論文記事
第47巻第6号 2000年6月 薬学部および看護学部女子大生における
大井田 隆(オオイダ タカシ) 曽根 智史(ソネ トモフミ) 望月 友美子(モチヅキ ユミコ) |
目的 将来医療従事者になる予定の薬学部および看護学部女子大生の喫煙行動と喫煙に対する意識を比較分析することによって,医療関係者の喫煙防止対策を推進するための資料とする。
方法 首都圏にある1つの薬学部と2つの看護学部の全女子大生を対象に,プライバシーの確保を考慮した上で,無記名性質問紙調査票による喫煙行動および喫煙に対する意識に関する調査を実施した。
結果 看護学部女子大生喫煙率は15%と薬学部女子大生10%に比べ高かったが統計学的には差は認められなかった。しかし,喫煙に対する意識では,薬学部学生の方が喫煙に対して厳しい考え方をしていた。また,喫煙防止教育の受講状況では看護学部学生の方が受講している率が高かった。
結論 卒業生のほとんどが医療機閑に就職する看護学部学生に対して,患者の健康保持の視点から効果的な喫煙防止教育がより必要なことが示唆された。
Key words:女子大生,喫煙行動,喫煙率,喫煙に対する態度
第47巻第6号 2000年6月 日本人成人男女における周期性四肢運動障害様症状,
影山 隆之(カゲヤマ タカユキ) 黒河 佳香(クロカワ ヨシカ) 新田 裕史(ニッタ ヒロシ) |
目的 睡眠障害の一種である周期性四肢運動障害とrest less legs症候群,および睡眠時頻尿に関する自覚症状(PLMS,RLSおよびNU)について,日本の一般集団における有症率および不眠症との関連を検討するために,住民調査を行った。
対象と方法 全国8地域(都市部住居地域)の住民に自記式質問用紙を配布し,男1,012人,女3,600人から回答を得た。「脚をぴくぴくさせたりけったりしているといわれたことがある」場合をPLMS,「足がほてったりムズムズするので眠れないことがある」場合をRLS,睡眠中の尿回数が3回以上の場合をNUとした。これとは独立して,不眠症状の頻度・持続期間・二次影響等が所定の条件に該当する場合を不眠症とした。不眠症に関連する他要因の影響を多重ロジスティック解析により調整しつつ,各症状と不眠症との関連を検討した。
結果 各症状の性・年齢階級別有症率は,PLMSが第8~12%,女2~5%,RLSが男6~10%,女3~7%,NUが男4~29%,女3~18%で,これまでに欧米等で報告ざれている結果とほぼ同等だった。多変量解析の結果,PLMSと不眠症との関連はみられなかったが,男40~59歳および女40歳以上ではRLSおよびNUがそれぞれ独立して不眠症と関連しており,そのリスクファクターになっていること,つまりこれらの自覚症状に関連した不眠症が公衆衛生の観点から見て重要な課題であることが示唆された。
key words 周期性四肢運動障害,restless legs症候群,睡眠時頻尿,自覚症状,有症率,不眠症
第47巻第7号 2000年7月 カルテの開示に関する意識調査-一般病院勤務医に対するアンケート調査から-谷本 佐理名(タニモト サリナ) 太田 久彦(オオタ ヒサヒコ) 高柳 和江(タカヤナギ カズエ)木村 哲彦(キムラ テツヒコ) 針田 哲(ハリタ アキラ) 大井田 隆(オオイダ タカシ) 長谷川 敏彦(ハセガワ トシヒコ) |
日的 カルテは開示される方向で議論が進められているが,インフラの未整備,資料情報を管理する専門家養成の必要性などにより,医師の自発性により推進すべきという意見も根強いという。そこで,実際に臨床に従事している医師を対象に,カルテ開示に関してどのような意識がもたれているかを知ることを目的に調査を行った。
方法 4つの一般病院に勤務する医師377人を対象とし,自己記入式質問票を1999年3月20日発送した。
結果 解析対象は194人で,平均年齢39.1±10.4歳,平均臨床経験年数13.2±10年であった。カルテ開示に「賛成」が40人(20.6%),「どちらかといえば賛成」が59人(30.4%),「どちらとも言えない」が53人(27.3%),「どちらかといえば反対」が21人(10.8%),「反対」が21人(10.8%)(以下前者2群を「賛成」群,後者2群を「反対」群と呼ぶ)であった。カルテ開示を,「社会の情報公開の流れの一貫である」に「大変そう思う・そう思う」と答えたのは77.2%,「インフォームドコンセントの強化である」に「大変そう思う・そう思う」答えたのが61.1%で,いずれも「賛成」群の方が「反対」群より多かった(P<0.01)。「法制化せず進められるべきものである」に「大変そう思う・そう思う」と答えたのは49.0%であった。「カルテ開示は患者に混乱を与えると思いますか」に「与える・どちらかといえば与える」と答えたのか64.4%,「患者に医療情報が理解できないと思いますか」に「理解できない・どちらかといえば理解できない」と答えたのが55.4%で,いずれも「反対」群の方が「賛成」群より多かった(p<0.01,p<0.05)。
考察 1995年と1997年に行われたカルテ開示の賛否の調査によると,賛成と答えた医師が各々18.6%,31.0%,1999年の本調査は51.0%で.カルテの開示に好意的な医師が増えていると推察された。カルテ開示を,社会の情報公開の流れの一環,インフォームドコンセントの強化と位置づけていることに「大変そう思う・そう思う」と答えた医師が,「賛成」群が「反対」群より多かったことから,今後社会の変化に伴って,より一層開示に対して好意的な医師が増えると考えられた。また,「反対」群が,カルテ開示は患者に混乱与えると思う,および患者に医療情報が理解できないと思うと多く答えたことからは,医療を受ける側が診療情報をよりよく理解することができるような環境整備も必要であると思われた。
結論 一般病院に勤務する医師を対象にカルテ開示に関する意識調査を行ったところ,51%がカルテ開示に「賛成」もしくは「どちらかといえば賛成」と答えた。これらカルテ開示賛成群は,反対群よりカルテ開示を社会の情報公開の流れの一環,インフォームドコンセントの強化と位置づけ,開示反対群の方が,カルテ開示は患者に混乱を与えたり,患者に医療情報が理解できないと多く答えた。これらの結果より,社会の変化に伴って開示に関する医師の考が変化していくこと,および診療情報提供にまつわる環境整備が必要であることなどが考えられた。
key words:カルテ,医療情報,開示,医師,意識調査
第47巻第7号 2000年7月 ポリオ患者および脊髄損傷者の疫学調査-身体状況について-藤城 有美子(フジシロ ユミコ) 長谷川 友紀(ハセガワ トモノリ) 平部 正樹(ヒラベ マサキ)井原 一成(イハラ カズシゲ) 高柳 満喜子(タカヤナギ マキコ) 熊倉 伸宏(クマクラ ノブヒロ) 君塚 葵(キミヅカ マモル) 中村 太郎(ナカムラ タロウ) 矢野 英雄(ヤノ ヒデオ) |
日的 ポリオ罹患者においては,症状安定期の後,既存症状の急激な増悪もしくは新規症状の出現を特徴とし,ADLの低下をもたらすような,二次的障害の存在が報告されている。しかし,脊髄損傷者については,このような病態についてはこれまで報告されていない。本研究は,全国規模の疫学調査により,ポリオ患者および外傷性脊髄損傷者について,二次的障害の実態を明らかにし.必要な支援を検討することを目的とした。
方法 全国から任意に選ばれた病院,障害者施設において受診・通所・入所歴を有する者,および障害者団体所属者の中から,ポリオ患者1,385人,脊髄損傷者1,613人が対象とされた。1999年1月から3月にかけて,無記名自記式調査票を郵送により送付・回収した。
結果 脊髄損傷者の方が発症・受傷時の重症度が重く,現在のADLも障害されていた。二次的障害については,従来報告されてきたポリオ患者だけでなく,脊髄損傷者にも認められた。脊髄損傷者の二次的障害の症状はポリオ患者とほぼ同様で,二次的障害があると回答した者では,ないと回答した者よりも症状の発現率が高かった。ただし,両者では発生の様式が異なり,ポリオ患者においては,発症後30年を経過した頃から二次的障害が急激に発生し始めるのに対して,脊髄損傷者においでは,受傷直後からほぼ一定の割合で発生するという違いが見られた。
結論 ポリオ患者に二次的障害が生じることについては,過去の報告が追認された。今後とも二次的障害が高率に発生するであろうことが明らかにされた。ポリオ患者に対する実態の把握と対策が,早急になされる必要がある。脊髄損傷者に関しても,二次的障害の発生が確認された。長期の経過を観察すればポリオ患者と同様に高率で発生し,症状も類似していた。二次的障害は,一部のポリオ患者,脊髄損傷者に限られた問題ではなく,普遍的な問題であることが推察される。今後は,障害の特徴や関連因子を把握し,それに合わせた対応策の立案が求められる。
key words:障害者,ポリオ,脊髄損傷,二次的障害,疫学
第47巻第7号 2000年7月 在宅医療の実態状況-東京都M市において-逢坂 文夫(オウサカ フミオ) 渡邉 一平(ワタナベ イッペイ) 相川 浩幸(アイカワ ヒロユキ)村田 欣造(ムラタ キンゾウ) 谷口 亮一(タニグチ リョウイチ) |
目的 本報告では,在宅医療の経済分析の一環として,東京都M市における在宅医寮の実態調査を行った。
方法 今回実施した市町村レベルでの全数調査は,稀有であり,今後の在宅介護ならびに在宅医療において,貴重なデータになり得るものと確信している。
結果 東京都M市においては,要介護者が在宅で治療を受けている割合は約20数%であった。さらに,日常的に主介護者が要介護者に行っている看護行動の内,治療が必須と思われる項目として,啖を取る(吸引を含む),吸入器の管理,在宅酸素の処置,経管栄養の管理,尿カテーテルの管理および人工肛門の管理が上げられその割合は,約10%であった。
結論 よってこの全数調査により,潜在的な値が顕在化し,在宅医療に関する今後の指針における重要性が示唆きれたと思われる
key words:在宅医療,在宅介護,要介護者,主介護者
第47巻第8号 2000年8月 地域における医療機能連携の実態-紹介状・診療情報提供者に対する返事の分析から-小川 裕(オガワ ユタカ) |
目的 地方都市部における地域医療連携の実態を把握する。
方法 1995年4月から99年3月までの4年間に地方の一診療所で発行した紹介状・診療情報提供書268人分とそれに対する返事を分析対象として,発行対象者の性,年齢,紹介先,紹介目的,返事の有無,返事記載までの日数,返事の内容,返事に対する満足度,転帰について検討した。
結果 1.診療情報提供書発行の対象となった患者は男性より女性が多く,年齢別では男女とも60歳代が最も多かった。紹介先は総合病院が145人(54%),診療所が97人(36%)であった。とくに紹介目的が「治療が必要な場合には原則として当診療所での治療を想定した精密検査」の場合の紹介先は,診察所が7割を占めた。2.診療情報提供書に対して何らかの返事のあった割合は,診察所90%,総合病院80%であった。返事の内容は診療所からのものが病院からのものに比べて,知りたい情報が記載された満足できるものが多かったが,返事記載日までの日数は,病院の方が診療所よりも短い傾向が認められた。3.転帰不明は全体の25%で,とくに慢性疾患で入院外での対処を想定して紹介した場合にその割合は高かったが,転帰が把握できた者については,おおむね紹介目的が達せられたと考えられた。
結論 診療情報提供書発行の目的によっては,病診連携のみならず,診診連携も有用であることが示唆された。医療機能連携の推進のためには,紹介側が紹介先での診療内容や転帰を把捏できる返事が記載されるような条件整備が必要と考えられた。
key words:地域医療,医療機能連携,診療情報提供書
第47巻第8号 2000年8月 要介護難病患者の外来受療状況日置 敦巳(ヒオキ アツシ) 加納 美緒(カノウ ミオ) |
目的 日常生活に介護を要する難病患者の外来受領状況について分析する。
方法 難病患者等居宅生活支援事業の対象119疾患が原因で介護を要すると考えられる通院・通所中の患者について,1997年9月に岐阜県内の医療施設から報告されたデータ(回収率:病院72.3%,診療所38.6%)を分析。
結果 報告された患者数は2,277人(人口10万対107.7),男女比は0.62で,加齢とともにその割合は高くなっていた。患者の67%は居住市町村内の医療施設に通院・通所していたが,原発性免疫不全症候群,再生不良性貧血,全身性エリテマトーデス,難治性ネフローゼ症候群,難治性視神経症および特発性血小板減少性紫斑病の患者ではその割合が低かった。居住市町村内の医療施設受療は高齢者および市居住者で多く,その他に地域ごとの特徴が認められた。医療施設については加齢とともに身近な施設で受療する傾向がみられた。また,大学附属病院受療には,疾患の特異性の他,アクセスの因子も認められた。
結論 県内の医療施設に通院・通所している要介護の難病患者は人口10万対174.7と推計した。これらの患者は近隣の医療施設で受療する傾向がみられたが,地域あるいは疾患によっては,近隣の施設では十分に対応できていない可能性もある。
key words:難病,居宅,介護,医療施設,外来,医療圏
第47巻第8号 2000年8月 要介護女性高齢者における
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目的 超高齢化社会の到来を目前として,要介護高齢者は増加傾向にあり,健全な食行動とそのためのケアは益々重要性を増している。そこで著者らは要介護女性高齢者を対象に口腔ケアの充実に資する目的で心身と口腔関連諸機能の状況の調査を行った。
方法 AとBの両県において,平成10年11月末から平成11年1月の間に要介護女性高齢者152人(特別養護老人ホーム76人,老人保健施設51人,在宅〈通所者〉25人,平均年齢82.9歳)を対象に心身および口腔諸機能状況の把糧と年齢階級(80歳末満,80歳以上)別の検肘をした。
結果 視力,聴力で正常は6割前後であった。口腔ケアにつながる運動諸機能で正常は3~4割,握力は左右とも極度に低下していた。年齢階級別には,80歳以上は80歳未満に比較して総じて感覚・身体・精神機能低下の割合が高く,聴力,握力の左側,麻痺状態,痴呆では有意の差があった(p<0.05)。日常生活自立度(厚生省)は全体ではランクB,ランクA,ランクJ,ランクCの順で自立の割合が低く,入浴,着替で顕著であった。年齢階級別には80歳以上は80歳未満に比較して総じて自立度の低い割合が高く,ADL状況の食事では有意の差があった(p<0.05)。しかしながら,ADL状況の移動,排泄,着替ではその違いは顕著でなかった。最大咬合力は総じて低値であったが,主観的な咀嚼能力では食べられると考える者は多かった。反復唾液嚥下テスト(才籐によるRSST法)は3回飲み込みの総合時間の平均値は20.8秒で良好であった。言語,咀嚼,嚥下,口腔乾燥,口臭の口腔関連諸機能で不能や問題ありは1割前後と総じては良好であった。食事内容(主食,副食)は普通食は5割前後であった。年齢階級別には,80歳以上は80歳未満に比較して総じて機能低下の割合が高く,左側の最大咬合圧,主観的評価による咀嚼能力,発音では有意の差があった(p<0.05)。しかしながら,反復嚥下テスト,言語障害,嚥下能力,口腔乾燥ではその違いは顕著でなかった。
結論 後期高齢者を中心とした今回の要介護女性高齢者について80歳を境に年齢階級別に心身機能,口腔関連諸機能をみると,それぞれ特徴的な違いがあり,ケアやキュアについては後期高齢者として一律に考えるのではなく,年齢を考慮に入れた工夫が求められる。
key words:要介護女性高齢者,心身および口腔関連諸機能,年齢階級(80歳未満,80歳以上)別検討,口腔ケア