれ2,000の診療所を単純無作為法で抽出した。2011年2~4月にこれら計4,000の診療所に郵送法によるアンケート調査を実施した。診療所を代表する医師1名にアンケートの回答を求めた。

結果 回収率は34.0%であった。同時接種の承認に対する認知割合は,助成あり群が47.6%,助成なし群が41.8%であり,両群間に有意な差は認められなかった。一方,再接種の承認に対する認知では前者が77.6%,後者が70.8%であり,有意な差が認められた。2010年10月~2011年1月の期間中の23-PPVの接種,再接種および同時接種の実施状況は,助成あり群でそれぞれ84.8%,39.0%,11.3%であり,助成なし群では74.2%,31.2%,5.8%であった。いずれの接種においても助成あり群で有意に高かった.再接種または同時接種をすすめない理由については,「副反応」と「自治体による助成がないこと」が上位にあげられた。

結論 自治体の23-PPVの助成の有無にかかわらず再接種の承認に対する認知割合が同時接種のそれより高かった理由として,再接種に対する要望や調査報告などが頻繁に学術誌,各種医学会またはマスコミなどに取り上げられたことが考えられる。「再接種の承認に対する認知の有無」と「23-PPV接種に対する助成の有無」の間に有意な関連が認められたことから,再接種に関する情報は助成あり自治体の医師の間でより認知されていることが示された。23-PPVの接種実施状況,同時接種/再接種の実施状況などは,それぞれ「23-PPV接種に対する助成の有無」と有意な関連が認められた。これらの結果から23-PPV接種または同時接種の接種実施割合を向上させるためには,自治体の23-PPVの接種費用に対する助成が重要であることが示された。

キーワード 23価肺炎球菌ワクチン,インフルエンザワクチン,再接種,同時接種,自治体,助成

 

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第60巻第8号 2013年8月

鹿児島県における自殺死亡の地域集積性と社会生活指標との関連

寒水 章納(カンスイ アキノ)

目的 鹿児島県市町村における自殺死亡の地域集積性を明らかにし,性別にみた自殺死亡と社会生活指標との関連を分析し,自殺死亡高率・低率地域の較差を明らかにすることを目的とした。

方法 鹿児島県45市町村における自殺死亡標準化死亡比(自殺死亡SMR)(2003~2007年)のデータを基に四分位偏差を算出し,75%パーセンタイル値以上を示した地域を自殺死亡高率地域,25%パーセンタイル値以下を示した地域を自殺死亡低率地域と定義し,性別にマップ化を行い,自殺死亡の地域集積性を明らかにした。また自殺死亡高率・低率地域の二群について,性別に社会生活指標24項目の平均値の差の検定を実施した。

結果 鹿児島県市町村における自殺死亡SMRは,過疎地域に集積性を認めた。性別では男性は宮崎県との県境にある曽於地域,熊本県との県境にある伊佐地域,そして南九州市,女性は男性同様,宮崎県との県境にある曽於地域,南九州市,加えて出水市,そして霧島市に集積していた。性別にみた各社会生活指標の平均値の差の検定では,男性の自殺死亡高率地域で離婚率(人口千対)が有意に高かった。女性の自殺死亡高率地域では,第一次産業就業者比率(%)が高く,第三次産業就業者比率(%),完全失業率(%),そして一般診療所病床数(人口10万対)は有意に低かった。

結論 鹿児島県市町村における自殺死亡は,過疎地域に集積性を認めたが,女性の自殺死亡に関して,過疎地域以外の自殺死亡高率地域では長期的な調査が望まれる。自殺死亡と社会生活指標の関連について,男性の自殺死亡高率地域では離婚率(人口千対)が高く,家族構成および家族機能が自殺死亡と関連している可能性が示された。女性の自殺死亡高率地域では第一次産業就業者比率(%)が高く,第三次産業就業者比率(%),完全失業率(%),一般診療所病床数(人口10万対)は低いという特徴が明らかとなり,女性がより過疎化の影響を受ける可能性が示唆された。今後は自殺死亡と社会生活指標との関連について,市町村別・性別を考慮した質的調査が望まれる。本研究は地域相関研究であり,集団間の交絡因子の調整が困難であるため,今後はこれらの問題を除去した上で個人レベルでの検証が必要である。

キーワード 自殺,地域集積性,社会生活指標,鹿児島県,地域相関研究

 

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第60巻第8号 2013年8月

原子力発電所事故による県外避難に伴う近隣関係の希薄化

-埼玉県における原発避難者大規模アンケート調査をもとに-
増田 和高(マスダ カズタカ) 辻内 琢也(ツジウチ タクヤ) 山口 摩弥(ヤマグチ マヤ)
永友 春華(ナガトモ ハルカ) 南雲 四季子(ナグモ シキコ) 粟野 早貴(アワノ サキ)
山下 奏(ヤマシタ ソウ) 猪股 正(イノマタ タダシ)

目的 東日本大震災によって避難を強いられた者のうち,埼玉県へ県外避難を行った福島県民を対象に,精神的健康の現状および今後の生活に影響を与えると考えられる避難先地域社会における近隣関係の実態を把握することで,孤立化に対する支援の方向性を提言していくことを目的とした調査・分析を行った。

方法 埼玉県内に避難中の福島県住民2,011世帯に自記式質問用紙を配布するアンケート調査を実施した。調査期間は2012年3月から同年4月までであり,有効回答数は490票(回収率:24.4%)であった。調査項目については,「年齢」「性別」「現在の住所地」「震災以前の住所地」「住宅の被害状況」「現在の住居に落ち着くまでの滞在場所の数」に加え,「心的外傷ストレス症状の度合い(IES-R)」「震災前後の近所づきあいの人数」の質問項目で構成された。

結果 本調査の結果におけるIES-Rの合計点平均は36.2±21.4であり,極めて高い値を示していた。また,25点を超えた割合は全体の67.3%であり,回答者の半数以上がPTSDの可能性がある高いストレス状況にあることが明らかとなった。また,震災前に構築された地域コミュニティが避難によって崩壊し,現在は従前に比して希薄化した人間関係の下,避難者が生活している実態が調査より明らかとなった。加えて,「互いに相談したり日用品の貸し借りをするなど,生活面で協力し合っていた人」が極端に減少した者は,IES-R得点が有意に高値であった。

結論 多くの県外避難者が高いストレス状況下で避難生活を送っており,近隣関係というソーシャルサポートを失っていた現状が明らかとなった。今後は,孤立化を防ぐためにも積極的に地域との接点を創出しつつ新たなコミュニティづくりを模索していくとともに,公的な資源を投入することでセーフティネットを構築していくことが求められる。

キーワード 近隣関係の希薄化,県外避難,IES-R,PTSD,東日本大震災

 

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第60巻第8号 2013年8月

都内勤労者における高血圧と各種健康行動との関連

-性・年齢別の比較-
田島 美紀(タジマ ミキ) 李 廷秀(リ チョンスゥ) 渡辺 悦子(ワタナベ エツコ)
髙山 真由子(タカヤマ マユコ) 深堀 敦子(フカホリ アツコ) 土屋 瑠見子(ツチヤ ルミコ)
朴 淙鮮 (パク ジョンソン) 片岡 裕介(カタオカ ユウスケ) 森 克美(モリ カツミ)
川久保 清(カワクボ キヨシ)

目的 高血圧該当者割合は加齢とともに増加し,30歳以上の人口の5割に及ぶ。高血圧の予防・改善のためには適正体重の維持,身体活動,節酒,減塩等の健康行動が推奨されているものの,その実施状況は性・年齢により異なり,高血圧との関連も異なることが考えられる。本研究は都内勤労者における高血圧と健康行動との関連を性・年齢別に明らかにすることを目的とした。

方法 都内A健診機関において,2008年度または2009年度の健診を受診した30~69歳の男女11,399人を対象とした。健診結果より高血圧(収縮期血圧≧140㎜Hg,拡張期血圧≧90㎜Hg,降圧剤服用中のいずれかに該当),肥満(BMI≧25㎏/㎡),各種健康行動(20歳からの体重増加,喫煙習慣,飲酒習慣,運動習慣,身体活動,歩行速度,夜間間食,就前食事,朝食欠食,食事速度,睡眠による十分な休養)に関するデータを収集した。分析対象者の年齢を10歳ごとに区分し,性・年齢別に高血圧と健康行動との関連を年齢とBMIを調整した多重ロジスティック回帰分析にて検討した。

結果 分析対象者9,840人(男性60.7%)のうち高血圧該当者の割合は男性28.9%,女性14.2%であった。肥満であることはすべての性・年齢で高血圧と有意な正の関連がみられた。年齢とBMIを調整した結果,20歳からの体重増加が10㎏以上あることは男性の30歳代で,酒をほぼ毎日男性2合以上,女性1合以上飲むことは男性の40~60歳代と女性の40歳代で高血圧と有意な正の関連がみられた。身体活動を毎日1時間以上行っていないことと食事速度が速い・普通であることは男性の50歳代で,運動習慣がないことは男性の60歳代で高血圧と有意な正の関連がみられた。喫煙習慣があることと高血圧とは男性30・50歳代,女性の50・60歳代で有意な負の関連がみられた。その他の健康行動と高血圧との間には有意な関連はみられなかった。

結論 すべての性・年齢において肥満は高血圧のリスクを高めることが再確認された。各種健康行動と高血圧との関連は性・年齢別に異なることが示され,男性30歳代は体重増加の予防,男女ともに40歳代からリスクの低い飲酒の仕方,男性50歳代は身体活動量の確保と食事速度を意識的に遅くすること,男性60歳代は運動を定期的に行うことが重要であり,性・年齢を考慮した高血圧対策の支援が必要である。

キーワード 勤労者,健康行動,高血圧,性,年齢,肥満

 

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第60巻第11号 2013年9月

東日本大震災における
居宅介護支援事業所と地域包括支援センターによる
利用者の安否確認の実態の比較と課題

-岩手県・宮城県の沿岸部と内陸部の比較をもとに-
岡田 直人(オカダ ナオト) 白澤 政和(シラサワ マサカズ) 峯本 佳世子(ミネモト カヨコ)

目的 東日本大震災発生直後において,岩手県と宮城県の居宅要援護高齢者の安否確認を実施した居宅介護支援事業所の介護支援専門員(以下,CM)および地域包括支援センター(以下,包括)が果たした活動の実態を整理・比較することで,地域包括ケアシステムにおける地域の主要な担い手であるCMと包括の今後のあり方を検討した。

方法 CM調査と包括調査は,岩手県と宮城県のすべての事業所・包括を対象とし,質問紙による自記式郵送調査を行った。有効回収数(率)は,CM調査は464件(46.9%),包括調査は139件(48.3%)であった。2011年12月28日~2012年2月10日に回収されたデータを基に単純集計とχ2検定を行い,2調査の結果の違いを考察した。分析は,2調査はともに,宮城県と岩手県を合算したデータを用い,市町村所在地により沿岸部グループと内陸部グループを比較して行った。

結果 多くのCMと包括が震災直後から安否確認を開始し,3月20日までに終了していた。包括では,2次予防事業対象者の安否確認も実施していた。沿岸部と内陸部の比較では,CMと包括ともに沿岸部での安否確認に困難が生じていた。安否確認の情報源は,CMは同居家族,ヘルパー,デイ職員,同じ事業所のケアマネジャーが多く,包括はケアマネジャー,民生委員,近隣住民が多かった。優先的に安否確認した人は,CMと包括ともに,独居の人,高齢夫婦のみの人,医療ニーズの高い人で共通し,それ以外は違いがあった。優先的安否確認者への日頃の緊急対応策では,CMと包括に共通点がみられた。安否確認実施のきっかけは,沿岸部と内陸部に違いはなかった。安否確認が困難だった理由は,CMと包括ともに沿岸部で共通した。

結論 CMと包括ともに震災の初動期から居宅要援護高齢者の安否確認が行われていた。CMと包括の平常時における連携先の違いが,震災時の安否確認の情報源の違いに現れたと示唆された。安否確認では介護保険制度によるCMと包括の存在意義は大きかったといえる。今回の経験から,災害に限らず緊急時の対応方法を検討することで,CMと包括ともに平常時の業務の質の向上の可能性を高め,地域包括ケアシステムにおける地域のネットワーク構築の強化に資することが期待できる。

キーワード 東日本大震災,利用者,安否確認,居宅介護支援事業所,介護支援専門員,地域包括支援センター

 

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第60巻第11号 2013年9月

高齢者向けの運動教室が参加者の身体機能と
医療費に及ぼす効果

渡邊 裕也(ワタナベ ユウヤ ) 山田 陽介(ヤマダ ヨウスケ ) 三宅 基子(ミヤケ モトコ)
木村 みさか(キムラ) 石井 直方(イシイ ナオカタ)

目的 首都圏のH市で実施された高齢者を対象とした健康づくり事業が参加者の身体機能および医療費に及ぼす効果を検討することを目的とした。

方法 H市が平成19年度から2年間,6カ月を1サイクルとして,4サイクル開催した運動教室の参加者を分析対象者とした。選出基準は,運動教室に連続3サイクル以上参加していること,6カ月ごとに実施した体力測定に連続3回以上参加したこと,国民健康保険(後期高齢者医療制度)の加入者であることとした。体力測定では身長,体重,安静時血圧,握力,閉眼片足立ち,長座位体前屈,2ステップ値,複合関節動作(チェストプレス,プル,スクワット)の等速性最大筋力を測定した。医療費(医科・調剤)については,抽出期間を運動教室開始前1年間と開始後2年間の計3年間とし,推移を観察し,運動教室非参加群(対照群)と比較した。対照群の選出基準は,同市に在住で,同時期に運動教室に参加していないこと,国民健康保険(後期高齢者医療制度)の加入者であることとし,参加群と性別,年齢でマッチングした。分析対象者数は両群とも72名(男性5名,女性67名)とした。

結果 収縮期血圧は運動開始前に対して6カ月後,12カ月後で有意に低値を示した。チェストプレス,プル,スクワットの等速性最大筋力および2ステップ値は運動開始前に対して6カ月後,12カ月後で有意に高値を示した。その他の測定項目では,3回の測定を通して有意な変化は認められなかった。両群の運動教室開始前1年間の年間医療費に統計学的な有意差は認められなかった。参加群では3年間で有意な年間医療費の増減は認められなかったが,対照群では平成18年度に比べ20年度で有意な年間医療費の増加が認められた。また,両群の3年間の年間医療費の変化量を比較したところ,対照群の増加量が参加群と比べ有意に高値を示した。

結論 本研究により,介護予防や健康増進を目的とした高齢者向けの運動教室の効果として,下肢および上肢の筋力増強が生じること,安静時の収縮期血圧が低下することが明らかになり,運動教室への参加が医療費上昇の抑制をもたらす可能性が示唆された。いくつかの問題点はあるが,うまく動機づけを行い教室への参加を続けさせ,適切な情報を提供して行動変容を促すことができれば,月に1~2回の運動教室の開催でサルコぺニアを予防でき,かつ医療費の上昇を抑えることができるかもしれない。

キーワード 高齢者,運動事業,医療費,サルコぺニア

 

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第60巻第11号 2013年9月

市町村におけるがん検診精度管理指標の評価方法について

-Funnel plotによる評価-
松村 香(マツムラ カオリ) 沼田 加代(ヌマタ カヨ) 畠山 玲子(ハタケヤマ レイコ)
小林 きよみ(コバヤシ キヨミ) 工藤 明美(クドウ アケミ) 有田 明美(アリタ アケミ)

目的 健康増進法に基づき市町村が実施するがん検診事業は,各都道府県に設置された生活習慣病管理指導協議会が,その実施において適正であったかを評価することが国の指針で望まれている。がん検診の精度管理指標には,要精検率,精検受診率,がん発見率などがあり,これらの指標は「厚生労働省がん検診事業評価に関する報告書」に記された許容値等と比較することで評価されるが,自治体の規模の大きさにより各指標にばらつきが生じうるため,単純な比較には問題がある。人口規模の違いを考慮に入れた上で,各精度管理指標が極端に低い(あるいは高い)市町村を検出することができるFunnel plotを用いて,大阪府の市町村におけるがん検診の各精度管理指標について評価を行った。

方法 大阪府で毎年刊行している「大阪府におけるがん検診」の平成20年度の各市町村のがん検診精度管理指標を評価した。本報告では大腸がん検診を例とした。横軸を分母の値(検診受診者数や要精検者数)とし,縦軸を各精度管理指標(要精検率,精検受診率,がん発見率)の点推定値とし,市町村の散布図を描く。その上に厚生労働省のがん検診事業の評価に関する委員会で決められた許容値を水平に描き,横軸の数値に応じた縦軸の95%信頼区間および99.8%信頼区間を描いた(Funnel plot)。各市町村の規模に応じた許容値の信頼区間を基準とし,統計的に有意に逸脱していないかを評価した。全体の評価および検診の実施方式(集団・個別)別にも検討した。

結果 全体では男性で要精検率が統計的に有意に高い市町村が多く(21/43市町村),精検受診率は男女とも低い市町村が多かった(男性12/43,女性13/43)。要精検率は集団方式と比べて個別方式の方が,統計的に有意に高い値を示す市町村が多かった。一方,精検受診率は個別方式でのばらつきが大きく,許容値に比べて統計的に低い値を示した市町村が多かった(男性13/26,女性14/26)。集団方式では,個別方式よりもばらつきが小さく,高い精検受診率を示した市町村が多かった。

結論 市町村において実施されているがん検診の精度管理指標は点推定値で比較されることが多く,人口規模の違いを考慮することができなかったが,Funnel plotを用いることで,人口規模に応じた許容値の達成度を評価することが可能となった。

キーワード がん検診,がん対策,がん検診精度管理,Funnel plot

 

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第60巻第11号 2013年9月

急性期脳神経疾患リハビリテーション患者の疾患特性

鈴木 雄介(スズキ ユウスケ) 澤田 優子(サワダ ユウコ) 福田 寛二(フクダ カンジ)

目的 脳神経外科病棟に入院した代表的な脳神経疾患患者における,在院日数やリハビリテーション開始までの日数,リハビリテーション開始時および終了時の日常生活動作能力,退院転帰について分析を行い,急性期病院での疾患特性に応じた効率的なリハビリテーション介入を行うための方策を検討した。

方法 過去3年間に当院脳神経外科病棟に入院した代表的な脳神経疾患である脳梗塞,脳出血,くも膜下出血,脳腫瘍の各疾患における在院日数,リハビリテーション開始までの日数,リハビリテーション開始時および終了時のFunctional Independence Measure(以下,FIM),退院転帰について分析した。

結果 リハビリテーションの開始が早く,開始時のFIMが高いほど在院日数が短く,終了時のFIMも高かった。在院日数,リハビリテーション開始までの日数は,くも膜下出血と脳腫瘍が脳梗塞と脳出血に比べ有意に長かった。すべての疾患の開始時と終了時のFIMには有意差を認めた。退院転帰は,脳梗塞と脳出血は回復期リハビリテーション病棟への転院が多く,くも膜下出血は回復期リハビリテーション病棟と一般病院への転院が同程度,脳腫瘍は自宅退院が最も多かった。

結論 脳梗塞と脳出血は集中的な機能訓練,くも膜下出血は回復期リハビリテーション病棟への転院に向けた調整,脳腫瘍は早期からの自宅復帰支援の必要性が示唆された。

キーワード 脳神経疾患,FIM,退院転帰

 

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第60巻第11号 2013年9月

農村部地域住民における家族構成と首尾一貫感覚との関連

森 浩実(モリ ヒロミ) 斉藤 功(サイトウ イサオ) 江口 依里(エグチ エリ)
丸山 広達(マルヤマ コウタツ)古川 慎哉(フルカワ シンヤ) 加藤 匡宏(カトウ タダヒロ)
谷川 武(タニガワ タケシ)

目的 農村部地域住民を対象に,ストレス対処能力とされる首尾一貫感覚(Sense of coherence:SOC)と家族構成との関連について検討することとした。

方法 愛媛県大洲市において,2009~2011年の特定健診受診者(40~74歳)のうち,本研究参加の同意を得た男性1,427人,女性2,040人に対し,SOC13項目を含む質問紙調査を実施した。家族構成は,独居,夫婦世帯,2世代世帯,その他の世帯に分類した。喫煙,飲酒,身体活動量,高血圧,糖尿病,脂質代謝異常の有無を調整因子として,共分散分析およびロジスティック回帰分析により,家族構成とSOCとの関連を検討した。

結果 共分散分析の結果,家族構成とSOC総得点との間に有意な関連が認められ,男女ともに,夫婦世帯より独居者のSOCは有意に低かった(p<0.05)。40~64歳,65~74歳の年齢階級で層別化すると,40~64歳ではSOC総得点と家族構成との有意な関連は認められなかったが,65~74歳において有意な関連を認め,男性の独居者は2世代世帯より,女性の独居者は夫婦世帯よりSOC総得点が有意に低かった(p<0.05)。SOC総得点が平均値以下である多変量調整済みオッズ比は,男性の65~74歳において2世代同居に対して独居者では1.97(95%信頼区間:1.08-3.59)であった。女性では,家族構成とSOC低下との有意な関連は認めなかった。

結論 農村部地域住民において,独居者のSOCが低下しており,特に65歳以上の男性においてその傾向が顕著であった。男性の高齢者では,ストレス対処能力に配偶者や家族がいることが強く影響していることが示唆された。

キーワード 首尾一貫感覚,ストレス対処能力,家族構成,高齢者,独居

 

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第60巻第11号 2013年9月

医師数,医療機関数,病床数,患者数のバランスから評価した
医療資源の地域格差とその推移

 
関本 美穂(セキモト ミホ) 井伊 雅子(イイ マサコ)

目的 医師不足および医師の偏在は,わが国の医療の大きな課題である。政府は二次医療圏の診療機能の均てん化を目標としてきたが,地域格差はほとんど解消されていない。われわれは人口当たり医師総数で二次医療圏を層別化し,各グループにおける平成8年から22年までの医療資源や業務量の推移を検討した。

方法 「政府統計の総合窓口(e-Stat)」上で提供されている平成8年から22年までの「国勢調査」「医師・歯科医師・薬剤師調査」「医療施設調査」「患者調査」を二次医療圏単位で集計したうえで結合し,時系列データを作成した。同期間に大きな再編のなかった224の二次医療圏を人口当たり医師総数の4分位で4群に分け,平成8年,14年,20年における各種指標の分布を群間比較した。検討した指標は,①医師数/人口比,②病院数/人口比・病床数/人口比,③医師数/病院数比・医師数/病床数比,④患者数/医師数比,⑤患者数/病院数比・患者数/病床数比,⑥手術件数/人口比・手術件数/医師数比である。

結果 医師数/人口比が大きいグループほど人口に比して病院や病床が多く,病院数や病床数に対する医師数も大きかった。最上位グループに人口の47.5%,医師の65.1%が集まっていた。医師数/人口比の格差の大部分が,病院あるいは大学病院の医師数の違いに由来した。すべてのグループで医師数/人口比が経年的に増加したがグループ間格差は解消されず,平成20年における下位グループの医師数/人口比は最上位グループの平成8年時の値に達しなかった。医師が少ない地域では,医師数に対する外来患者数,入院患者数,全身麻酔件数の比が大きく,医師の負担が大きいことが示唆された。最上位グループは他の医療圏からの患者を受け入れて急性期を中心とする医療を提供していた。

結論 二次医療圏レベルでみた医療資源の地域格差は非常に大きく,この格差は過去12年間ほとんど解消されていない。ただし医師が多い地域と少ない地域では提供する医療の内容も異なり,複数の医療圏が機能を補完し合って診療を提供している。医療資源や保健医療財政の限界から考えると,地理的なアクセスの平等性を目指すのではなく,思い切った医療資源の集約や診療のボリュームをコントロールすることを目指すべきである。

キーワード 医師数,二次医療圏,地域格差,医療資源

 

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第60巻第12号 2013年10月

全国の婦人相談所の運営に関する実態調査

阪東 美智子(バンドウ ミチコ) 森川 美絵(モリカワ ミエ)

目的 全国の婦人相談所の運営状況を概観し,支援体制や業務内容に関する全国的様相と地域間の相違を明らかにすることを目的とした。

方法 平成22年度婦人保護事業実施状況報告および婦人保護事業実態調査の結果を二次的に利用した。分析においては,都道府県の女性人口を補足データとして用い調整した。

結果 婦人保護事業における各都道府県の職員の配置(女性人口10万人当たり)は,婦人相談所では最少0.17人,最多4.77人で28倍の格差が,一時保護所では最少0.26人,最多3.66人で14倍の格差が,婦人相談員(市区を含む)は最少0.39人,最多3.95人で10倍の格差がみられた。婦人相談所の業務として必要と思われる16項目に関する要綱または手引き等の策定状況は,「DV被害者の保護支援」「ケースの要保護性の判断基準や保護の実施方法」「緊急対応(暴力加害者からの追及への対応等)」「電話相談」の4項目について半数以上の婦人相談所が策定していたが,一時保護中および退所後の支援,妊婦や性暴力被害者など特段の配慮が必要と思われる対象者への支援,市町村や他機関との連携に関しては,制度や環境の構築が遅れていることが明らかになった。相談の受付状況については,婦人相談所で受け付けるものとそれ以外の場所で婦人相談員が受け付けるもので,その方法や来所相談者の類型が異なっており,都道府県間の差も大きかった。なお,婦人相談員数と婦人相談員が行った相談実人員数の間にはかなりの相関があった。

結論 婦人保護事業は国全体として取り組むべき大きな課題となっているが,本調査からは,婦人保護行政のあり方が地域特性に帰す範囲を越えて地域ごとに大きなばらつきのあることが示唆された。婦人相談所等の機能や体制を見直し,再構築を図ることが求められる。

キーワード 婦人相談所,婦人保護事業,婦人相談員

 

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第60巻第12号 2013年10月

高齢知的障害者の死亡原因と疾患状況

-国立のぞみの園利用者の診療記録から-
相馬 大祐(ソウマ ダイスケ) 五味 洋一(ゴミ ヨウイチ) 志賀 利一(シガ トシカズ)
村岡 美幸(ムラオカ ミユキ) 大村 美保(オオムラ ミホ ) 井沢 邦英(イザワ クニヒデ)

目的 国立重度知的障害者総合施設のぞみの園(以下,国立のぞみの園)入所者の罹患の状況と死亡原因に関するデータを整理し,知的障害者の健康管理と医療・介護を考える上での基礎的資料を得ることを目的とした。

方法 国立のぞみの園の過去の診療記録から,入所者の死亡原因および既往歴に関する情報を収集し,集計・分析した。調査対象は,1971年4月から2011年3月の間に死亡した162人とした。病名はICD10国際疾病分類第10版ならびに植田の文献を参考に分類した。

結果 2000年度以前に亡くなった利用者は90人であり,死亡時の平均年齢は41.6歳であった。一方,2001年度から2010年度に亡くなった利用者は72人で,死亡時の平均年齢は59.7歳であった。この結果から,高齢知的障害者に関する死亡原因や疾病については,2001年度から2010年度の間に亡くなった者を対象に,より詳細に分析することが有効と判断した。2001年度以降とそれ以前の死亡原因を比較すると,呼吸器系疾患で死亡した人の割合が全体の43.1%にのぼり,大幅に増加していた。次に,72人の利用者が罹患して最初に診断を受けた年代を疾患別に整理した。その結果,疾患ごとに最初に診断を受けた年代の傾向は異なり,4つに疾患を分類することができ,50歳代で初発となる疾患が多い傾向にあった。

結論 本研究の結果,障害者支援施設で生活する高齢知的障害者の死亡原因としては,新生物や脳血管疾患の割合が比較的低く,呼吸器系疾患で死亡する割合が高いことがわかった。そのため,国立のぞみの園では嚥下機能の低下による肺炎のリスクの備えとして,特別食導入等の食事の工夫や口腔機能の向上・維持を目的とする摂食・嚥下訓練等を実施している。また,罹患状況の分析の結果,30歳代以降の身体状況の変化に注視するとともに,50歳代での多様な疾病の罹患に備える必要性がうかがえた。そのため,身体機能等の変化のない30歳代以前の身体機能,認知機能等をベースラインとして記録するとともに,30歳代以降はそれらの情報を定期的に記録しておく必要性があるといえる。グループホーム・ケアホームは職員数が少なく,非正規職員の世話人が多い傾向にあり,通院の介助や医療機関との連携についても対応に苦慮する実態が指摘されている。上記の取り組みの他,障害福祉分野に限らず,高齢福祉,医療分野の専門職を交えた検討が必要といえる。

キーワード 高齢知的障害者,死亡原因,罹患状況

 

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第60巻第12号 2013年10月

総合健康保険組合被保険者に対する
職業性ストレスチェックを加味した禁煙プログラムの効果

 
冨山 紀代美(トミヤマ キヨミ) 春山 康夫(ハルヤマ ヤスオ ) 猿山 淳子(サルヤマ アツコ)
金子 牧子(カネコ マキコ) 武藤 孝司(ムトウ タカシ)

目的 禁煙プログラムに加えて職業性ストレス調査結果をフィードバックしたプログラムの効果を明らかにすることを目的とした。

方法 本研究は準実験研究であり,研究対象である総合健康保険組合に加入する1事業所の5,721名に対して喫煙および職業性ストレスのアンケートを実施した。有効回答者は4,304名(75.2%)で,そのうちの喫煙者1,396名(32.4%)を本研究の対象者とした。喫煙者のうち1,250名には禁煙プログラムとして禁煙の情報提供および禁煙治療サポートへの参加の推奨等を実施し,146名には禁煙プログラムに加えて職業性ストレス結果のフィードバックを実施した。1年後,追跡調査としてアンケートを実施したところ2年間続けて参加した対象者はそれぞれ789名(63.1%)と120名(82.2%)であった。アンケートの項目は性,年齢,仕事関連因子,喫煙および職業性ストレスであった。職業性ストレスの評価は厚生労働省の職業性ストレス簡易調査票(BJSQ)を用い,仕事のストレッサー,身体的ストレス,精神的ストレスおよび社会的支援の各指標はリッカート尺度で計算した。カテゴリー変数についてはχ2検定,連続変数は対応のないt検定,職業性ストレス各指標の前後比較は対応のあるt検定を用いた。また,群別の1年後の禁煙成功者については多重ロジスティック回帰分析を実施した。

結果 禁煙+BJSQ結果フィードバック群では仕事のストレッサー平均得点は有意に低下しており(P=0.042),精神的および身体的ストレスに関しては有意な変化はみられなかった。一方,社会的支援の平均得点は禁煙のみ群で有意に減少していた(P<0.003)。年齢,性,雇用形態,シフトワーク,職位および労働時間を調整した結果,禁煙のみ群に対し禁煙+BJSQ結果フィードバック群は2.05倍(95%信頼区間:1.002-4.208)禁煙に成功した。

結論 禁煙+BJSQ結果フィードバック群では仕事上のストレッサーが減り,禁煙のみ群に対し,禁煙+BJSQ結果フィードバック群の喫煙禁煙成功者が2倍多かった。本研究の結果から事業所にて禁煙を推進していくためには,喫煙に関するアプローチのみでなく,職業性ストレスの軽減も考慮した働きかけが必要であることが示唆された。

キーワード 産業保健,健康保険組合,喫煙,禁煙,職業性ストレス

 

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第60巻第12号 2013年10月

がん検診受診率の算定対象変更に伴う精度管理指標の変化

岸 知輝(キシ トモキ) 濱島 ちさと(ハマシマ)

目的 日本のがん検診受診率は10~20%と諸外国に比べ低い。2012年6月にがん対策推進基本計画が見直され,諸外国との比較等も踏まえ,がん検診受診率の算定対象が40~69歳(子宮頸がんは20~69歳)までに変更となった。そこで算定対象変更が,がん検診の精度管理指標である,がん検診受診率,要精検率,精検受診率,がん発見率,陽性反応適中度に及ぼす影響を検討した。

方法 2008,2009年度地域保健・健康増進事業報告,2005年国勢調査のデータを使用し,2008年度に40歳(子宮頸がんは20歳)以上の全年齢を対象とした場合と,40~69歳(子宮頸がんは20~69歳)を対象とした場合(以下,算定対象変更後)の胃がん,大腸がん,肺がん,乳がん,子宮頸がんについて,がん検診受診率,要精検率,精検受診率,がん発見率,陽性反応適中度を算出した。がん検診受診率の算定方法は標準算定方式を用いた。比較検討はχ2検定を用いた。

結果 算定対象変更後では全年齢を対象とした時よりも,がん検診受診率は,胃がん,大腸がん,肺がん,乳がん,子宮頸がんにおいて有意に増加した。要精検率は,胃がん,大腸がん,肺がんにおいて有意に減少したが,乳がん,子宮頸がんにおいて有意に増加した。精検受診率は,大腸がんは有意に増加し,胃がん,乳がんにおいて有意に減少したが,肺がん,子宮頸がんでは有意差はみられなかった。がん発見率は,胃がん,大腸がん,肺がん,乳がんは有意に減少したが,子宮頸がんでは有意差はみられなかった。陽性反応適中度は,胃がん,大腸がん,肺がん,乳がんは有意に減少したが,子宮頸がんでは有意差はみられなかった。

結論 がん検診受診率算定対象に上限を設定したことで,壮年期の死亡率減少効果が期待でき,がん検診受診率を把握できるようになった。対策型がん検診は,対象年齢の上限を設けず実施しているが,今後,根拠に基づいた対象年齢の上限を研究する必要がある。現在では,その根拠が不明であることから,70歳以上のがん検診受診率の把握も引き続き必要と考える。精度管理指標に許容値,目標値が設定されているが,要精検率,がん発見率,陽性反応適中度については,対象年齢の罹患率の影響を受ける精度管理指標であるため,算定対象変更後の年齢層の罹患率に対応した許容値,目標値を再検討する必要がある。がん検診受診率,精検受診率については現状の許容値,目標値の達成に向け,取り組んでいく必要がある。

キーワード がん検診,受診率,算定対象,精度管理指標

 

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第60巻第12号 2013年10月

二次医療圏における研修医マッチ者数の変化について

-平成15~17年および平成21~23年の比較-
江原 朗(エハラ アキラ)

目的 医師の新臨床研修制度導入により,都会と地方の医療資源の格差が拡大したとの報じられることが多い。そこで,新臨床研修制度導入後9年間の各二次医療圏における研修医マッチ者数の変化を解析する。

方法 平成15年から23年における各研修病院のマッチ者数は医師臨床研修マッチング協議会のホームページから引用した。平成22年12月末の各二次医療圏に相当する圏域の研修医マッチ者数を算出し,平成15~17年合計値と平成21~23年合計値とを比較した。

結果 平成21~23年に「0~15人」および「201人以上」のマッチ者数を有する二次医療圏の数は,平成15~17年よりも少なかった。一方,「16~200人」のマッチ者数を有する二次医療圏の数は平成15~17年よりも多かった。二次医療圏における研修医マッチ者数の10および20パーセンタイル値は,平成15~17年,平成21~23年ともに0人で変化がなかった。しかし,平成21~23年における30から80パーセンタイル値は,平成15~17年に比べて増加する一方,90パーセンタイル値は減少していた。大学病院がない場合,マッチ者数が「0~30人」および「51~100人」のマッチ者数カテゴリに属する二次医療圏では上方のカテゴリに移動する地域が多く,「31~50人」および「101~200人」のカテゴリに属する二次医療圏では下方のカテゴリに移動する地域が多かった。大学病院がある場合は,「1~15人」および「51~200人」のマッチ者数カテゴリに属する二次医療圏では上方のカテゴリへの移動する地域が多かった。しかし,「201人以上」のマッチ者を有する二次医療圏では下方のカテゴリへ移動する地域が多かった。

結論 平成15~17年と比べて,平成21~23年には「16~200人」の研修医マッチ者数を有する二次医療圏の数が増加し,「0~15人」ないし「201人以上」のマッチ者数を有する二次医療圏の数が減少していた。大学病院の有無によって規模は異なるが,マッチ者数の少ない二次医療圏ではマッチ者数が増え,ある一定規模以上のマッチ者がいた二次医療圏では逆にマッチ者数が減っていた。

キーワード マッチング,新臨床研修制度,二次医療圏,偏在,医師不足

 

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第60巻第12号 2013年10月

患者調査のオーダーメード集計による主傷病と副傷病の関連

橋本 修二(ハシモト シュウジ ) 川戸 美由紀(カワド ミユキ ) 山田 宏哉(ヤマダ ヒロヤ)
谷脇 弘茂(タニワキ ヒロシゲ) 栗田 秀樹(クリタ ヒデキ)

目的 平成20年患者調査のオーダーメード集計に基づいて,主傷病と副傷病の関連性を検討した。

方法 統計法34条に基づくオーダーメード集計を利用して,入院・外来,性・年齢階級と主傷病別の副傷病の推計患者数を得た。主傷病は傷病大分類,副傷病は糖尿病,高脂血症,高血圧(症),虚血性心疾患,脳卒中とした。入院と外来ごとに,主傷病別の副傷病の推計患者数を観察するとともに,性・年齢構成を調整した期待値に対する比(O/E比)を算定した。

結果 主傷病が虚血性心疾患と脳血管疾患に対する副傷病が糖尿病,高脂血症と高血圧(症)のO/E比はいずれも1.5以上であった。O/E比が1.5以上の組み合わせとしては,主傷病が糖尿病と高血圧性疾患に対する副傷病が虚血性心疾患と脳卒中,主傷病が「糸球体疾患,腎尿細管間質性疾患及び腎不全」に対する副傷病が糖尿病,高血圧(症),虚血性心疾患と脳卒中などであった。

結論 主傷病と副傷病の中に強い関連性を有する組み合わせがみられ,オーダーメード集計の利用の有用性が示唆された。

キーワード 患者調査,オーダーメード集計,主傷病,副傷病,保健統計

 

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第60巻第13号 2013年11月

再生医療の臨床研究参加意向に関する調査

-Web調査を利用して-
堀口 逸子(ホリグチ イツコ) 川南 公代(カワミナミ キミヨ) 城川 美佳(キガワ ミカ)
重松 美加(シゲマツ ミカ)

目的 国民の再生医療における臨床研究参加促進のためにiPS細胞の認知について,また研究参加と提供者不明ヒト幹細胞利用およびドナーとレシピエントの個人情報の取り扱いに関する意向の把握を目的とした。

方法 (財)日本情報処理開発協会による「プライバシーマーク」を取得しているリサーチ会社モニター20~69歳の日本国内居住者を対象に,iPS細胞に関する認知調査と,その調査においてiPS細胞を「おおむね知っている」または「言葉を聞いたことはある」と回答した5,128人(回収率59.7%)に対して,再生医療の臨床研究参加意向に関する調査を実施した。意向調査の質問は,臨床研究参加意向,提供者不明のヒト幹細胞利用意向,ドナーおよびレシピエントへの情報提供の4問である。調査は平成23年2月25日から3月2日に実施した。

結果 iPS細胞を「おおむね知っている」「言葉を聞いたことがある」は約70%で,男性が女性より認知群が有意に多かった(p<0.0001)。臨床研究参加の肯定群は76.1%で,iPS細胞を「おおむね知っている」が「言葉を聞いたことはある」より有意に多かった(p<0.0001)。提供者不明のヒト幹細胞利用意向の肯定群は46.0%で,男性(52.2%)が女性(39.3%)より有意に多かった(p<0.0001)。iPS細胞を「おおむね知っている」(50.4%)が「言葉を聞いたことはある」(44.1%)より有意に多かった(p<0.0001)。情報提供をドナーおよびレシピエントに求める肯定群は全体の90%を超えた。

結論 iPS細胞の認知や臨床研究参加意向は過去の世論調査や研究と大差なかった。提供者不明ヒト幹細胞利用意向は約半数で,ドナーの情報が明白なこと,いわゆる連結可能であることが求められている。また,レシピエント,ドナーともに将来の健康状態の変化に対する情報提供を望んでおり,トレーサビリティ(追跡透明性)が期待されている。iPS細胞を「おおむね知っている」が「言葉を聞いたことはある」より有意に研究参加意向が高かったため,iPS細胞とはどういうものか等の理解促進が研究参加の促進につながると考えられる。

キーワード iPS細胞,ヒト幹細胞,再生医療,臨床研究,情報提供,Web調査

 

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第60巻第13号 2013年11月

地域住民を対象とした家族に認知症症状がみられた場合の
受診促進意向と認知症に対する受容態度との関連

杉山 京(スギヤマ ケイ ) 中尾 竜二(ナカオ リュウジ ) 澤田 陽一(サワダ ヨウイチ)
桐野 匡史(キリノ マサフミ) 竹本 与志人(タケモト ヨシヒト) 有田 明美(アリタ アケミ)

目的 本研究は,地域住民における認知症の早期受診の実現に有用な示唆を得ることを目的に,地域住民が自身の家族に初期の認知症症状がみられた場合の受診促進意向と認知症に対する受容態度との関連について検討した。

方法 A市小地域ケア会議に属する福祉委員206名に対し,無記名自記式の質問紙調査を実施した。調査内容は,属性,認知症の知識量,初期の認知症症状がみられた場合の受診促進意向,認知症に対する受容態度等で構成した。統計解析には,各質問項目に欠損値のない資料を用いた。解析方法として,社会心理学における援助行動理論を援用し,「認知症に対する受容態度」が「家族に認知症症状がみられた場合の受診促進意向」を規定するといった因果関係モデルを構築し,構造方程式モデリングを用いてデータに対する適合度を確認した。

結果 本研究における因果関係モデルのデータに対する適合度は,統計学的な許容水準を満たしており,「認知症に対する受容態度」と「初期の認知症症状がみられた場合の受診促進意向」との間に有意な関連が確認された。

結論 本研究の結果,「認知症に対する受容態度」が高いほど,「初期の認知症症状がみられた場合の受診促進意向」が高いことが確認され,早期に受診を促進しようとする意向を向上させるには「認知症に対する受容態度」を高めることが重要と示唆された。

キーワード 認知症,早期受診,家族,援助行動理論

 

論文

 

第60巻第13号 2013年11月

特別養護老人ホームの生活相談員が行う
ソーシャルワークとケアワーク実践の両立性に関する研究

上田 正太(ウエダ ショウタ ) 岡田 進一(オカダ シンイチ ) 白澤 政和(シラサワ マサカズ)

目的 本研究は,特別養護老人ホーム(以下,特養)のソーシャルワーカーとして位置づけられる生活相談員(以下,相談員)が,ソーシャルワークとケアワーク両実践を両立して行っているかの検証を目的としたものである。重篤な要介護者を支援対象とする特養相談員がケアワーク実践を遂行することの必要性は,多くの研究者が主張するところであるが,相談員の本来業務であるソーシャルワーク実践に弊害をもたらすと一部否定的な見解がある。職務のあいまい性が問われて久しい相談員の実践概念の確立に向け,現場における実践状況の実証的な検討を行った。

方法 関西圏の特養に勤務する相談員に実施した郵送調査から,欠損値のなかった415の回答を対象に検討を行った。先行研究で確認された尺度をもとに,相談員ソーシャルワーク実践5領域と相談員ケアワーク実践4領域で構成される相談員実践モデルを設定し,適合度を確認した。さらに基本属性を独立変数,相談員実践モデルを従属変数とするMultiple Indicator Multiple Cause Modelを作成し,関連を検討した。

結果 相談員のソーシャルワークとケアワーク両実践の両立性を検証することを目的とした因子構造モデルについては,確認的因子分析の結果,統計的な許容水準を満たした。ソーシャルワーク実践とケアワーク実践の相関も0.700と高い数値が示され,ソーシャルワーク実践を行っている人ほど,ケアワーク実践を行っている傾向が明らかとなった。基本属性を独立変数,相談員実践を従属変数とするモデルの適合度についても,統計的な許容水準を満たした。相談員ソーシャルワーク実践に対しては,役職と正の関連,利用者数と負の関連が確認された。相談員ケアワーク実践に対しては,介護福祉士所持者,特養の相談員数,特養の運営年数と正の関連,男性,社会福祉士所持者,特養の利用定員数と負の関連が確認された。

結論 特養の相談員が,ソーシャルワークとケアワークを両立して実践していることが実証的に確認された。複数の先行研究にて,重篤な要介護者である利用者の情報収集や他職種と連携を深めるうえでソーシャルワークおよびケアワークの両立的実践の重要性が唱えられてきたが,実際の現場でも両立した実践が行われていることが明確化された。

キーワード 生活相談員,ソーシャルワーク,ケアワーク,特別養護老人ホーム

 

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第60巻第13号 2013年11月

高齢期記憶機能低下の予後と危険因子

天野 秀紀(アマノ ヒデノリ ) 吉田 裕人(ヨシダ ヒロト ) 西 真理子(ニシ マリコ)
藤原 佳典(フジワラ ヨシノリ)渡辺 直紀(ワタナベ ナオキ ) 李 相侖(イ サンユン)
深谷 太郎(フカヤ タロウ) 村山 洋史(ムラヤマ ヒロシ)新開 省二(シンカイ ショウジ)
  土屋 由美子(ツチヤ ユミコ)

目的 エピソード記憶機能の簡便な検査手順を,L’épreuve de rappel libre/rappel indicé à 16 items(RL/RI-16)の翻案により作成し,その予測妥当性を地域高齢者において確認した。また,記憶機能低下の危険因子の探索として,循環器・代謝性疾患ならびに食品摂取パタンの寄与を検討した。

方法 介護予防健診にて地域高齢者612名の全般的認知機能-Mini-Mental State Examination (MMSE)-,生活機能-老研式活動能力指標の手段的自立得点(IADL)-,既往歴,11食品群の摂取頻度などを調査した。また,受診者の一部について記憶機能を測定し(351名),さらにその一部については2年後に記憶機能(149名),3年後にMMSE(206名)とIADL(315名)を測定した。

結果 3年後に測定したMMSEの3点以上の低下は解析対象者の10.7%にみられた。その危険度は初回記憶機能の得点が高かった者(15~16点)に比し低かった者(0~10点)において有意に高く,オッズ比は6.5(95%信頼区間:1.5-28.5)であった(ロジスティック回帰モデルにより,性,年齢,初回MMSEを調整)。同様に,3年後に測定したIADLの1点以上の低下は8.6%にみられ,初回記憶機能の低かった者(0~10点)におけるオッズ比は9.0(2.7-30.0)であった(性,年齢,初回IADLを調整)。一方,初回記憶機能に比べ2年後の記憶機能の得点が4点以上低下する事象(以下,記憶機能急速低下)は,追跡完了者の5.6%で発生した。その互いに独立な危険因子としては,脳梗塞の既往:オッズ比26.8(2.5-292.8),糖尿病既往ありまたはHbA1c(国際標準値)6.5%以上:5.2(1.6-17.7),糖尿病既往なしかつHbA1c5.9-6.4%:3.9(1.2-12.9)が見いだされた(性,年齢,初回記憶機能を調整)。食品摂取頻度データの因子分析により,大豆・大豆製品・海藻類・いも類・緑黄色野菜・魚介類の高頻度摂取に対応する因子1,油脂類・肉類・卵に対応する因子2,果物・乳製品・牛乳に対応する因子3を同定した。因子1と因子3の因子得点が共に中央値より高かった者は,共に低かった者に比し,記憶機能急速低下の危険が小さく,オッズ比0.2(0.1-0.9)であった(性,年齢,初回記憶機能を調整)。

結論 作成したエピソード記憶機能検査は,その低得点者の全般的認知機能と生活機能の予後が悪いという意味で,予測妥当性を有する。エピソード記憶機能低下には,生活習慣病や食品摂取パタンのような改変可能な危険因子が見いだされ,予防の余地があると考えられる。

キーワード エピソード記憶機能,全般的認知機能,生活機能,生活習慣病,食品摂取パタン

 

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第60巻第13号 2013年11月

東日本大震災前後での自覚症状有訴者率の変化

-被災者健康診査と国民生活基礎調査の比較-
渡邉 崇(ワタナベ タカシ ) 鈴木 寿則(スズキ ヨシノリ ) 坪谷 透 (ツボヤ トオル )
遠又 靖丈 (トオマタ ヤスタケ) 菅原 由美 (スガワラ ユミ ) 金村 政輝 (カネムラ セイキ )
柿崎 真沙子(カキザキ マサコ ) 辻 一郎(ツジ イチロウ)

目的 災害後に様々な疾患が増加することが報告されているが,過去の報告は受療行動に基づいており,より頻度の多い軽症で潜在的な自覚症状の推移を把握できていない。本研究では被災から6~11カ月経過した時点での東日本大震災被災者を対象として多様な自覚症状の有訴者率を調査し,震災前の一般集団における自覚症状有訴者率と比較することを目的とした。

方法 東日本大震災の被災地域である宮城県内4地区の20歳以上の住民を対象に,平成23年9月から平成24年2月にかけて国民生活基礎調査で集計されている自覚症状の有無を自記式質問紙および対面聞き取りにより調査した。性・年齢階級別の有訴者率をもとに,平成22年国勢調査における20歳以上全国人口をモデル人口として1,000人当たりの有訴者率を直接法により推定した。平時の一般集団の有訴者率として平成22年国民生活基礎調査の全国値を用い,比較検討した。

結果 20歳以上の回答者1,583人(平均64.8歳,女性56.9%)から研究同意を得た。平時の一般集団と比較して有訴者率の差が大きかった自覚症状としては(括弧内の数字は順に,被災地におけるモデル人口1,000人当たりの有訴者率;相対有訴者率比;絶対有訴者率差),「いらいらしやすい(138.4;4.2倍;+105.3)」「月経不順・月経痛(147.5;3.5倍;+105.2)」「頭痛(150.4;3.2倍;+104.0)」「腰痛(204.2;1.7倍;+80.8)」「手足の関節が痛む(127.3;1.9倍;+60.8)」「便秘(104.0;2.3倍;+59.8)」「腹痛・胃痛(70.4;3.1倍;+47.4)」等が挙げられた。

結論 東日本大震災被災者を対象とした自覚症状有訴者率の調査により,全身症状(いらいら,頭痛)・消化器系症状・筋骨格系症状・月経関連症状などが平時の一般集団と比較して被災地域住民に多く認められた。より軽微な自覚症状を網羅的に調査した本研究の結果は被災地域の保健・医療ニーズをより的確に反映していると考えられ,災害後の公衆衛生活動の道標となることが期待される。今後,経時的推移を観察するため,同地区での調査を継続中である。

キーワード 東日本大震災,自覚症状,国民生活基礎調査,公的統計,災害公衆衛生

 

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第60巻第15号 2013年12月

地域別人口の将来推計と全国世帯数の将来推計

鈴木 透(スズキ トオル) 小山 泰代(コヤマ ヤスヨ) 小池 司朗(コイケ シロウ)
山内 昌和(ヤマウチ マサカズ) 菅 桂太(スガ ケイタ) 貴志 匡博(キシ マサヒロ)
西岡 八郎(ニシオカ ハチロウ) 江崎 雄治(エサキ コウジ)

Ⅰ は じ め に

国立社会保障・人口問題研究所は,国勢調査が行われるたびに将来人口推計と世帯数の将来推計を更新している。まず全国人口の将来推計が公表され,それに基づき一方では都道府県別・市区町村別といった地域別人口の将来推計が行われ,他方では全国の世帯数の将来推計が行われる。最後に地域別人口と全国の世帯数に基づき,都道府県別世帯数の将来推計が行われる。

2010(平成22)年国勢調査に依拠した将来推計としては,まず全国人口の将来推計である「日本の将来推計人口(平成24年1月推計)」(以下,全国人口推計)が公表された。それに基づき「日本の地域別将来推計人口(平成25年3月推計)」(以下,地域別人口推計)と「日本の世帯数の将来推計(平成25年1月推計)」(以下,全国世帯推計)が公表された。本稿では地域別人口推計と全国世帯推計の概要を紹介する。詳細は国立社会保障・人口問題研究所のホームページを参照されたい(http://www.ipss.go.jp)。なお,都道府県別世帯数の将来推計は,現在作業中である。

Ⅱ 地域別人口の将来推計

(1) 推計の枠組と方法

地域別人口推計は,2010~40年の5年ごとに,男女別,5歳階級別,地域別人口を将来推計したものである。地域別とは福島県の県全体の人口,および福島県以外の市区町村別人口である。福島県については,原発事故のため長期間立ち入りや居住が制限される市町村が複数あり,市町村別の将来人口推計が可能な状態ではないと判断された。福島県以外の市区町村は1,799で,東京23区,12政令市(札幌,仙台,千葉,横浜,川崎,名古屋,京都,大阪,神戸,広島,北九州,福岡)の128区,それ以外の764市,715町および169村から成る。全地域の合計は,全国人口推計の出生中位・死亡中位の結果に合致する。

従来は全国人口推計に次いで,まず都道府県別の将来人口推計を行い,その後に市区町村別の将来人口推計を行うという2段階の方式を採用していた。しかし東日本大震災以降,新たな県内・県間移動パターンが数多く生じたため,今回は最初から市区町村単位で将来人口推計を行い,その積み上げによって都道府県別将来推計人口を得た。

推計方法は従来どおり,コーホート要因法による。これは期末に5歳以上になるコーホートの規模は2010~15年から2035~40年に至る各5年期間の生存と移動に関する仮定から,期末に0~4歳になるコーホートの規模は,再生産年齢(15~49歳)にある女性コーホートの出生に関する仮定からそれぞれ求めるものである。

推計の出発点となる基準人口は,2010年国勢調査報告による市区町村別(福島県は県全体)

 

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第60巻第15号 2013年12月

市町村合併前後における保健師活動の変化

-管理者と係員の認識の相違に注目して-
生田 惠子(イクタ ケイコ) 桝本 妙子(マスモト タエコ) 都筑 千景(ツヅキ チカゲ)
石川 貴美子(イシカワ キミコ) 平野 かよ子(ヒラノ カヨコ)

目的 保健師活動の成果について一定の成果を上げていた市町の保健師を対象に,合併前後の保健師活動の変化,合併後の保健師活動への影響の認識などを職位別に比較し,保健師のリーダーに求められる能力を検討した。

方法 調査協力の得られた22市町の保健師の責任者に,一括して調査票を郵送し,保健師全員に配布することを依頼した。回答は無記名とし,各自で郵送してもらい回収した。調査票の配布数は460で,回答数は297(回収率64.6%)であったが,合併が保健サービスに及ぼした影響が大きいことから福祉部門を除き,保健部門に所属する保健師の回答(n=224)を分析対象にした。分析は,職位を係長以上群(以下,管理者)と係員群(以下,係員)に分け,統計的解析を行った。

結果 職位別の保健師の行動実践で,係員よりも管理者の方が有意に高いのは,「合併前に地域診断を実施」「資質向上のために自らの努力」「市町は組織的に資質向上の努力をした」「旧市町村,現在とも行政内で保健師への支持があった」であった。保健師の行動実践の変化を合併前後で比較してみると,「地域診断の実施」「関係機関とのネットワーク」「住民からの支持」「行政内の支持」「保健所との関係」のすべてにおいて管理者および係員ともに合併後よりも合併前の方が有意に高くなっていた。合併後の保健師活動への影響の認識については,「新市町の中にサービスの非効率・不均衡がある」「合併により保健師間の協力体制の確保が出来るようになった」の項目において管理者の方が係員より有意に高かった。管理者と係員に共通している項目は「旧市町村からの学びがある」「住民のアクセス性が低下した」「新市町の中にサービスの非効率・不均衡がある」「業務見直しにつながった」であった。

結論 保健師の行動実践および認識において,管理者の方がより地域診断を実施し,合併により住民サービスに非効率や不均衡が生じていることをより認識し,資質向上に向けて組織的な取り組みおよび自己研鑚に努めていた。合併前後の保健師活動の変化では,管理者および係員ともに「地域診断の実施」「関係機関とのネットワーク」「住民および行政内の支持」などにおいて合併後の活動が低下したと認識していた。以上のことから,時代の変化に対応した保健師活動を維持発展させる保健師のリーダーには,地域診断を進め,行政や住民に支持される環境づくりなどの能力が求められ,そのリーダーシップ能力を持つ保健師の育成が急務であると考えられた。

キーワード 市町村合併,保健師活動の変化,保健師管理者,リーダーシップ能力

 

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第60巻第15号 2013年12月

高齢女性の転倒経験および転倒不安感に関連する体力

古屋 朝映子(フルヤ サエコ) 藪下 典子(ヤブシタ ノリコ) 金 美芝(キム ミジ)
清野 諭(セイノ サトシ) 根本 みゆき(ネモト ミユキ) 田中 喜代次(タナカ キヨジ)

目的 高齢者のQOLを規定する要因の一つとして,転倒や転倒不安感が重要視されている。転倒不安感は転倒経験の有無とは関係なく起こりうるとされており,転倒不安感そのものが体力低下の危険因子となりうることから,転倒経験および転倒不安感は,各々独立して体力に影響を与えるということが考えられる。よって,本研究は,高齢女性において,転倒経験と転倒不安感の両方を合わせ持つ者は低体力であり,さらに,転倒経験のみを有する者と転倒不安感のみを有する者には,何らかの体力的な違いが存在するという仮説を立て,この仮説を検証することを目的とした。

方法 地域在住の高齢女性131名(73.7±5.4歳)を対象とし,転倒経験および転倒不安感に関する質問紙調査,形態測定,バランス能力・下肢筋力・歩行能力に関する体力測定8項目を実施した。対象者を転倒経験および転倒不安感の有無により4群に分け比較した。

結果 体力測定値を比較したところ,転倒経験はあるが転倒不安感を持たない群が一番低体力である傾向にあった。また,機能的移動能力(functional mobility)を測定する項目であるTimed up and goに関しては,転倒経験はあるが転倒不安感を持たない群が,転倒経験も転倒不安感もない群と比較して有意に低値であった。

結論 質問紙調査,形態測定,バランス能力・下肢筋力・歩行能力に関する体力測定8項目を調査した結果,転倒経験はあるが転倒不安感を持たない者の体力が一番低い可能性が示唆された。特に,機能的移動能力において有意に劣る結果であった。その原因として,自己の体力に対する危機意識の違いや,転倒不安感の捉え方に違いがある可能性が示唆された。

キーワード 高齢女性,転倒経験,転倒不安感,体力,機能的移動能力

 

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第60巻第15号 2013年12月

妊娠期から3歳児健診まで精神的健康調査票を用いた健康状態の変化

-紋別市における養育環境・虐待リスクの把握と養育者支援-
小銭 寿子(コゼニ ヒサコ)

目的 子ども虐待の発生予防と地域における早期の養育者支援に役立てるために,妊娠期から児の3歳児健診時点までの養育者の精神的健康状態の変化を分析し,早期介入に有効な時期を特定することである。

方法 調査研究に同意した紋別市の妊娠女性190名中,妊娠届時に精神的健康調査票(GHQ28)の自記式質問紙を実施した162名から,その後の3時点①4カ月健診時,②1歳6カ月健診時,③3歳児健診時においてGHQ28に回答した71名(43.8%)について精神的健康状態の変化と生活環境との関連性を分析した。また,4カ月健診時には虐待リスクアンケートも自治体の保健事業として実施しており,子の健康・育児力・愛着形成・親準備性・家庭基盤の項目とリスク得点合計との関連性や4時点におけるGHQ28の合計得点とハイリスクについても検討した。

結果 4時点における精神的健康調査票の得点が7点以上のハイリスクであったのは妊娠届時の57.7%であり,その次に高かったのは1歳6カ月健診時の33.8%であった。さらに受診勧奨の対象となる9点以上も妊娠届時の52.1%と1歳6カ月健診時の19.7%で高かった。3歳児健診時点では精神的健康と家族形態との関連が示された。4時点のGHQ下位尺度である,うつ傾向・社会的活動障害・不安と不眠・身体面と虐待リスクとの関連性が明らかになった。

結論 精神的健康の変化は妊娠時から1歳6カ月までの虐待リスクと関連しており,介入時期としては妊娠届時や1歳6カ月健診時における情報の把握とその養育環境を背景とした支援が重要と示唆された。精神的健康の評価指標としてGHQ28は下位尺度(身体的症状・不安と不眠・社会的活動障害・うつ傾向)や合計得点によるリスク判定においても養育者の精神的健康状態を把握し,養育者支援に活用することが可能であると示唆された。

キーワード 虐待リスク,精神的健康調査票(GHQ-28),養育者支援,3歳児健診,養育環境

 

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第60巻第15号 2013年12月

山梨県民の食塩摂取に関連する要因について

-平成21年山梨県民栄養調査より-
古閑 美奈子(コガ ミナコ) 早川 文子(ハヤカワ フミコ) 望月 邦子(モチヅキ クニコ)
小林 治子(コバヤシ ハルコ) 相原 恵子(イハラ ケイコ) 沓川 洋子(クツカワ ヒロコ)
千頭和 功(チズワ イサオ) 藤原 瑞穂(フジハラ ミズホ) 山下 ますみ(ヤマシタ マスミ)
山田 智子(ヤマダ トモコ) 黒瀬 百合(クロセ ユリ) 後藤 あずさ(ゴトウ アズサ)

目的 わが国の食塩摂取量は,諸外国に比べてきわめて高い。食塩の過剰摂取は高血圧の原因となることが知られており,国内外で減塩対策が進められている。山梨県民の食塩摂取量は全国で最も高く,今後,効果的な減塩対策を行うことが課題である。本研究では,平成21年に実施した山梨県民栄養調査のデータを用いて食塩摂取に関連する要因を明らかにし,今後の方策を明らかにすることを目的とした。

方法 平成21年に実施した山梨県民栄養調査の調査協力者660人のうち,食塩摂取量,エネルギー摂取量,各栄養素摂取量および各食品群別摂取量のデータがある517人を本研究の解析対象者とした。対象者を性別,年齢階級別に区分し,食塩摂取量とエネルギー摂取量,各栄養素摂取量,各栄養素摂取割合,各食品群別摂取量との関連をPearsonの相関分析を用いて検討した。

結果 食塩摂取量とエネルギー摂取量,炭水化物摂取量,たんぱく質摂取量との関連を検討したところ,男性,女性ともに,すべての年齢階級で正の相関がみられた。食塩摂取量と各栄養素摂取割合との関連については,相関が低かった。食塩摂取量と食品群別摂取量との関連については,性別,年齢階級別に違いがみられた。相関が高かった食品群は,男性では20~39歳において穀類(r=0.511,p=0.001),野菜類(r=0.543,p<0.001),海藻類(r=0.409,p=0.005),魚介類(r=0.599,p<0.001),卵類(r=0.413,p=0.004),40~59歳において野菜類(r=0.482,p<0.001),魚介類(r=0.426,p<0.001),60歳以上において穀類(r=0.405,p<0.001)であった。女性では,20~39歳において,魚介類(r=0.492,p<0.001),40~59歳において野菜類(r=0.534,p<0.001),海藻類(r=0.411,p<0.001),魚介類(r=0.494,p<0.001),60歳以上において,野菜類(r=0.458,p<0.001),魚介類(r=0.500,p<0.001)であった。

結論 すべての性別,年齢階級別で食塩摂取量と関連がみられた食品群は,野菜類と魚介類であった。これらの食品を摂取する際に減塩を行うことが,食塩摂取量の減少につながることが示唆された。

キーワード 食塩摂取量,山梨県,県民栄養調査,性別・年齢階級別,食品群別摂取量

 

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第60巻第15号 2013年12月

地域高齢者の1日平均歩数が骨密度に及ぼす影響

齊藤 昌久(サイトウ マサヒサ) 谷本 芳美(タニモト ヨシミ) 渡辺 美鈴(ワタナベ ミスズ)
河野 公一(コウノ コウイチ) 窪田 隆裕(クボタ タカヒロ)

目的 本研究は,地域高齢者における1日平均歩数と骨密度との関連性を明らかにすることを目的とした。

方法 対象者は,65歳から84歳の地域高齢者499名(男性159名,女性340名)であった。測定項目は,1日平均歩数,骨密度および握力であった。1日平均歩数は,多メモリー加速度計付き歩数計を用いて,連続7日間測定できたものとした。骨密度は,定量的超音波測定法(QUS)により右足踵骨の超音波減衰係数(BUA),超音波伝搬速度(SOS)およびStiffness値(SI)を測定した。握力は,デジタル握力計を用いて測定した。

結果 身長,体重,握力,SI,BUAおよびSOSはいずれも男性が女性に比べて有意に高い値を示した(p<0.01)。しかし,年齢,BMIおよび1日平均歩数は男女差がみられなかった。QUSパラメータ(SI,BUA,SOS)と1日平均歩数との関係は,男性のBUAを除いて有意な正の相関関係が認められた(p<0.05~0.001)。QUSパラメータと1日平均歩数の目標値未満/以上群比較では,女性がすべてのパラメータに有意差がみられた(p<0.05~0.001)。しかし,男性はいずれのパラメータも有意差がみられなかった。有意差のあった女性のQUSパラメータを目的変数に,年齢,BMI,握力および1日平均歩数を説明変数に多重ロジスティック回帰分析(変数減少法,尤度比)を行った。その結果,女性について1日平均歩数がSIとSOSに関連性が認められた(オッズ比2.2,p<0.05;2.0,p<0.01)。

結論 地域高齢期における女性の1日平均歩数は骨密度の評価指標であるSIおよびSOSと関連していた。しかし,男性では関連していなかった。したがって,高齢期の女性においては1日の歩数の多さ,6,000歩/日以上の歩数が骨密度の高さに寄与していることが明らかとなった。

キーワード 1日平均歩数,歩数計/加速度計,骨密度,定量的超音波測定法(QUS),地域高齢者

 

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第63巻第3号 2016年3月

電子レセプトによる保健・医療統計の改善に向けて

-「電子レセプトを用いたレセプト統計の改善に関する研究」の概要(その1)-
伏見 惠文(フシミ ヨシフミ) 村山 令二(ムラヤマ レイジ) 野々下 勝行(ノノシタ カツユキ)

目的 電子レセプトの持つ豊富なデータを体系的に統計情報化し,社会医療診療行為別調査等,厚生労働統計調査の整備,改善および普及に資することを目的とする。具体的には,観察単位をレセプトから患者に変換し診療の過程を時系列化することにより,これまで全数では成し得ていない在院/通院期間別,また,地域別,転帰別,傷病分類別等および診療行為別の観察ができるよう,統計数理的分析手法を含め,技術問題を整理するとともに,具体的な統計表現を提案することを目指す。

方法 研究会を組織することにより,外部有識者等からの情報収集,課題の整理・検討を進めるとともに,全国健康保険協会からレセプト・データの提供を受け,推奨すべき新たな統計表を実験的に集計する。

結果 レセプト情報の活用・分析の現状を精査することにより課題を抽出し,これからの電子レセプト統計のあり方を具体的に提案した。すなわち,患者の保険制度間移動や診療報酬改定の影響を避けることの難しいコホート統計ではなく期間統計の方法によって診療エピソード統計を作成するというアイデアを取り入れることである。それによって,NDB利用を開始したことから集計客体数が飛躍的に増加した社会医療診療行為別調査は,大きく改善し得ることを示した。医療費を受診患者発生数と1診療期間当たり医療費に分解してみせる診療エピソード統計は,医療費の増加要因分析においても有効である。本稿では,調剤レセプトについて実現している調剤MEDIASの仕組みを医科,歯科にも拡張することにより医療費分析がより充実したものになることなど,具体的提案をさらに何点か行っている。

結論 電子レセプトデ-タは,診療エピソ-ド統計の作成手法を用いることにより,社会医療診療行為別調査等,保健・医療統計の改善および医療費分析の深化に資することが示された。

キーワード 電子レセプト,レセプト統計,診療エピソード統計,コホート統計,期間統計

 

論文

第63巻第3号 2016年3月

地域における要援護者見守りネットワーク構築の研究

-支援を求めない「セルフネグレクト」等への支援アプローチを焦点に-
斉藤 千鶴(サイトウ チヅル)

目的 本論文では,「孤立化」「孤立死」に陥りやすいといわれる「セルフネグレクト」等(支援拒否者)への地域支援者による支援アプローチの手がかりを探ることを目的とし,地域における要援護者見守りネットワーク構築のための基礎資料を得ることを目的としている。

方法 阪神・淡路大震災以降,単身高齢者等の要援護者見守り活動において先進的な取り組みを実践しているA市において,「地域包括支援センター」と,高齢者が多く居住する公営住宅の空き室を利用した,地域包括支援センターのブランチ的役割の「見守りひろば」に配置された「見守り推進員」130人全員を対象に,「要援護者」あるいは「要援護者予備軍」の発見や,「支援拒否者」(「セルフネグレクト」と思われる対象者を含む)への関わりやアプローチ,介入の工夫等を中心として日常の支援活動に関して,郵送配布による自記式質問紙調査を行った。調査期間は,2013年11月1日から同月末日までである。

結果 調査票130件の郵送配布に対して,83件(うち,白票1件)の有効返送があり,有効回収率は63.1%であった。支援が困難な人に対する関わり方や支援の方法・アプローチとして,「気長に訪問」「嫌がられ,怒鳴られながら何度も訪問」「本人の負担にならない声掛け」「チラシをポスティング,常にあなたの事を気にかけていることをさりげなく知らせる」「何かあれば相談できる人がいる事をアピールし続ける」などがあげられた。

結論 「セルフネグレクト」等(支援拒否者)へのアプローチの手がかりを得るためには,地域支援を担当する直接の当事者だけでなく,地域住民(民生委員,自治会等)や彼らと関係を持つ社会資源(病院,店等)と連携して対応することで,有効な支援が実施できることが調査より明らかになった。とりわけ,支援を求めない「セルフネグレクト」等への支援開発には,支援担当者は,地域住民との関わりによって,相談しやすい環境づくりをし,迅速な対応ができるようなネットワークづくりに普段から心がけることが重要である。関係者の地道な努力と,地域住民と専門機関・専門職の連携の重要性が明らかになった。

キーワード セルフネグレクト,支援拒否,孤立死,支援アプローチ,見守り推進員,要援護者見守りネットワーク

 

論文

第63巻第3号 2016年3月

精神科救急病棟における服薬支援の現状と課題

-病棟看護管理者へのアンケート調査から-
野中 浩幸(ノナカ ヒロユキ) 清水 純(シミズ ジュン) 酒井 千知(サカイ カズノリ)
伊藤 栄見子(イトウ エミコ) 吉川 武彦(キッカワ タケヒコ) 三上 章允(ミカミ アキチカ)

目的 わが国の精神科救急医療は,1996年に精神科急性期治療病棟入院料が診療報酬上で認められ,2002年には精神科救急入院料の急性型包括病棟群が登場した。当該病棟の治療で,患者への服薬支援は最も重要なものと考えられる。そこで,本論文は服薬支援の考え方やあり方,看護師が行う意義をアンケートで把握し,今後の課題を明らかにすることを目的とした。「服薬支援」の用語は,「主に統合失調症患者に,抗精神病薬の効果や副作用などの説明を通し,服薬を勧めて促し,拒薬等がある場合はその理由を聞くなど一緒に考え,自己管理を目標に服薬を習慣づけられるように支援する行為」と定義した。「服薬支援マニュアル」は,「服薬支援」の方法が記載されているものとした。

方法 研究対象者は,精神科救急病棟を持つ全国104病院(2012年10月1日時点)で,1病院ごとに1病棟を選択してもらい,病棟看護管理者1名(総数104名)に無記名・自記式の質問票を郵送した。調査項目は,性別,年齢(年代別),精神科看護師経験年数,看護師経験年数を基本属性とし,主に関わっている職種,拒薬時の対応職種,服薬支援マニュアル配備の有無と使用状況,服薬支援の開始時期,看護師への教育・研修等の35項目で,有効回答者60名(57.7%)であった。分析は,単純集計とχ2検定を用いた。

結果 服薬支援を実施している職種は,看護師が41名(70.7%),拒薬時の対応でも看護師が51名(87.9%)を占め,他職種よりも多かった。また,服薬支援マニュアルありは35名(58.3%),そのうち使用しているのは22名(62.9%)であった。看護師へ何らかのサポートあり40名(66.7%),具体的な教育の実施は,38名(63.3%)が「行われていない」と回答した。このような状況の中で服薬支援が行われている実態が明らかとなった。

結論 今回の調査では,服薬支援マニュアルの配備は約半数,服薬支援で与薬は看護師が業務として行っていた。サポートと教育は十分ではなく,教育機会の提供と活用できる服薬支援マニュアル作成の必要性が示された。今後,こうした調査を継続することにより,精神科救急病棟の看護師が実践している服薬支援の実態を継続的に把握し,看護師支援の施策立案の基礎データとして活用することが望まれる。

キーワード 精神科救急病棟,服薬支援,病棟看護管理者,アンケート,服薬支援マニュアル

 

論文

第63巻第3号 2016年3月

保健福祉の専門職による住民主体,行政,民間による
配食サービスおよび訪問介護による食事提供の評価

-地域包括支援センターへの全国調査の二次分析-
野村 知子(ノムラ トモコ) 杉澤 秀博(スギサワ ヒデヒロ) 友永 美帆(トモナガ ミホ
吉岡 英司(ヨシオカ エイジ) 武安 眞珠(タケヤス シンジュ) 渡邊 範江(ワタナベ ノリエ
内園 薫(ウチゾノ カオル) 片寄 あつみ(カタヨセ アツミ) 大澤 英児(オオサワ エイジ

目的 住民主体,行政,民間による配食サービスおよび訪問介護による食事提供の特徴や機能の違いを,介護予防および高齢者ケアの第一線にいる地域包括支援センターの職員やケアマネジャーを対象とした調査に基づき量的に明らかにすることである。

方法 分析対象は,東京都調布市で活動している地域包括支援センターの職員とケアマネジャーとし,2012年2月1日から28日までの期間に,郵送調査で回答した102名である。調査期間は2012年2月1日から同年2月28日までであった。評価を求めたのは,住民主体の食事サービスを提供している調布ゆうあい福祉公社,行政,民間の各々による配食サービスと訪問介護による食事作りの4形態である。分析には,コレスポンデンス分析を用いた。

結果 地域包括支援センターの職員とケアマネジャーを併せた分析結果では,住民主体の配食サービスに対しては利用者の安全性と日頃からの住民育成,行政の配食サービスに対しては利用者の安全性と見守り,民間の配食サービスに対しては利用者の利便性,訪問介護による食事提供については利用者の安全性と緊急時即応性に対して,高く評価していた。一方,地域包括支援センターの職員とケアマネジャーを個々に分析すると,住民主体と民間の配食サービスについては,それぞれの提供主体の近くに同じ項目が位置し,全体で分析した結果と同様であった。しかし,行政の配食サービスと訪問介護による食事提供については結果が異なっていた。地域包括支援センターの職員では,行政の配食サービスと訪問介護による食事提供のいずれに対しても,緊急時即応性の面から評価が高かった。他方ケアマネジャーの場合は,訪問介護による食事提供に対してのみ,緊急時即応性への評価が高かった。

結論 住民主体,行政,民間による配食サービスおよび訪問介護による食事提供は,保健福祉の相談専門職から異なるものとして評価されており,それぞれの特徴を生かし,地域包括ケアに活用していくことが必要であることが示唆された。

キーワード 配食サービス,住民主体,機能評価,訪問介護,地域包括支援センター,ケアマネジャー

論文

第63巻第3号 2016年3月

乳幼児を持つ親の子育て観尺度開発

-保育者が子育て支援を行う視点から-
山城 久弥(ヤマシロ ヒサヤ)

目的 近年,家族構造や社会経済状況の変化などにより,児童とその家庭を取り巻く環境は厳しい状況となっている。そうした中,地域の保育所をはじめとした保育士の子育て支援機能が重要視されている。そこで,本研究では保育者が子育て支援を行う視点から,「喜びや楽しみ」「悩みや不安」「責任感」の3つの下位概念に着目しながら,乳幼児を持つ親の「子育て観尺度」を開発することを目的とした。

方法 先行研究から,子育て観に関する27項目の質問項目を採用し,保育所を利用している乳幼児を持つ5,460名の保護者を対象に郵送留置調査法を実施し,回収数は2,060名(回収率37.7%)であった。その中から,親(母親か父親)で年齢や子育て観に関する質問項目にすべて回答している1,680名を分析対象者とした。分析方法として,子育て観を尺度の項目に対し探索的因子分析を行った。信頼性については,内的整合性(Cronbachのα係数)を算出した。

結果 「子育て観尺度」は,因子分析の結果から「子育てに対する負担」「子育てによる自身の成長の楽しみや喜び」「親としての責任感」の3つの下位尺度から構成された。各下位尺度のα係数は0.66~0.81であり,3因子構造が示された。さらに,3つの下位尺度を構成する項目が同一因子に0.4以上の因子負荷量を有し,構成概念の妥当性をある程度確保していることも示唆された。

結論 乳幼児を持つ親の「子育て観」を把握するための尺度として,「価値」と「態度」を網羅した概念で構成され,ある程度の信頼性と妥当性が確認された。今後の課題としては,尺度の改良を重ね,さらなる信頼性と妥当性の確保や実際の保育現場で活用されるよう尺度の短縮版が必要となるだろう。

キーワード 子育て観,乳幼児を持つ親,保育者,子育て支援

論文

 

第63巻第3号 2016年3月

高齢者のセルフ・ネグレクト事例の類型化と孤立死との関連

-地域包括支援センターへの全国調査の二次分析-
斉藤 雅茂(サイトウ マサシゲ) 岸 恵美子(キシ エミコ) 野村 祥平(ノムラ ショウヘイ)

目的 セルフ・ネグレクトと判断された高齢者について,その主要な状態像を類型化し,基本属性および孤立死を含むセルフ・ネグレクト状態の深刻度との関連を分析した。

方法 2014年10~11月にかけて全国の地域包括支援センターを対象に行われた調査データを使用した(回収数1,731事業所,回収率38.9%)。本調査では,セルフ・ネグレクト事例として「相談受付時に高齢者自身の生命・身体・生活に影響がある」事例から「孤立死」事例まで4段階の深刻度別に該当者がいる場合に直近の1事例を収集している。ここでは,性別とセルフ・ネグレクトの状況について欠損のない1,355事例について分析した。セルフ・ネグレクトの状況は「不衛生な家屋に居住」「衣類や身体の不衛生の放置」「不十分な住環境に居住」「必要な介護・福祉サービスの拒否」「必要な受診・治療の拒否」「地域からの孤立」「近隣住民の生命・身体・生活・財産に影響」で把握しており,クラスター分析によってその主要な組み合わせを析出した。

結果 分析の結果,「不衛生型(16.5%)」「不衛生・住環境劣悪型(12.8%)」「サービス拒否型(17.4%)」「不衛生・住環境劣悪・拒否型(9.4%)」「拒否・孤立型(13.0%)」「複合問題・近隣影響なし型(12.3%)」「複合問題・近隣影響あり型(18.7%)」と命名できる7クラスターが析出され,各クラスターで認知症高齢者の日常生活自立度,障害高齢者の日常生活自立度,精神疾患の有無,住居形態,世帯構成,セルフ・ネグレクト状態のきっかけに相違がみられた。また,セルフ・ネグレクト事例のなかでも,「不衛生型」よりも「不衛生・住環境劣悪・拒否型」「拒否・孤立型」「複合問題型(近隣影響あり・なし)」のほうがより深刻な状態に該当しやすく,孤立死との間では「拒否・孤立型」のみで有意な関連が認められた(オッズ比=2.68:95%信頼区間:1.35-5.34)。

考察 高齢者のセルフ・ネグレクト状態にはいくつかの異なるパターンがあり,とくに孤立死対策という意味では複合問題型の事例だけではなく,サービス拒否や近隣関係から孤立しがちな人々へのアウトリーチが必要であることが示唆された。

キーワード 高齢者,セルフ・ネグレクト,孤立死,地域包括支援センター,複合問題,類型化

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第61巻第1号 2014年1月

特定健康診査・特定保健指導の効果分析

-全国健康保険協会東京支部における特定健康診査受診者の健康状態の年次変化-
吉川 彰一(ヨシカワ ショウイチ) 小川 俊夫(オガワ トシオ) 馬場 武彦(ババ タケヒコ)
南 友樹(ミナミ ユウキ) 尾川 朋子(オガワ トモコ)  田島 哲也(タジマ テツヤ)
山根 明美(ヤマネ アケミ) 今村 知明(イマムラ トモアキ)

目的 公的医療保険の保険者は,特定健康診査・特定保健指導の結果の分析とその活用に取り組んでいるが,その詳細な分析や分析結果の活用は充分になされていないのが現状である。本研究は,全国健康保険協会(協会けんぽ)東京支部における2009年度の特定健康診査受診者を抽出して健康状態の変動を把握し,特定健康診査・特定保健指導の効果を検証することを目的として実施する。

方法 協会けんぽの被保険者のうち,2009年度の特定健康診査の東京都内での受診者および他県で受診した東京支部の被保険者を抽出し,特定保健指導階層化の判定基準を用いて,積極的支援,動機付け支援,情報提供・服薬無しの各群に区分した。また積極的支援群と動機付け支援群についてはさらに指導参加群と不参加群に区分した。抽出した各群について2009〜11年度の特定健康診査の結果を集計し,2009年度と2010・11年度の各健診項目の判定結果および健診数値の平均値の変動について分析した。

結果 特定保健指導階層化に用いられる各健診項目の判定結果を2009年度と2010・11年度を比較した結果,積極的支援群および動機付け支援群では,腹囲や血圧,中性脂肪,空腹時血糖などの指標で改善傾向がみられた。また,男性の腹囲などで指導参加群は不参加群よりも高い改善傾向がみられた。健診数値の平均値の経年変化については,情報提供・服薬無し群ではほぼすべての健診数値で徐々に悪化傾向にあったが,積極的支援群の腹囲,血圧,中性脂肪などでは逆に改善傾向がみられた。また指導参加群では,男性の腹囲などで不参加群に比べてやや高い改善傾向がみられた。

結論 積極的支援群および動機付け支援群は,情報提供・服薬無し群に比べて改善傾向が大きい可能性が示唆された。また指標によっては指導参加群の改善傾向が不参加群より大きい可能性があり,特定保健指導の健康状態の改善効果が示唆された。さらに指導不参加群においても健康状態の改善傾向がみられたことから,特定健康診査の判定結果の通知などにより,対象者の行動変容につながった可能性も示唆された。この結果より,各保険者は特定健康診査・特定保健指導への参加促進に加え,指導対象者に対して行動変容につながるような啓発事業を実施することが,加入者の健康状態の改善に効果的であると考えられる。

キーワード 特定健康診査,特定保健指導,メタボリックシンドローム,行動変容,全国健康保険協会(協会けんぽ)

 

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第61巻第1号 2014年1月

女子中学生のHPV感染予防ワクチン接種経験とその要因に関する研究

-ワクチン接種率向上をめざした啓発活動への提案-
服鳥 景子(ハットリ ケイコ) 小田 彩香(オダ アヤカ) 山本 智恵(ヤマモト チエ)
額田 麻子(ヌカタ アサコ) 平田 千紗(ヒラタ チサ) 伊東 美佐江(イトウ ミサエ)

目的 現在,わが国では2種類のヒトパピローマウイルス感染予防ワクチン(ワクチン)が使用されている。2010年に「子宮頸がん等ワクチン接種緊急促進事業」により,13~16歳の女性を対象にしたワクチン接種助成が開始され,2013年度から定期予防接種対象となった。しかし,中高生女子のワクチンに対する意識や影響要因に関するこれまでの研究は非常に少なく,ワクチン接種普及活動についての検討報告もみられない。本調査の目的は,ワクチン事業開始後の女子中学生に対して,ワクチン接種経験とそれに関連する要因を明らかにし,接種率向上に向けた啓発活動への示唆を得ることである。

方法 対象は,3都道府県に所在する公私立中学校4校に在籍する女子中学生1~3年生736名であった。無記名自記式質問紙法による「中学生の子宮頸がん予防ワクチン接種についてのアンケート調査」を実施した。ワクチン接種経験と質問項目の関連(χ2検定)と関連の強さ(Cramer’s V)について分析した(有意水準5%)。

結果 対象者本人とその保護者から承諾および回答が得られた者は,301名であった(有効回答率40.9%)。ワクチン接種率は,25.2%であり,学年が上がるほど高くなった(p<0.001)。また,子宮頸がんに対する認知率は94.0%と高く,ワクチン接種経験と有意な関連がみられた(p<0.001)。さらに,ワクチン認知率,ワクチン無料化,および3回接種の必要性の認知についても,ワクチン接種経験と有意に関連した(p<0.001)。副作用の不安を感じているのは2年生が最も多く,学年間で有意差があった(p<0.05)。3回接種の必要性の認知がワクチン接種経験と最も関連が強く(CV=0.423),次に副作用の認知との関連が強かった(CV=0.349)。対象がワクチン接種を決定する際には,母親の意見が最も重要であると考えていた。また,ワクチン接種経験者は未経験者と比べ,学校の意見も重要であると考える傾向にあった(p<0.05)。

結論 ワクチン接種率向上をめざした啓発活動は,女子中学生とその保護者(特に母親)を対象とし,学年による準備状況をふまえた内容を,学校保健事業の一環として実践することが有効である。

キーワード 子宮頸がん,子宮頸がん予防ワクチン,子宮頸がん等ワクチン接種緊急促進事業,質問紙調査,女子中学生

 

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第61巻第1号 2014年1月

日本の病院における救急外来での外国人患者への看護の現状に関する調査

久保 陽子(クボ ヨウコ) 高木 幸子(タカキ サチコ) 野元 由美(ノモト ユミ)
前野 有佳里(マエノ ユカリ) 川口 貞親(カワグチ ヨシチカ)

目的 わが国の救急指定病院の救急外来において,外国人患者の受け入れがどの程度発生しており,またその対応においてどのような看護提供上の困難が発生しているのかなどについて,その現状を明らかにすることを目的として全国調査を実施した。

方法 調査は,平成21年12月から平成22年3月に自記式質問紙を用いて郵送法にて実施した。対象は救急指定病院として登録されている全国382施設とした。調査項目は,外国人救急外来患者への看護で困ること,看護の対応,支援制度の実際,外国人患者受け入れに対する思い,現在行われている取り組みと今後必要と思われる対策とした。調査結果からそれぞれの項目ごとに単純集計を行い,自由記載された内容を抽出した。倫理的配慮については,産業医科大学の倫理審査委員会による審査を受け承認を得た。

結果 調査の結果,382施設中101施設(回収率26.4%)から回答を得た。過去3年間に101施設中97施設(96.0%)が1名以上の外国人患者を受け入れており,患者数が多い施設では3年間で約5,000名の受け入れを報告した。また,外国人救急外来患者への看護について,外国人患者受け入れ経験のある97施設中84施設(86.6%)が困難を訴えた。看護提供上の困難として,言語の違い,文化の違い,生活習慣の違いによる問題のほかに,無保険や医療費の問題,制度・体制上の問題,通訳者の医療に関する知識や理解力が乏しいことなどが報告された。外国人救急外来患者への看護をするための支援制度の現状として,「外国人患者の対応ができる看護師の配置」や「研修制度」があると回答した施設はいずれも3施設(3.0%)のみであった。そして約9割の施設が今後何らかの対策が必要であると回答した。

結論 回答を得た救急指定病院の96%の病院が救急外来で外国人患者を受け入れており,そのほとんどの病院で看護上の困難が生じていることが明らかになった。言語や生活習慣の異なる外国人救急患者に,必要な看護を提供するための体制整備は急務といえる。しかしながら現状はほとんど体制が整っておらず,単施設で受け入れ体制を整備していくことは容易ではないと思われる。今後,外国人救急患者受け入れに係る看護体制の整備について,行政や大学などの研究機関による組織的支援が強く求められている。

キーワード 外国人患者,救急外来,看護

 

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第61巻第1号 2014年1月

障害者福祉施設における若年性認知症の受け入れに関する調査研究

小長谷 陽子(コナガヤ ヨウコ) 田中 千枝子(タナカ チエコ)

目的 若年性認知症は65歳未満で発症する疾患であり,高齢者とは異なる様々な課題がある。障害者福祉施設における若年性認知症の受け入れ状況,支援の実態を把握し,分析する。

方法 愛知・岐阜・三重の指定障害福祉サービス事業所1,295カ所に対し,調査票を郵送して回答を求めた。内容は,事業所の属性(種別,運営主体),職員の職種と人数,若年性認知症の受け入れの有無,ある場合の人数,病名や,日常生活の自立度,認知症の程度,受け入れの決め手になったこと,支援方法,工夫していること,受け入れの課題,受け入れの条件などである。

結果 調査票の回収割合は59.7%であった。若年性認知症の受け入れ経験ありと回答した63事業所で受け入れた人数は131人で,性別と年齢が確認できた129人では男性は85人,年齢は50~59歳が最も多く,女性は44人,年齢は50~59歳が最も多かった。認知症の原因疾患の記載があった130人では,アルツハイマー病が最も多く45.4%であった。利用開始時の状態が記載された126名の日常生活自立度では,「屋内での生活はおおむね自立しているが,介助なしには外出しない」が最も多く47.6%,次いで「何らかの障害等を有するが,日常生活はほぼ自立し,隣近所なら外出する」が15.1%であった。認知症の程度では,「日常生活に支障をきたすような症状があり,介護を必要とする」が最も多く59.2%,次いで「日常生活に支障をきたす症状はあるが,見守りで自立できる」が24.8%であった。利用者に対する支援では,「他の利用者とほぼ同じプログラムで支援している」が最も多く46.7%,次いで「他の利用者とほぼ同じプログラムで支援をしながら,職員を常に配置している」「認知症の症状に合わせた支援をしている」がともに31.7%であった。受け入れの課題は「認知症の症状が進行すると継続して受け入れができなくなる可能性がある」が最も多く66.7%,次いで「認知症の症状のため,他の利用者に比べ作業やプログラムをこなすのが困難である」が40.0%であった。

結論 今回の調査では,障害者施設における若年性認知症の受け入れはまだ不十分ではあるが,前回の調査に比べ受け入れている事業所が増加しており,少しずつ理解が進んでいると考えられた。一方で,受け入れ申請がないとする事業所が多く,介護福祉関係者に対するさらなる情報提供が必要であり,就労を希望し,可能な若年性認知症の人に,有用な情報が適切に提供されることが必要である。

キーワード 若年性認知症,障害者福祉施設,受け入れ状況,福祉的就労

 

論文

 

第61巻第1号 2014年1月

低出生体重児の母体要因に関する疫学研究

邱 冬梅(チュウドンメイ) 坂本 なほ子(サカモト ナホコ)
荒田 尚子(アラタ ナオコ) 大矢 幸弘(オオヤ ユキヒロ)

目的 日本の新生児の平均出生体重は低下する傾向にあり,低出生体重児(出生時体重が2,500g未満:LBW)の割合が増加している。本研究はLBWおよび不当軽量児(SGA)と母体要因との関連をコホート研究により検討する。

方法 2003年11月から2005年12月かけて成育コホート研究に参加協力した妊婦のうち単産の1,477組の母子を対象に,LBWとSGAにおける妊娠前からの母体要因を,多変量ロジスティック回帰分析により検討した。

結果 1,477名児の平均出生体重は2,997.7g±414.3gであり,LBWとSGAの割合はそれぞれ7.9%と6.8%であった。多変量ロジスティック回帰分析では,妊婦の身長が高いほどLBWとSGAのリスクが低かった(P<0.05)。妊娠初期に就労している妊婦のLBWのオッズ比(OR)は1.75(95%CI:1.03-2.98)であった。家計収入600万円未満に比べ,1,000万円以上のLBWのORは2.18(1.03-4.61)であり,家計収入が多いほどLBWのリスクが増大した(P<0.05)。妊娠前BMIが18.5~21.0㎏/㎡未満に比べ,やせ(BMI<18.5㎏/㎡)のLBWとSGAのORはそれぞれ2.25(95%CI:1.31-3.89)と2.08(1.29-3.35)であり,BMIが高いほどLBWとSGAのリスクが低減していた(P<0.01)。妊娠中の体重増加量が多いほどLBWとSGAのリスクが低くなり(P<0.01),妊娠中の体重増加9~12㎏未満に比べ,体重増加が7㎏未満の母親のLBWおよびSGAのORはそれぞれ2.01(95%CI:1.08-3.75)と2.23(1.29-3.88)であった。妊娠初期にストレスを感じない母親に比べ,ストレスを感じる母親のLBWとSGAのORは低かった(OR=0.42,95%CI:0.22-0.79;OR=0.55,0.32-0.96)。鉄剤内服既往がある母親のLBWおよびSGAのORも低かった(OR=0.27,95%CI:0.13-0.58;OR=0.52,0.28-0.96)。妊娠高血圧症候群(PIH)である母親のLBWおよびSGAのORは高かった(OR=7.52,95%CI:2.91-19.46;OR=4.80,2.03-11.35)。

結論 本研究では,母親の低身長,妊娠前のやせ,妊娠中の体重増加不良およびPIHがLBWおよびSGAのリスク因子であることが明らかになり,妊娠初期のストレスや鉄剤内服既往によってLBWとSGAのリスクが低減することを示した。妊娠初期の就労または家庭の経済状況が良いことはLBWのリスクを増大させていた。低出生体重児の出生を予防するには,医療関係者による妊娠中の栄養指導や健康管理だけでなく,妊婦の健康意識変容や社会的な関心と協力により女性の妊娠前の若いころからの生活習慣やライフスタイルの改善も重要である。

キーワード 出生体重,低出生体重児,不当軽量児,コホート研究,母体要因

 

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第61巻第2号 2014年2月

WHO-DAS2.0日本語版の開発とその臨床的妥当性の検討

筒井 孝子(ツツイ タカコ)

目的 WHO-DAS2.0(WHO Disability Assessment Schedule2.0)は,障害の評価を行うためにICFコードを用いた計測ツールとは異なる視点から開発された。この評価尺度が日本語化され,利用できるようになればICFの概念に基づいた生物心理社会学的モデルを基礎とした,いわゆる障害の程度を評価できる可能性を高めることができる。また,この評価尺度を用いた得点は国際比較も可能とすることから,日本における社会福祉関連制度を国際的な観点から評価する際の資料としても重要となると考えられる。本研究では言語学的観点からWHO-DAS2.0の評価票を訳出し,専門家によるレビューおよびフィールド調査を踏まえて臨床的な観点からその妥当性を検討することを目的とした。

方法 WHO-DAS 2.0の各種評価票およびマニュアルを言語学的な観点から日本語訳を行った。その後,これらの調査票について,医師,看護師をはじめとした保健医療・社会福祉関係の専門家,障害の当事者の意見を聴き,実態に合わせて修正した。次にヒアリング調査結果を踏まえて修正された調査票を使用したフィールド調査を実施し,その臨床的妥当性を検証した。

結果 言語的に忠実に訳した調査票は保健医療・社会福祉関係専門家,障害当事者の意見を収集した結果,表現の修正が必要とされた。この指摘に基づいて修正された調査票を用いて自己記入版と面接者記入版のフィールド調査を行い,評価結果の比較をした。その結果,全調査対象者の自己記入版と面接者記入版の回答結果が一致した項目はなかった。

結論 今後,WHO-DAS2.0を日本において実用可能なものにするためには,臨床的観点からの障害福祉,医療,保健,介護分野の学識者や専門家によるレビューや言語学観点からの原語の意味を踏まえつつ,日本文化に適応した修正をさらに重ねていく必要があると考えられた。同時に,これを臨床現場においてアセスメントツールとして活用していくためには,障害特性に応じた調査票の工夫や評価のためのガイドライン作成が必須と考えられた。

キーワード WHO-DAS2.0,ICF,WHO,生物心理社会学的モデル,評価

 

論文

 

第61巻第2号 2014年2月

都営住宅に居住する1人暮らし高齢者の生活満足度とその関連要因

福島 忍(フクシマ シノブ)

目的 本研究では,都営住宅に居住している1人暮らし高齢者の生活満足度の状況と,生活に満足をしている人の特性を明らかにし,生活の満足感を高めるための方策を考察することを目的とした。

方法 対象者は,東京都S区A都営住宅のうちの2つの自治会の号棟に居住する1人暮らし高齢者である。調査方法は郵送法による無記名自記式質問紙調査である。調査は事前に調査協力への同意を得た人に行い,同意の確認は自治会役員が行った。調査協力への同意者は135人であった。調査期間は,B自治会が2010年11月下旬から同年12月初旬まで,C自治会が2010年12月末から2011年1月中旬までである。回収数は116であり,有効回答者は114人であった。分析は,生活満足度を従属変数として,身体状況や住宅環境,親族や近所とのつきあいの状況などに関する15変数を独立変数としたロジスティック回帰分析を行った。

結果 現在の生活に「満足している」「まあまあ満足している」と回答した人を合計した生活満足群の人の割合は約7割であり,全国調査と比較して大きな違いは認められなかった。生活満足度と有意な関連がみられたのは,近所づきあいの状況,緊急通報装置の有無,子どもの有無,結婚の状況の4変数であり,近所に「立ち話をする程度以上」の人がいる人,緊急通報装置を設置している人,子どものいる人はそうでない人に比べて生活満足群になる確率が高く,結婚の状態で「離別」している人は「未婚・その他」の人に比べて生活満足群になる確率が低かった。

結論 本研究の対象者は近所づきあいの状況が全国調査と比較して活発に行われている傾向にあり,近所づきあいは本研究において生活満足度に最も影響がある項目であったことから,この傾向が都営住宅の1人暮らし高齢者の生活満足度を上げている一要因になっていることが考えられた。また,緊急通報装置の設置や子どもの有無,結婚の状況も生活満足度に影響しており,1人暮らし高齢者が急速に増加していくことが予測される都営住宅においては,サロン活動や防災活動などの機会を通した異世代を含めた近所づきあいが継続あるいは新たに構築されるような意図的な働きかけや,緊急通報装置の円滑な設置を図るなどして,1人暮らしを基準とした高齢者の生活支援の体制整備を早急に実施していく必要がある。

キーワード 都営住宅,1人暮らし高齢者,生活満足度,近所づきあい,緊急通報装置

 

 

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第61巻第2号 2014年2月

筑波研究学園都市の労働者を対象とした主観的健康感の実態調査

平井 康仁(ヒライ ヤスヒト) 鈴木 瞬(スズキ シュン) 道喜 将太郎(ドウキ ショウタロウ)
金子 秀敏(カネコ ヒデトシ) 小林 直紀(コバヤシ ナオキ) 関 昭宏(セキ アキヒロ)
商 真哲(ショウ ナオアキ) 羽岡 健史(ハオカ タケシ) 大井 雄一(オオイ ユウイチ)
梅田 忠敬(ウメダ タダヒロ) 宇佐見 和哉(ウサミ カズヤ) 友常 祐介(トモツネ ユウスケ)
吉野 聡(ヨシノ サトシ) 笹原 信一朗(ササハラ シンイチロウ) 松崎 一葉(マツザキ イチヨウ)

目的 研究学園都市における労働者の主観的健康感の実態を明らかにする。基本属性ごとに労働環境と主観的健康感の関連を明らかにする。

方法 筑波研究学園都市交流協議会に所属する機関の労働者21,922人を対象としてWeb調査を実施した。調査項目は,基本属性(性別,年齢,婚姻状態)・労働環境(労働時間,勤務形態,職種)・主観的健康感とした。基本属性ごとに解析を行うため,対象を,性別(男性,女性),年齢別(若年群,高齢群),婚姻別(未婚群,既婚群)の3つの属性の組み合わせにより8群に層化した。また,主観的健康感の回答から「健康群」「非健康群」の2群に群分けした。基本属性ごとに,労働環境と主観的健康感の関連についてKruskal-Wallis検定を用いて解析した。

結果 回収率は43.5%(9,528人)であった。解析は就労年齢である20~50歳代の者のうち離婚,死別,別居を除外した8,733人を対象とした。このうち健康群は83.2%,非健康群は16.9%で,健康群の割合は女性,20歳代,既婚者で高く,先行研究と同様の結果が得られた。8群に層化して労働環境と主観的健康感の関連について行った解析では,労働時間別では,若年および高齢の既婚男性群において,短時間群および長時間超勤群が短時間超勤群,中時間超勤群と比べて健康群の割合が有意に低く,高齢既婚女性群においては勤務時間が短いほど,健康群の割合が高い傾向を認めた。勤務形態別では,高齢未婚女性群において,常勤(任期付き)が健康群の割合が最も低く,非常勤,派遣が健康群の割合が高い傾向を認めた。職種別では,若年既婚男性群において,教育・研究系が最も健康群の割合が高く,技術系の健康群の割合が有意に低く,若年未婚男性群において,教育・研究系の健康群の割合がその他の群に比べて高い傾向を認め,高齢既婚男性の群において,教育・研究系と技術系が事務系と比べて健康群の割合が高い傾向を認めた。

結論 先行研究同様に性別,年齢,婚姻状態により主観的健康感の実態は異なっていた。性別,年齢,婚姻状態により層化して解析を実施したところ,主観的健康感を規定する要因や,労働環境と主観的健康感の関連は基本属性により異なることが示唆された。

キーワード 主観的健康感,労働者,労働環境,層別解析

 

 

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第61巻第2号 2014年2月

在日外国人の生活課題の検討

-あるNPO法人の相談援助記録から-
保科 寧子(ホシナ ヤスコ)

目的 本研究は,ある在日外国人の支援団体(NPO法人)が実施していた相談援助の記録を用いて,日本で生活する外国人の生活課題の概要を把握することを目的とした。

方法 分析対象としたデータは,2003年度から2009年度の7年間に相談援助を行った記録3,484件である。はじめに単純集計により,この相談援助の内容の概要を把握した。次に各相談記録から分類した相談内容項目それぞれについて,1~3回の相談対応で支援の終わった群と4回以上の相談対応を行った群に分け,χ2検定にて両群間の差の有無を分析した。そして,ここからどの相談内容項目が総相談回数の多い相談者と関係しているかを検討した。

結果 単純集計から,子どもの教育・学校対応,簡単な情報提供で対応可能な生活相談(銀行口座の開設方法や近所の情報を得たいなど),就労,出入国管理に関する相談が多いことがわかった。数は多くはないが,児童虐待や保証人の依頼,不安の訴えや親族の行方不明などの相談もみられた。また,相談回数が4回以上ある外国人に有意に多かった相談内容は,児童虐待,生活保護,生活状況の確認,医療・病院受診,生活相談,書類翻訳作成,教育・学校対応,公的機関等への同行,住居の9項目であった。一方で,配偶者からの暴力,結婚希望,親権認知の3項目は,1~3回の相談対応で終わった群が有意に多かった。

考察 地域社会で生活上の小さな相談のできるような関係が形成できていない外国人の状況が推測された。また教育に関する相談が多く,外国人親は日本の教育システムに慣れず不安を感じていることも改めて確認できた。総相談回数の多い外国人は日本語の不自由さはあまり感じていないが,子どもの教育や病院,公的機関での対応に困難を感じており,行政手続きなどへの支援が必要である。あわせて彼らには経済的な支援や,生活の見守りも必要な状況がうかがえた。総じて今後は外国人を取り込んだ地域づくりが求められると考える。

キーワード 在日外国人,生活課題,相談援助,NPO法人,χ2検定

 

 

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第61巻第2号 2014年2月

障害者公的介護サービスの地域差に関する研究

-頸髄損傷者の公的介護サービス利用状況を対象として-
丸岡 稔典(マルオカ トシノリ) 井上 剛伸(イノウエ タケノブ) 八幡 孝雄(ヤワタ タカオ)

目的 かねてより地方と都市の間には障害者向け公的介護サービスの供給状況に差があることが指摘され,その解消が課題となっている。本研究では,頸髄損傷者の公的介護サービスの利用状況に関する調査データを居住都道府県の財政状況とサービス供給体制の2つの側面から分析する。

方法 2008年度に実施された全国頸髄損傷者実態調査データの一部を用いた。居住都道府県の経常収支比率,財政力指数,居宅介護事業所密度,重度訪問介護事業所密度を説明変数として,公的介護サービス利用有無,家族介護有無を目的変数としたロジスティック回帰分析ならびに公的介護サービス利用時間を目的変数とした重回帰分析を実施した。

結果 分析は日常生活上の介助の必要性があると回答した頸髄損傷者590名を対象とした。経常収支比率が高く,また財政力指数が低い都道府県居住者は公的介護サービスを利用しておらず,公的介護サービス利用時間が少なかった(p<0.05)。経常収支比率が高い都道府県居住者は家族を主たる介護者としやすかった(p<0.05)。一部のモデルでは,財政力指数が低い都道府県居住者は家族を主たる介護者としやすい結果となった(p<0.05)。また,一部のモデルでは居宅介護事業所密度が低い都道府県居住者の公的介護サービスの利用率が低くなり(p<0.05),重度訪問介護事業所密度が低い都道府県居住者の公的介護サービス利用時間が短くなる結果となった。

結論 居住する都道府県の財政状況と公的介護サービスの利用有無や公的介護サービスの利用時間に関係があり,財政状況が硬直的で余裕のない都道府県の居住者は公的介護サービスの利用を抑制する傾向がみられた。公的介護サービス利用に訪問介護事業所密度の影響が予測され,サービス利用が進んでいない地域でのサービス供給体制の整備が必要であると推察された。とりわけ長時間の介護が必要な重度障害者の地域生活を考慮する上で,居宅介護事業所のみでなく重度訪問介護事業所を含めた整備を図る必要があると考えられる。

キーワード 公的介護制度,地域差,頸髄損傷,財政,事業所密度

 

 

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第61巻第2号 2014年2月

院内がん登録における重複登録割合の推定

渡邊 多永子(ワタナベ タエコ) 東 尚弘(ヒガシ タカヒロ) 佐井 至道(サイ シドウ)
山城 勝重(ヤマシロ カツシゲ) 海崎 泰治(カイザキヤスハル) 津熊 秀明(ツクマ ヒデアキ)
固武 健二郎(コタケ ケンジロウ) 猿木 信裕(サルキ ノブヒロ) 岡村 信一(オカムラ シンイチ)
柴田 亜希子(シバタアキコ) 西本 寛(ニシモト ヒロシ)

目的 全国のがん診療連携拠点病院から提供される院内がん登録データには,全国のがん罹患の約6割以上についての情報が蓄積されている。一方で匿名化後に収集されており,同一患者が複数の提出施設を受診すると重複して登録されてしまう可能性がある。本解析はデータ内に含まれる重複登録割合の推定を目的とする。

方法 2通りの方法で重複登録割合の推計を行った。1つは,組合管掌健康保険組合8組合から提供された診療報酬請求書(レセプト)データベースを用い,がん診療連携拠点病院を受診した5大がんの患者のうち同一年の間にほかの拠点病院も受診している患者の割合を算出することで重複の割合を推計した。もう1つは,院内がん登録データ2008年症例の中で,多数の性質の詳細が一致する組み合わせ(類似特性症例)を重複と推定して算定した。

結果 重複登録割合は,レセプトデータによる推計では6.6~8.5%,院内がん登録データ内の類似特性症例による推計では8.6%と算定された。

結論 院内がん登録データには8%程度の重複登録が含まれると推定された。

キーワード 院内がん登録,ミクロデータ,重複

 

 

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第61巻第3号 2014年3月

第15回OECDヘルスアカウント専門家会合

満武 巨裕(ミツタケ ナオヒロ)

本誌において,著者は第10回OECDヘルスアカウント専門家会合から議題および論点について報告してきた。今回は,2013年10月16~17日に開催された第15回OECDヘルスアカウント専門家会議について報告する。

Ⅰ は じ め に

日本の総医療費は,2012年に初めて対GDP比でOECD加盟国の平均を超えた1)。しかし,この総医療費は,厚生労働省大臣官房統計情報部が公表している国民医療費とは異なり,OECD(経済協力開発機構)が2000年に公表した国民保健計算(National Health Accounts)のガイドラインであるSHA(A System of Health Acc­ounts)1.0に準じて推計した総保健医療支出のことである2)。総保健医療支出は,厚生労働省統計情報部から公表される医療保険制度下における支出の国民医療費に加えて,一般薬,正常分娩や歯科自由診療など医療保険の対象外の費用,介護,健康維持・増進,公衆衛生,医療機関の運営および施設整備のための費用,医療保険の運営費用なども含む3)。したがって,日本の総保健医療支出は,国民医療費と比較すると約2,3割高くなる。2010年度の総保健医療支出は約46.2兆円であり,対GDP比率で約9.6%である。一方,国民医療費は約37.4兆円であり,対GDP比率は7.8%である4)。
毎年OECD本部(フランス・パリ)で行われるヘルスアカウント専門家会合では,様々な議題が討議されているが,この数年はSHAの改訂に関する議題が大半を占める。急速な医療技術の進歩,多くの国で複雑化している保健医療システムをより正確にモニタリングするために2006年からはじまったSHAの改訂は,2011年
に終了した。改訂版SHAは,SHA2011という名称で公開され,2016年度からSHA2011に準拠した推計値に切り替わる予定である5)6)。

 

Ⅱ 第15回ヘスアカウント専門家会合の議題

 

本会合では,OECD事務局が各議題について説明を行い,ヘルスアカウント専門家とOECD事務局の議論を経て,今後の方針が決められていく。今回の議題は,9つであった(表1)。

議題1と2では,OECD事務局部門長の挨拶に続き,議長が選出され(オランダのヘルスアカウント専門家),議題および議事進行は例年通りOECD事務局が行うことが承認された。次に,事前に配布されていた前回(第14回会合)の要旨に関する説明があり,全加盟国が承認した。

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第61巻第3号 2014年3月

OECDヘルスデータ担当者会合(2013)の報告

中山 佳保里(ナカヤマ カオリ)

Ⅰ は じ め に

OECD(経済協力開発機構)では,34の加盟国から保健医療および保健医療制度に関するデータを収集し,ウェブ上のデータベース「OECDヘルスデータ」として,毎年公表している。
データベースの改善のため,加盟国(保健担当省,統計担当機関等)および関係機関(WHO,Eurostat等)が出席するOECDヘルスデータ担当者会合(以下,会合)が,年1回開催されており,データ範囲の拡大や比較可能性の向上について議論している。本稿では,2013年10月17,18日に開催された会合(於パリ,参加者数約80名)の議論について報告する。

Ⅱ 2013年OECDヘルスデータ担当者会合

OECDの会合では,一般的に議題ごとに事務局担当者からプレゼンがあり,参加国が提示された議論のポイントについて発言する形式をとる。現在,Francis Notzon氏(米国),MikaGissler氏(フィンランド)が共同議長となっているが,折しも米国の国会で暫定予算が成立せず政府機関が閉鎖されている時期だったため,米国のNotzon氏は出席できず,今回はGissler氏が議長を務めた。会合では,何かの議決を行うということはなく,出席者の発言を踏まえて,事務局がその場で今後の対応等について回答するか,テーク・ノートして今後の研究活動に反映されることになる。

 今回は,多岐にわたる議論の中から,OECDの医療関連の最近の刊行物と個別議題として自覚的健康状態についてご紹介する。なお,会合で使用されたプレゼン資料は,OECDウェブサイト1)から参照可能であるので適宜ご参照いただきたい。

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第61巻第3号 2014年3月

薬局での対面販売による禁煙補助薬によって禁煙成功者を
生み出すのに要したコストの推計

谷口 千枝(タニグチ チエ) 田中 英夫(タナカ ヒデオ) 武田 佳司実(タケダ カスミ)
尾瀬 功(オゼ イサオ) 岡 さおり(オカ サオリ)
坂 英雄(サカ ヒデオ) 榊原 久孝(サカキバラ ヒサタカ)

目的 わが国では,薬局で購入できる禁煙補助薬を使った禁煙の実施が,医療保険を使った禁煙治療とともに,禁煙を効果的に行う方法として定着している。禁煙補助薬を用いた禁煙の実施によって,1人の禁煙成功者を生み出すのに要したコストを推計することを目的とした。

方法 名古屋市内の薬局において,薬剤師との対面販売による禁煙補助薬(以下,OTC禁煙補助薬)を購入した98人をコスト算出の対象とした。この98人について,実際のOTC禁煙補助薬購入金額の総額を求めた。加えて,薬局の薬剤師が対象者にかけた指導時間コストと,対象者がOTC禁煙補助薬を販売する薬局を見つけるのに要する時間コストを,著者の1人が名古屋市内の7店舗で行った体験調査によって求め,算出した1人当たりのコストを98人分に当てはめた。これらの98人分の総和を,全体で要したコストと定義した。また,対象となった98人の初回のOTC禁煙補助薬購入時点から14週間後の時点における喫煙状況を電話調査によって把握し,その結果から禁煙成功率を求めた。全体で要したコストを禁煙成功者数で除して,1人の禁煙成功者を生み出すコストとした。そのコストの信頼区間は,禁煙成功率の90%信頼区間を用いた。

結果 98人中,ニコチンパッチ購入は80人,ニコチンガム購入者は18人であった。対象者98人が要したコストは,購入したOTC禁煙補助薬1,891,890円,薬剤師の指導時間コスト58,656円,対象者がOTC禁煙補助薬取り扱い薬局を見つけるのに要した時間コスト208,446円の総額2,158,992円と推計した。また98人の禁煙成功率は13.3%(13人/98人,標準誤差3.3%)であった。以上のことから,禁煙補助薬によって禁煙成功者1人を生み出すのに要したコストを165,643円(117,810円~278,867円)と推計した。

結論 OTC禁煙補助薬は,ほかのワクチンによる感染予防などと比べて費用対効果が高い。多くの薬剤師が禁煙補助薬を販売する際に行う禁煙指導内容の充実を図ることで,さらに効果的な禁煙誘導のためのツールになるものと期待される。

キーワード 禁煙,OTC禁煙補助薬,費用対効果,薬局

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第61巻第3号 2014年3月

都道府県別の平均要介護期間と損失生存可能年数の
地域格差と医療・福祉資源の関連について

-医薬品情報に着目した地域相関研究-
内田 博之(ウチダ ヒロユキ) 中村 拓也(ナカムラ タクヤ) 金子 彩野(カネコ アヤノ)
大竹 一男(オオタケ カズオ) 内田 昌希(ウチダ マサキ) 小田切 陽一(オダギリ ヨウイチ)
夏目 秀視(ナツメ ヒデシ) 小林 順(コバヤシ ジュン)

目的 平均要介護期間と年齢調整YPLL(years of potential life lost)率に着目し,各指標の都道府県別の地域格差と医療・福祉資源との関連を明らかにし,医薬品情報を含んだ関連要因の抽出を目的として地域相関研究を行った。

方法 2008年の厚生労働省,総務省の各種統計資料のデータを使用し,都道府県別の平均要介護期間と年齢調整YPLL率を算出した。また,都道府県別の医療・福祉資源に関する要因のデータも得た。2つの指標と各種要因との間の相関係数を算出し,統計学的に有意な相関を示す要因を抽出した。相関マトリクスを作成し,多重共線性を配慮して候補要因を絞り,2つの指標を目的変数とした重回帰分析を行った。

結果 平均要介護期間との相関が認められた要因のうち医薬品情報に関する要因として,男性では「電算処理済み処方箋1枚当たりの報酬別内訳の技術料」および「特定保険医療材料料」が抽出されたが,重回帰分析の結果からは,「糖尿病内科医師数」と「居宅介護サービスの通所介護利用者数」が関連の大きい説明変数として得られた。女性では医薬品情報に関する要因として,「電算処理済み処方箋1枚当たりの報酬別内訳の特定保険医療材料料」が抽出されたが,重回帰分析の結果からは,「リウマチ科医師数」と「居宅介護サービスの訪問介護利用者数」が関連の大きい説明変数として得られた。年齢調整YPLL率との相関が認められた要因のうち医薬品情報に関する要因として,男性では「薬剤師数」「薬局総数」「調剤の電算化率」および「後発医薬品調剤率」が抽出されたが,重回帰分析の結果からは,「後発医薬品調剤率」「特別養護老人ホームの定員」および「薬局総数」が関連の大きい説明変数として得られた。女性では医薬品情報に関する要因として,「薬局総数」「内服薬処方箋1枚当たりの薬剤料の3要素分解(1種類1日当たり薬剤料)」が抽出されたが,重回帰分析の結果からは,「呼吸器内科医師数」が説明変数として得られた。

結論 相関分析の結果より,男女ともに平均要介護期間および年齢調整YPLL率に影響を与えている要因には,医薬品情報に関連した要因が説明変数の候補として抽出されたが,重回帰分析の結果より,医薬品情報と関連した要因として,男性において「後発医薬品調剤率」と「薬局総数」が年齢調整YPLL率との関連の大きい要因として把握された。

キーワード 平均要介護期間,YPLL率,地域相関研究,健康寿命,早期死亡

論文

 

第61巻第3号 2014年3月

地域における高齢者の社会的ネットワーク形成要因
および心理的well-being

-新たな友人の獲得に着目して-
岡本 秀明(オカモト ヒデアキ)

目的 近年,高齢者の社会的孤立や孤立死への関心が高まり,地域における社会的ネットワークの重要性があらためて認識されている。本研究では,地域における高齢者の社会的ネットワーク形成のうち,新たな友人の獲得に焦点をあて,第1に,高齢者の新たな友人の獲得の関連要因,第2に,高齢者の新たな友人の獲得と心理的well-beingの関連性を明らかにすることを目的とした。

方法 東京都区部4区在住の高齢者(65~84歳)1,200人を無作為抽出し,自記式調査票を用いた郵送調査を実施した。有効回収数500人のうち,分析対象は,主要項目に欠損値のない445人とした。関連要因の検討には,新たな友人の獲得の有無を示す変数を従属変数とした2項ロジスティック回帰分析を用いた。心理的well-beingとの関連性には,生活満足度(LSIK)と日頃の活動満足度のそれぞれを従属変数とした重回帰分析を用いた。

結果 第1に,新たな友人を獲得した高齢者は,変化や新しさを伴う活動的志向が高く(p<0.01),SOC(首尾一貫感覚;Sense of Coherence)が高い(p<0.01)という特性であった。なお,学歴に有意傾向がみられ,中学校卒業と比較して短大・大学等卒業のほうが,新たな友人を獲得しやすい傾向(p<0.10)がみられた。第2に,新たな友人を獲得した者は,獲得していない者と比較して,生活満足度(p<0.05),日頃の活動満足度(p<0.001)がそれぞれ高かった。

結論 新たな友人を獲得したことがある高齢者の割合は,およそ2割に達しており,調査協力が得られた高齢者に限定されるが,高齢期においても新たな友人とのネットワークが形成されることはまれではないことが示唆された。また,新たな友人の獲得に関して,関連要因は性別や身体的な健康要因ではなくて心理的な特性が重要であること,心理的well-beingを高めることが明らかになった。

キーワード 社会的ネットワーク,新たな友人の獲得,高齢者,活動的志向,SOC(Sense of Coherence),心理的well-being

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第61巻第3号 2014年3月

地域住民における認知的ソーシャル・キャピタルと
メンタルヘルスとの関連

藤田 幸司(フジタ コウジ) 金子 善博(カネコ ヨシヒロ) 本橋 豊(モトハシ ユタカ)

目的 農村部における地域住民の認知的ソーシャル・キャピタル(以下,SC)とメンタルヘルスとの関連について,前向きコホート研究によって検証する。

方法 秋田県A町において,30歳以上の地域住民を対象に,2008年10月に初回調査,2010年7月に追跡調査を悉皆にて実施した。いずれも自記式質問紙を用いた留置法(健康推進員による配布回収)にて実施し,追跡可能であった2,153人のうち,初回調査時の年齢が90歳以上であった15人を除く2,138人のデータを分析に用いた。分析項目として,性別,年齢,世帯の暮らし向き,主観的健康感,追跡期間中におけるネガティヴ・イベントの発生を用いた。認知的SCの評価は,互助と信頼,社会の責任感,地域への愛着,対人的なつながり,地域の優しさを問う5つの質問項目からなる認知的SCスコアを用いて認知的SC得点(得点範囲0~15点)を算出し,9点以下(第1四分位数)を低SC群とした。また,メンタルヘルスの指標としてK6を用い,9点以上(得点範囲0~24点)を抑うつ傾向ありとした。初回調査時に抑うつ傾向なし(K6<9点)であった集団の,1年9カ月後の追跡調査時における抑うつ傾向(あり/なし)を従属変数,認知的SCスコア(低/高)を説明変数とした多重ロジスティック回帰分析を行った。

結果 初回調査時に抑うつ傾向なし(K6<9点)であった1,438人のうち,追跡調査時に抑うつ傾向あり(K6≧9点)となったのは123人(8.6%)であった。多重ロジスティック回帰分析の結果,初回調査時の低SC群は,抑うつ傾向ありとなる確率が高SC群の約2倍であった(オッズ比1.94,95%信頼区間:1.30-2.90)。また,性別,年齢(10歳階級)を調整した場合のオッズ比は1.70(95%信頼区間:1.12-2.59),性別,年齢,世帯の暮らし向き,主観的健康感,追跡期間中のネガティヴ・イベント(身近な人のつらい喪失)を調整した場合のオッズ比は1.66(95%信頼区間:1.08-2.56)と有意であった。

結論 認知的SCが高いことは,メンタルヘルス悪化を予防する可能性が示唆された。地域づくり活動やコミュニティ・パワメントなどのアプローチが,地域住民のメンタルヘルスの向上に有効であると考えられる。

キーワード メンタルヘルス,ソーシャル・キャピタル,地域保健,地域づくり,地域住民

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第61巻第4号 2014年4月

特別養護老人ホームにおける
機能訓練指導員による仕事の創造

植田 大雅(ウエダ ヒロマサ) 杉澤 秀博(スギサワ ヒデヒロ)

目的 特別養護老人ホーム(以下,特養)では,機能訓練指導員の配置が義務づけられている。しかし,特養の利用者の重度化が進んでいる中にあって,重度化する利用者に対しては機能回復効果を見込むことは難しいことに加え,機能訓練指導員の役割や機能が施設や個人の裁量に委ねられており,よくいえば独創的,悪くいえば非系統的なサービス提供がなされていることが多い。本研究では,特養に勤務する機能訓練指導員がどのような役割をもって仕事に取り組んでいるかを明確にすることにある。

方法 分析データは,特別養護老人ホームに勤務している機能訓練指導員8名に対する面接調査であり,項目として認知症や看取り介護など重度化する特養利用者に対する①日頃の業務内容,②他職種とのかかわり,機能訓練指導員の業務を超えての活動,③仕事への満足度・達成感,④仕事上の困難であり,さらに,⑤特養に機能訓練指導員として勤務するようになった時期,きっかけを柱として行った。そのデータをM-GTAを使って分析した。

結果 分析の結果,3つのカテゴリー,2つのサブカテゴリー,11の概念が生成された。3つのカテゴリーは《他者との関係性を意識し,仕事の内容を決定する》《生活の中に機能訓練を位置づける》《周囲の人との心理的距離の近さ》であった。以上3つのカテゴリーの関係は,次のように示すことができた。《他者との関係性を意識し,仕事の内容を決定する》《生活の中に機能訓練を位置づける》といった活動を展開できるのは,《周囲の人との心理的距離の近さ》といった他者との良好な関係性を構築できていることにある。

結論 本研究で,第1に特養における機能訓練指導員の取り組みが,ほかの職種との関係の中で位置づけられていることが示唆された。第2には,訓練室で行う機能訓練というより生活行為を機能訓練の機会として利用し,位置づけた取り組みが行われていることが示された。第3には,以上のような機能訓練の手法の部分に関してはこれまで先行研究にもみられた部分であるが,本研究においては新しい役割として,訓練の手法だけでなく,機能訓練指導員が利用者と1対1で長時間にわたりかかわることのできる職種であり,そのことが利用者だけでなく,周囲の人への共感,ニーズの理解といった心理的な距離の近さを生み出し,機能訓練の工夫やあり方の創造・実践へとつながることが示唆された。

キーワード 機能訓練指導員,利用者の重度化,生活行為,心理的距離,仕事の創造,新たな役割

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第61巻第4号 2014年4月

滋賀県野洲市における特定健診未受診理由を踏まえた
特定健診受診勧奨手法の開発と受診率向上への効果

宮川 尚子(ミヤガワ ナオコ) 門田 文(カドタ アヤ) 清水 めぐみ(シミズ メグミ)
山澤 幸子(ヤマザワ サチコ) 宇野 裕子(ウノ ユウコ) 大黒 清夏(オオグロ サヤカ)
今堀 初美(イマホリ ハツミ) 山下 亜希代(ヤマシタ アキヨ) 櫻井 真汐(サクライ マシオ)
駒井 文昭(コマイ フミアキ) 吉田 和司(ヨシダ タカシ) 門脇 崇(カドワキ タカシ)
上島 弘嗣(ウエシマ ヒロツグ) 三浦 克之(ミウラ カツユキ) 岡村 智教(オカムラ トモノリ)

目的 平成20年度より開始された特定健診の平均受診率は市町村国保で31%前後であり,参酌標準の65%と大きく乖離している。健診受診率に影響を及ぼす要因について,受診勧奨施策の受診率への効果を検討した報告は少ない。本研究では,滋賀県野洲市において特定健診未受診者の未受診理由を明らかにし,得られた未受診理由を踏まえた健診受診勧奨手法を開発して,その効果について検討した。

方法 滋賀県野洲市の国保加入者を対象として,平成21年度に,前年度(平成20年度)の特定健診未受診者4,122人のうち無作為抽出した1,579人に郵送にて特定健診未受診の理由を尋ねる質問紙調査を実施し,760人(48.1%)から回答を得た。特定健診未受診理由に基づき,未受診理由を踏まえた受診勧奨手法を開発し,平成22年度に受診率向上のための対策を実施した。勧奨手法の効果は,健診実施期間が平成22年度と同じであった平成20年度の健診受診率との比較により評価した。

結果 健診未受診理由調査の結果,年齢層に関わらず「病院などにかかっている」「事業所健診等を受けている」「たまたま受け忘れた」「健康だから」が多く,中壮年層では加えて「受ける時間がない」も多かった。これらの未受診理由を踏まえて,個人と集団,それぞれへのアプローチを組み合わせた受診勧奨手法を開発した。個人へのアプローチとしては健診開始時に受診券と一緒に受診勧奨チラシを対象者全員に個別送付し,また健診期間の中間時点に,その時点の未受診者全員に再度,受診勧奨チラシと健診実施機関一覧表を個別送付した。集団に対するアプローチとしては同じく健診期間の中間時点で,「健康で自覚症状のない時の受診の重要性」をテーマにした記事の広報掲載とポスターの掲示を行った。この受診勧奨手法を用いた平成22年度の特定健診受診率は,用いていない平成20年度に比べて7.2%有意に上昇し,これは年齢層に分けても同様の結果であった。受診のきっかけを調査したところ,今回の受診勧奨手法をあげた者の割合は,ほぼ受診率の増加分に相当する660人(受診率8%相当)であった。

結語 特定健診未受診理由を踏まえた受診勧奨手法を開発し,その効果を評価した。タイミングを見計らった個別通知や,健診受診の意義を伝える勧奨を,集団および個人を対象に実施したことにより,高年層,中壮年層ともに健診受診率は大きく上昇し,本受診勧奨手法の有用性が示された。

キーワード 特定健康診査,受診率,受診勧奨,未受診理由,市町村国保

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第61巻第4号 2014年4月

静岡県における自殺EBSMRの地域格差
および社会生活指標との関連

久保田 晃生(クボタ アキオ) 坂本 久子(サカモト ヒサコ) 山野 富美(ヤマノ フミ)
大石 かおり(オオイシ カオリ) 内田 勝久(ウチダ カツヒサ)

目的 本研究の目的は,2007年に行われた静岡県の自殺死亡に関する研究に基づき,自殺死亡の地域格差および社会生活指標との関連を検討し,今後の静岡県における自殺予防施策の基礎的資料を得ることである。

方法 静岡県内における性別の自殺EBSMR(経験ベイズ推計に基づく標準化死亡比)(2006〜2010年)をマップ化して,県内の地域格差を確認した。また,2007年に行われた研究で分析された地域の社会生活指標を収集し,自殺EBSMRとの関連について,主成分分析および重回帰分析を行い検討した。

結果 静岡県内の自殺EBSMRは,男女とも同様の傾向を示した。男性では東部地域において自殺EBSMRが高い地域が散見された。本研究の社会生活指標を主成分分析した結果,第1主成分は「都市化の程度に関係する因子」,第2主成分は「暮らしの状況を分ける因子」として解釈された。自殺EBSMRを加えた分析においても,因子構造は同様であった。自殺EBSMRを目的変数,社会生活指標を説明変数として重回帰分析を行った結果,男性は「小売店数(人口千対)」「離婚率(人口千対)」が,女性は,「第三次産業就業者比率(%)」「病院数(人口10万対)」が有意に関連する指標として選択された。このうち,自殺EBSMRとの単相関では,男性の「小売店数(人口千対)」と女性の「第三次産業就業者比率(%)」で有意な正の相関が認められた。

考察 静岡県の2007年の先行研究の結果と同様の傾向を示すことが確認され,男性では過疎地域での自殺予防,女性では都市部での自殺予防のように,都市化に基づいた自殺予防の取り組みが必要ではないかと考えられた。

キーワード 自殺,地域格差,社会生活指標

論文

 

第61巻第4号 2014年4月

活動量計を用いた日常歩行速度とADL低下に関する研究

高柳 直人(タカヤナギ ナオト) 山城 由華吏(ヤマシロ ユカリ) 須藤 元喜(スドウ モトキ)
仁木 佳文(ニキ ヨシフミ) 時光 一郎(トキミツ イチロウ)
金 美芝(キム ミジ) 金 憲経(キム ホンギョン)

目的 老年症候群とは高齢者に特有な身体的,あるいは精神的症状の総称である。老年症候群は日常生活に影響を与える症状であることが多く,発症により日常生活動作(ADL)や生活の質(QOL)を低下させることが知られている。この老年症候群を早期に発見し,対応することが高齢者の健康寿命の延伸を図る上で非常に重要である。先行研究からADLの低下は歩行速度の低下と密接に関与していることが明らかとなっており,日常生活における歩行速度を測定することで,より簡便なADL低下リスクのモニタリングが可能であると考えられる。本研究では虚弱後期高齢者における6カ月後の日常歩行速度変化とADL変化との関連性を調査することで,日常生活をもとにした将来のADL低下リスクの推定について検討することを目的とした。

方法 21歳から51歳の健常者50名に関して活動量計を用いることで,ケーデンス(歩行ピッチ)と加速度変化をもとにした指標である運動強度を測定し,歩行速度との関連性を調べた。また,虚弱後期高齢者87名に関して日常生活における歩行速度を測定し,6カ月後に歩行速度が低下した群と上昇した群の2群に分類することで各群における6カ月後のADL変化を測定した。

結果 運動強度と歩行速度との相関係数を算出したところ非常に高い相関が認められたため,重回帰分析を行うことで日常生活における歩行速度の推定式を確立した。この推定式を用いて虚弱後期高齢者における6カ月間の日常歩行速度とADLの変化を調べたところ,歩行速度低下群は上昇群と比較して「知的能動性」が有意に低下し,「老研式活動能力総得点」は低下傾向を示した。

結論 日常生活における歩行速度は老研式活動能力指標により測定したADLの低下と関与していることが明らかとなった。今回の結果から,日常生活の中で歩行速度の低下をモニタリングすることで,ADL低下の恐れがある対象者に関して老年症候群への予防対策の可能性が示唆された。

キーワード 歩行速度,運動強度,ADL(Activities of Daily Living),虚弱

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第61巻第4号 2014年4月

Diagnosis Procedure Combination(DPC)データ,
機能評価係数Ⅱおよび経営指標を含めた
大学病院の評価について

中島 尚登(ナカジマ ヒサト) 矢野 耕也(ヤノ コウヤ) 長澤 薫子(ナガサワ カオコ)
小林 英史(コバヤシ エイジ) 横田 邦信(ヨコタ クニノブ)

目的 私立大学病院の27学校法人を対象とし,機能評価係数Ⅱ,「DPC導入の影響評価に関する調査」データおよび経営指標より計算したMahalanobisの距離(MD)を用いて総合評価を試みた。

方法 平成21年度の「DPC導入の影響評価に関する調査」9項目(以下①:一般病棟入院件数,移植手術件数,臨床治験件数,平均在院日数,手術件数,化学療法件数,放射線療法件数,救急車搬送件数,全身麻酔件数),機能評価係数Ⅱ(以下②),経営指標(以下③:帰属収支差額比率,人件費率,総負債率)を用いた。これらより,1)①によるMDと②の相関,2)①の各件数と①によるMD,②,③との相関,3)①によるMDおよび②と③との相関,4)②による順位,①によるMD,①+②によるMD,③によるMD,①+③によるMD,①+②+③によるMD,それぞれのMD順位の検討,5)前項の順位各々の相関,6)項目選択でMDに寄与する項目,を検討した。

結果 1)診療件数を反映する①によるMDと②は有意な相関を認めなかった。2)①によるMDは一般病棟入院件数,移植手術件数,臨床治験件数,手術件数,全身麻酔件数と有意な正の相関を示し,平均在院日数とは負の相関の傾向を示した。②は化学療法件数と救急車搬送件数と有意な正の相関を示した。3)①によるMDと人件費率との間にのみ有意な負の相関を示した。②は③の3項目いずれとも有意な相関を認めなかった。4)②の順位と,①,①+②,③,①+③,①+②+③,それぞれで計算したMDの順位による順位は変動が大きく一定の傾向を認めなかった。5)②の順位と,①,①+②,③,①+③,①+②+③,それぞれで計算したMDの順位とは,いずれとも有意な相関を認めず,②の順位には①の件数や③の関与が低いと思われた。6)共通して項目選択で寄与する項目には,②の要素である効率性指数に関与する平均在院日数と救急医療指数に関与する救急車搬送件数が有効としてあげられた。

結論 機能評価係数Ⅱは経営指標を反映しないが,「DPC導入の影響評価に関する調査」9項目によるMDには経営の要素が加味され,組み合わせることでより良い総合評価が可能である。

キーワード Diagnosis Procedure Combination(DPC),Mahalanobisの距離(MD),機能評価係数Ⅱ,帰属収支差額比率,人件費率,総負債率

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第61巻第4号 2014年4月

出生率回復の地域差に関する研究

石井 憲雄(イシイ ノリオ)

目的 都道府県別の合計特殊出生率(Total Fertility Rate,以下,TFR)は,わが国の少子化対策上,非常に重要な指標であるにも関わらず,厚生労働省による公表値は時系列で比較可能なものとなっていないのが現状である。そこで,本稿の目的は,時系列で比較可能な2000年以降の都道府県別TFRを推計し,近年の出生率回復に見られる地域差を明らかにすることである。

方法 非国勢調査年の都道府県別TFRについて,国勢調査年との整合性を図るため,分母に用いる再生産年齢人口に各年における日本人人口の推計値を用いて再計算を行った。

結果 都道府県別TFRの再計算の結果,2005年以降のTFRの変化は地域によって大きな差があることがわかった。西日本の大部分の県では2005年から2012年にかけてTFRが0.20ポイント前後回復しているのに対し,東北6県(青森県,岩手県,宮城県,秋田県,山形県,福島県)などでは,0.10ポイント未満の回復となっている。なかでも福島県では,全国で唯一2012年のTFRが2005年の水準を下回り,東日本大震災による原発事故の影響が伺える結果となった。

結論 本研究の結果,都道府県別のTFRは,全47都道府県で例外なく2005年を境に反転していることが確認された。これは,厚生労働省公表のTFRでは把握できなかった事実であり,わが国の少子化対策上,重要な発見であると考えられる。今後,その要因を解明することが課題である。

キーワード 少子化,出生率,合計特殊出生率,TFR,人口動態統計,厚生労働省

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第61巻第5号 2014年5月

介護費用の財源に対する大学生の意識とその関連要因

桑原 里佳(クワバラ リカ) 野口 代(ノグチ ダイ) 山中 克夫(ヤマナカ カツオ)

目的 高齢化が急速に進むわが国において,介護費用の財源が問題となっている。政府は40歳以上から徴収した保険料と直接税を財源とする現状に対し,2014年4月の消費増税を決定し,2015年10月のさらなる消費増税を2014年12月にも判断する予定である。こうした重要な決断に際し,本研究では,将来的に財源を担っていく若者(大学生)に対し,介護費用の財源に対する意識を調査し,またその関連要因について明らかにすることを目的とした。

方法 対象者は,茨城県内の大学に通う1年生から4年生までの学生168名(医療系を除く文系,理系)とした。回答を得た167名(回収率99.4%)のうち,属性情報に欠損値のみられない157名を分析対象とした(有効回答率94.0%)。なお,データは大学の講義を介し集合調査法により収集した。

結果 介護費用の財源確保に関して,最も実施すべきだと思う方法に関しては,「直接税の増税」と答えた者が35.7%,「間接税の増税」が22.9%,「40歳未満からも保険料を徴収」が11.5%,「利用料の自己負担割合の引き上げ」が8.9%,「今までと同様,介護保険料を増額」が8.3%,「1人当たりのサービス量の制限」が6.4%,「要介護度が軽度の人をサービス対象から外す」が1.9%であった。意識に関連する要因としては,「福祉サービスを充実させたほうが良いので,多少の経済的負担はやむを得ない」という意見を持つ者は,「経済的負担を軽くした方が良いので,多少福祉サービスが不足するのはやむを得ない」という意見を持つ者よりも,「直接税の増税」「間接税の増税」「40歳未満からも保険料を徴収」に賛成した者が有意に多く,逆に「要介護度が軽度の人をサービス対象から外す」「利用料の自己負担割合の引き上げ」に賛成した者が有意に少なくなっていた。また,女子学生は男子学生に比べ,さらに,福祉系の学部学生はそれ以外の学部学生に比べ,「1人当たりのサービス量の制限」に賛成する者が有意に少なくなっていた。

結論 本調査では,学生は国民の負担の点でより公平性が保たれる方法(最も多かった回答は直接税の増税)に賛成し,逆に介護サービスを制限する方法に反対する傾向がみられた。こうした傾向から,政府は今後の施策(間接税率の引き上げなど)について,若者に十分な説明を行うべきであると思われた。

キーワード 介護費用,財源,直接税,間接税,保険料

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第61巻第5号 2014年5月

中国帰国者における体力および生活の質

-帰国者支援・交流センター通所者の現状-
熊原 秀晃(クマハラ ヒデアキ) 西田 順一(ニシダ ジュンイチ)
 森村 和浩(モリムラ カズヒロ) 田中 宏暁(タナカ ヒロアキ)

目的 最新の厚生労働省の調査において,中国帰国者の高齢化が進んでおり,「健康の不安」が将来に対する心配・不安として最も多く回答されたことが示されている。また,先行研究で,帰国後間もない者では地域社会への適応不足と共に生活の質(QOL)やメンタルヘルスが低下していることが報告されている。しかし,帰国後長期間を経た現在の帰国者に対する身心の健康状態やQOLに関する報告は極めて少ない。本研究は,現在の帰国者のQOLやメンタルヘルスの現状を調査すると共に,日常身体活動量および身体的体力の水準を明らかにすることを目的とした。

方法 対象者は,A地区中国帰国者支援・交流センターに通所する成人男女46名(62±10歳)であり,帰国後10年以上経過した者が8割であった。日常身体活動量は,加速度計内蔵歩数計を用い評価した。全身持久力は,多段階漸増運動負荷試験により血中乳酸閾値相当の運動強度を測定した。また,下肢筋力,柔軟性体力,静的バランス能力を評価した。メンタルヘルスはGeneral Health Questionnaire28項目版(GHQ28),包括的QOLはWHOQOL26,健康関連QOLはSF36v2を用い評価した。

結果 身体活動量(6,820±2,872歩/日;9.1±6.5METs・時/週)は,生活習慣病等の予防に推奨されている水準に比して極めて低値であった。また,全身持久力(4.4±0.8METs)と下肢筋力は,改善が望まれる水準であった。包括的QOLは,一般日本人の平均値より比較的高値を示し,移住に対して適応していると推察された。しかし,健康関連QOLは,身体的側面と役割/社会的側面(43.1±12.0,42.8±10.2ポイント)が日本国民の平均より有意に低値であった。また,GHQ28の得点合計は4.1±4.7点であり,対象者の約2割がメンタルヘルスに何らかの問題を有すると判定された。

結論 帰国者の健康関連QOLは低く,健康上の障害や不安を抱えている者が多いことが推察された。また,メンタルヘルスに問題を有する者が潜在することが示唆された。生活習慣病やロコモティブシンドロームの予防,および精神的ストレス性疾患の低減に重要と考えられている身体活動量や健康関連体力は低水準であった。高齢化が進む現在の帰国者には,より具体的に身心の健康づくりを推進する支援が必要と考えられた。

キーワード 身体活動量,健康関連体力,QOL,健康支援,中国残留邦人

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第61巻第5号 2014年5月

介護予防基本チェックリストにおけるうつ項目の検討

南部 泰士(ナンブ ヒロヒト) 石井 範子(イシイ ノリコ) 柳屋 道子(ヤナギヤ ミチコ)

目的 本研究は,基本チェックリスト「うつ」5項目に日本語版気分・不安障害調査票(K6)を加えることにより,気分,不安障害をより多くスクリーニングできるかどうか,また,基本チェックリストにおける25項目の生活機能とK6の関連性を明らかにすることである。

方法 対象は,秋田県A市B地域の65歳以上の人で,健診時に生活機能評価を受けた460人の,性別,年齢,基本チェックリスト25項目,K6について,面接で調査し,関連性を分析した。

結果 基本チェックリスト「うつ」で2項目以上該当し,うつを示すが,K6で気分・不安障害が陰性(0~4点)の者は,男性で15名,女性で28名いた。基本チェックリスト「うつ」で1項目以下の該当で,うつを示さないが,K6で気分・不安障害が軽度(5点以上)の者は,男性で7名,女性で9名いた。基本チェックリスト「うつ」は生活機能と関連しており,うつを示した者の中で,男性17項目,女性9項目に生活機能の低下がみられた。

結論 基本チェックリストでうつを示す人,気分・不安障害を示す人は生活機能の低下をきたしていた。基本チェックリスト「うつ」5項目およびK6を単独でスクリーニングを実施した場合,気分,不安障害のある高齢者を見逃してしまう可能性があるため,併用して使用することによって,より効率的なスクリーニングが可能であることが示唆された。

キーワード 介護予防,基本チェックリスト,生活機能,日本語版気分・不安障害調査票(K6),うつ

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第61巻第5号 2014年5月

大学生の家族形成意欲と関連要因に関する調査研究

-男女共同参画社会に向けた若者への支援について-
齋藤 幸子(サイトウ サチコ) 星山 佳治(ホシヤマ ヨシハル) 内山 絢子(ウチヤマ アヤコ)
近藤 洋子(コンドウ ヨウコ) 原 美津子(ハラ ミツコ) 宮原 忍(ミヤハラ シノブ)

目的 少子化問題研究の一環として,大学生を対象に青年の結婚の意思を規定する因子を調べることを目的とし,恋愛観,性役割観,価値観などを調査,次世代の家族形成支援の一助となる資料を得ようとした。

方法 首都圏の大学3カ所において,男女大学生を対象に集合調査法によるアンケートを実施し,有効回答252件を分析した。調査内容は,結婚の意思,子どもが欲しいか(以下,出産意欲),恋愛観,性役割観などで,性別のほか,結婚の意思の有無により2群に分けて検討した。さらに,結婚の意思を規定する因子を探るため,男女別に多重ロジステイックモデル分析を行った。

結果 将来の結婚の意思は,「する」61%,「しない」2%,「わからない」33%,無回答4%であった。結婚の意思がないまたは未定の群でも,69%に出産意欲があった。男女のつき合い方や,生き方に関わる価値観で性差が認められ,デート・バイオレンスにつながるような行為の許容度や,「子どもを保育所に預けるのはかわいそう」など従来型の価値観を支持する割合は,男性の方が高かった。結婚の意思の有無別分析では,結婚群の性役割を支持する割合が高かった。性役割に関しては,男女共同参画社会の実現に賛成しながら,家庭内の固定的性役割分担にも賛成するという,女性に対するダブルバインドの価値観をもつ者の存在が認められた。結婚の意思についての多重ロジステイックモデル分析では,男女で異なる因子が見いだされたが,カップル形成に関わるという意味では共通する側面があった。女性では「カップル形成の見通しに関する肯定感」が強い因子であった。

結論 結婚の意思が未定でもそのうちの7割に出産意欲があることから,子どもをもつことの価値の高まりが,家族形成意欲を促すものと考えられた。価値観や結婚の意思を規定する因子は男女で異なっており,若者への家族形成支援においては,男女それぞれの価値観とカップルの関係性に注目することの必要性が示唆された。性別役割分担を支持する群の方が,将来結婚する可能性が高かったことについては,裏を返せば,男女平等を支持する群は,現在の結婚のあり方を支持できず回避する傾向があるということである。わが国が男女共同参画社会の実現をもって少子化問題を乗り越えようとするのであれば,多様な家族のあり方を認めるなど,男女平等を支持する者が家族形成を望むような社会環境を用意することが必須である。

キーワード 少子化,結婚,出産,家族形成,性役割観

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第61巻第5号 2014年5月

2歳未満児の虐待による
頭部外傷における初回入院にかかる疾病費用分析

植田 紀美子(ウエダ キミコ) 丸山 朋子(マルヤマ トモコ) 藤原 武男(フジワラ タケオ)

目的 わが国では,子どもの虐待の予防,被虐待児の診断や治療,被虐待児や家族に対する継続的支援など,各分野の研究や対策は進み始めているものの,虐待における経済分析の分野は着手されていない。部分的な経済的評価として,虐待にかかる費用分析が最優先である。そこで,本研究では,2歳未満児の虐待による頭部外傷(Abusive head trauma,以下,AHT)における初回入院にかかる疾病費用を明らかにすることを目的とした。

方法 A,B施設に頭部外傷による頭蓋内病変を疑い頭部CTを施行し,入院した2歳未満児(対象期間:A施設2005年4月から2011年3月,B施設2002年4月から2005年3月)を対象とした。診療録(サマリー)によりAHT児とnon-AHT児に分け,診療報酬明細書の分析により初回入院期間における医療費,入院期間等を比較した。

結果 AHT児41例,non-AHT児69例を分析した。AHT児で男児の割合が多かった。初回平均入院日数は,AHT児で50.6日(A施設71.7日,B施設26.1日)とnon-AHT児の5.9日(A施設4.4日,B施設6.5日)の約10倍であった(p<0.001)。同様に,初回入院にかかる平均医療費もAHT児で230万円(A施設307万円,B施設140万円)とnon-AHT児の25万円(A施設28万円,B施設24万円)の約10倍であった(p<0.001)。医療費内訳では,AHT児はnon-AHT児と比べると,初回入院にかかる医療費のうち,手術にかかる医療費の割合が高かった(p<0.001)。

結論 AHT児の初回入院医療費は,non-AHT児の約10倍であった。入院日数の差を反映するものであった。A施設のAHT児の多くが退院後に地域に戻ることから,AHT児が地域に戻るまでの初回入院にかかる医療費は,A施設の分析結果である310万が参考になると考えられる。この医療費はAHTを防ぐことができれば本来生じない医療費であり,経済的損失の観点からも虐待予防は急務である。

キーワード 子ども虐待,頭部外傷,費用分析,経済的評価

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第61巻第5号 2014年5月

がん診療連携拠点病院における緩和ケア提供体制と実績評価

田中 宏和(タナカ ヒロカズ) 片野田 耕太(カタノダ コウタ) 東 尚弘(ヒガシ タカヒロ)
中村 文明(ナカムラ フミアキ) 小林 廉毅(コバヤシ ヤスキ)

目的 わが国ではがん対策基本法に基づいてがん対策が推進されており,その1つの施策として,がん診療連携拠点病院(以下,拠点病院)が整備されている。拠点病院では指定要件に緩和ケアチームの設置が規定されているが,緩和ケアチームの定義があいまいなため現実の緩和ケアの実績や体制等には格差が懸念されている。本研究では,拠点病院における緩和ケアの提供体制と実績のばらつきを公表されているデータから観察し,緩和ケアの提供体制と実績を検討することを目的とした。

方法 国立がん研究センターのがん情報サービスウェブサイトに掲載されている,2010年9月時点の全拠点病院377病院の個別データから,緩和ケア診療加算,緩和ケア病棟入院料,がん性疼痛緩和指導管理料の算定実績件数(2010年9月から2011年8月の集計)を解析した。全拠点病院377病院で解析し,都道府県拠点病院と地域拠点病院,拠点病院の初回指定日が2005年以前の病院と2006年以降の病院で層別解析を行った。

結果 緩和ケア診療加算の1件以上の実績があった病院の割合は,34.0%(377病院中128病院),緩和ケア病棟入院料の実績があった病院の割合は17.6%(376病院中66病院),がん性疼痛緩和指導管理料の実績があった病院の割合は87.3%(377病院中329病院)だった。緩和ケア診療加算と緩和ケア病棟入院料の両方に実績がなかった病院の割合は,56.4%(376病院中212病院)だった。都道府県拠点病院では,地域拠点病院より緩和ケア診療加算の実績がある病院の割合が多い傾向にあった(54.9% vs 30.7%)が,初回指定日が2005年以前の病院と2006年以降の病院では実績のある病院の割合は差(35.3% vs 33.3%)が小さかった。

結論 緩和ケア診療加算を算定するためには,拠点病院の指定要件となっている緩和ケアチームより医師が専従であるなど厳しい人員配置が求められる。このことから拠点病院の緩和ケアチームといってもその内容には,緩和ケア提供体制と実績に差があることが観察された。各種診療報酬算定では明確な施設基準が示されているため,漠然とした緩和ケア提供体制の有無ではなく,一定の基準を満たした体制があることを客観的に判断可能である。現状では拠点病院でも診療報酬で規定される緩和ケア提供体制を満たしていない施設が多数あることから,これらを継続的に調査することで緩和ケアの整備状況を評価管理することにつながると考えられる。

キーワード がん診療連携拠点病院,均てん化,緩和ケア,緩和ケアチーム,緩和ケア診療加算,専従

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第61巻第5号 2014年5月

風しん,麻しん全数報告に伴う報告患者数の変化

-感染症発生動向調査-
永井 正規(ナガイ マサキ) 太田 晶子(オオタ アキコ) 川戸 美由紀(カワド ミユキ)
橋本 修二(ハシモト シュウジ) 村上 義孝(ムラカミ ヨシタカ)

目的 感染症発生動向調査において,風しんと麻しんが2008年に定点報告対象から全数報告対象に変更された。全数報告に伴う報告の漏れについて,既存の資料を基に考察する。

方法 国立感染症研究所が公表している感染症発生動向調査結果資料と,定点からの報告に基づいて行われた全数推計資料を利用した。

結果 風しん,麻しんともに全数報告に伴って報告数が大きく減少していた。2013年の大きな流行年の全数報告数は2004年の流行年の全数推計数に比較して少なく,先天性風しん症候群の報告数が2013年32件に対して2004年が10件で,2013年が格段に多いことと矛盾していた。

結論 全数報告に変更されて以後,風しんにおいて特に届出漏れの多いことが推測された。全数報告には届出漏れがあり,実際の患者数と報告数との差がどの程度であるのかは重要な検討課題である。

キーワード 感染症発生動向調査,風しん,麻しん,定点報告,全数報告

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第61巻第6号 2014年6月

高齢者介護施設における感染症予防策と対応策の検討

大浦 絢子(オオウラ アヤコ) 山崎 貴裕(ヤマザキ タカヒロ)
扇原 淳(オオギハラ アツシ) 町田 和彦(マチダ カズヒコ)

目的 高齢者介護施設において,感染症への予防策・対応策の徹底は,リスクマネジメントという観点から必要不可欠である。本研究は,介護老人福祉施設における感染症の実態とその予防策および対応策に関する情報を収集し,介護老人福祉施設がより効果的な感染症対策を実施するための情報を提示することを目的とした。

方法 全国の高齢者介護施設4,268件を対象とし,郵送法によるアンケートを実施した。調査項目は,施設の基本属性,感染症発生の状況,感染症予防策・対応策の実施状況に関する全28項目である。全項目の単純集計と,感染症予防策・対応策と各感染症の発生の有無との関係を検討するために,x2検定およびオッズ比の算出を行った。

結果 調査票の回収割合は13.3%であった。過去5年における各感染症発生の状況は,568施設中301施設で何らかの感染症が発生していた。また,感染症発生の有無と各感染症予防策・対応策との関係を分析したところ,介護時のマスク使用,感染症マニュアルの内容把握,介護時のエプロン着用,感染症に関して困っていること,感染症に関する情報の必要性の5項目において有意な差が認められた。一方で,手洗い,手袋の着用,予防接種の項目においては感染症発生との有意差は認められなかった。

結論 高齢者介護施設における感染症予防には,5つの対策が感染症の発生へ何らかの関連を示していることが示唆された。今後は,調査内容を再度精査し同調査を行うことが課題である。

キーワード 高齢者介護施設,感染症予防,感染症対策

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第61巻第6号 2014年6月

地域包括支援センターの専門職の燃えつきと
ソーシャルサポートに関する研究

澤田 有希子(サワダ ユキコ) 石川 久展(イシカワ ヒサノリ)
大和 三重(オオワ ミエ) 松岡 克尚(マツオカ カツヒサ)

目的 本研究は,地域包括支援センターに従事する専門職を研究対象とし,燃えつきを緩和する効果をもつとされる職場内のソーシャルサポートが地域包括支援センターの専門職の燃えつきを緩和する効果をもつという仮説を立てて,検証することを目的とした。

方法 本研究の対象は,2011年1月末から2月に,全国の454の市区町村にある地域包括支援センター966カ所に配置された社会福祉士,看護師・保健師,主任ケアマネジャーであり,調査方法は郵送法を用いた。有効回答数は1,145であった。質問紙では,燃えつき尺度17項目,ソーシャルサポート尺度18項目,スーパーバイザーの有無,研修参加回数,ならびに属性として,性別,年齢,学歴,配偶者の有無,専門職種,経験年数などのデータを得た。分析には,燃えつき尺度を従属変数,上司サポート,同僚サポート,スーパーバイザーの有無,研修参加回数を説明変数とし,性別,年齢,学歴,配偶者の有無,専門職種,経験年数などの基本属性を統制変数として,強制投入法により重回帰分析を行った。

結果 分析対象者の1,145名のうち,男性が17.6%,女性が82.4%,平均年齢は41.6歳(SD=10.3)であった。職種の内訳は,社会福祉士が35.2%,看護師・保健師が39.0%,主任ケアマネジャーが25.9%であった。分析の結果,燃えつき尺度の下位尺度である情緒的消耗感,脱人格化,個人的達成感のすべてのモデルにおいて上司サポート,同僚サポート,年齢の要因が燃えつきを緩和する効果を示した。そのほかに,経験年数の長さ,職種の違い,研修参加回数が情緒的消耗感に,配偶者の有無が脱人格化に,研修参加回数や性別の違いが個人的達成感に有意な関連を示した。

結論 地域包括支援センターの専門職について,職場内のソーシャルサポートが職員の燃えつきを緩和する効果をもつという仮説は支持された。この結果から,上司や同僚からのサポートが期待できると知覚している人は燃えつきにくいことが明らかにされた。上司や同僚からのサポートを充実させることは,職場内における職種間の連携を円滑にし,利用者へのよりよい支援の提供だけでなく,職員自身の燃えつき予防にもつながることが示唆された。一方,年齢が若い人ほど燃えつきやすいことが示されており,スーパービジョン制度の導入など,今後,人材の育成を視野に入れた若年層への支援の必要性が示されたといえる。

キーワード 地域包括支援センター,燃えつき,ソーシャルサポート,専門職,人材育成

論文

 

第61巻第6号 2014年6月

特定保健指導による行動変容が
メタボリックシンドロームの改善に及ぼす影響

道下 竜馬(ミチシタ リョウマ) 松田 拓朗(マツダ タクロウ) 重富 千明(シゲトミ チアキ)
大上 裕貴(オオウエ ユウキ) 仲野 裕香(ナカノ ユカ) 前原 雅樹(マエハラ マサキ)
市川 麻美子(イチカワ マミコ) 平田 明子(ヒラタ アキコ) 渡部 貴和(ワタベ キワ)
堀田 朋恵(ホッタ トモエ) 吉村 英一(ヨシムラ エイイチ) 武田 典子(タケダ ノリコ)
美根 和典(ミネ カズノリ) 宗清 正紀(ムネキヨ マサキ) 瓦林 達比古(カワラバヤシ タツヒコ)
清永 明(ミヨナガ アキラ) 田中 宏暁(タナカ ヒロアキ) 檜垣 靖樹(ヒガキ ヤスキ)

目的 本研究では,特定保健指導参加者と非参加者を対象に行動変容ステージの変化がメタボリックシンドローム改善に及ぼす影響について検討した。

方法 本学職員の特定保健指導に参加した男性29名(介入群;平均年齢50.9±7.4歳)と支援形態,年齢,Body mass index(BMI)をマッチングした男性58名(対照群;平均年齢51.4±6.8歳)を対象とした。自記式質問票より行動変容ステージ(無関心期,関心期,準備期,実行期,維持期)を評価し,無関心期,関心期および準備期を第1ステージ,実行期と維持期を第2ステージとし,ベースライン時と比較して追跡1年後の行動変容ステージが第2ステージを維持していた者,第1ステージから第2ステージに前進した者を維持・前進群とした。また,第1ステージから変化がなかった者,第2ステージから第1ステージに後退した者を不変・後退群とした。介入群と対照群それぞれを行動変容ステージが維持・前進した群,不変・後退した群の4群に分け,追跡1年後のメタボリックシンドローム危険因子の変化を4群間で比較検討した。

結果 介入群29名のうち23名(79.3%),対照群58名のうち20名(34.5%)に行動変容ステージの維持・前進が認められた。介入群,対照群ともに行動変容ステージが維持・前進した群は,追跡1年後の腹囲,BMI,拡張期血圧,中性脂肪が有意に低下した(p<0.05)。介入の有無に関わらず,行動変容ステージが維持・前進していた群は行動変容ステージが不変・後退していた群に比べて,腹囲,BMI,拡張期血圧,中性脂肪の変化量が有意に大きかった(p<0.05)。しかし,行動変容ステージが維持・前進した介入群と対照群との間には,各危険因子の変化量に有意な差は認められなかった。

結論 本研究の結果より,行動変容ステージを維持・前進させることが,メタボリックシンドロームの改善に重要であることが示唆された。したがって,メタボリックシンドローム改善のためには,食事や運動などの生活指導に加え,行動変容を促すような支援が必要であると考えられる。

キーワード 特定保健指導,行動変容ステージ,メタボリックシンドローム

論文

 

第61巻第6号 2014年6月

大学生に対する調査で明らかになった
小児期から青年期における骨折の発生率

宮村 季浩(ミヤムラ トシヒロ) 和泉 恵子(イズミ ケイコ) 鈴木 孝太(スズキ コウタ)
陳  揚佳(チン ヨウカ) 山縣 然太朗(ヤマガタ ゼンタロウ)

目的 骨折は,小児期から青年期における健康上の大きな問題の1つであるが,その疫学データが十分に示されていない。本調査は,大学生に対する調査を元に,小児期から青年期における骨折歴および骨折の発生率について明らかにする。

方法 調査対象は,山梨大学の18歳以上25歳以下の日本人学生3,639名で,2012年の学生定期健康診断の問診で,保健師・看護師が0歳から18歳までのすべての骨折について聞き取り調査を行った。

結果 0歳から18歳までの間に,704名(21.4%)が骨折を経験しており,男性574名(24.0%),女性130名(14.4%)と男性で有意に多かった。骨折を経験した者の中の145名(20.6%)が複数回の骨折を経験していた。年齢ごとの全骨折の,発生率が最大となるのは,男性で13歳,女性では13歳と17歳に2つのピークがあった。骨折部位ごとでは,手関節・手指の発生率が最も高かった。また,女性と比べて男性で四肢の骨折と比べ頭部・体幹の骨折が多く,さらに,四肢の骨折と比べ,頭部・体幹の骨折は受傷年齢が高い傾向が認められた。

結論 骨折は,18歳までに2割以上の者が経験する頻度の高い健康上の問題である。小児期から青年期における骨折の予防のため疫学的なデータを整備し,さらには発生率の地域差やその受傷原因について明らかにして行くことが重要な課題である。本調査は,そのための基礎資料となるものと考える。

キーワード 疫学,骨折,発生率,小児期から青年期

論文

 

第61巻第6号 2014年6月

簡易な軽度認知障害(MCI)診断ツール:
触圧覚を活用した“ス・マ・ヌ”法の提案

本山 輝幸(モトヤマ テルユキ) 藪下 典子(ヤブシタ ノリコ) 根本 みゆき(ネモト ミユキ)
清野 諭(セイノ サトシ) 田中 喜代次(タナカ キヨジ) 朝田 隆(アサダ タカシ)

目的 認知症の多くは,徐々に認知機能の低下がみられ,認知症の前駆状態である状況が存在し,このような状況を軽度認知障害(mild cognitive impairment:MCI)と称している。本研究の目的は,触圧覚による感覚刺激を活用したMCI診断につながる簡易ツールの開発を試み,その有用性について検討することであった。

方法 医師の診断によりMCIが疑われると診断された70歳以上の高齢者(MCI群)27名(男性13名,女性14名,76.3±3.7歳),および認知機能が正常と判断された70歳以上の高齢者(健常群)28名(男性5名,女性23名,74.1±3.8歳),計55名(男性18名,女性37名,75.2±3.8歳)を対象とした。本研究では,触圧覚刺激として背中に書かれた文字を当てる方法を採用し,MCI診断ツールへと応用させた。背中に書かれた文字を言い当てるためには,視覚や聴覚の情報に頼らず,触覚のみで文字の形を判断しなければならないため(形状弁別能力),触覚入力,空間認知,短期記憶,判断などの脳領域において一連の作業(活動)を要する。そこで,形状のよく似ている3種の文字(“ス・マ・ヌ”)を採用した(“ス・マ・ヌ”法)。検討方法は,MCI群と健常群において3文字種の正答率を算出し,χ2検定により比較した。有意水準は5%とした。

結果 健常群に比べMCI群では有意に正答率が低かった。特に,“ヌ”に関しては2回連続誤答率が55.6%であった。5歳刻みにした年齢群および男女間での正答率に有意差はみられなかったことから,年齢および男女問わずMCIを診断できる可能性が考えられた。

結論 本研究より,触圧覚を利用した背中に書かれた文字を判断する“ス・マ・ヌ”法は,MCI者を診断するうえで有用な手段となりうる可能性が示された。今後は,高齢者の予後を追跡することにより有用な診断ツールとして確立させ,MCI改善を目的としたリハビリテーションツールとして発展させたい。

キーワード 軽度認知症,簡易診断ツール,触圧覚

論文

 

第61巻第6号 2014年6月

レセプトデータ突合による医療費増加のリスク因子の検討

-特定健康診査における質問表および各検査項目の分析-
玉置 洋(タマキ ヨウ) 平塚 義宗(ヒラツカ ヨシムネ)
岡本 悦司(オカモト エツジ) 熊川 寿郎(クマカワ トシロウ)

目的 本研究の目的は特定健康診査のデータ(特定健康診査における問診票の21項目および検査の28項目)と国保医科レセプトデータを突合することにより,医療費増加のリスク因子を検討することにある。

方法 静岡県三島市(人口約11万人)の市国保被保険者約3万1千人(一般国保・退職・前期高齢)を対象に2012年6月から2013年5月までの1年間に医科レセプトの請求があった者の1年間の医療費を求め,さらにその中から4年前の2008年度の特定健康診査を受診した7,438人(男2,849名,女4,589名,平均年齢64.8±7.3,39~74歳)について2008年6月から2009年5月までの1年間の医療費を求めた。医療費増加のリスク因子を求めるため,対象者の4年後の医療費の増加金額を従属変数,特定健康診査の問診結果21項目と検査結果28項目を独立変数として分位点回帰分析を行った。

結果 4年後の医療費増加額は1人平均49,179円/年で,全体の56.5%で年間医療費が増加していた。分位点回帰分析の結果,医療費増加額が大きい80%分位点において,検査値項目から年齢,腹囲,インスリン・血糖降下薬,尿素窒素,血糖値の項目で有意な正の係数が得られた。また質問用紙の項目では脳卒中既往歴,心臓病既往歴,「歩行または同等の身体活動を1日1時間以上」の項目で有意な正の係数が得られた。逆に検査値項目の体重,ALT(GPT)および質問項目の性別(女性),「同年齢・同性の人より歩く速度が速い」「睡眠で休養十分」の項目においては有意な負の係数が得られた。

結論 特定健康診査の問診票および検査データと医科レセプトのデータを突合し,医療費増加のリスク因子を明らかにすることにより,エビデンスに基づいた医療費適正化計画の策定に有用であることが示唆された。

キーワード 電子レセプト,特定健康診査,データ突合,医療費増加,医療費適正化計画

論文

 

第61巻第7号 2014年7月

企業社員に対する継続的な野菜摂取のための
効果的な支援戦略の検討

大城 祐子(オオシロ ユウコ)

目的 企業で,社員が継続的に野菜を自らたくさん食べたくなる仕組みを作るために,野菜摂取と,本人の知識や意識,周囲の環境からの影響の関連性を検討することを目的とした。

方法 調査は,2011年8~9月,大手製造企業A社の健康診断受診者1,083人に,調査票を配布し,健診当日に回収した。分析対象を男性の社員食堂や外食の利用者とし,さらに野菜を食べる「意識」はあるが「行動」が伴わない層(ターゲット群),「意識」があり「行動」している層(対照群)とした。この群ごとに,意識や知識,職場や家族環境などの要因間の関係を示す野菜摂取行動モデルを共分散構造分析により作成した。また,二元配置分散分析により,この2群と関連因子が野菜摂取レベルにどのような影響を及ぼすか確認した。

結果 調査票の回収数975人(回収率90.0%),有効回答数は946人(有効回答率87.3%)であった。分析対象(488人)を群分けした結果,ターゲット群は215人(44.1%),対照群は208人(42.6%)となった。2群とも,6つの関連要因(「意識」「知識」「家族」「職場の人」「情報へのアクセス」「食べたいメニュー」)を用いて,適合度の高い野菜摂取行動モデルを得ることができた。ターゲット群では,社員食堂や外食等で「食べたいメニュー」があることと「家族」が食卓に野菜を提供することが,野菜摂取に直接関連していた。また,二元配置分散分析の結果,「情報へのアクセス」と「食べたいメニュー」で交互作用が確認され,これらの因子では,ターゲット群の方が「主観的な野菜摂取レベル」の増加に強く影響を及ぼしていた。

結論 野菜摂取について,「意識」と「行動」にギャップがある男性社員には,家庭の食卓で野菜が出され続けることや,社員食堂等で食べたくなるような魅力的な野菜メニューの提供が必要であるとともに,情報提供方法や手段についてより工夫が必要である。

キーワード 行動変容ステージ,社員,野菜摂取,ソーシャル・マーケティング,職場

論文

 

第61巻第7号 2014年7月

パーキンソン病患者の主介護者における
介護負担感と家族機能に対する認知的評価との関連

仲井 達哉(ナカイ タツヤ) 杉山 京(スギヤマ ケイ) 澤田 陽一(サワダ ヨウイチ)
桐野 匡史(キリノ マサフミ) 柏原 健一(カシハラ ケンイチ) 竹本 与志人(タケモト ヨシヒト)

目的 本研究の目的は,パーキンソン病患者の在宅療養を支える主介護者を対象に,介護負担感と家族機能に対する認知的評価との関連性を明らかにすることである。

方法 調査対象者は,A病院神経内科外来へ通院するパーキンソン病患者の主介護者492名であり,自記式質問紙ならびに診療録からの診療情報の抽出を行った。調査項目は,患者および主介護者の属性に加え,病状やADLなどの心身機能状態,介護環境等の心理社会的状況で構成した。介護負担感の測定にはCare-Giving Burden Scale(CBS-8)を使用した。CBS-8は,「社会的活動の制限の認知」「否定的感情の認知」の2つの側面から介護負担感を評価する尺度である。家族機能認知の測定には,竹本らの家族機能認知尺度を使用した。家族機能認知尺度は,Olsonの理論を参考に,「家族の凝集性」「家族の適応力」「家族のコミュニケーション」の3領域で構成されている尺度である。統計解析には,家族機能認知を独立変数,介護負担感を従属変数とした因果関係モデルを構築し,加えて主介護者の属性や患者の心身機能状態等を介護負担感の背景変数として設定し,構造方程式モデリングを用いてモデルの適合度と各変数間の関連性を検討した。

結果 「家族の凝集性」は,「社会的活動の制限の認知」および「否定的感情の認知」と有意な関連性を示した。「家族の適応力」は,「社会的活動の制限の認知」と有意な関連性を示した。特に,「家族の凝集性」は介護負担感の2因子ともに有意な関連を示した。介護負担感に対する説明率は,「社会的活動の制限の認知」が53.9%,「否定的感情の認知」が38.6%であった。

結論 家族機能の認知的評価において,「家族の凝集性」が低いほど「社会的活動の制限の認知」および「否定的感情の認知」が高く,「家族の適応力」が低いほど「社会的活動の制限の認知」が高いことが明らかとなった。「家族の凝集性」は,「社会的活動の制限の認知」および「否定的感情の認知」の双方と有意な関連が認められており,支援策の検討においては家族成員のつながりに着目した介入視点の重要性が推察される。

キーワード パーキンソン病,主介護者,介護負担感,家族機能認知,構造方程式モデリング

論文

 

第61巻第7号 2014年7月

特定健康診査の受診に関する要因分析

-保険者の生活習慣病予防のための取り組みの評価-
満武 巨裕(ミツタケ ナオヒロ) 関本 美穂(セキモト ミホ)

目的 特定健診受診に関する関連要因分析を行い,保険者による生活習慣病予防のための取り組みの状況を評価する指標について検討する。

方法 23市町村の国民健康保険の2008から2010年度の3年を対象として,特定健診対象者データ,特定健診データ,医療費データを利用して,特定健診の受診者と未受診者の記述統計を算出する。次に,特定健診受診の関連要因の分析として,対象期間中に新たに加入した被保険者,脱退した被保険者を除外することで,3年間連続で特定健診対象者となった者を対象に,特定健診受診回数で被保険者を層別化(0回,1~2回,3回)して,属性(年齢・性別)および医療費・累積医療費を比較する。また,ロジスティック回帰分析によって,特定健診の受診に関する要因を分析する。

結果 特定健診受診者は,未受診者と比較して年齢が高く,女性が多く,医療機関の受診割合が高いが,1人当たりの医療費は低い。受診者の1人当たり医療費が少ない原因は,入院医療費であった。特定健診受診回数が多いほど,平均年齢は高く,女性の割合が高く,医療利用の割合も高くなるが,各年度の総医療費は低い。特定健診受診の関連要因は,過去の受診が他の因子よりも強い因子であった。

結論 被保険者の年齢や性別の構成の違いが,保険者間の特定健診受診率の異なる原因の1つであるため,市町村の国民健康保険には,一律の参酌標準値を設定するよりも,前年度データとの比較によって毎年の保険者の取り組みを評価することが現実的だと考えられた。特定健診受診率は,次年度も継続して受診する傾向のある“過去の特定健診受診群”の受診率(継続受診率)と,それ以外の“過去の特定健診未受診群”が対象年に新たに受診した率(新規受診率)を評価することが考えられる。一方,特定健診未受診者は,“過去の特定健診受診群”が未受診となった群(中断群)と一度も特定健診を受けたことがない群(未経験群)に区分できる。特定健診およびレセプトデータから,被保険者の特徴を経年的に把握して受診勧奨を行うことで,保険者自身が各受診率の目標値を設定できるようになり,ひいては保険者による生活習慣病予防のための取り組みの状況の評価につながり,質の向上にも貢献できるものと考えられる。ただし,医療機関で治療中の者に関しては,電子レセプト等の詳細な医療行為データを分析して実態を把握し,保険者と医療機関の連携の検討することが,今後の課題である。

キーワード 特定健康診査,医療費,継続受診率,新規受診率,中断率,未経験率

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第61巻第7号 2014年7月

行動観察による社会能力評価「かかわり指標(成人用)実践版」の
臨床的妥当性に関する研究

徳竹 健太郎(トクタケ ケンタロウ) 篠原 亮次(シノハラ リョウジ) 杉澤 悠圭(スギサワ ユカ)
田中 笑子(タナカ エミコ) 冨崎 悦子(トミサキ エツコ) 渡辺 多恵子(ワタナベ タエコ)
望月 由妃子(モチヅキ ユキコ) 呉 柏良(ウ バイリョウ)
難波 麻由美(ナンバ マユミ) 安梅 勅江(アンメ トキエ)

目的 本研究は,成人の典型的なかかわり場面における行動観察評価と臨床評定の関連から,行動観察による社会能力評価「かかわり指標(成人用)IRSA:Interaction Rating Scale Advanced実践版」 の臨床的妥当性を検討することを目的とする。

方法 18歳以上の男女43名を対象に,日常的なかかわり場面を再現した2名1組の課題を実施した。研究者によるIRSA実践版を用いた行動観察評価と,臨床専門職による臨床評定を得点化し,関連を検討した。行動観察評価および臨床評定による「協調」「自己制御」「自己表現」の各領域得点と総合得点について,Spearmanの相関係数を算出した。

結果 行動観察評価と臨床評定の間には「協調」(r=0.62)「自己制御」(r=0.61)「自己表現」(r=0.59)「総合」(r=0.72)すべての項目に有意(p<0.001)な正の関連がみられた。

考察 行動観察評価得点と臨床評定得点に相関がみられ,IRSA実践版の臨床的妥当性が示された。社会能力の特徴を簡便に測定できる「IRSA実践版」を実践の場で活用することにより,社会能力の向上,発揮に困難のある成人に対する支援への一助につながる可能性がある。

キーワード 社会能力,かかわり,評価,指標

論文

 

第61巻第7号 2014年7月

転倒者が少ない地域はあるか

-地域間格差と関連要因の検討:JAGESプロジェクト-
林 尊弘(ハヤシ タカヒロ) 近藤 克則(コンドウ カツノリ)
山田 実(ヤマダ ミノル) 松本 大輔(マツモト ダイスケ)

目的 転倒予防における1次予防(ポピュレーション戦略)の可能性を探るため,果たして転倒が少ない地域があるのか,あるとすれば転倒割合に関連する要因は何かを社会的要因に着目して検討することを目的とした。

方法 A半島に属している6保険者(9市町村)に居住する要支援・要介護認定を受けていない高齢者に郵送調査を行った。分析では,地域間の高齢化の影響を減らすため前期・後期高齢者に層別化し,小学校区(n=64)ごとの過去1年間の転倒歴がある者の割合(転倒割合)を求めた。次に,過去1年間の転倒歴と関連しうる社会的要因として,等価所得(中・高所得者割合)や教育年数(高学歴者割合),地域組織への参加(スポーツ組織への参加割合)に着目し,小学校区を分析単位とした地域相関研究を行った。

結果 アンケート調査の回答者は29,117人であった(回収率62.4%)。そのうち分析対象は,ADL非自立者,抑うつ(傾向)の者を除外した16,102人とした。前期高齢者では,転倒割合は小学校区で最小7.4%~最大31.1%と約4倍の差があった。中高所得者が多い(r=-0.54),高学歴者が多い(r=-0.41),スポーツ組織への参加が多い(r=-0.60)地域で転倒割合は有意に低かった。また,所得・教育水準で調整しても,「スポーツ組織への参加」割合が多いほど,転倒が少ない関連がみられた(p<0.01)。後期高齢者でも関連は弱くなるものの(r=-0.32)同様の結果であった。

結論 前期高齢者では少ない所に比べ約4倍,後期高齢者でも約3倍も転倒割合が高い小学校区が存在した。その一部は,社会経済水準の違いで説明できたが,それを考慮しても「スポーツ組織への参加」が多い地域ほど転倒が少なかった。今後,他の交絡要因を考慮した研究が必要だが,転倒の少ないまちづくりによるポピュレーション戦略の可能性が示唆された。

キーワード 介護予防,転倒予防,ポピュレーション戦略,地域づくり・まちづくり

論文

 

第61巻第8号 2014年8月

東日本大震災における社会福祉施設が果たした役割について

藤野 好美(フジノ ヨシミ) 三上 邦彦(ミカミ クニヒコ) 岩渕 由美(イワブチ ユミ)
鈴木 聖子(スズキ セイコ) 細田 重憲(ホソダ シゲノリ)

目的 岩手県における東日本大震災による社会福祉施設の被害の状況やその後の状況について把握し,被災時の社会福祉施設の役割について明らかにするとともに,これからの社会福祉施設のあり方を再考することを目的とする。

方法 郵送による質問紙調査を行った。調査対象施設は,平成24年2月1日時点で岩手県ホームページに掲載されている情報をもとに,被災地域の児童福祉施設,障害者福祉施設,高齢者福祉施設,総計272カ所の事業所に調査票を送付した。

結果 質問紙調査は,114カ所の事業所から返送があり,回収率は41.9%であった。震災による直接的影響で亡くなった利用者がいる施設は21%,行方不明の利用者については5%,亡くなった職員がいる施設は11%,行方不明の職員は3%となっている。施設の建物や設備に利用ができなくなるレベルの被害が「あった」と回答した施設は27%,利用に支障のないレベルの被害が「あった」と回答した施設も29%であった。通所サービスを提供する54施設中,震災後1カ月には15%がほぼ通常どおりのサービス提供が行われていたが,76%は一時停止あるいは一部停止が続いており,9%の施設は完全に停止している状況であった。避難者を受け入れた施設は59%であった。入所施設は60%,通所施設においても57%の施設が避難者を受け入れていた。また,1日で最も多く受け入れた人数は,10人以下が23施設,20人以下でみると32施設であるが,41人以上では19施設で,うち100人以上が5施設であった。

結論 社会福祉施設には「高齢者,障害者等災害弱者と呼ばれる人たちの避難所」「在宅の高齢者,障害者を支える家族の避難所」「地域住民にとっての避難所」といった役割があると考えられる。震災をきっかけに地域との関係,つながりを深めた施設もあり,災害時に施設の利用者・入所者はもちろんのこと,地域住民をもサポートする社会福祉施設が目指されるようになっている。

キーワード 東日本大震災,社会福祉施設,災害支援,避難所,福祉避難所

論文

 

第61巻第8号 2014年8月

高齢者介護施設職員における利用者家族との関係性認知

-認知構造と家族支援にかかわる要因への影響の検討-
北村 世都(キタムラ セツ) 内藤 佳津雄(ナイトウ カツオ)

目的 高齢者福祉施設における利用者家族に対して,施設職員がどのような関係性の認知を行っているのか(関係性認知)について,その認知構造を明らかにした上で,それらの認知と家族支援にかかわる関連要因との関係を明らかにすることを目的とした。

方法 全国35カ所の特別養護老人ホーム介護職員1,259名に対し,郵送法による質問紙調査を行った。質問紙は関係性認知15項目,家族支援スキル3項目,家族支援重要性評価1項目で構成された。

結果 990名の分析対象者において,関係性認知の項目について主因子法による因子分析(プロマックス回転)の結果,防衛,親密,尊重の3因子13項目の関係性認知項目が抽出された。この3因子と家族支援スキル,家族支援重要性評価の関係を,共分散構造分析を行ったところ,家族支援スキルは親密的関係認知と防衛的関係認知に影響を受け,家族支援スキルから家族支援重要性評価へは正の,家族支援重要性評価から家族支援スキルへは負のパスが認められた。

結論 施設職員は利用者家族に対し,親密・尊重・防衛の3因子による関係性の認知を行っていたが,関係性認知にかかわらず家族支援が重要であるとの認識を持っていた。共分散構造分析からは,施設職員において利用者家族への親密的関係認知が高いこと,および防衛的関係認知が低いことは,家族支援スキルを高めていることが示唆された。さらに家族支援スキルと家族支援重要性評価の間のパスから,施設職員が家族支援に自信を持つと家族支援が以前にも増して重要だと思えるようになるが,逆に家族支援の重要性を認識すればするほど自分の支援スキルに自信を持つことができなくなるという認知的な循環が認められた。施設職員において,家族支援に対する意欲や動機づけを維持することの難しさが示唆された。

キーワード 高齢者施設,介護職員,家族介護者,職員と家族の関係性,関係性認知

論文

 

第61巻第8号 2014年8月

中年期における特定健康診査の受診行動と
関連する要因の検討

西田 友子(ニシダ トモコ) 舟橋 博子(フナハシ ヒロコ) 榊原 久孝(サカキバラ ヒサタカ)

目的 国民健康保険による特定健康診査の受診率向上を目指し,健診受診率の最も低い40~50歳代の特定健康診査対象者を対象に,健診受診に影響を与える要因を明らかにすることとした。

方法 愛知県A市の国保被保険者のうち,40~50歳代の特定健康診査対象者全員を対象とし,郵送による質問紙調査を行った。健診受診と関連する要因として,年齢,最終学歴,配偶者の有無,家族との同居,職業,経済状況,世帯収入,定期的な医療機関への通院,かかりつけ病院の有無,健康状態,心の健康状態(K6),ソーシャルサポート,睡眠状況,朝食摂取,運動習慣,喫煙状況,飲酒習慣について検討した。回答が得られた660人(回収率25.2%)のうち,市町村国保以外で健診・人間ドックを受けている者は除外し,健診受診群263人,未受診群263人を対象に解析を行った。

結果 男女別に健診受診の有無と学歴や配偶者の有無,経済状況,生活習慣などの調査要因との比較を行い,関連がみられた項目を説明変数に用いて多変量ロジスティック回帰分析を行った。結果,男性では,配偶者の存在,かかりつけの病院があること,朝食を毎日食べることが健診受診行動に影響する要因であった。女性では,最終学歴が高いこと,かかりつけの病院があること,喫煙しないことが健診受診を高める要因であった。

結論 本研究では健診受診と関連する要因として,男性では配偶者の存在が影響することが明らかとなった。この結果から,男性の健診受診行動は配偶者など身近な者の影響を受けやすく,周囲からの勧めによって健診受診を促すことが出来ると期待される。今後,健診対象者本人への受診勧奨だけでなく,例えば夫婦や家族そろっての健診受診を勧めるなど,身近な者を通して受診を促すようなアプローチの検討も重要であると考える。また,本研究では,男女ともに,かかりつけの病院の存在が健診受診に関連していることが明らかになった。かかりつけ病院という身近な医療機関の存在は,予防行動を促し健診受診を高める要因になると考える。一方で,身近な医療機関のない者にも焦点を当てた,受診機会の拡大についても,今後検討が必要である。

キーワード 中年期,特定健康診査,受診行動,配偶者,かかりつけ病院

論文

 

第61巻第8号 2014年8月

日本の自殺率上昇期における地域格差に関する考察

-1973~2002年全国市区町村自殺統計を用いて-
岡 檀(オカ マユミ) 久保田 貴文(クボタ タカフミ)
椿 広計(ツバキ ヒロエ) 山内 慶太(ヤマウチ ケイタ)

目的 筆者らは,これまでに行った自殺に関する地域研究により,たとえ経済問題のような危険因子に等しく曝露されたとしても,「自殺希少地域」においては何らかの自殺予防因子が機能することによって,自殺率の発生が抑制されるという知見を持つに至った。わが国では1980年代と1990年代の2回,経済危機を背景とした全国規模の自殺率急上昇が起きている。先行研究を踏まえれば,過去の経済危機において全国一律に自殺率が上昇したわけではなく,「自殺希少地域」と「自殺多発地域」では,その上昇度に差異が生じていた可能性がある。本研究は,その仮説を検証することを目的としている。

方法 解析には1973~2002年の全国3,318市区町村自殺統計のデータを用いた。市区町村ごとに標準化自殺死亡比を算出し,30年間の平均値を求め,この値を「自殺SMR」として市区町村間の自殺率を比較する指標とした。自殺SMRの高低により,全国市区町村を4群に分類した。まず,これら4群の30年間の自殺率の推移を概観した。次に,過去2度の経済危機時の,前後5年間の人口10万対自殺率平均値を算出し,前後2つの差を求めて「自殺率上昇度」の指標とした。自殺率の高低により分類した第1群「自殺希少地域」~4群「自殺多発地域」の,自殺率上昇度の傾向について,χ2検定を行って比較した。4群ごとに,箱ひげ図を描いて自殺率上昇度の分布を確認した。また,自殺率上昇度の平均値をプロットした。

結果 30年間を通じて,第1群「自殺希少地域」は一貫して,4群中最も低い自殺率で推移し,第4群「自殺多発地域」は最も高い自殺率で推移していた。2度の経済危機時ともに,「自殺希少地域」は上昇度が最も小さく,有意差があった。また,「自殺希少地域」の上昇度は他の群に比べ,ばらつきが小さかった。1980年代に比べ1990年代は,「自殺希少地域」と「自殺多発地域」の上昇度の差がより小さかった。

結論 経済の悪化は,自殺率を高める最大要因の一つとして考えられている。しかし,経済苦という危険因子そのものを減らすことの他に,危険因子に対する耐性を強めるという視点を加えることが,新たな自殺対策をひらく手掛かりになると考えられる。

キーワード 経済危機,自殺率上昇,自殺希少地域,自殺多発地域,自殺予防因子,自殺危険因子

論文

 

第61巻第8号 2014年8月

壮年期就労者の抑うつ状態に影響を与える
職場・家庭・地域要因の検討

寺内 千絵(テラウチ チエ) 田口(袴田) 理恵(タグチ(ハカマダ) リエ)  田髙 悦子(タダカ エツコ)
今松 友紀(イママツ ユキ) 有本 梓(アリモト アズサ)
臺 有桂(ダイ ユカ) 塩田 藍(シオタ アイ)

目的 近年,壮年期就労者の自殺・うつ病の増加が問題となっている。壮年期就労者は職場・家庭で多重責務を担い,そのメンタルヘルスは職場・家庭・地域のストレッサー,ストレス緩衝要因に影響されると考えられる。このため,本研究は壮年期就労者の抑うつ状態に影響を与える職場・家庭・地域要因を検討した。

方法 首都圏A市B区の住民基本台帳から30~65歳の男女1,190名を年齢層化無作為抽出し,郵送法による無記名自記式質問紙調査を実施した。抑うつ状態はK6で評価した。ストレッサーの職場要因として組織風土を,家庭要因として家事・育児の忙しさ等7項目を把握した。ストレス緩衝要因としては,職場・家庭・地域のソーシャルサポートに加え,趣味・習い事,ソーシャルキャピタル等を把握した。χ2検定,Mann-Whitney検定を用いて抑うつの有無における2群間比較を行った。

結果 調査票は412名から返送があり(回収率34.6%),就労者でK6に欠損のない215名を分析対象とした。対象者の平均年齢は48.0±10.0歳,男性105名(48.8%)であった。抑うつ群68名(31.6%),非抑うつ群147名(68.4%)であった。抑うつ状態との関連性がみられた基本属性は,世帯状況,暮らし向き,主観的健康感,生活満足度であった。ストレッサーの職場要因では,伝統性尺度,組織環境尺度が,家庭要因では,家事・育児の忙しさ,子の教育上の問題,家族や親戚との人間関係上の問題,家族の健康問題,金銭面の問題で抑うつ状態との関連性がみられた。ストレス緩衝要因に関して,職場要因では抑うつ群の上司・同僚のソーシャルサポートが低得点であった。地域要因では,趣味・習い事なし,ソーシャルキャピタルの助け・あいさつ等で抑うつ状態との関連性がみられた。

考察 壮年期就労者の抑うつ対策には,職場での上司・同僚からのソーシャルサポートの充実,地域での趣味・習い事の充実,ソーシャルキャピタルの醸成が有効であることが示唆された。また,これらの対策を効果的に実施するためには,職場,家庭,地域の連携体制の構築が必要と考えられた。

キーワード 抑うつ状態,壮年期就労者,職場,家庭,地域

論文

 

第61巻第11号 2014年9月

介護現場における外国人介護労働者の評価と意欲

-インドネシア第一陣介護福祉士候補者受け入れ施設のアンケート調査をもとに-
伊藤 鏡(イトウ キョウ)

目的 インドネシアからの第一陣の介護福祉士候補者が,受け入れ施設で行う介護実務研修を通じて,日本人職員と同等の介護技術等を身につけているか,さらに研修修了後も日本の介護福祉士として継続就労する意欲を持ち得ているかについて明らかにすることを目的とした。

方法 「インドネシア第一陣受入れ施設一覧」にある全53施設の施設長,指導責任者,候補者それぞれに異なる内容の無記名自記式調査票を用いた郵送調査を2013年2月中旬から3月下旬にかけて実施した。候補者が介護技術の習得にかかる期間を介護技術20項目で指導責任者に問い,候補者が研修修了時に日本人職員と同等の介護技術等を身につけているかを,介護技術を含む9項目および総合評価で施設長に問うた。また,同一施設における施設長および候補者の今後の就労に対する意向調査を行った。

結果 回答のあった19施設(回収率35.8%:施設長19名,指導責任者15名,候補者14名)を分析対象とした。「介護記録」を除く19項目で,候補者がその習得に最も時間を要したのは「認知症の方がいつもと違う行動を行った場合に対応ができる」の11.5カ月であったのに対し,最も短期で習得できたのは「食事前の準備を行うことができる」の6.3カ月であった。また「介護記録」については17.0カ月を要した。候補者の介護技術20項目の平均習得期間は約8.7カ月であり,日本人職員のそれは約4.8カ月であった。他方で,3年間の研修修了時の施設長による介護技術を含む総合的評価において,候補者は9項目中7項目で日本人職員を上回る評価を得ていた。また候補者の合格後の就労希望期間は,短期(2~3年:46%)と長期(5年以上:54%)に分かれたが,候補者全員が研修施設での就労継続を希望する一方で,1施設を除いてほとんどの施設長が長期の雇用(5年以上:94%)を希望していることがわかった。

結論 候補者は介護技術習得に最長17.0カ月を要し,最長7.2カ月で習得する日本人職員に後れをとるが,その後の研修の間に逆転が生じ,国家試験の合否に関わりなく,日本人職員を上回る高い評価を得ており,それゆえ受け入れ施設がおおむね外国人介護福祉士の長期の雇用継続を希望していることが明らかになった。また,候補者の半数以上が研修施設での長期就労を希望しており,さらには候補者全員が日本の介護業務に働きがいを感じていることも明らかになった。

キーワード 経済連携協定(EPA),インドネシア人介護福祉士候補者,介護実務研修,介護技術,介護記録

論文