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論文記事 | 一般財団法人厚生労働統計協会|国民衛生の動向、厚生労働統計情報を提供

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論文

第48巻第5号 2001年5月

日本における人工妊中絶の近年の動向

後藤 あや(ゴトウ アヤ) 郡山 千早(コオリヤマ チハヤ) 安村 誠司(ヤスムラ セイジ)
Michael R.Reich(マイケル ライヒ) 深尾 彰(フカオ アキラ)

日的 計画外外妊娠の予防は,女性の性と生殖に関する健康を維持・向上するために,重要な課題の一つである。本研究では,計画外妊娠の転帰の一つである人工妊娠中絶(中絶)の近年の動向について既存資料を用いて分析した。
方法 母体保護統計報告の主に1978年から1998年のデータを使用した。指標としては中絶の発生頻度を示す中絶率(女性1,000人の年間中絶数)と,妊娠した場合の中絶への至りやすさを示す中絶比(出生1,000に対する中絶数)を5歳年齢階級別(15~19,20~24,25~29,30~34.35~39,40~44歳)に検討した。
結果 1)中絶率は20歳未満に上昇が認められた。2)中絶比は25歳以上の低下に対して,24歳以下の上昇が特徴的であった。1819年から1995年まで一貫して,40~44歳の中絶比が最も高い値を示した。3)出生コホート別では1950年代後半以降生まれの24歳以下の中絶比が上昇した。4)全中絶数に24歳以下の占める割合が上昇した。5)中期中絶が占める割合は,1980年から1995年まで一貫して20歳未満が最も高かった。
考察 若年層における中絶のさらなる増加を予防する必要性が示された。また,若年層のみならず,40代の妊娠は中絶に至りやすく,中絶の予防対策は幅広い年齢層を対象とすべきである。今後は各年齢層に適切な近代的避妊法の普及が望まれる。中絶を予防するために効果的な対策立案のためには,中絶につながるような計画外妊娠に関する現状及びその関連要因の解明が必要であるが,この分野におけるわが国の授学的研究の蓄積は乏しい。計画外妊娠に関するなお一層の基礎資料収集も重要な課題である。
キーワード 人工妊娠中絶,計画外妊娠

 

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第48巻第5号 2001年5月

中高等学校の保健体育教師における
喫煙と喫煙防止教育

大井田 隆(オオイダ タカシ) 尾崎 米厚(オサキ ヨネアツ) 丸山 美知子(マルヤマ ミワコ)
武村 真治(タケムラ シンジ) 城戸 尚治(キド ナオハル) 簑輪 眞澄(ミノワ マスミ)

目的 三重県の公立小中高校及び幼稚園における全教師の喫煙実態調査から,各教科を担当する中高等学校の教師を選んで,どのような教科を担当する数師が喫煙防止教育を実践し,その喫煙行動はいかなるものであるのかといった分析を行った。
対象と方法 調査は,1995年11月から12月にかけて実施され.その対象者は三重県内の公立の幼稚園,小中高校及び教育事務所の全職員であった。調査手順は三重県の教職員組合、教育委員会及び学校長会の了解を得た後,三重県健康福祉部を通して、三重県内のすべての公立幼稚園及び小中高校等に調査の依頼を行い,各職場に依頼していた調査担当者より職員全員に調査票を配布してもらった。学校種別の回収率は,中学校98.3%(174/177)、高等学校80.0%(52/65)であった。調査票は全部で14,151通回収され,記入の不備な調査襲153通を除いた13,998通が解析可能であったが,本研究では解析の対象を中高等学校の校長・教漁,教諭,養護教諭5,358人から調査年度に生徒に数える機会のなかった384人(校長143人,養護教諭152人,教諭89人)を除いた4,974人とした。勤務先別の教師総数(拒否校も含む)に対する本研究の解析可能薯の割合は,中学校81.69%,高等学校62.3%であった。
結果 本研究の対象である担当教科を持つ中高等学校教師の喫煙率は男性45.4%,女性4.0%であった。担当教科別の喫煙率は,男性で芸術と保健体育の教師に有意に高く,理科に有意に低く,女性では保健体育に有意に高かった。また,喫煙防止教育実施率は保健体育の教師では男性79%, 女性77%と保健体帝以外の教師に比べ,2倍以上にもなり統計学的に有意であった。保健体育教師とそれ以外の教師別に喫煙に対する考え方を示すと,男女とも「学校を禁煙にすべきか?」という質問への回答に有意な差が認められた。
結論 今まで、わが国では教師の喫煙に関する調査はいくつか実施されているが,教科ごとに教師の喫煙行動の調査はまだなかった。そのような意味から,今回の保健体育の教師における喫煙率は高いという結果は十分価値があると考えられ,また英国の報告では保健を教える教師の喫煙率が特に高くはないことからも,わが国の保健体育教師における喫煙行動の変容が期待される。
キーワード 喫煙行動、喫煙防止教育,教師,保健体育,学校保健

 

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第48巻第5号 2001年5月

日本人中年男女の健康習慣と死亡

-群馬県9町村コホート研究-
川田 智之(カワダ トモユキ)

日的 保健行動や健康状態が,死亡に及ぼす影響を知る。
方法 保健婦による健康習慣に関する面接,および群馬県内9町村の健康診断データを使用したコホート研究を行った。対象自治体住民課および保健課には,調査の趣旨を文章および口頭で説明し同意を得た。健康診断に参加した8,410人の中で,7,694人(91.5%)が回答した。これら9町村住民の死亡小票は,総務庁への正規申請(人口動態調査調査票の目的外使用)によって閲覧した。対象集団の健康診断日からの平均追跡期間は,1999年3月31日現在で2,034日だった。81人が死亡し(男性46人,女性35人),130人が転出した。癌による死亡は,男性18人,女性20人であった。
結果 男性における死亡群のBMIと中性脂肪(P<0.05),およびクレアチエンとGPT(p<0.01)の平均値は,生存群のそれらよりも有意に低値であった。一方,健康診断時年齢は死亡群で有意に高値であった(p<0.01)。女性では,死亡群の健康診断時年齢,GOT,尿蛋白陽性率(p<0.01)、収縮期血圧,拡張期血圧,GPT,γ-GTP(p<0.05)は,生存辞のそれらよりも有意に高かった。
ステップワイズ法によるCoxの比例ハザード回帰分析を行った結束,男性では健康診断時年齢(ハザード此(HR)1.07,95%信頼区間(CI)1.02-1/13,p<0.01),尿蜜白(HR1.65,95%CI 1.08-2.52,p<0.05),クレアチエン(HR=0.07,95%CI 0.01-0.54,p<0.05)が有意に死亡に寄与していた。女性では,健康診断時年齢(HR=1.13,95%CI=1.06-1.21,pく0.01),BMHHR=1.13,95%CI=1.03-1.25.p<0.05),尿蛋白(HR=1.97,95%CI=1.19-3.28,p<0.01),クレアチニン(HR=0.01,95%CI=0.00-0.21,p<0.01),GOT(HR=1.04,95%CI=1.03-1.06,p<0.01),r-GTP(HR=1.01,95%CI=1.00-1.02,p<0.01)が死亡に有意に寄与していた。
7つの健康習慣と健康診断時年齢を共変量にとると,男性では健康診断時年齢(HR=1.07,95%CI=1.02-1.13,p<0.01),女性では健康診断時年齢(HR=1.14,95%CI=1.07-1.22,P<0.01),喫煙しない(HR=0.37,95%CI=0.15-0.90,p<0.01),運動(HR=2.12,95%CI=1.06-4.22,p<0.05),およびBMI(HR=1.11,95%CI=1.00-1.22,p<0.05)が死亡に寄与していた。
結論 男女とも健康診断時年齢と尿蛋白,加えて女性では肥満,肝機能障害などが解釈可能な死亡への寄与要因であった。
キーワード 健康習慣,生命予後,コックス回帰,肥満,地域疫学調査,健康診断

 

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第48巻第6号 2001年6月

生活習慣と医療費との関連に関する研究

-ヘルスアセスメント項目と医療費との関連-
神山 吉輝(カミヤマ ヨシキ) 松尾 光一(マツオ コウイチ)
神田 晃(カンダ アキラ) 川口 毅(カワグチ タケシ)

白的 医療経済的に効果のある予防事業を行うために,日常生活における生活習慣・健康行動と医僚費との関係を検討した。
方法 都道府県の異なる3市の国民健康保険加入者から無作為に抽出した3,400人に対し,調査薬を郵送して各個人の集活習慣情報を把握した。国民健康保険診療報酬明細書による人院外医療費とそれらの生活習慣とを個別にリンケージし,生活習慣と医療費との関係を分析した。
結果 調査薬の有効回収率は全体で49.5%であった「医師から通院が必要と言われている病気がありますか」という質問に対して,「ある」と答えた者の群と「ない」と答えた者の群に分けて分析を行った。その結果,食習慣や飲酒,及び総合的に評価した生活習慣については,通院の必要な疾病がない者の群の間では、より良い習慣の者の方がより1人当たりの医療費が低い傾向にあった。しかし,通院の必要な疾病がある者の群の間では,より良い習慣の者の方が逆に医療費が高くなっていた。また,喫煙の習慣を持つ者は,通院の必要な疾病の有無に関わり無く,そうでない者より1人当たりの医療費が高かった。
結論 生活習慣の改善が医僚費の削減につながる可能性が示唆された。また,今後,生活習慣と医療費との関係を調べるにあたっては,通院の必要な疾病の有無で対象者を切り分けて分析すべきであることが示された。
キーワード 生活習慣,食習慣,喫健,1人当たり医療費,1件当たり医療費,国民健康保険

 

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第48巻第6号 2001年6月

全国都道府県保健所における
地域保健法施行後の保健所機能強化の実態

-情報機能,調査研究機能を中心に-
武村 真治(タケムラ シンジ) 大井田 隆(オオイダ タカシ) 曽根 智史(ソネ トモフミ)
石井 敏弘(イシイ トシヒロ) 藤崎 清道(フジサキ キヨミチ)

目的 全国都道府県保健所における地域保健法施行後の保健所機能,特に情報機能,調査研究機能の基盤・システムの繁備状況を把握し,今後の保健所機能の強化・推進の方向を検討する。
方法 全国都道府県の474保健所を対象に,平成11年11月,郵送により調査票を配布し,309保健所から回答を得た。調査項目として,情報機能・企画調整機能の担当部門の有無,コンピューターの台数,統計解析ソフト・ホームページの有無,年報・業務報告の作成,調査研究数,調査研究の結果からの施策提言の有無などを設問した。
結果 65%の保健所は情報機能の担当部門を,78%の保健所は企画調整機能の担当部門を設置しており,規模の大きい保健所の方が機能強化のための組織体制が整備されていた。
保健所が保有するコンピューターの総数は平均15.5台で,95%の保健所は外部データベースやインターネットと接続していた。しかし統計解析ソフトを保有している保健所は24%,ホームページを開設している保健所は20%と少なかった。
92%の保健所は年報・業務報告を僅成していたが,18%の保健所はそれを次年度事業に反映しておらず,年報・業務報告の形で整理された情報が十分に活用されていなかった。
平成10年度に保健所が関与した調査研究数は平均3.2で,そのほとんどは保健所が実施主体であり,保健所以外の実施主体に協力した調査研究は少なかった。
33%の保健所は調査研究の結果から施策提言が得られておらず,調査研究が地域の行政施策に十分に活用されていなかった。
コンピューターや統計解析ソフトなどの基盤整備と情報・調査研究の活用との関連はみられなかった。
結論 保健所自身が調査研究を実施するために,また地域における調査研究を促進するためにも,大学などの研究教育機関との連携が必要である。また情報機能,調査研究機能を強化するためには,情報の基盤整備だけでなく,それを効果的に運用するための研修などのシステムを整備する必要がある。今後は,情報機能,調査研究機能を含めた保健所機能全体を網羅的に把握し,その関係性を明らかにすること,保健所機能の基盤,システム,実績,効果の指標を開発すること,それらの指標を継続的に把握できる体制を確立すること,によって保健所機能を総合的に評価する必要がある。
キーワード 保健所機能,地域保健法,情報,調査研究,企画調整,保健所

 

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第48巻第6号 2001年6月

高齢者介護サテライト勘定整備の枠組みと推計結果

長倉 真寿美(ナガクラ マスミ)

目的 介確保険の財源について様々な議論がある中で,公私の役割分担や費用負担が明確になる制度運用の体制を整えるためには,受益と負担の関係,制度が与える影響等を客観的かつ綿密に分析することができるデータを登場する必要がある。そこで本稿は,高齢者介護に関する生産,消費,資本形成等の状況を「介護サテライト勘定」として整備する試みについて,方法,推計結果の概略を示した上で,今後の活用に関する若干の提言を行うことを目的とした。
方法 65歳以上の要介護高齢者(「寝たきり」「非寝たきりで要介護の痴呆」及び「虚弱の高齢者」)に支出されている介護費用を推計の対象とした。推計手順は次のとおり。1)介礫分野に特有と考えられる財・サービスを特定,2)特定した介護分野に特有と考えられる財・サービスについて支出を確定,3)資金供給者または年産活動を行う主体を列挙し分類.4)金額表示,物量表示の二通りのデータを作成。
結果(成果) 介護のための国民支出は,3兆2409億円であった。そのうち市場介護サービスが2兆8101億円,介護関連サービスが119億円,介護のための資本形成額が4189億円となっている。介護サービスの生産者については,入所サービスは産出額が多い輝に,産業1兆708億円,対家計民間非営利団体7131億円,政府5544億円となっている。在宅サービスについては,各サービスごとの生産主体が明確になるデータが現存せず,把握できない。家族による介護サービスの額は1兆6814億円となっている。介護サービス提供にかかる資金については,市場介護サービスの総消費額2兆8101億円のうち,政府が55%にあたる1兆5482億円,社会保障基金が37%にあたる1兆377億円を負担している。家計が負担しているのは,8%にあたる2243億円である。
結論 介護サテライト勘定整備は,介護の担い手、費用負担などを包括的かつ整合的に把握し、「国民支出」「生産者ごとの生産額」「資金負担者別負担金額」といった視点から,介護費用を社会経済構造の中に位置づける試みとしての成果があったと考えられる。今後は,介護保険の特別会計報告のデータを使い,介護保険制度下における介護サテライト勘定に発展させれば,財源の問題について客観的データに基づいた判断が可能になると考えられる。
キーワード 高齢者介護,介護サテライト勘定 マクロ経済統計,介護のための国民支出,介護サービス生産者,介護費金負担

 

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第48巻第6号 2001年6月

国勢調査メッシュ統計データの表示・分析システムの構築

関 明彦(セキ アキヒコ) 伊藤 武彦(イトウ タケヒコ) 松田 咲子(マツダ サクコ)
吉田 秋子(ヨシダ アキコ) 井上 康二郎(イノウエ コウジロウ) 関 英一(セキ エイイチ)
中林 圭一(ナカバヤシ ケイイチ) 吉良 尚平(キラ ショウヘイ)

目的 市区町村より小さい小地区を単位とし,各種の保健福祉情報を地図表示,分析することができ,しかも保健所等に容易に導入し得る,統計情報地図表示・分析システムを構築すること。
方法 基準地域メッシュ別に編成された統計情報や,位置情報を伴った各種の情報を,Mircosoft Windows98上で稼働する表計算ソフトウエアMicrosoft Excel 2000(以下Excelと略す)の中で保管,処理,地図表示、および分析までし得るように,Visual Basic for Applicationsを用いてプログラムを組むことを試みた。また,国勢調査地域メッシュ統計,岡山県医療施設名簿を用いて,試作したシステム機能の確認を行なった。
結果 基準地域メッシュを基本区画として,Excel上で様勧する統計情報地図表示・分析システムを構築し得た。機能としては,各メッシュごとの統計量の段彩表示,統計量の移動平均による表示,点情報のポイント表示と点情報までの距離の表示,およびこれらの重ね合わせ表示などである。本システムを用いて国勢調査統計,医療機関情報を地図表示してみたところ,地域性を容易に把握し得るようになったのみならず,複数の情報を組み合わせて表示することにより,新たな知見を得ることができる可能性も示唆された。なお,統計地図の作成は項目を選択するだけで可能となるようにしており,容易に操作し得るシステムとした。また,Excelはほとんどの施設で使用されているものと思われ,本システムは保健所等へ容易に導入し得るものと考えられた。
結論 保健所等の現場へも容易に導入し得る,統計情報地図表示・分析システムを構築した。保健所等において本システムが用いられ,地域情報の把捉,分析活動が一層向上することを望んでいる。
キーワード 保健福祉情報,地理情報システム.地域診断,国勢調査,基準地域メッシュ,統計地図

 

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第48巻第7号 2001年7月

新潟県の高齢者施設におけるインフルエンザワクチン接種
の現状とその効果に関する研究

関 奈緒(セキ ナオ)押谷 仁(オシタニ ヒトシ) 斉藤 玲子(サイトウ レイコ)  
田辺 直仁(タナベ ナオヒト) 林 千冶(ハヤシ センジ) 鈴木 宏(スズキ ヒロシ)

目的 高齢者施設におけるインフルエンザワクチン(以下ワクチン)接種の現状および高齢者,職員のワクチン接種率とインフルエンザ様疾患(以下ILI)罷患,流行発生に対する効果について検討する。
方法 対象は,新潟県内の特別養護老人ホームと老人保健施設(平成9年度140施設,平成10,11年度149施設)である。施設へのアンケート調査と,新潟県および新潟市によるILIサーベイランスのデータを用いた。
結果 平成9年度から平成11年度で,施設内高齢者(以下入所者)への接種を実施した施設は19.8%から96.6%,職員への接種も同様に18.2%から86.3%と増加していた。なお,各施設内の入所者接種率と職員接種率は強い相関を示した。
ILI羅患率は,入所者接種率が上昇するに伴い有意に抑制され,「1週間に施設収容者の10%以上が罹患した場合」とした流行も入所者接種率の増加により有意に阻止された。また入所者接種率が高い施設において,職員接種率が70%以上の場合,70%未満に比べ有意にILI羅患率が低下していた。
ワクチン接種実施上の問題点として「費用」を挙げる施設が6割あり,インフォームドコンセントのあり方とともに今後の接種推進対策上重要と考えられた。
結論 高齢者施設におけるインフルエンザの罹患率抑制,流行阻止には,入所者接種率向上が有効であり,更には職員接種率向上が重要であると考えられた。
キーワード インフルエンザワクチン,高齢者施設,入所者接種率,職員接種率,流行阻止

 

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第48巻第7号 2001年7月

市販弁当類の細菌汚染状況

北瀬 照代(キタセ テルヨ) 長谷 篤(ハセ アツシ)
春木 孝祐(ハルキ ユウスケ) 杉田 隆博(スギタ タカヒロ)

目的 弁当類は私たちの食生活に身近な食品であるが,,加熱等の処理をすることなくそのまま摂食される食品であり,これまでの事例をみても細菌性食中毒の原因食品となることが多い。そこで今回食中毒予防の一助として市販弁当類の細菌汚染状況を調査すると共に保存試験を実施したので報告する。
方法 1997年から1999年にかけて大阪市内で市販されている弁当169件(給食弁当,折詰弁当,店頭調製弁当)を対象として生菌数,大腸菌群,糞便性大腸菌群,大腸菌,黄色ブドウ球菌,セレウス菌,サルモネラ,腸管出血性大腸菌Ο157について検査を実施した。弁当全体を滅菌ストマッカー袋に取りよく混合したものを1検体とし,各細菌検査については食品衛生検査楷針に準拠して実施した。保存試験については給食弁当のごはんん及び2硬類のおかずについて5℃,25℃に保存し,4,8,22時間後の生菌数,大腸菌群推定数,セレウス菌数,黄色ブドウ球菌数の変化を調べた。
結果 調査した弁当類全体の細菌汚染状況をみてみると.生菌数では1g当たり104未満が77検体(45.6%),104台が43検体(25.4%),105台が27検体(16.0%),108以上が22検体(13.0%)であった。大腸菌群は114検体(67.5%),糞便性大腸菌群は43検体(25.4%),大腸菌は6検体(3.6%)が陽性であった。黄色ブドウ球菌は40検体(23.7%)が陽性であった。セレウス菌は43検体(25.4%)から1g当たり102以上検出された。サルモネラおよび腸管出血性大腸菌Ο157は検出しなかった。保存試験では5℃保存では22時間経過後も生菌数はほとんど変化しないか,やや減少した。25℃保存では4時間経過後まではあまり変化がなかったが,その後急速に増殖した。
考察 弁当の衛生規範では「サラダや生野菜などの未加熱処理の製品については1g当たり106以下のものを使用及び製造することが望ましい」としているが,今回の調査結果では22検体(13.0%)について生菌数が1g当たり106以上であり,指針が生かされているとは言い難い結果であった。また.すべてのおかずが加熱調理されていると考えられる製品からも大腸菌群が検出されており,詞理後の二次汚染等製造過程の衛生管理が不十分であると考えられる。また,保存試験の結果からも特に夏場など摂食まで長時間放置されることのないよう注意が必要である。

 

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第48巻第7号 2001年7月

壮年期男子勤務者における飲酒と
高LDLコレステロール血症との関連についての検討

中西 範幸(ナカニシ ノリユキ) 岡本 光明(オカモト ミツアキ) 仁科 一江(ニシナ カズエ)
松尾 吉郎(マツオ ヨシオ) 吉田 寛(ヨシダ ヒロシ)
白井 こころ(シライ ココロ) 多田羅 浩三(タタラ コウゾウ)

目的 飲酒が低比重リボ蛋白(LDL)コレステロールに及ぼす影響を明らかにするため,飲酒状況と高LDLコレステロール血症との関連について検討した。
方法 1994年5月の定期健康診断において高血圧,肝疾患, 糖尿病,高尿酸血症の治績歴を有しない者で,空腹時のトリグリセライド値が400mg/dl未満を示した30-59歳の男子事務系勤務者1,368人を対象として高LDLコレステロール血症(LDLコレステロナル値140mg/dl以上,および動腋硬化用薬服用)の頻度を調査した。さらに,高LDLコレステロール血症を有しない1,054人を観察コーホートに設定し,2000年5月までの6年間における高LDLコレステロール血症の発症を調査した。LDLコレステロール値は血清総コレステロール値,高比重リボ蜜白(HDL)コレステロール値,トリグリセライド値を用いて,Friedewaldの式により算出した。
結果 年齢,Body Mass Index(BMI),拡張期血圧,HDLコレステロール,トリグリセライド,尿酸、空腹時血糖,喫煙,野菜の摂取,コーヒーの飲用,運動を調整したアルコールを「飲まない」者を1.0とする高コレステロール血症のオッズ比は,アルコール摂取が「23.0g未満/日」,「23.0~45.9g/日」,「46.0-68.9g/日」「69.0g以上/日」の飲酒者では,それぞれ0.76[95%信額区間(CI):0.49-1.17〕,0.61(95%CI:0.41-0.92),0.52(95%CI:0.35-0.79),0.52(95%Cl:0.33-0.82)であった(Test for trend:p<0.001)。コーホート設定時の年齢,BMI,拡張期血圧,LDLコレステロール,HDLコレステロール,トリグ・リセライド,尿酸,空腹時血糖,喫煙,野菜の摂取,コーヒーの飲用,運動を調整した高LDLコレステロール血症発症のハザード比は,アルコール摂取が「23.0g未満/日」,「23.0~45.9g/日」,「46.0~68.9g/日」,「69.0g以上/日」の飲酒者では,それぞれ0.73(95%CI:0.52-1.02),0.68(95%CI:0.49-0.94),0.63(95%CI:0.46-0.86),0.54(95%CI:0.38-0.78)であった(Test for trend:p<0.001)。
結論 本研究の成績は,飲酒と高LDLコレステロール血症との間には負の関連を有することを示しており,アルコールは高LDLコレステロール血症の負の危険因子となることを示唆するものである。
キーワード 飲酒,高LDLコレステロール血症,壮年期,男子勤務者

 

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第48巻第7号 2001年7月

メタ・アナリシスの手法を用いた肺がん検診の有効性評価

中山 富雄(ナカヤマ トミオ) 楠 洋子(クスノキ ヨウコ) 鈴木 隆一郎(スズキ タカイチロウ)

目的 現行の肺がん検診の有効性に関しては,否定的な意見が多く,わが国以外では公的資源を投入しての肺がん検診は行われていない。本論文では,国内外の研究成績をレビューし,メタ・アナリシスの手法を用いて解析することで,肺がん検診に関する総合的な評価を行う。
方法 肺がん検診の死亡率について検討した14の研究のうち,1970年代に行われた4つのランダム化比較試験と70年代以降に行われた8つの症例対照研究の成績を用いた。解析には固定効果モデルを用い,評価測定指標としてランダム化比較試験は累積死亡率を,症例対照研究ではオッズ比をそれぞれ用いた。
結果 すべての研究を含めたsummarized relative risk(SRR)は0.789(95%信頼区間0.71-0.857)であったが,同質性が棄却された(p=0.003)。新潟・宮城の研究を除くと,SRR=0.859(0.776-0.952)となり,同質性は保たれた。検診と無検診を比較した9つの研究に限ると, SRR=0.701(0.626-0.784)となり,肺がん検診に約30%の死亡率減少効果があることが示唆された。
緒論 研究として偏りが少ないときれるランダム化比較試験と,偏りが混入しやすいとされる症例対照研究の間で結果が異なることに関しては,議論が必要である。しかし,日本で現在行われている肺がん検診に30%程度の死亡率減少効果があることに関しては,かなり信頼性が高いものと考えられる。ただし,この効果の大きさは,他のがん検診に比べると満足すべきものではなく,費用効果分析等の検討も必要である。
キーワード 肺がん検診,メタ・アナリシス,死亡率減少効果

 

論文

 

第48巻第7号 2001年7月

難病患者の地域ベース・コホート研究

-ベースライン調査結果(QOLと保健福祉サービス)-
川南 勝彦(カワミナミ カツヒコ) 箕輪 眞澄(ミノワ マスミ) 新城 正紀(シンジョウ マサキ)
坂田 清美(サカタ キヨミ) 永井 正規(ナガイ マサキ)

目的 本研究では,永井らにより検討された特定疾患情報システムを基本とし,全国レベルで難病患者個人の臨床情報,疫学・保健・福祉情報,予後情報を収集しデータベース化及びコーホート研究を行っている。今回は,平成11年に実施したベースライン調査結果を基に,今後の保健福祉サービスの在り方について検討するための基礎資料を得るとともに,QOL評価指標としてShort Form 36 Health Survey(SF-36)と,難病患者に共通の主観的QOL尺度(主観的QOL尺度)を使用して,各難病疾患別比較及び国民標準値(地域社食で通常の生活を送っている国民の平均値)との比較を行うことを目的とした。
対象 全国の保健所のうち,本研究に調査協力可能であった35保健所管内における新規・継親特定疾患医療受給者(平成11年7月1日時点において受給資格を得ている者)とした。
方法 特定疾患治療研究事業医療受給申請書,臨床調査個人票,疫学・福祉情報調査,QOL(主観的QOL尺度.SF-36),保健福祉サービスへのディマンドを対象者に対して詞査し,共分散分析を使って,性別,年齢階級,日常生活動作(または重症度),医療機関への受診状況,保健福祉(公的)サービス利用状況,疾患分類を調整したQOL(主観的QOL尺度,SF-36各サブスケール:日常役割機能・身体,社食生活機能)得点を各疾患別に比較するとともに,国民標準値とのSF-36各サブスケールスコアについて比較を行った。
結果1.調査データを得られたのは30保健所であり,回収率は57.7%(=2,059人:調査実施数/3,571人:調査予定者数)であった。そのうち,疫学・福祉情報調査,QOLと保健福祉サービスへのディマンド調査に協力を同意しなかった者または回答拒否者497人(24.1%)であった。
2.主観的QOL尺度得点では,筋萎縮性側索硬化症,脊髄小脳変性症,パーキンソン病が,他の疾患と比較して有意に低く,SF-36尺度各サブスケールにおける国民標準値との比較においても同疾患及び重症筋無力症において,各サブスケールで有意に国民標準値より低く,その中で最も低いサブスケールは社会生活機能であり,筋萎縮性側索硬化症で顕著な結果であった。
考察及び結論 神経・筋疾患といわれる重症筋無力症,筋萎縮性側索硬化症,脊髄小脳変性症,パーキンソン病において,症状としてのADL低下や寝たきり等の身体問題により,仕事や普段の活動の制限や家族・友人・他人とのつきあいが制限され,病気の受容及び志気にも影響したと考えられた。さらに,これら疾患患者の保健福祉(公的)サービス利用割合が高いにもかかわらず,現在受けているサービスへの満足度は,ほとんどの疾患で約4割で,寝たきり患者においても同様で変化がみられないことから,保健福祉サービスの在り方を検討する必要性があると考えられた。
キーワード 難病,保健福祉(公的)サービス.QOL,比較

 

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第48巻第8号 2001年8月

死因別の乳児死亡率と出生時要因との関連:1995年~1998年

藤田 利治(フジタ トシハル)

目的 1995年から病死した乳児については,出生体重,単胎・多胎の別,妊娠週数,母の年齢,出生児数および死産経験などの追加事項が死亡診断書に記載されるようになった。本報告では,人口動態統計を用いて,死因別乳児死亡に関連するリスク要因を明らかにする。
方法 1995年から1998年までの4 年間の人口動態調査死亡票および出生票を用い,出生体重が判明 している4,787,537人の出生児と16,327人の病死乳児を対象とした。単産・複産別に,人口動態調査により把握された出生体重などの出生時要因と死因別乳児死亡との関連を,単変量解析とともにボアソン回帰分析による多変量解析を用いて検討した。
成績 1995年から1998年にかけての4 年間での病死による乳児死亡率(出生1000人当たり) は,単産で3.2,複産で17.7であったが,出生体重の影響を調整した相対リスクは0.74倍と複産の方が低くなっていた。ポアソン回帰分析による多変量解析の結果,単産において「先天異常」による乳児死亡リスクの高い特性は,低出生体重,古い年次,「住所地」が関東や東海・北陸など, 男児,「世帯主の主な仕事」が無職・不詳,母が高年齢,短い妊娠期間,遅い出生順位,母に「死産経験』ありであった。「周産期に発生した病態J」での乳児死亡では,出生体重が極めて強く関連し,その次に古い年次、「住所地」が東海・北陸など,「世帯主の主な仕事」が無職・不詳, 遅い出生順位,母に「死産経験」ありであり,母の年齢は有意な関連を示さなかった。また,「乳幼児突然死症候群」については,低出生体重,10代の母,遅い出生順位,男児,「世帯主の主な仕事」が無職・不詳,「死産経験」ありが死亡リスク増大と関連していた。さらに,「心疾患」,「肺炎」ないし,「敗血症」による乳児死亡と出生時要因との関連についても報告した。
結論 死因別乳児死亡と出生時要因の関連について,わが国で初めて全国レベルで定量的に検討した成績を報告した。病死による乳児死亡にかかわるリスク要因の解明が人口動態統計によって格段に詳細に行いえる状況になったことから,乳児死亡率の一層の改善のための効率的対策が推進されることが期待される。
キーワード 乳児死亡率,出生体重,リスク要因,先天異常,周産期に発生した病態,乳幼児突然死症候群

 

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第48巻第8号 2001年8月

基本健康診査受診者を対象としたQOL調査

-EuroQol EQ-5Dを用いて-
藤田 麻里(フジタ マリ) 林 恭平(ハヤシ キョウヘイ) 小笹 晃太郎(オザサ コウタロウ)
渡邊 能行(ワタナベ ヨシユキ) 濱島 ちさと(ハマシマ チサト)

目的 健診受診者の健康関連QOLを明らかにすることを目的に,EuroQol EQ-SDの5項目と,5項目より得られる効用値および視覚評価法(Visual Analogue Scale : VAS) について性,年齢別の分布を検討した。
方法 平成11年6月から10月にかけて京都府下での2町において健診受診者2,314人を対象に質問紙による既往歴,ADL調査,QOL調査,食事等の調査を行った。QOL調査にはEQ-SD臨床版を用いた。EQ-5Dは「移動の程度」,「身の回りの管理」,「ふだんの活動」,「痛み/不快感」,「不 安/ふさぎ込み」の5項目と視覚評価法(VAS),およぴ個人属性により構成されている。5項目での回答はそれぞれ,「問題ない」,「いくらか問題がある」,「問題がある」の3 段階の選択肢によって評価される。5項目の回答の組み合わせから日本版の効用値換算表を用いて,0~1,000の数値で表される効用値に換算した。
結果 回答者は男性656人,女性11,234人の計1,890人であり,回収率は81.7%であった。高血庄,糖尿病,脳卒中に既往歴ありと回答したのはそれぞれ29.1%, 3.0%, 2.5%であった。EQ-5Dにおける5項目の各項目への回答に性差はみとめられず,「不安/ふさぎ込み」を除く4項目で加齢にともない「問題ない」の割合が減少する傾向がみられた(χ2検定でいずれもp<0.01)。効用値,VASの分布に性差はみとめられなかったが,ほぽ加齢にともなってそれらの数値の大きい者の割合が減少する傾向がみられた(いずれもp<0.01)。効用値とVASの相関係数は 0.406 (P<0.01)であった。
結論 加齢にともなって健康関連QOLの低下がみられた。また,効用値とVASは,それぞれが異なった面からの健康状態についての評価をしているものと考えられた。地域における実態を知るためには,今後,健診非受診者も含めた検討を行う必要がある。
キーワード 健診受診者,QOL調査,健康関連QOL, EuroQol, EQ-5D,効用値

 

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第48巻第8号 2001年8月

3歳時の生活習慣と小学4年時の肥満に関する6年間の追跡研究

-富山出生コホート研究の結果より-
関根 道和(セキネ ミチカズ) 山上 孝司(ヤマガミ コウジ) 沼田 直子(ヌマタ ナオコ)
濱西 島子(ハマニシ シマコ) 陳 暁莉(チン ショウリ) 飯田 恭子(ハンダ キョウコ)
齋藤 友博(サイトウ トモヒロ) 川南 勝彦(カワミナミ カツヒコ) 簑輪 眞澄(ミノワ マスミ)
徳井 教孝(トクイ ノリタカ) 吉村 健清(ヨシムラ タケスミ) 徳村 光昭(トクムラ ミツアキ)
南里 清一郎(ナンリ セイイチロウ) 杉森 裕樹(スギモリ ヒロキ)
吉田 勝美(ヨシダ カツミ) 鏡森 定信(カガミモリ サダノブ)

目的 3歳時の児童・両親の肥満や生活習慣の,小学4年時の肥満への影響を評価する事を目的と した。
方法 対象は,1989年度生まれで,3歳児健診時に富山県在住の児童10,177人。初回調査は,1992 年4月から1994年3月に,対象児童の3歳児健診時に実施した。両親の体格,児童の生活習慣に関する質問票に両親が回答し,県内の保健所にて児童の体格測定を行った。追跡調査は,1999 年6月の対象児童が小学4年時に実施した。県内の小学校を介して質問票を配布し,児童の体格を両親が回答した。初回調査時に児童・両親の体格,生活習慣に関する完全な情報が得られた8,743人(総対象者の85.9%)のうち,追跡調査で児童の体格の回答が得られた6,762人(男児3,405人、女児3,357人:追跡率77.3%)を解析対象者とした。3歳児健診時の平均年齢は3.4歳,平均追跡期間は6.3年であった。児童の肥満の有無は,体格指数(BMI:体重kg/身長㎡) で過体重に相当する年齢・性別毎のカットオフ値を用いて判定した。両親の肥満は,BMIで25 kg/㎡以上とした。ロジスティック回帰分析を用いて,3歳児健診時の要因の,小学4年時の肥満への寄与を評価した。
結果 3歳児健診時に児童・父親・母親が肥満の場合、小学4年時の児童の肥満のオッズ比(95% 信頼区問)は,それぞれ,5.70 (4.72-6.88), 2.02(1.74-2.36), 2.69 (2.18-3.32)と有意に高値であった。食事では,卵類・インスタント麺類,ファーストフード類の摂取頻度が高いほど,野菜の摂取頻度が低い群で肥満のオッズ比は高値であった。生活習慣では,朝食を「毎日食べる」に対して,「時々食べない」は1.19 (1.02-1.40),間食時間を「決めている」に対し て,「だいたいJ」で1.51 (1.12-2.02),「決めていない」で1.75 (1.29-2.37) と,食事摂取の不規則性と肥満が関連した。また就寝時刻が遅く,睡眠時間が短いほど」肥満と関連した。睡眠時間が「11時間以上」に対して,「10~ll時間」では1.08 (0.82-1.42),「9~10時間」で1.19 (0.90 -1.57), 「9時間未満」で1.50 (1,00-2.24)と量反応関係を認めた。運動習慣は「活発」に対 して「ふつう」でオッズ比が低値であったが,運動時間では関連性がなく,結果に一致性がな かった。
結論 3歳時の児童・両親の肥満や生活習慣が,その後の肥満と関連する。したがって,小児肥満 の予防対策は,少なくとも3歳からの対策が必要である。
キーワード 小児肥満,食習慣,運動習慣,睡眠習慣,コホート研究,富山スタディ

 

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第48巻第10号 2001年9月

「精神障害者社会適応訓練事業」の現状

-全国調査から-
立石 宏昭(タテイシ ヒロアキ)

目的 本研究では,「精神保健及び精神障害者福祉に関する法律」五十条の四にある精神障害者社会適応訓練事業(以下,社会適応訓練事業と略す)の現状を社会資源指数・稼働率・就労率・未就労率をもとめることにより明らかにすることである。
方法 47都道府県および12指定都市の精神保健福祉担当課にたいし,過去5年間の事業状況を郵送にて回答を求めた。主な調査項目は,登録事業所数,協力事業所数,訓練終了後の雇用契約者数,再入院者数,在宅者数,他の施設への入所者数などである。
結果 回収率は,79.7% (36都道府県および11指定都市)であった。
・27都道府県(指定都市を含む)における登録事業所数を通院公費負担患者数で割った指標を社会資源指数としたときの平均値は1.12であった。
・26都道府県および6指定都市における協力事業所数を登録事業所数で割った指標を稼働率としたときの平均値は23.6%であった。
・21都道府県および5指定都市の訓練終了後もしくは訓練中止後に雇用契約(パート・アルバイトを含む)を結んだ平均の就労率は25.3%であり,内訳として協力事業所との雇用契約者数 (72.8%),他の事業所との雇用契約者数(27.2%)であった。また,未就労率は74.7%であり, 内訳として再入院者数(15.4%),在宅者数(46.7%),死亡者数(1.4%),他の施設への入所者数(1.6%),その他(32,4%),不明(2.5%)であった。
結論 社会資源指数・稼働率・就労率・未就労率のいずれも都道府県および指定都市での地域格差があることが示された。
キーワード 精神障害者社会適応訓練事業,全国調査,社会資源指数,稼働率,就労率,未就労率

 

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第48巻第10号 2001年9月

都道府県別観察による喫煙率と疾患別死亡率の関連

旭 伸一(アサヒ シンイチ) 大木 いずみ(オオキ イズミ) 谷原 真一(タニハラ シンイチ)
尾島 俊之(オジマ トシユキ) 中村 好一(ナカムラ ヨシカズ) 岡山 明(オカヤマ アキラ)
松村 康弘(マツムラ ヤスヒロ) 柳川 洋(ヤナガワ ヒロシ)

目的 わが国における喫煙率と疾患別死亡率の地域差を観察することにより,喫煙の健康影響を探る。
方法 本研究では都道府県別喫煙率と死因別疾患別死亡率の相関係数を男女別に観察した。都道府県別喫煙率は1986年から1995年までの10年間の国民栄養調査の結果を用いた。都道府県別に喫煙率の年齢調整を行った上で,人口動態統計特殊報告(1995年)の疾患別年齢調整死亡率との相関係数を男女別に観察した。
結果 男では膵の悪性新生物,老衰,不慮の事故,交通事故の死因に有意な正の相関が観察され, 女では,結核,気管・気管支及び肺の悪性新生物,乳房の悪性新生物,卵巣の悪性新生物,心疾患,虚血性心疾患,心筋梗塞,肺炎,慢性閉塞性肺疾患,慢性気管支炎及び肺気腫,肝疾患,腎不全の死因で正の相関が観察された。
結論 喫煙率と疾患別死亡率の相関係数から女の肺癌,虚血性心疾患など一部の疾患で喫煙の健康影響と矛盾しない結果が得られた。
キーワード 都道府県別喫煙者指数,死因別年齢調整死亡率,相関係数

 

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第48巻第10号 2001年9月

GHQ-12項目質問紙を用いた
精神医学的傷害のスクリーニング

本田 純久(ホンダ スミヒサ) 柴田 義貞(シバタ ヨシサダ) 中根 允文(ナカネ ヨシブミ)

目的 精神医学的障害をスクリーニングする尺度としてのGeneral Health Questionnaire (GHQ) - 12項目の有効性を評価し,さらに,精神医学的障害の判定に及ぽすGHQ-12各項目の寄与の違いを調べることを目的とした。
方法 1991年3月から8月までに長崎市内にある2病院の内科外来を受診した1,555人を対象にGHQ-12項目質問紙による1次調査を実施した。GHQ-12項目得点別に,低得点(0-1),中得点 (2-3),高得点(4-12) の3得点群に分け,層別抽出により2次調査の対象者を選んだ。2次調査は長崎大学医学部精神神経科の医師がlCD-10に基づく精神医学的障害の診断を行った。最終的な解析対象者は336人(男158人,女178人)であった。精神医学的障害の判別に及ぽすGHQ-12項目の寄与の違いを調べるために,精神医学的障害の有無を従属変数,GHQ-12項目の各得点を独立変数とするロジスティック回帰分析を行った。またロジスティック回帰分析から得られた偏回帰係数をもとに,各項目の寄与に応じて重みを付けた,重み付きGHQ-12項目得点を計算した。精神医学的障害のスクリーニング尺度としてのGHQ-12項目質問紙の有効性はGHQ-12項目得点及び重み付きGHQ-12項目得点のさまざまなカットオフ値に対する感度と特異度を求めることにより検討し,さらにROC (receiver operating characteristic)解析を行うことにより,両者のスクリーニング尺度としての有効性の違いを比較した。
結果と結論 対象者336人のうち127人((37.8%)にlCD-10による精神医学的な診断がつけられた。GHQ-12項目得点の得点群別では,低得点群(81人)では6 人(7.4%)に,中得点群(66人)では22 人(33.3%)に,高得点群(189人)では99人(52.4%)に,それぞれ診断がつけられた。GHQ -12項目質問紙を精神医学的障害のスクリーニングに用いた場合のカットオフ値は4点が最適 であると考えられ,そのときの感度は78.0%,特異度は56.9%であった。また各項目の得点に重みを付けない通常のGHQ-12項目得点と,重みを付けたGHQ-12項目得点の感度と特異度を ROC解析により比較した結果,重み付きGHQ-12項目得点の方が感度と特異度は高かった。
キーワード 精神医学的障害,スクリーニング,感度,特異度,ROC解析,General Health Questionnaire質間紙

 

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第48巻第10号 2001年9月

スギ花粉症における暴露と感作、発症の量反応関係

寺西 秀豊(テラニシ ヒデトヨ) 内田 満夫(ウチダ ミツオ) 加藤 輝隆(カトウ テルタカ)
加須屋 實(カスヤ ミノル) 小笹 晃太郎(オザサ コウタロウ)

目的 空中花粉飛散量を暴露指標とした場合,暴露量とスギ花粉症の感作および発症に量反応関係が存在するか否かを疫学的に検討する。
方法 富山県で花粉症情報システムの一環として耳鼻科医と眼科医を受診した花粉症患者調査が実施されている。ここでは1996年から2000年までの5年間のスギ花粉総飛散数と花粉症患者数の関連性について検討した。
京都府では1町において小中学校の学童を対象にスギ花粉症疫学調査が実施さ れている。1997年には学童458人の血清スギIgE抗体が測定された。ここでは出生月とスギIgE抗体価に関する研究成果に基づき10月から次年の1月までに生まれた学童における血清スギIgE抗体と出生早期スギ花粉暴露量との関連性について検討した。
結果 富山県における花粉症患者数とスギ花粉総飛散数の関連性を検討すると,花粉数の多い年には,花粉症患者の発症も多く,スギ花粉総飛散数(対数変換値)と花粉症患者数の間には相関係数r=0.99 (p<0.01)と男女ともに高い相関関係が認められた。このことはスギ花粉総飛散数が多いと患者の発症も多いという量反応関係の存在することを示している。
また京都府における調査では,出生早期暴露の指標として,京都府立医科大学における各年のスギ花粉総飛散数を使用したが,10月から1 月までに生まれた学童におけるスコア4 以上の IgE抗体保有率との間にスピアマンの順位相関係数でr =0.73(p <0.05)と有意の相関が認められた。このことはスギ花粉暴露と感作との間にも量反応関係の存在することを示唆している。
結論 空中花粉飛散量を暴露指標とした場合,スギ花粉症の感作および発症に量反応関係が存在することが示された。さらに研究をすすめ,環境中スギ花粉量を闘値あるいは環境基準値等として設定できないか検討したい。
キーワード スギ花粉症,疫学,空中花粉,発症,闘値,量反応関係

 

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第48巻第11号 2001年10月

既婚子同居世帯における世代間の生活の共同・分離

西村 昌紀(ニシムラ マサノリ) 古谷野 亘(コヤノ ワタル)
石橋 智昭(イシバシ トモアキ) 山田 ゆかり(ヤマダ ユカリ)

目的 全国規模調査のデータに基づき,高齢者と既婚子の同居世帯における生活の共同・分離と,それに関連する要因について検討した。
方法 全国65歳以上男女の無作為標本を対象に訪問面接調査を行い,2 ,335人から回答を得た(回収率77.8%)。回答者のうち,「典型的な既婚子同居」と考えられる「1 人の既婚子およびその核家族と同居している者」732人を分析対象とした。生活の共同・分離に関する項目として,(1) 住宅設備の共有(空間の共同),(2)タ食をともにする頻度(食事の共同),(3)家計管理の方法(家計の共同)を取り上げた。
結果 空間,食事,家計のいずれについても,共同にしている者が多かったが,全領域を共同にし ている者は全体の半数強にとどまった。共同・分離の分布には都市規模による有意な差が認め られ,子どもとの同居率が低い大都市においては,既婚子と同居している場合でも,世代間の生活分離の程度が高かった。また,共同・分離のパターンは,大都市でより多様であった。多重ロジスティック分析の結果も,都市規模が空間,食事,家計の共同に有意もしくは有意に近い影響を及ぽしていることを示した。配偶者の有無と年収は,空間および家計の共同と有意な関連を示した。学歴と子ども夫婦の就労状況は空間の共同と,生活機能は家計の共同と有意な関連を示した。
結論 個々の領域における共同度が高い半面,全領域を共同にしている者が比較的少なかったことは,必要に応じて,あるいは必要に迫られて,部分的な生活の共同が選択されていることを示唆している。そのため領域ごとの関連要因には差異が認められ,共同・分離のパターンにも多様性をもたらしていると考えられる。
キーワード 高齢者,既婚子同居,生活の共同・分離,世代間関係,都市規模

 

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第48巻第11号 2001年10月

がん(成人病)専門医療施設に勤務する看護婦の禁煙指導の現況

田中 英夫(タナカ ヒデオ) 木下 洋子(キノシタ ヨウコ) 蓮尾 聖子(ハスオ セイコ)
増居 志津子(マスイ シヅコ) 木下 朋子(キノシタ トモコ) 中村 正和(ナカムラ マサカズ)
林田 美香(ハヤシダ ミカ) 友成 久美子(トモナリ クミコ)
大島 明(オオシマ アキラ) 近本 洋介(チカモト ヨウスケ)

目的 がん(成人病)専門医療施設に勤務する着護婦の日常診療における禁煙指導に関する意識と行動を明らかにする。
方法 大阪府立成人病センターに勤務する看護婦全員を対象に,無記名自記式の調査票を詰所(勤務部署)単位で2週間留め置き,回収した。調査票の質問項目は,同センターの看護婦31人を対象に行った禁煙支援をテーマとしたフォーカスグループインタピューの分析結果を元に作成 した。367人(有効回答率93%)から回答を得た。
結果 初診時または新規入院患者に対して喫煙状況の確認をしていた者は対象者の91%であった。患者への禁煙指導方法はタバコの害を伝えるものが中心で,1 回の指導時間は5 分以内の者が 71%を占めた。禁煙指導に関する自己効力感が高い看護婦ほど1回の禁煙指導時間が長く,また,禁煙に関心のある患者に対して禁煙方法を助言する頻度が高かった。禁煙指導に関する自己効力感の高さは,過去の禁煙指導に対する手応えや満足感,禁煙指導方法の教育歴と有意な関連を示し,看護婦の年齢や勤務場所,自己の喫煙習慣とは有意な関連がみられなかった。禁煙指導の阻害要因は「時間がないこと」とする者が最も多く(46%),促進要因は「患者向け禁煙教材」(64%),「健康上のメリットを示す疫学データ」(52%)とする者が多かった。 結論がん(成人病)専門医療施設に従事する看護婦の禁煙指導方法は,タバコの害を伝えるものが中心であった。今回みられた禁煙指導行動と自己効力感との関連,および自己効力感と看護婦の属性との関連の検討から,禁煙指導方法の研修などを通じて,禁煙指導を提供することに関する自己効力感を高めることが、看護婦の禁煙指導の改善につながると推察した。
キーワード 看護婦,禁煙指導、自己効力感

 

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地域在宅高齢者の社会活動に関する要因

佐藤 秀紀(サトウ ヒデキ) 佐藤 秀一(サトウ シュウイチ) 山下 弘二(ヤマシタ コウジ)
山中 朋子(ヤマナカ トモコ) 柴田 ミチ(シバタ ミチ)
鈴木 幸雄(スズキ ユキオ) 松川 敏道(マツカワ トシミチ)

目的 本研究は,青森県内に在住する在宅高齢者を対象に,今後の高齢者に対する社会活動の活性 化の指針を得ることをねらいとして,彼らの社会活動(社会的活動領域,学習的活動領域,個人的活動領域)に着目し,その活動と個人の基本的属性との関連性について検討した。
方法 調査地域は,青森県内67市町村とし,調査対象は層化多段無作為抽出法により65歳以上の高齢者3,000人を抽出した。調査は食生活改善委員による配票留置法によって実施した。配布した調査票は,原則として本人あるいは同居家族の自記入とした。なお,調査対象者の98.3%にあたる2,948人より回答が得られた。
結果 1)社会的活動領域の関連要因は,年齢,配偶者の有無,家族形態,健康度自己評価,体力自 己評価について認められた。2)学習的活動領域の関連要因は,性別,年齢,配偶者の有無,家族形態,健康度自己評価,体力自己評価について認められた。3)個人的活動領域の関連要因は, 性別,年齢,配偶者の有無,家族形態,健康度自己評価,体力自己評価について認められた。
結論 高齢期に身体機能が低下してきている場合においても,できるだけ自発的に参加することができるよう,高齢者の利用にできるだけ配慮した公的施設整備を行うとともに,高齢者の活動範囲全体をカバーするよう高齢者に配慮したまちづくりを総合的に推進することが必要である。また,施設といったハード面の整備だけでなく,高齢になっても活動しやすい道路や公共交通 手段や社会活動支援のための情報提供・相談,多様な活動メニューの実施等,高齢者の社会参加を支援する地域社会づくりが重要であるものと示唆される。
キーワード 高齢者,社会活動

 

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第48巻第11号 2001年10月

地域集団の健康関連QOL

井手 宏明(イデ ヒロアキ) 平尾 智広(ヒラオ トモヒロ) 橋本 眞澄(ハシモト マスミ)
安原 智江(ヤスハラ トモエ) 星川 洋一(ホシカワ ヨウイチ) 直島 淳太(ナオシマ ジュンタ)
福永 一郎(フクナガ イチロウ) 實成 文彦(ジツナリ フミヒコ)

目的 本研究の目的は,EuroQol (EQ-5D) 5項目法の自治体レベルにおける有用性と限界について知見を得ることである。
方法 A県在住の20歳以上の男女3,000人を対象に,EuroQol (EQ-5D) 5項目法を含む自記式質問票による調査を行い1,519人から回答を得た。このうち5項目すべてに回答した1,479人を分析 対象とし,換算表Basic Tariff A1を用いて,死亡が0 ,完全な健康を1 とした場合の効用値, HRQOLスコアを算出した。
結果 全体の回収率は50.6%であるが,回収者のうち(EQ-5D) 5項目のすべてに回答した人は97.4 %と良好であった。求めた健康関連QOL (HRQOL) スコアは,年齢階級が高くなるにつれて低値となり,最近1か月の健康状態や日常生活の質への満足度の程度に応じて変化した。 Euro-Qol (EQ-5D) 5項目のうち,「痛み/不快感」,「不安/ふさぎ込み」では,他の項目に比べて若年者でも問題を持つ人が多かった。
結論 EuroQo (EQ-5D) 5項目法は,その簡便性から郵送による調査や他の調査との併用も容易で,住民の健康状態を測定するツールとして有用である。算出したHRQOLスコアは、政策レべ ルにおけるベンチマーク指標として用いられるが,具体的な施策,執行計画につなげるためには,有病や障害の種類に関するデータとリンクさせた分析を行い,健康度を低下させている要因を明らかにする必要がある。
キーワード 健康関運QOL, EuroQol (EQ-SD) 5項目法,地域集団

 

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第48巻第11号 2001年10月

保健統計におけるレコードリンケージの実施可能性

橋本 修二(ハシモト シュウジ) 川戸 美由紀(カワド ミユキ) 松村 康弘(マツムラ ヤスヒロ)
小栗 重統(オグリ シゲノリ) 岡山 明(オカヤマ アキラ)
中村 好一(ナカムラ ヨシカズ) 柳川 洋(ヤナガワ ヒロシ)

目的 保健統計における個人単位のレコードリンケージの実施可能性を整理するとともに,国民生活基礎調査と国民栄養調査の間でその実施可能性を確認した。
方法 個人を調査客体とする24の保健統計を対象とした。調査対象と調査法に基づいて,同一統計の年次間,異なる複数の統計間における個人単位レコードりンケージの実施可能性を整理した。 1995年の国民生活基礎調査と国民栄養調査を,都道府県・地区・単位地区・世帯・性・出生年月をキー項目として,個人単位でレコードリンケージした。
成績 個人単位レコードリンケージの実施可能性を有する保健統計としては,同一統計の年次間では,医師・歯科医師・薬剤師調査,老人保健施設調査,訪問看護統計調査が挙げられた。異なる複数の統計間は,国民生活基礎調査とその調査対象世帯1比帯の一部を調査対象とする13の統計の間,および,患者調査と受療行動調査の間が挙げられた。国民栄養調査の調査世帯員の中で,国民生活基礎調査とリンクできた者は93.2%であった。全キー項日の一致したリンク候補が複数あるためにリンクできなかった者は0,3%で,ほとんどが29歳以下であった。リンク候補がないためにリンクできなか-。た-者は6.5%で,リンクできた者と比べて29歳以下と70歳以上の割合が大きかった。
結論 個人単位レコードリンケージの実施可能性を有する保健統計を示した。国民栄養調査のほとんどの調査世帯員は,国民生活基礎調査と個人単位でレコードリンケージ可能であった。
キーワード 保健統計,レコードリンケージ,国民生活基礎調査,国民栄養調査

 

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第48巻第13号 2001年11月

全国の市町村における疫学研究と個人情報保護に関する検討の現状

尾島 俊之(オジマ トシユキ) 多治見 守泰(タジミ モリヒロ) 大木 いずみ(オオキ イズミ)
中村 好一(ナカムラ ヨシカズ) 柳川 洋(ヤナガワ ヒロシ)

目的 全国の市町村における疫学研究の実施状況および個人情報保護に関する検討の現状を明らかにすることを目的とした。
方法 全国の3,251全市町村を対象として自記式郵送調査を実施した。
結果 全国の88.0%の市町村は何らかの調査を行っていた。それらの市町村での個人情報保護に関する検討の方法は,担当者内での検討67.9%,文書の決裁28.8%. ,住民代表の入らない協議会 2.1%,住民代表の入った協議会8.5%,市町村の条例に基づく審議会等2.6%,研究機関等の倫理審査委員会0.7%,その他の方法2.0%,いずれも実施したことがない20.2%であった。
結論 市町村において調査研究を行う際,今後は,最低限,文書の決裁を行うこと,また,住民代表の入った協議会,市町村の条例に基づく審議会等,また,倫理審査委員会等の場での検討を行う市町村が増加する必要が有ると考えられる。
キーワード 市町村,疫学研究,調査研究,個人情報保護,倫理審査,情報

 

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第48巻第13号 2001年11月

集団健康教育の評価

-糖尿病予防教室を事例として-
藤村 貴枝(フジムラ タカエ) 西村 洋子(ニシムラ ヨウコ)
中本 稔(ナカモト ミノル) 原田 規章(ハラダ ノリアキ)

目的 従来行われてきた集団健康教育は,十分な動機づけや対象者の選定がなされないまま,保健所及び市町村において試行錯誤を繰り返しながら実施してきた。そのため対象者の特性に合った指導が必ずしも容易ではなく,教育効果も明らかになりにくいと指摘されてきた。実際,日常業務の中で行われている評価活動の多くは,教室参加者の感想を聞くアンケート調査や,参加者の検査値の変化,行動変容の有無等を調査したものが多い。本稿では,集団健康教育としての糖尿病予防教室について,予防教育の効果の有無を日常の健診結果の変化を評価指標とし,コントロール群を設定して検討した。
方法 Y県のA町とB市における基本健康診査受診者の中から,糖尿病予防教室受講者24人(受講群)と,受講しなかった者48人(コントロール群)を1対2のマッチング法で抽出し,糖尿病予防教室の効果を受講前と受講後の健診結果で比較検討した。統計学的検定は,対応のあるt 検定を行い,5%の危険率で有意と判定した。
結果 2市町とも受講群は,受講前に比べ受講後のHbA1cの平均値が有意に低ドし,A町ではコントロール群においても有意な低下がみられた(pくO.O5)。 A町ではさらに,受講群のみに体重,BMIも有意に低下していた(p <0.05)ことから,教育効果があったと考えられた。A町において,受講群,コントロール群ともにHbA1cの平均値が有意に下がっていたことは,予防教室受講の有無に関わらずに血糖値を下げる保健行動を住民自らが取っていたと考えられ,その要因は,健診結果の通知方法の差異と推測された。
結論 保健活動の実践場面において,集団健康教育の効果を厳密に評価するには多くの困難を伴い,このことが実践の中に評価活動が位置づかない理由となっている。基本的属性やHbA1c値をマ ッチングしたコントロール群を健診受診者から抽出し,その結果を両群で比較検討することは, 日常業務の中で実施可能な集団健康教育の評価方法であると考えた。
キーワード 健康診断,糖尿病予防教室,教育効果,HbA1c,マッチング

 

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第48巻第13号 2001年11月

在宅療養高齢者の看取り場所の希望と
「介護者の満足度」に関連する要因の検討

-終末期に向けてのケアマネジメントに関する全国訪問看護ステーション調査から-
樋口 京子(ヒグチ キョウコ) 近藤 克則(コンドウ カツノリ) 牧野 忠康(マキノ タダヤス)
宮田 和明(ミヤタ カズアキ) 杉本 浩章(スギモト ヒロアキ)

目的 高齢者一人ひとりの「死の迎え方」(肴取り方)の希望を尊重するケアが求められている。「介護者の満足度」でターミナルケアの質を評価した場合,自宅で死亡することは常に質が高いと言えるのか,どのようなケアが質を高めるのかを1り1らかにする目的で, 介護者の「死の看取り方」の希望やケアマネジメントに着目して実際の死亡場所と「介護者の満足度」に関連する要因を検討した。
方法 1998年8月現在の全国の訪問看護ステーション全数2,935のうち,「調査に協力する」とした 856ステーション(29.2%)に質問紙を郵送した。 高齢者や介護者の「死の迎え方」(看取り方) の希望や実際の死亡場所,ケア過程,看護者が推定した「介護者の満足度」(5段階)等を含む 調査票への記載を訪問担当看護者に依頼した。427ステーションから回答が得られ(回収率49.9 %),訪問看護を受けた後1999年9月から11月の3 か月間に死亡した65歳以上の高齢者1,305人 を分析対象とした。
結果 在宅療養高齢者の平均年齢は82.8歳,在宅死亡割合(在宅死亡人数/総死亡入数)は,50.4 %(658人/1,305人)であった。た。入院理由は,呼吸困難や急変などの医学的理由が73%であっ た。「介護者の満足度(5段階)」の平均±標準偏差は3.7±1.2で,「自宅で死にたい」かどうかについての「本入の希望」より「介護者の希望」により強く関連していた。自宅死亡で常に介護者の満足度が高いとは限らず,介護者が病院を希望していたが「自宅で死亡」した場合には,「介護者の満足度 は2.8±1.2で,病院に入院して死亡した群よりも低かった(p= 0.03)。 また,丁寧なケアマネジメントの実施が「介護者の満足度」に影響を及ぽすことが推察された。 たとえば,自宅を希望し「病院で死亡した人で見ると,満足度が4~5段階と高かった群で, 在宅療養を希望した理由の実現度(5段階)が高かったこと(4.1 vs 3.2, p<0.01),段階的な死の教育を行い(77.4% vs 45.5%, p=0.O4),看取リ場所の希望の再確認(93.8% vs 63.6 %, p=0.02) をしていた人が有意に多かった。
結論 高齢で介護力があリ,訪間看護者が在宅で看取ることに積極的である場合,①訪問看護を受 けていた在宅療養高齢者が終末期前後に入院する最大の理由は医学的理由であり,自宅で死亡 するとむしろ「介護者の満足度」が低い場合も見られ,自宅死亡は病院死亡よりも質が高いと一概には言えないことが占された。②「介護者の満足度」は,高齢者本人および介護者をアセ スメントし,「死の迎え方(看取り方)」の希望に基づきゴールを設定すること,終末期から臨死期の経過を予測し,家族への段階的な死の教育や「看取り方」の,再確認など,ケアマネジメ ントを丁寧に実施することで,高められる可能性が示唆された。
キーワード 在宅高齢者,訪問看護,ターミナルケア,ケアマネジメント,介護者,満足度

 

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第48巻第13号 2001年11月

白血球数が糖尿病の発症に及ぼす影響

-壮年期男子勤労者における検討-
中西 範幸(ナカニシ ノリユキ) 岡本 光明(オカモト ミツハル) 仁科 一江(ニシナ カズエ)
李 文娟(リ ブンケン) 中島 和江(ナカジマ カズエ) 福田 英輝(フクダ ヒデキ)
村上 茂樹(ムラカミ シゲキ) 高鳥毛 敏雄(タカトリゲ トシオ) 多田羅 浩三(タタラ コウゾウ)

目的 白血球数が糖尿病の発症に及ぽす影響を明らかにするため,定期健康診断で測定された白血球数を用いて白血球数と糖尿病の発症との関連について検討した。
方法 1994年5 月に定期健康診断を受診し,空腹時血糖値が1O9mg/dl以ドを示した者で糖尿病と高血圧の治療歴を持たない35~59歳男子事務系勤務者1,300人を観察コーホートに設定し,2000年5月までの6年間における糖尿病の発症を調査した。糖尿病の診断は空腹時血糖値が110~125 mg/dlをIFG(impaired fasting glucose),空腹時血糖値が126mg/dl以上,あるいは糖尿病用剤服薬を2型(インスリンり非依存性)糖尿病とした。
結果 6年間におけるIFG,および2型糖尿病の発症率は25.7/1,000人年であり,2型糖尿病の発症率は10,5/1,000人年であったた。コーホート設定時の年齢,Body mass index,糖尿病の家族歴, 飲酒,運動,収縮期血圧,高比重リポ蛋白コレステロール,トリグリセライド.尿酸,ヘマトクリット,空腹時血糖値を調整したI FG,および2型糖尿病発症のハザード比は,白血球数の増加にともない有意に高値を示したが,喫煙を追加し調整すると白血球数とIFG,および2型糖尿病発症との間には有意な関連をみとめなかった。2型糖尿病発症と白血球数との関連においても同様の結果であった。喫煙状況別にみると,非喫煙者では白血球数の増加にともないIFG,および2型糖尿病発症のハザード比は高値を示し,白血球数が「-~5.39 10^3/mm^3」を1. 0とする 「 5,40~6.19 1O^3/mm^3」, 「6.2~7.39 10^3/mm^3」, 「7,40~ 10^3/mm^3』の調整ハザード比はそれぞれ1.16 [95%信頼区間(CI):0.56-2.41」, 1.68 (95%CI :0,84-3.37)、 2.39 (95%C1:1.14 -5.02)であった(Test for trend:p = 0.015)。一方,喫煙者においては白血球数とIFG,および2型糖尿病発症との間に有意な関連をみとめなかった。
結論 白血球数の増加はIFG,および2型糖尿病の発症と密接な関連を有しており,とくに非喫煙者ではその傾向が顕著であった。
キーワード 白血球数,impaired fasting glucose, 2型糖尿病,壮年期,男子勤労者,コーホート研究

 

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第48巻第15号 2001年12月

東京都の離島における中高生の飲酒行動に関する調査

小林 冬子(コバヤシ フユコ) 大井田 隆(オオイダ タカシ)

目的 東京都の離島、A島において,平成10年度に子どもの飲酒に関する実態調査が養護教諭らによってて行われた。その調査では,A島は飲酒に寛容であり,その飲酒環境による弊害が子ども たちにも影響を及ぽしている可能性があると推測している。しかし,その実態調査の結果は, A島特有のものであるのかは不明である。そこで今回,A島の状況を客観的に判断するために, 全国調査と1同様のアンケート調査を実施し,更に,中学校と高等学校の養護教諭へのインタビ ュー調査とあわせて,A島における未成年者の飲酒行動や保健室から見た現状を客観的に検討し,A島におけるアルコール依存症の一次予防に役立てることを目的とした。
方法 1. 養護教諭へのインタビュー調査 今回「未成年の飲酒行動に関するアンケート調査」 に協力 してもらった中学校全4校と,高等学校全1校の養護教諭5人に行った。調査期間は平成13年1月11日から平成13年1月12日であった。
2. 未成年の飲酒行動に関するアンケート調査 東京都A島にある全ての中学校及び高等学校の生徒を対象とした。調査期間は,平成12年11月1日~平成12年11月30日であった。
結果 アンケート調査の結果から,①A島の中高生の飲酒率は,全国調査と比較して大きな差はな かった,②飲酒頻度と飲酒量との関連において,飲酒頻度が高く飲酒量も多い,リスクの高い飲酒をしているものが24.5%であった,③飲酒を親に見つかっても叱られたことのないものが 81.4%であった,④初めて飲酒した年齢について,「8歳以下」と回答したものの割合が,全国調査より高かった,ということがわかった。また,インタビュー調査の結果から,①飲酒問題を指導する上で,親の意識を問題視しており,その背景には,A島の飲酒に寛容な環境がある と考えている,②飲酒教育を行うには,養護教諭自身の意識の持ち方が影響する,③飲酒問題に関して,関係機関のネットワークの必要性を感じている,ということがわかった。
結論 A島が特にアルコールに対して寛容な環境であると断言はできないが,親は子ども達の飲酒に対して寛容であると推1則される。今後,親自身が子どもの飲酒に対してどのように考えているか意識調査が必要といえる。また,リスクの高い飲酒をしている中高生に対し,具体的にどのような指導や支援を行っていくのか,更なる調査及び検討が必要である。そして,地域全体でアルコール関連問題に対応していくための,ネットワークづくりが重要な課題といえる。
キーワード 飲酒問題,未成年,離島,ー次予防

 

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第48巻第15号 2001年12月

都道府県別にみた飲酒率と疾患別年齢調整死亡率の相関

旭 伸一(アサヒ シンイチ) 多治見 守泰(タジミ モリヒロ) 大木 いずみ(オオキ イズミ)
尾島 俊之(オジマ トシユキ) 中村 好一(ナカムラ ヨシカズ) 岡山 明(オカヤマ アキラ)
松村 康弘(マツムラ ヤスヒロ) 柳川 洋(ヤナガワ ヒロシ)

目的 わが国における飲酒率の地域差,および飲酒率と疾患別死亡率の地域差を観察することにより,飲酒の健康影響を明らかにする。
方法 都道府県別飲酒率は1986年から1995年までの10年聞の国民栄養調査の結果を用いた。都道府県別に飲酒率の年齢調整を間接法で行い,飲酒者指数(観察数/期待数)を用いて,地域特性 を観察した。また人口動態統計特殊報告(1995年)を用いて,飲酒者指数と疾患年齢調整死亡率との相関係数を性別に観察した。
結果 男の飲酒者指数は秋田,宮崎,青森で高く,徳島,沖縄,埼玉で低かった。男の飲酒者指数 の分布範囲は0.87(徳島)から1.26(秋田)であった。女の飲酒者指数は,東京,北海道,大阪で高く,鳥取,香川,三重で低かった。女の飲酒者指数の分布範囲は0.18(鳥取)から1.60(東京) であった。飲酒者指数と疾患別年齢調整死亡率の間に強い正の相関が見られた死因は,男では脳血管疾患,脳梗塞,不慮の事故,不慮の溺死及び溺水,自殺であり,女では結核,悪性新生物,気管・気管支及び肺の悪性新生物,虚血性心疾患,肺炎,肝疾患であった。飲酒者指数と 疾患別年齢調整死亡率の間に強い負の相関が見られた死因は,男では虚血性心疾患であり,女では老衰,不慮の事故,交通事故,不慮の弱死及び弱水であった。
結論 女の飲酒者指数の傾向は喫煙者指数の傾向にほぼ一致し,北海道と大都市に高かった。飲酒者指数と各疾患別死亡率の相関から,脳血管疾患死亡率,虚血性心疾患死亡率,一部の悪性新生物死亡率,および外因死死亡率への影響が存在すると推定された。
キーワード 都道府県別飲酒者指数,死因別年齢調整死亡率,相関係数

 

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第50巻第1号 2003年1月

高齢者施設における日常生活援助サービスの質の評価

中嶋 和夫(ナカジマ カズオ) 矢嶋 裕樹(ヤジマ ユウキ)
嚴 基郁(オム キウク) 岡田 節子(オカダ セツコ)

目的 本調査研究は,高齢者施設が利用者に提供している日常生活援肋サービスの質を,施設関係者が自己評価するための尺度開発を目的とした。
方法 調査対象はS県全域の高齢者関連施設175か所のうち,協力が得られた120施設各3人(施設経営者,生活指導員,寮母主任)の計360人とした。調査期間は平成13年1月から同年3月までの2か月間であった。尺度開発にあたっては、まず調査項目の内部一貫件の吟味を行ったのち,内容的妥当性を探索的因子分析で,また構成概念妥当件を確証的因子分析で検討した。また,開発できた尺度の総合得点と対象者の属性(性,年齢,職層,勤務年数)との関連性は共分散分析により検討した。
結果 欠損値を有きない290人のデータから,解析に貢献する内部一貫性の高い36項目を選定した。その探索的因子分析の結果,施設サービスの質の評価内容として,「バス・トイレ」「自立促進」「選択の自由」「レクリエーション」「痴呆性高齢者への対応」「食事」の6因子が抽出された。次いで,確証的因子分析の結果,前記6因子がより高次の「日常生活援助サービス」因子に集約される二次因子モデルが,データに十分適合することを明らかにした。前記6因子に所属する18項目のα信頼性係数は0.864であった。なお,共分散分析の結果,本尺度の総合得点は年齢とのみ有意を関連性を有していたものの,その寄与率はわずか9.1%であった。
結論 前記解析の結果,妥当性と信頼性を十分に兼ね備えた「日常生活援助サービス自己評価尺度」が開発できた。また,本尺度の評価結果は評価者の属性による影響,すなわち評価者バイアスを最小限にとどめうるものと推察された。本尺度は自主的に施設サービスの向上を図っていく上で,また利用者と施設間のコミュニケーションを密なものにしていく上で,有用な情報を提供するものと期待される。
キーワード 高齢者施設,日常生活援肋サービス,自己評価,妥当性,信頼性

 

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第50巻第1号 2003年1月

OECD A System of Health Accounts準拠の
国民保健計算に関する研究

坂巻 弘之(サカマキ ヒロユキ) 石井 聡(イシイ サトシ) 久保田 健(クボタ ケン)

目的 経済開発協力機構(OECD)により作成された「国民保健計算NationalHealth Account(NHA)」の推計方法である「国民保健計算の体系A System of Health Accounts(SHA)」に準拠したわが国の1998年度(平成10年度)の保健医療支出の推計を行うとともに,国際的にみたわが国の保健医療支出推計における課題を検討した。
方法 SHAマニュアルに基づき,平成10年度版「国民医療費」および各種衛生関係公表資料を用い,推計を行った。
結果 1998年度の「総保健医療支出Total Heath Expenditure」の推計値は,約36兆6580億円であった。このうち,「設備投資分」2兆2171億円を除いた「総経常保健医療支出」は約34兆4409億円であった。この値を1998年度の国民医療費との比較でみると,国民医療費は約29兆8000億円であり.総保健医療支出では約23%,総経常保健医療支出で約15%多い金額であった。
結論 国際基準に基づく国民保健計算の推計手法を確立したことにより国際比較の質についての改善が図られ,多次元テーブルでの推計値は医療行政の政策利用の可能性をより高めることができた。今後も,保健医療皆支出の多岐にわたる分析を踏まえた医療制度改革の方向性を検討することが重要であり,継続的な研究が必要と考えられた。
キーワード 保健医療支出,国民保健計算,国民医療費,OECD,A System of Health Accounts(SHA)

 

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第50巻第1号 2003年1月

地域保健事業報告における特定疾患医療受給者情報の利用

太田 晶子(オオタ アキコ) 仁科 基子(ニシナ モトコ) 柴崎 智美(シバザキ サトミ)
渕上 博司(フチガミ ヒロシ) 永井 正規(ナガイ マサキ)

目的 地域保健事業報告の特定疾患医療受給者の情報を用いて,受給者数,その性差,地域差などの記述疫学的特徴を観察するとともに、地域保健事業報告をもとにした情報がこれまでの受給者調査から得られた情報をどこまで代用できるかを考察する。
方法 資料として,1997~99年度の地域保健事業報告の受給者の情報と1997年度受給者調査報告を用いた。地域保健事業報告における1997-99年度の全受給者数,性別,都道府県別,疾患別などの受給者数,及びその年次推移を観察し,その記述疫学的特徴について,1997年度受給者調査報告におけるそれと比較した。
結果 地域保健事業報告における1997年度末現在の特定疾患医療受給者総数は393,417人,男性155.957人,女性237,460人,性比(男/女)0.66であった。受給者は同年度未から1999年度未までの2年間で44,920人(1.11倍)増加した。都道府県別には,人口10万対の受給者数は,北海道,岡山県,高知県などで高く,岐阜県 山梨県,茨城県などで低かった。1997年度に報告された受給者数が最も多い疾患は,潰瘍性大腸炎51,618人で,ついでパーキンソン病45,304人,全身性エリテマトーデス44,699人であった。1999/1997年度受給者数比は,混合性結合組織病1.29が最も大きく,難治性の肝炎のうちの劇症肝炎0.48,重症急性膵炎0.65などが小さかった。1997年度の地域保健事業報告における記述疫学的特徴は1997年度受給者調査のそれとほほ同様であった。
結論 地域保健事業報告は,受給者について,性別,年齢別,都道府県別,疾患別あるいは疾患ごとの基本的な実態を経年的に簡便に観察できる有用な資料であると考える。
キーワード 難病,医療受給者,地域保健事業報告,受給者調査,記述疫学

 

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第50巻第1号 2003年1月

糖尿病患者における生活習慣,健康行動と医療費との関連

佐藤 満(サトウ ミツル) 服部 幸應(ハットリ ユキオ)
神田 晃(カンダ アキラ) 川口 毅(カワグチ タケシ)

目的 糖尿病患者における生活習慣,健康行動と医療費との関連を明らかにするため,コンピュータドック((財)全国保健福祉情報システム開発協会)ならびにレセプトを用いて分析した。
方法 対象者は,M県ほか2県の政府管掌健康保険及び国民健康保険加入者12,725人のうち,40歳から69歳の者で,そのうち糖尿病あり92人,糖尿病その他の疾患のない者1,802人,計1,894人を分析対象とした。
結果 糖尿病群で肥満ありの率は26,1%と対照群の18.9%に比較して肥満者が多い傾向が認められた。肥満あり群の医療費が肥満なし群の医療費に比較して高い傾向が認められたのは,糖尿病群の60歳代と対照群の40歳代で,ほかはいずれも肥満なし群の医療費は肥満あり群に比較して低い傾向がみられたが有意差は認められなかった。
検診と医療費との関連については,全体では検診受診ありが,検診なしに比較して医療費が低い傾向が認められた。これを年齢別にみると,糖尿病群の40歳代においては有意差が認められた(P<0.05)。
喫煙ありの率は.糖尿病群では44.6%と対照群の36.1%に比較して高い傾向が認められた。また,煙草をやめた率も,糖尿病群は26.1%と対照群の16.4%よりも有意に高かった(P<0.05)。糖尿病群ではすべての年齢階層において,喫煙ありがなしに比較して医療賓が高い傾向が認められたが,いずれも有意差は認められなかった。
運動習慣については,40歳代で運動ありがなしよりも医療費が有意に低かった(P<0.05)。食習慣については,糖尿病群では乳製品,卵,主食ならびに海藻類について,毎日,または週2回以上と食べる頻度の高い方が,ほとんどとらない群に比較して医療費が高い傾向が認められた。逆に,食べる頻度が少ない方の医療費が高い傾向が認められたのは,肉魚,淡色野菜,果物,芋類であった。
対照群においては,毎日または週2回以上と食べる頻度の高い群が低い群に比較して医療費が高い傾向が認められたのは,乳製品のほか大豆製品,淡色野菜,緑黄色野菜,果物であった。逆に,頻度の少ない群において医療費が高い傾向が認められたのは,卵および肉魚であった。なお,有意差が認められたのは糖尿病群の40歳代の主食だけであった(P<0.05)。
医療費を目的変数とした数量化理論Ⅰ類による分析の結果,糖尿病群,対照群のいずれにおいても,検診受診の有無のアイテムレンジが大きかった。カテゴリースコアについては,検診受診なしは医鰊費の正の方向を,検診受診ありは負の方向を示した。また,糖尿病群においては,煙草をやめた者が医療費の正の方向を,果物を「ほとんどとらない」は正の方向を,「週2回以上とる」は負の方向を示した。逆に油脂類や海藻類については.「ほとんどとらない」が医療費の負の方向を示した。対照群においては,淡色野菜や緑黄色野菜を「ほとんどとらない」が,医療費の負の方向を示した。
結論 生活習慣,健康行動と医僚費の間に様々な関連が認められ,特に検診受診の影響が大きかった。
キーワード 糖尿病,医療費,レセプト,生活習慣,健康行動

 

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第50巻第1号 2003年1月

都道府県別喫煙率,飲酒率と疾患別死亡率の関係

-偏相関係数を用いた解析-
旭 伸一(アサヒ シンイチ) 渡邊 至(ワタナベ マコト) 多治見 守泰(タジミ モリヒロ)
大木 いずみ(オオキ イズミ) 尾島 俊之(オジマ トシユキ) 中村 好一(ナカムラ ヨシカズ)
小栗 重統(オグリ シゲノリ) 岡山 明(オカヤマ アキラ)
松村康弘(マツムラ ヤスヒロ) 柳川 洋(ヤナガワ ヒロシ)

目的 わが国における都道府県別喫煙率,飲酒率と疾患別年齢調整死亡率の関係を喫煙率,飲酒率相互の交絡を調整して観察する。
方法 都道府県別喫煙率と飲酒率は1986年から1995年までの10年間の国民栄養調査の結果を用いた。都道府県別に喫煙率と飲酒率の年齢調整を間接法で行い.指数(観察数/期待数)として求めた。喫煙者指数と飲酒者指数の相関を男女別に観察した。また,人口動態統計特殊報告(1995年)を用いて,喫煙者指数および飲酒者指数と疾患別年齢調整死亡率との偏相関係数を男女別に観察した。
結果 飲酒の影響を除いた喫煙者指数と疾患別死亡率の関係は,男の膵の悪性新年物,老衰,交通事故死亡率で有意を正の相関を示し,白血病,慢性リウマチ性心疾患及び慢性非リウマチ性心内膜炎,脳内出血,胃潰瘍及び十二指腸潰瘍で有意な負の偏相関を示した。喫煙の影響を除いた飲酒者指数と疾患別死亡率の関係は,男の食道の悪性新年物,白血病,慢性リウマチ性心疾患及び慢性非リウマチ性心内膜炎,脳血管疾患,脳内山血,脳梗塞,不慮の事故,不慮の溺死及び溺水,自殺,女の大腸の悪性新生物,結腸の悪性新生物,肝疾患で有意な正の偏相関を示し,男の虚血性心疾患,女の交通事故,不慮の事故で有意な負の偏相関を示した。女の喫煙で有意な項目は観察されなかった。
結論 偏相関係数の観察結果から,女では喫煙の影響を除いた飲酒率と大腸癌,肝疾患死亡率は有意な正の相関を示した。また,男では飲酒が虚血性心疾患死亡率に予防的効果を示し,脳血管疾患死亡率に悪影響を示すと推測され.今後の検討が必要である。
キーワード 喫煙率,飲酒率,死因別年齢調整死亡率,偏相関係数,国民栄養調査

 

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第50巻第2号 2003年2月

過疎地域における老人保健福祉サービスと社会経済的要因との関係

佐藤 秀紀(サトウ ヒデキ)

目的 本研究は,ホームヘルプ・デイサービス・ショートステイの供給量である年間利用実人数の3指標を用いて,全国すべての市町村における老人保健福祉サービスの実績についての総合的な評価方法を検討し,あわせてそのサービス事業実績と全国3,255市町村における自治体格差の社会経済的な成因との関連性,過疎地域特性との関連性について検討することを目的とした。
方法 まず,ホームヘルプ・デイサービス・ショートステイの事業実績と人口統計,経済状況,医療供給実態に関する17指標との関連性について,増減法による重回帰分析を用いて検討した。次いで,過疎地域分類群と,「在宅サービス総合指棟」との関連性についてt検定で検許した。
結果 その結果,「在宅サービス総合指標」における市町村格差は,「財政力指数」,「年齢別人口構成比(65歳以上)」,「年齢別人口構成比(15-29歳)」,「産業3部門別就業人口比(第2次産業)」が関連していることが認められた。
また,65歳以上人口100人当たりホームヘルプ年間利用日数,同デイサービス年間利用日数,同ショートステイ年間利用日数及び「在宅サービス総合指標」は過疎地域分類群によって有意な違いが認められた。
結論 老人保健福祉サービスの市町村間格差は,過疎化の進行状況のみならず,高齢化,財政事情,産業構造などの相違によって生じていることが示唆された。このことは.地域によって問題の現れ方が全く異なり,必要な対策も異なることを意味しているものと思われる。
キーワード 過疎地域,老人保健福祉サービス,市町村格差,社会経済的要因行った。

 

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第50巻第2号 2003年2月

1976-1994年の太陽活動が
日本人の自殺死亡率に及ぼした影響

大津 暁子(オオツ アキコ) Stephan Morgenthaler 
因 正信(チナミ マサノブ) 白川 太郎(シラカワ タロウ)

目的 1976-1994年において太陽活動が日本人の自殺死亡率に及ぼした影響を明らかにする。
方法 1976-1994年の日本の月別男女別年齢調整自殺死亡率および自殺死亡率に影響を及ぼすと仮定した社会・環境因子として相対黒点数.FlO.7cm flux(太陽から放射され地上で観測された電磁波),日本の完全失業率,日本の企業倒産件数を用い,全変数に自己回帰和分移動平均分析を行い系列と残差を求めた。これらの全変数のすべての組み合わせについて,原系列,系列,残差のそれぞれにおけるピアソンの積率相関係数を算出した。
結果 原系列の相関分析の結果,相対黒点数と男女の年齢調整自殺死亡率ないし経済変数(完全失業率,企業倒産件数)の間に有意な負の相関がみられた。経済変数(完全失業率,企業倒産件数)と男子の年齢調整自殺死亡率の間および企業倒産件数と女子の年齢調整自殺死亡率の間に有意な正の相関がみられた。更にFlO.7cm fluxと男女の自殺死亡率との問にも有意な負の相関がみられた。系列の相関分析では女子の死亡率と相対黒点数の相関以外は有意を相関が残存し,残差においては相関がほとんど消失した。
結論 太陽黒点活動は経済変数や自殺死亡率の短期の変軌に関連しなかった。
キーワード 男女別年齢調整自殺死亡率,太陽黒点数,失業率,企業倒産件数,FlO.7cm flux

 

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第50巻第2号 2003年2月

難病患者における保健福祉サービスの
利用状況とその在り方に関する検討

新城 正紀(シンジョウ マサキ) 川南 勝彦(カワミナミ カツヒコ) 簑輪 眞澄(ミノワ マスミ)
坂田 清美(サカタ キヨミ) 永井 正規(ナガイ マサキ)

目的 著者らは,全国レベルで難病患者個人の臨床情報,疫学・保健・福祉情報,予後情報を収集しデータベース化およびコーホート研究を行っている。今回は,1999年に実施したベースライン調査結果を基に,今後の保健福祉サービス(以下,公的サービス)の在り方について検討するため,公的サービス(ホームヘルパー,看護師,保健帥)の利用状況.医療機関への受診状況,サービスおよび現在の生活への満足度,病気への受容度,今後必要とするサービスについて,疾患別および日常生活動作別に把握することを目的とした。
方法 対象者は.全国の保健所のうち,本研究に調査協力可能であった35保健所管内における新規・継続の特定疾患医療受給者(1999年4月l日時点において受給資格を得ている者および,それ以降に受給資格を得る者)とした。
調査項目は,基礎情報一特定疾患治療研究事業医療受給申請書,疫学・福祉情報調査,日常生活動作,公的サービスへのニーズおよびディマンド調査をもとに,公的サービス(ホ-ムヘルパー,看護師,保健師)の利用状況,医療機関への受診状況,現在受けているサービスおよび現在の生活への満足度,今後必要とするサービス,病気への受容度とした。
調査方法は,各協力保健所が調査対象とした難病患者に対して,新規・更新の申請時に調査項目に関する面接調査を行った。ただし.面接調査が不可能な場合にのみ郵送調査を行った。
解析は,収集できた調査数の最も多かった6疾患(パーキンソン病,脊髄小脳変性症,筋萎縮性側索硬化症,重症筋無力症,潰瘍性大腸炎,全身性エリテマトーデス)について,口常生活動作別に各調査項目の実態を明らかにすることとした。
結果および考察 調査データが得られたのは30保健所(北海道から沖縄まで21都道府県)であり,回収率は57・7%(=2,059人:調査実施数/3,571人:調査予定者数)であった。そのうち,疫学・福祉情報調査,公的サービスへのニーズおよびディマンド調査への協力に同意しなかった者または回答拒否者496人(24.1%)を除いた全疾患の合計は1,563人(男:687人,女:876人)であった。このうち,解析対象とした6疾患の合計は1,211人(男:543人,女:668人)であった。
疾患別に公的サービスの利用割合をみると筋萎縮件側索硬化症が最も高く,ついでパーキンソン病,脊髄小脳変性症,重症筋無力症、全身性エリテマトーデス,潰癌性大腸炎の順であり,疾患の重症度に応じた公的サービスが提供されていると推察できるが,疾患ごとに公的サービスのニーズやディマンドが異なると考えられるので,詳細な分析が必要である。特に.筋萎縮性側索硬化症では往診・入院の割合も高かったことから,公的サービスおよび医療によるケアを必要とする疾患であると思われる。

 

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第50巻第2号 2003年2月

ケアマネジメント業務における介護支援専門員の
課題実施度に関する研究

綾部 貴子(アヤベ タカコ) 岡田 進一(オカダ シンイチ)
白澤 政和(シラサワ マサカズ) 岡田 直人(オカダ ナオト)

目的 本研究の第1の目的は,介護支援専門員がケアマネジメント業務における課題をどの程度実施しているのかを明らかにすることである。第2の目的は,ケアマネジメント業務における課題実施度を向上させる要因に,どのような要因が存在するのかを明らかにすることである。
方法 調査対象者は,大阪市に登録(平成13年1月現存)されている居宅介護支援事業者に所属している介護支援専門員810人である。調査方法は,自記式質問紙を用いた横断的調査で,質問紙の配布・回収は郵送で行われた。調査期間は,平成13年2月7日~3月9日で,有効回収率は,約46.0%(373人)であった。主な調査項目は,『介護支援専門員の基本属性』(7項目),『介護支援専門員のケアマジメント業務における課題実施度』(7領域・50項目)である。その『介護支援専門員のケアマジメント業務における課題実施度』尺度は,妥当性(内容的妥当性)および信頼性(内的一貫性)の検討がなされ,尺度としての使用は可能であることが確認された。
結果 F介護支援専門員のケアマネジメント業務における課題実施度』で,介護支援専門員が全般的にあまり行っていない領域は,「利用者や家族との居宅サービス計画の作成」鶴城および「評価」領域であった。課題実施度向上要因に関する分析では.「エントリー」領域での向上要岡は,「在宅介護支援センター勤務経験の有無」と「雇用形態」であり,「アセスメント」領域での向上要因は,「ケアマネジメント研修受給の有無」であった。さらに,「利用者や家族との居宅サービス計画の作成」領域での向上要因には,「専門領域」と「ケアマネジメント研修受誅の有無」とがあり,「居宅サービス計画作成での連続調整等」織機での向上要因には,「ケアマネジメント研修受講の有無」があった。
結論 このような結果を踏まえて,介護支援専門員が提供するサービスの質を向上させる方策に,以下のようなことが考えられる。介護保険制度の理念である利用者本位の考え方を推進していくためには,要介護高齢者やその家族とのコミュニケーションが十分に図れ,居宅サービス計画を高齢者や家族とともに作成できるように,介護支援専門員が時間的余裕を持てるような環境整備が求められる。また,本研究でケアマネジメント研修の有効性が確認されたことから,今後,重視されていくケアマネジメント評価についても,ケアマネジメント研修等において,具体的な方法を介讃支援専門員に教えられることが望まれる。
キーワード 介護支援専門員,課題実施度.ケアマネジメント,ケアマネジメント過程

 

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第50巻第2号 2003年2月

日本人習慣飲酒のコウホート分析

-国民栄養調査による-
那須 郁夫(ナス イクオ) 渡邊 寿子(ワタナベ ヒサコ)
中村 隆(ナカムラ タカシ) 堀内 俊孝(ホリウチ トシタカ)

目的 国民栄養調査資料を利用して,飲酒習慣データをコウホート分析し,国民レベルでの飲酒実態を俯瞰的に把握することを目的とする。
方法 資料は,昭利61年から平成12年までの,国民栄養調査報告における飲酒の習慣がある者の割合である。男女別に,6年齢階級(20-29歳から70歳以上まで)×15回の調査時点の配列からなるコウホート表を作成し,3次元グラフと等計量線図による視覚化と,中村のペイズ型コウホートモデルによる時代・年齢・コウホートの3効果への分離により検討を加えた。
結果 男件の習慣飲酒は,年齢に依存して変化する伝統的な様相が示された。昭和20年代以降に生まれた男性では世代が新しく若いほど習慣飲酒率が低下していた。女性では,時代が進むにつれて全年齢において上昇していた。特に男性とは逆に,昭和30年代以降生まれの世代では習慣飲洒率が一貫して上昇していた。
結論 男性の習慣飲酒はほぼ上限に達しており,今後のアルコール離れさえ予測される。現在のわが国の飲酒は「規制緩和」の結果,酒類の販売形態がスーパーマーケットにシフトしたこと,発泡酒ブーム,ワインの安売りブーム,ジュース感覚の焼酎カクテルの広がりなどにより,むしろ女性主導で進んでいる感がある。特に女性の最も新しい世代における,とどまるところを知らない「変貌」は飲酒と健康について考える上で放念できない。
キーワード 習慣飲酒,世代差分析,愚民栄養調査,生活習慣

 

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第50巻第3号 2003年3月

インターネット・E-メールによる感染症情報
メーリングリストへの地区医師会員の参加状況

大熊 和行(オオクマ カズユキ) 寺本 佳宏(テラモト ヨシヒロ)
福田 美和(フクタ ミワ) 中山 治(ナカヤマ オサム)

目的 感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(感染症法)に基づく感染症発生動向調査情報を速やかに医療現場に配信するとともに,医療現場の医師に情報交換の場を提供することにより,感染症の予防やまん延防止はもとより,患者に対する医療に役立てるため,インターネット・E一メールを用いた感染症情報受発信システム(感染症情報メーリングリスト)を構築し,地区医師会員の同システムへの参加状況等の検討を行った。
方法 厚生労働省の地域医療情報化推進事業への取組状況を勘案し,三重県内の地区医師会から選定した6地区医師会に所属する全会員(1,150人)を対象として,郵送法により感染症情報メーリングリスト(感染症情報ML)への参加意向調査を行った。参加希望のあった医師会員をメンバーとしてメーリングリストを構築・運用するとともに,地区医師会員の参加状況等の検討を行った。
結果 感染症情報MLへの参加意向調査の回収数は347人(回収率30.2%)であった。回答者のうち263人(75.8%)がインターネット接続コンピュータ(ItPC)を使用し,感染症情報MLに参加すると回答した医師は203人(ItPC使用者の77.2%)であった。感染症情報MLに参加すると回答した医師の主たる標榜科をみると,内科または小児科の医師が100人(49.3%)を占め,これに胃腸科または消化器科の20人(9.9%),整形外科または外科の17人(8.4%)が続いた。また,感染症情報MLへの参加率は,地区医師会における開業医割合に関連する傾向が認められた。
結論 感染症発生動向調査事業の充実と健康危機発生時の情報共有を図るためのツールとして感染症情報MLを真に機能させるためには,病院勤務医をはじめ,感染症発生動向調査事業に関連の深い診療科を標榜する地区医師会員を対象として重点的に周知し,感染症情報MLへの参加率を向上させる必要がある。また,医療の現場から真に有用と評価される情報を相互交換できるシステムに継続的に改善するために,より重症の患者を診療する機会が多く,専門性の高い病院勤務医は,医療情報の提供者としての役割が期待され,感染症情報MLへの積極的な参加が望まれる。
キーワード 感染症,E-メール,メーリングリスト,標榜科

 

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第50巻第3号 2003年3月

既存資料を利用した2歳児歯科健診事業の効果評価

越田 美穂子(コシダ ミホコ) 青山 旬(アオヤマ ヒトシ)

日的 N町で行われていた,2歳児歯科健診事業の効果の有無を,既存の統計資料から分析を行い明確にすること,またN町のう蝕リスク要因(地域特性)を明らかにすることを目的とした。
方法 対象は,1歳6か月児健診・3歳児健診を両方とも受診した児650人のうち,1歳6か月児健診時にう蝕のなかった624人である。既存資料の母子管理登録票から,抽出可能な項目のうち,幼児う蝕のリスク要因を検討し,分析項目を設定した。2歳児歯科健診の効果評価には,3歳児健診時のう蝕の有無・う蝕罹患型・う蝕本数・歯磨き習慣・おやつ回数を用いた。3歳児う蝕に関連するリスク要因は,出生順位・出生時体重・乳児期の栄養方法(母乳・混合・人工)・1歳6か月児の哺乳ぴん使用・1歳6か月児の飲み物内容・2歳児母乳の有無・3歳児日中の保育者(母親・祖母・その他)・3歳児健診時おやつ回数(2回以下・3回以上)について分析を行った。さらに,3歳児のう蝕の有無を従属変数とし,関連する要因について多重ロジスティック回帰分析を行い,事業の効果評価とした。
結果 2歳児歯科健診の効果評価こ関しては,受診群では,3歳児のう蝕有が有意に少なかった。う蝕罹患型・う蝕本数と,保健行動の要因である,歯磨き習慣・おやつ回数との間には有意な関連はなかった。3歳児う蝕に関連する要因としては,出生順位では第2子以降が,1歳6か月児飲み物内容ではジュース・イオン飲料等が,2歳児母乳に関しては飲んでいる場合が,そして,おやつ回数が3回以上の場合がう蝕有が有意に多かった。また,3歳児のう蝕の有無こ寄与している要因として2歳児歯科健診受診・出生順位(第2子以降)と1歳6か月児飲み物内容のオッズ比が高かった。
結論 上記の結果から,2歳児歯科健診の受診はその他のリスク要因から独立して,3歳児のう蝕減少に寄与している可能性が示された。
キーワード 歯科健診,効果評価,2歳児

 

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第50巻第3号 2003年3月

「平成12年度老人保健事業報告」からみた
わが国におけるがん検診の問題点

大島 明(オオシマ アキラ) 松下 博江(マツシタ ヒロエ) 赤田 由子(アカダ ヨシコ)
三木 信夫(ミキ ノブオ) 河島 輝明(カワシマ テルアキ) 山崎 秀男(ヤマザキ ヒデオ)

目的 わが国において公衆衛生サービスとして広く実施されているがん検診事業が所期のがん死亡減少という成果をあげうるかどうか検証することを目的とした。
方法 がん検診の効能に関しては「新たながん検診手法の有効性評価報告書」の評価結果を引用し,がん検診の実態については,「平成12年度老人保健事業報告」に掲載されているデータにより,分析した。
結果 効能がないとされるがん検診(視触診による乳がん検診)が広く実施されていること,効能があることが確立しているがん検診(胃がん検診,子宮頸がん検診,肺がん検診,大腸がん検診)においては,検診受診率が低くとどまっていること,個別検診方式の精検受診率が低いこと,中でも大腸がん検診の精検受診率が特に低いことなどの問題点が明らかにされた。
結論 公衆衛生サービスとしてのがん検診が成果をあげるためには,効能があることが確立しているがん検診(胃がん検診,子宮頸がん検診,肺がん検診,大腸がん検診とマンモグラフィーによる乳がん検診)に限ること,個別検診方式の精検受診率を高める工夫をした上で,この方式による検診を普及して検診受診率を高めること,organized screeningに向けて実施主体の市町村がさらに工夫することが,必須であると考える。
キーワード がん検診,効能,効果,個別検診,集団検診

 

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第50巻第4号 2003年4月

市町村母子保健活動への保健所の支援に
関する保健所と市町村の認識比較

福島 富士子(フクシマ フジコ) 守田 孝恵(モリタ タカエ) 尾崎 米厚(オザキ ヨネアツ)
藤内 修二(トウナイ シュウジ) 柴田 真理子(シバタ マリコ) 宮里 和子(ミヤサト カズコ)

目的 都道府県型保健所の市町村支援のあり方について検討することを目的とし,母子保健活動を例にとり,市町村支援に対する保健所側と管轄市町村側の認識について比較を行った。
方法 1999年度に,都道府県型保健所474を対象に郵送調査を実施し,回答のあった270保健所管内(回答率57.0%)の全市町村1,793を対象とした郵送調査を実施し,回答数982(回答率54.7%)を得た。市町村の回答と保健所の回答の一致度をみるためにκ係数を用いた解析を実施した。
結果 保健所が市町村支援をしていると回答した母子保健事業は,「健診等の精度管理」「乳幼児訪問指導」「母子保健推進員活動」等であったが,一部の市町村を支援も含めると「乳幼児健診」の支援保健所割合が高かった。一方,市町村が保健所の支援を受けていると回答した割合は低く,保健所の回答と異なり「未熟児訪問指導」「母子愛育班活動の支援」を受けていると回答した割合が高かった。保健所回答と市町村回答の一致係数は低く,中でも比較的高いのは「母子愛育班活動」「性・エイズ教育」等であった。保健所の機能別にみると,両者の回答の一致度も比較的高いのか,「母子保健計画の策定支援」「策定時の情報提供」「評価支援」「心身障害児療育システム作り」であった。保健所の母子保健活動の課題についての認識をみると,多くの項目で保健所,市町村とも課題があると回答していた。先駆的母子保健活動のニーズの認識,実施希望,実施可能性,保健所からの支援希望についてみると、保健所回答では,「こころの問題対策」「虐待対策」「活動の評価」「母子保健情報・精度管理」等へのニーズ認識が高かったが,市町村回答では,「活動評価」「小児期からの生活習慣病対策」「こころの問題対策」等にニーズが高かった。保健所回答でも市町村回答でも実施希望,実施可能性いずれも高い事業は「活動の評価」であった。
結論 保健所が支援していると回答している割合ほど市町村は支援してもらっていると認識していない場合が多く,しかも認識のズレも大きかったが,保健所の支援に対する市町村の要望は強く,計画の策定や活動の評価,今後の母子保健課題に対する専門的事業などを企画からいっしょに取り組むことで保健所と市町村の協働関係が深まっていくと考えられる。
キーワード 母子保健,保健所,市町村支援

 

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第50巻第4号 2003年4月

地域における高齢者の
転倒予防プログラムの実践と評価

芳賀 博(ハガ ヒロシ) 植木 章三(ウエキ ショウゾウ) 島貫 秀樹(シマヌキ ヒデキ)
伊藤 常久(イトウ ツネヒサ) 河西 敏幸(カサイ トシユキ) 高戸 仁郎(タカト ジンロウ)
坂本 譲(サカモト ユズル) 安村 誠司(ヤスムラ セイジ)
新野 直明(ニイノ ナオアキラ) 中川 由紀代(ナカガワ ユキヨ)

目的 在宅の高齢者を対象とした運動指導を中心とする地域に根ざした介入プログラム(Community based intervention programme)を実施し,転倒率や体力及び主観的QOLの維持・向上に及ぼす影響の程度を検討することを目的としている。本報告はその一環としてまとめたものであり,プログラムの開始後1年間の経過を評価したものである。
方法 宮城県三本木町に居住する75歳以上の自立者551人を対象とした。これらの対象が居住する地域のまとまりを考慮して「介入地区」と「非介入地区」に2区分した。
プログラムは介入前の調査,介入の実施,介入後の調査から成る。介入前後の調査は,体力測定(握力,長座位体前屈,最大歩行速度,開眼片足立ち,The timed Up and Go tests〈Up&Goと略〉)と面接調査(QOL指標:老研式活動能力指標,生活体力.自己効力感.生活満足度)によった。介入前調査への協力者は507人(92%)であり.1年後の介入後調査への協力者は450人であった。
介入プログラムは,①転倒ハイリスク者に対する転倒予防教室の開催,②それを通じた町独自の体操の開発(SUN体操)と普及,③介入プログラムの中核的な推進役である高齢ボランティアの養成と強化,④介入地区に村するSUN体操やウォーキングの普及、行政区単位の健康学習および転倒予防に関する情報提供を目的とした毎月のミニコミ紙の発行などから成る。なお,非介入地区に対しては従来どおりの保健活動を継続した。
結果 過去1年間の転倒率は,介入の実施前後で有意差はないものの介入地区では26.5%から23.9%へと低下,非介入地区のそれは23.2%から25.4%へと上昇傾向がみられた。体力レベルの変化においては,握力,長座位体前屈,最大歩行速度では,介入地区の低下幅は非介入地区と比べて少ないか,あるいはUp&Goではむしろ改善傾向にある様子が示された。しかし,QOL指標値においては介入地区,非介入地区に介入プログラムの効果と思われるような変化は認められなかった。
結論 地域の後期高齢者全体への介入の試みが高齢者の体力レベルの維持や転倒率の改善に有効であることが示唆された。しかし,本研究の介入期間は,1年足らずと短いものであり,統計的にも安定した結論を得るためには今後の継続的な介入プログラムの実施と評価が必要である。
キーワード 地域高齢者,転倒予防,体操,地域全体への介入、高齢ボランティア

 

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第50巻第4号 2003年4月

テレビドラマに見られる喫煙関連シーンに関する調査

坂口 早苗(サカグチ サナエ) 坂口 武洋(サカグチ タケヒロ)

目的 日本では1998(平成10)年4月1日になって,ようやく日本たばこ協会は,テレビやラジオで,たばこ個別銘柄のCMを中止した。われわれは,銘柄CMの中止前後に制作・放送された,ワーストスモーカーの1人にあげられた人気俳優が出演した,視聴率の高いドラマに見られる喫煙関連シーンについて調査した。
調査方法 調査対象ドラマの収録ビデオから放送時間を計測し.その中から喫煙に関連したシーンの解析を行った。喫煙関連シーンは喫煙に関するすべてのシーンであり,喫煙シーンとセットの道具などの場面の合計である。喫煙シーンとは,実際の喫煙(出演者の誰かが喫煙している場面),たばこに火をつける.たばこの火を消す,副流煙,置きたばこ,銘柄描写シーンおよびセリフなどの場面である。セットの道具とは,火無したばこ,たばこ箱からたばこを出す,吸い殻,たばこ箱(銘柄不明),灰皿などの場面である。規制前では,「番組A」「番組B」「番組C」のドラマを,規制後では,「番組D」「番組E」「番組F」のドラマを調査した。
結果 喫煙関連シーンの回数は,規制前156.3回(1時間当たりの回数;18.2),規制後344.3回(37.3)であった。そのうち,喫煙シーンは,規制前93.3回(10.8),規制後167.7回(17.9),実際の喫煙は,規制前53,3回(6.1),規制後98.0回(10.5)であった。銘柄描写シーンの回数は,規制前5.0回(0.6)であったのが,規制後15.3回(1.6)であり,1ドラマ当たりの平均描写時間はそれぞれ45秒と1分36秒であった。
結論 今回調査したドラマにおいて,実際の喫煙,喫煙シーンや喫煙関連シーンが.規制前と比較して大幅に増加していることが判明した。また,明らかに判別できる銘柄を出演者が喫煙するシーンや銘柄が容易に判読できるたばこ箱のシーンが急増していた。未成年者の喫煙防止をねらい,銘柄CMが自主規制されたことをドラマの制作側は再認識し,喫煙関連シーンのないテレビ番組の制作を期待するとともに,社会全体で若者の行動に多大な影響を与えるテレビなどの媒体にも注意を向け,未成年者が喫煙行動をしにくい社会環境をつくらなければならない。
キーワード たばこ,喫煙シーン,ドラマ,広告,社会的環境

 

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第50巻第4号 2003年4月

入院医療に対する患者の満足度とその関連要図

-がん(成人病)専門施設での分析-
田中 英夫(タナカ ヒデオ) 佐治 文隆(サジ フミタカ) 沼浪 勢津子(ヌマナミ セツコ)
蓮尾 聖子(ハスオ セイコ) 兒玉 憲(コダマ ケン)
黒田 知純(クロダ チカズミ) 今岡 真義(イマオカ シンギ)

目的 がん(成人病)専門施設で入院治療を受けた患者の満足度を把握し,満足度に関連する要因を分析する。
方法 2001年10月1日から同年12月末日までの大阪府立成人病センター退院予定患者を調査対象として,退院の前日に無記名自記式の調査票をベッドサイドで手渡し,各病棟の詰所前に設置した回収箱により回収した。調査項目(数)は.①当施設で入院中に受けた医療全般に関するもの(5),②健康状態・不安からの回復に関するもの(2),③主治医に対するもの(6),④看護師に対するもの(4),⑤社会的評価およびコスト面に関するもの(4),⑥入院のアメニティに関するもの(7)の合計28項目とし,各々5段階で満足度を評価した。
結果 ①調査期間中の退院患者1,441人中,死亡退院などを除く1,202人に調査票を配布した。このうち,1,136人(95%)から回収し,その中で記載内容が不明の者等を除く1,041人が集計対象となった。調査票配布患者数に占める集計対象者数の割命(有効回答率)は87%(1,041/1,202)であった。②入院中に受けた医療に対する全体的な満足度は,最高位と第2位を合わせると,全体の96%が満足であると答えた。主治医,看護師に対する満足度は概ね高く,アメニティに関する満足度は相対的に低かった。③入院中に受けた医療に対する全体的な満足度と有意な関連を示した患者側の要因は,年齢,過去の入院歴.調査時点での自覚的健康状態であった。性,主病名(がん/非がん),在院日数,入院病室の種類は満足度と有意な関連を示さなかった。④入院中に受けた医療の全体的な滴足度と,その他の事項に関する満足度との相関をみたところ,健康の回復度,不安の除去,主治医の処置の技術に対する満足度との相関性が相対的に高かった(相関係数(R)=0.44-0.45,いずれもp<0.01)。
結論 がん(成人病)専門施設で.入院治蝶を受けた患者の満足度とその関連要因について上記の結果を得た。今回のような調査方法によって患者の満足度に関連する個々の医療サービスを詳しく分析することで,他の施設においても患者の総合的満足度を効果的に高める方策を見出すことができると思われる。
キーワード 入院患者,満足度,がん(成人病)専門施設

 

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第50巻第5号 2003年5月

都道府県別生命表死亡率のワイプル分布へのあてはめ

石井 太(イシイ フトシ)

目的 低年齢死亡率のワイプル分布への適合状況に関して完全生命表を用いて評価を行い,次に,都道府県別生命表作成の観点から,実際のデータを用いてワイプル分布のパラメータを得る方法について検討する。
方法 完全生命表のデータを用いて,年齢の対数値と死力の対数値か,いかなる年齢範囲において線形関係にあるか観察し,その後.パラメータ推定を行ったワイプル分布関数値を用いた死亡率とオリジナルの死亡率を比較する。次に.人口規模の異なる幾つかの県について,この方法を用いて実際に死亡率推定を行い,死亡率の動きについて検討する。
結果 完全生命表のデータを用いて,年齢の対数値と死力の対数値が,いかなる年齢範囲において線形関係にあるか観察したところ,おおむね10歳程度までについて,両者の間に線形関係が認められた。また,パラメータ推定を行ったワイブル分布関数値による死亡率とオリジナルの死亡率を比較したところ,10歳までの範囲においてほぼオリジナルの死亡率を再現することができていることが確認された。人口規模の異なる幾つかの県について,この方法を用いて実際に死亡率推定を行ったところ,ワイプル分布によるあてはめを行った場合の方が,より安定した死亡率の動きを示すことが確認された。
結論 都道肝胆別生命表作成における低年齢死亡率推定については,従来の方法と比較して,ワイプル分布関数を用いたパラメータ推定による方法がより安定件が高く,好ましいものであることが結論づけられる。
キーワード 生命表,都道府県,死亡率,ワイプル分布,パラメータ推定

 

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第50巻第5号 2003年5月

死亡分布からみた都道府県別生命表

村木 幸広(ムラキ ユキヒロ)

目的 平均寿命は死亡分布の平均値という,分布の特徴を表す代表値の一つと考えることができるが,その死亡分布のばらつきをあわせて比較することで,平均寿命だけではとらえられない都道府県の死亡状況の違いを分析することを目的とする。
方法 平成12年都道府県別生命表の結果を分析対象とし,死亡分布の標準偏差(以下「寿命偏差」)を算出した。その上で,男について、平均寿命と寿命偏差に開しクラスター分析を行い,都道府県を二分した。そして,平均寿命が同程度である都道府県を取り上げ.寿命偏差の違いが生じる要図を分析した。また,平均寿命の地域差が生じる要因についても寿命偏差という側面から検討した。
結果 男については平均寿命と寿命偏差に負の相関がみられたが,女については相関関係は認められなかった。男について,クラスター分析により都道府県を二分した結果,おおむね平均寿命の高低により区別されたが,平均寿命が全国値よりやや低い付近で,平均寿命はほぼ同程度であるにもかかわらず,寿命偏差の高低により別のクラスターに分かれている都道府県もみられた。
結論 平均寿命の地域差が生じる要因は,主に中年層の死亡状況の違いと高年齢層の死亡状況の違いであり,男については前者が,女については後者が大きく影響していること等が示された。
キーワード 都道府県別生命表,死亡数,分布,平均寿命,寿命偏差

 

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第50巻第5号 2003年5月

各種社会指標と都道府県別生命表の関係

鈴木 健二(スズキ ケンジ)

目的 都道府県別平均寿命とその都道府県における各種社会指標との関係を分析し,平均寿命の地域差と関連が深いと考えられる要因を考察する。
方法 都道府県別平均寿命と各種社会指標(特に飲酒・喫煙)について回帰分析を行い,さらに各種社会指標の主成分分析を行って平均寿命との関連を調べた。
結果 飲酒・喫煙状況については,男性において平均寿命とある程度の相関関係がみられたが,女性についてはあまり相関関係はみられなかった。また複数の社会指標を用いた重回帰分析では,男性では県民所得・飲酒状況・医療施設数と,女性では特別養護老人ホーム定員数と一定の相関を示した。各種社会指標の主成分分析の結果では,第1主成分は男女とも「都市-郊外」度指標を示すものと解釈されたが,その平均寿命との関係は男女で異なることが明らかとなった。
結論 飲酒・喫煙状況は男性の平均寿命と一定の関係があると考えられる。また,「都市-郊外」度指標で説明されるような状況の変化と平均寿命との関係は.男女でかなり異なっていることが推察された。

 

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第50巻第5号 2003年5月

都道府県別生命表の年齢別・死国別寄与分析

村木 幸広(ムラキ ユキヒロ)

目的 各都道府県の平成7年から12年の平均寿命の延びに対し,年齢別・死因別に寄与分解を試みることで,平均寿命の延びに違いが生じた要因を明らかにすることを目的とする。
方法 平均寿命の延びに対する年齢別の寄与は,平成7年の死亡率を0歳から順次,平成12年の死亡率に置き換えたときの平均寿命の差として算出した。死因別の寄与は各年齢に対し,死亡率を死因別に分解することで同様に死因別寄与を求め,全年齢で足し上げた。これらをもとにして.主に平均寿命の延びの上位・下位3県ずつ(兵庫県を除く)に対して分析を行った。
結果 年齢別では高年齢層の平均寿命の延びに対する寄与が大きく,男では60歳以上における寄与は,上位3県では0.75~1.03年であったのに対して,下位3県では0.52~0.58年であり,女では75歳以上における寄与は,上位3県は1.08~1.25年であったのに対して,下位3県は0.46~0.59年であった。死因別では3大死因(悪性新生物・心疾患・脳血管疾患)の平均寿命の延びに対する寄与が大きく,男の上位3県では0.75~0.77年であったのに対して,下位3県では0.27~0.52年であり,女の上位3県は0.95~1.07年であったのに対して,下位3県は0.43~0.60年であった。女では,3大死因の中でも特に脳血管疾患の寄与の違いが大きかった。
結論 各都道府県の平均寿命の延びの違いは,高年齢層による寄与の違い,3大死因による寄与の違いが大きい。
キーワード 都道府県別生命表,平均寿命の延び,死因,寄与

 

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第50巻第6号 2003年6月

食中毒事件あたり患者数の年次推移に関する一考察

谷原 真一(タニハラ シンイチ) 山部 清子(ヤマベ セイコ) 大津 忠弘(オオツ タダヒロ)
津田 敏秀(ツダ トシヒデ) 中村 好一(ナカムラ ヨシカズ) 藤田 委由(フジタ ヤスユキ)

目的 近年認められる食中毒事件あたり患者数の減少は特定の自治体に限定的に生じているのかを検討する。
方法 1981年以降の「食中毒統計」から都道府県別の食中毒事件あたり患者数を求め,各年ごとの順位の変動を検討した。その後,1)上位第1位~第l10位,2)同第11位~第37位,3)同第38位~第47位 の3群に分類し.群別に各年の食中毒事件1件あたり患者を再集計して年次推移を検討した。
結果 食中毒事件あたり患者数は1981年から1992年までは増加傾向を示したが,1992年以降は減少傾向に転じた。食中毒事件あたり患者数の順位が大きく変動する都道府県と変動の小さい都連府県が認められた。食中毒事件あたり患者数が上位第11位~第37位に属する都道府県に限定しても,1992年以降の食中毒事件あたり患者数は減少傾向を示していた。
結論 食中毒事件あたり患者数の減少は特定の自治体に限定して生じたものではないと考えられた
キーワード 食中毒,届け出,サーベイランス,散発事例

 

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第50巻第6号 2003年6月

山形県の産業従事者の血中脂質異常
および肥満の有所見率に関する検討

-性,年取地観生活習慣との関連性-
若林 一郎(ワカバヤシ イチロウ)

目的 全国の労働局の統計によると,山形県では毎年産業保健における健康診断での血中脂質異常の有所見率が全国平均を大きく上回っている。そこで本研究では山形県内での血中脂質異常の実態を明らかにし,さらにその原因について考察した。
方法 県内の健診機関が実施した産業事業所での定期健康診断結果を性,年齢.地域別に分析し,比較検討した。また,血中脂質異常の原因となりうる生活習慣について,国民栄養調査および県民栄養調査結果を用いて検討した。
結果 定期健康診断における血中脂質検査の項目の中で最も異常の頻度が高い項目は中性脂肪で,次いで総コレステロール,HDLコレステロールの順であった。これらの項目の有所見率は性と年齢の影響を強く受けた。すなわち,男性では30~40歳代で有所見率がピークを形成するのに対して,女性では年齢とともに上昇し,20歳代ではいずれの項目においても有所見率に大きな男女差がみられたが,その差は年齢とともに縮小した。総コレステロールの有所見率は50歳以降では女性の方が男性より著明に高かった。県内の地区別では,肥満と中性脂肪の有所見率が男女とも,またいずれの年齢においても最上地区において高かった。栄養調査から,山形県では男性で飲酒と喫煙習慣を有する者の割合が多く,また男女とも運動習慣を有する者の割合が少なかった。
結論 男性では若年から,女性では中年以降に血中脂質異常と肥満が増加するため,その予防対策が必要である。栄養調査結果から,l山形県での産業従事者の血中脂質異常の高有所見率の原因として運動不足や飲酒過多が関与している可能性が考えられる。
キーワード 血中脂質異常,肥満,産業保健,加齢,動脈硬化生活習慣病

 

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第50巻第6号 2003年6月

自殺の地域集積とその要因に関する研究

野原 勝利(ノハラ マサル) 小野田 敏行(オノダ トシユキ) 岡山 明(オカヤマ アキラ)

目的 自殺の地域集積性について都道府県間で解析を行い,さらに保健医療圏間では社会生活要因との関連を検討する。
方法 1981年から2000年の47都道府県および岩手県の9保健医療圏と青森県4保健医療圏について,性別自殺死亡率と観察期間における全国の男女の自殺率を基準とした標準化死亡此(SMR)を算出した。人口,自殺数は,国勢調査,岩手県保健福祉年報,青森県保健統計年報,人口動態統計報告から求めた。社会要因として岩手県の保健医療圏ごとに人口密度,人口増減率,老年人口割合,完全失業率,平均所得,人口当たり病床数,人日当たり医師数,第1次産業就業者率.第2次産業就業者率,第3次産業就業者率、成人1人当たり酒類年間消費量を求め,自殺SMRとの関連を検討した。
結果(1)自殺SMRの上位3県は秋田県(男性1.53,女性1.53),新潟県(男性1.31,女性1.51),岩手県(男性1.45,女性1.39)で,男女とも他県と比較して有意に高かった。沖縄県は男性が女性より高く差が大きかった。自殺率の高い都道府県に隣接した都道府県でSMRに差が観察された(秋田・新潟県と山形県,岩手県と宮城県)。(2)保健医療圏の検討では岩手県内で自殺率の地域差が有意であり,県北部(久慈・二戸保健医療圏)に地理的な自殺の集積性を認めた。青森県の4保健医療圏でも岩手県と隣接した三戸保健医療圏で高い自殺率を認めた。観察期間を10年ごとの2期に分けても自殺率の地域差は同様であった。(3)保健医療園の社会生活指標と自殺SMRの関連をみると,男性では完全失業率で有意の正の相関を認め(r=0.70,p<0.05),女性では総病床数(r=-0.75,p<0.05),医師数(r=-0.73,p<0.05),第3次産業就業者率で有意の負の相関を認めた(r=-0.68,p<0.05)。
結論 都道府県間ならびに保健医療圏間で自殺率に持続的な地域差を認めた。経済・文化的に同一の背景を有し,人口規模が確保できる保健医寮圏間で検討した結果,自殺率と一部社会生活指標に関連が認められた。
キーワード 自殺地域差,標準化死亡比,保健医療圏,社会要因,予防対策

 

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第50巻第6号 2003年6月

わが国における看護学生,保健婦学生,
助産婦学生の喫煙実態調査

桜井 愛子(サクライ アイコ) 大井田 隆(オオイダ タカシ) 武村 真治(タケムラ シンジ)
曽根 智文(ソネ トモフミ) 鈴木 健修(スズキ ケンシュウ) 原野 悟(ハラノ サトル)

目的 本研究は,全国における看護学生,保健婦学生,肋産婦学生の喫煙率および喫煙状況と,職務経験,学業意欲,喫煙に対する考え方などとの関連性を明らかにすることを目的とした。
方法 全国の看護学校,保健婦学校,助産婦学校を無作為に抽出し,看護学校27校,保健婦学校17校.助産婦学校16校に在学する学生を対象者としたが.調査拒否の保健婦学校1校,助産婦学校1校を除く58校で調査を実施した。調査票は各学校の調査担当者から対象者に配布し,対象者が記入後,回収した。
結果 女子学生の喫煙率は看護学校24.6%,保健婦学校13.0%,助産婦学校22.1%であり.看護学校,助産婦学校,保健婦学校の順で喫煙率が高く,特に看護学校の3年生の喫煙率は30%を超えており,一般成人女性の20歳代に比べて高い値であった。保健婦学校では職務経験と喫煙状況とに関連はみられなかったが,助産婦学校では職務経験があるほど有意に高い現喫煙率がみられた。
看護学校,保健婦学校,助産婦学校とも学業意欲および友人や勉強の悩みについては喫煙状況との関連性はなかったが,喫煙に対する考え方(自分の学校や将来勤務する職場を禁煙にすること)や意見(女性や医療関係者としての喫煙についての意見),禁煙指導に対する考え方(禁煙指導は保健医療関係従事者の仕事)に関して,非喫煙者に比べて,現喫煙者には喫煙に肯定的な意見が有意に多くみられた。また,家族(父親,母親等)や学校の教師の喫煙状況と学生の喫煙状況では,看護学校,保健婦学校,助産婦学校とも周囲の喫煙率が高いほど学年の現喫煙率は有意に高かった。
結論 看護学校学生の現喫煙率は学年が上がるにつれて上昇しており,在学期間の喫煙防止教育は不十分なものと予測される。今後は喫建行動に影響を与えるような効果的な教育方法が必要である。
キーワード 喫煙率,看護学生,保健婦学生,助産婦学生,禁煙支援

 

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第50巻第6号 2003年6月

飲酒と糖尿病:壮年期男子勤労者における検討

中西 範幸(ナカニシ ノリユキ) 吉田 寛(ヨシダ ヒロシ) 仁科 一江(ニシナ カズエ)
岡本 光明(オカモト ミツハル) 李 文絹(リ ブンケン)
         松尾 吾郎(マツオ ヨシオ) 多田羅 浩三(タタラ コサゾウ)

目的 飲酒が糖尿病の発症に及ぼす影響を明らかにするため,飲酒と糖尿病発症との関連性について検討した。
方法 1994年5月に定期健康診断を受診し,空腹時血糖値が109mg/dl以下を示した者で糖尿病と高血圧の治療歴がなく,循環器疾患の既往を有しない35-59歳男子事務系勤務者2,953人を観察コーホートに設定し,2001年5月までの7年間における糖尿病の発症を調査した。糖尿病の診断は空腹時血糖値が110-125mg/dlをIFG(impaired fasting glucose),空腹時血糖借が126mg/dl以上,あるいは糖尿病用剤服薬を2型糖尿病とした。
結果 飲酒状況別にlFG,2型糖尿病の発症率をみると,アルコール摂取が「23~45g/日」の飲酒者で発症率は最も低く,飲酒と発症率との間にはU型の関連がみられた。アルコール摂取が「23~45g/日」の飲酒者を1.0とする年齢,糖尿病の家族歴,body mass index,喫煙,定期的運動,アラニンアミノトランスフェラーゼを調整したIFG,2型糖尿病発症のハザード比をみると,非飲酒者,アルコール摂取が「23g未満/日」「46-68g/日」「69g以上/日」の飲酒者のハザード比はそれぞれ1.46(95%信頼区間(CI):1.03-2.07),1.30(95%CI:0.93-1.83),1.17(95%CI:0.86-1.59),1.40(95%CI:0.99-1.99)であった(2次の曲線性の検定:p=0.026)。2型糖尿病発症と飲酒との関連においても同様の傾向がみられたが,多変量解析においては2次の曲線性は有意ではなかった(p=0.105)。糖尿病の危険因子の有無別に飲酒状況とlFG,2型糖尿病発症との関連をみると,糖尿病の家族歴「あり」の者,喫煙者を除くいずれの危険因子の群においてもIFG,2型糖尿病発症の多変量調整ハザード比は「23-45g/日」のアルコール摂取者で最も低く,飲酒とIFG,2型糖尿病発症との間にはU型の関連がみられた。
結論 アルコール摂取が「23~45g/日」の中等度飲酒者の糖尿病の発症リスクは最も低く,飲酒と糖尿病発症との間にはU型の関連性を有することが示された。
キーワード 飲酒,impaired fasting glucose,2型糖尿病,男子勤務者,コーホート研究

 

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第50巻第7号 2003年7月

人口動態調査にみる茨城県古河保健所管内の自殺の時間的分布

緒方 剛(オガタ ツヨシ) 設楽 恵利(シタラ エリ) 中村 好一(ナカムラ ヨシカズ)

目的 自殺予防のために効果的な介入時期を予測するために,自殺の時間的分布を明らかにする。
方法 茨城県古河保健所管内における1997年から2001年の5年間の自殺を原因とする人口動態調査死亡小票を対象として,自殺実行時刻の時間変動について分析した。
結果 自殺者は男173人,女75人,計248人であった。自殺の季節変動については,5月~6月と9月にピークがみられた。自殺の週内変動については,月曜から木曜に多く,土曜,日曜に少ない傾向がみられた。自殺の実行時刻の日内変動については,時刻が不明の者を除く227人について1円を12分割して集計した結果,朝(午前5時~午前9時)と午後から夕方(午後3時一午後5時)にピークのある2峰性の分布がみられ,変動は統計学的に有意であった。
結論 自殺の季節変軌 週内変動については,従来の報告と同様の傾向であった。日内変変動こついては,地域の全自殺死亡についてデータはわが国ではわれわれの知る限りこれまで報告されていないが,本調査では2峰性のピークが認められた。
キーワード 自殺,人口動態統計,時間的分布,日内変動,週内変動,季節変動

 

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第50巻第7号 2003年7月

保健所管内市町における高血圧既往の実態

小林 雅与(コバヤシ マサヨ)

目的 市町村単位で脳卒中対策を進めるために,最大の危険因子である高血圧既往者が全国に比べて多いのか否か検討する。
方法 保健所管内の2市町各々で,30歳以上を対象に約1,500人を無作為抽出し,高血圧既往の有無,高血圧初発年齢,健康診査時の血圧測定有無について質問調査を行った。
結果 調査対象の2市町とも,脳卒中死亡率は全国に比べて有意に高く,高血圧既往者は全国に比べて少ない傾向をみせた。高血圧の初発は,2市町とも,男女では40歳代と50歳代が多く,女では50歳代が最も多く,次いで60歳代,40歳代が多い傾向にあった。次に,高血圧初発の多い年代での健康診断時血圧測定状況をみると,全国に比べて2市町とも全国を下回る測定状況を示す傾向にあった。
結論 市町村単位で脳卒中対策を進める際,高血圧既往の実態を調査した結果,調香対象とした2市町とも,実際には高血圧既往者が全国に比べて少ないのではなく,健康診断での高血圧発見が全国に比べて少ないために,高血圧者が発見されていないことが考えられた。
キーワード 脳卒中,高血圧既往,初発年齢,健康診断

 

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第50巻第7号 2003年7月

連続携行式自己腹膜潅流(CAPD)療養者のADL
と家族の介護力および家族関係調整・統合能力との関係

人見 裕江(ヒトミ ヒロエ) 松田 明子(マツダ アキコ) 畝 博(ウネ ヒロシ)
中村 陽子(ナカムラ ヨウコ) 小河 孝則(オガワ タカノリ)
寺田 准子(テラダ ジュンコ) 三村 洋美(ミムラ ナダミ)

目的 本研究は,連統携行式自己腹膜灌流(Continuous Ambulatory Peritoneal Dialysis,以下CAPD)療養者のADLとCAPD療養者家族が健康課題に対処する力量との関係を明らかにし,CAPD療養者のADL状態をアセスメントする際の課題を明確にすることを目的とした。
方法 血液透析(Hemodialysis,HD)とCAPDの両方の治城を実施している全国の1,292施設(1998年全国透析医学会施設会員名簿)に研究依頼をした。本研究への了解が得られ紹介された141施設のCAPD療養者とその家族700組に質問紙を郵送した。回答は522組(74.6%)から返送された。そのうち,身近に家族のいない15組を除き,療養者のADLと家族の療養者の生活に関する理解度および生活力量(Assessment Scale of Family Power,以下ASFP)が明らかであった371組(53.0%)を本研究の分析対象とした。調査期間は1998年6月から10月である。分析は続計パッケージWindows版SPSSl0.0を用いて行った。療養者371人(男性204人,女性167人,平均年齢は56.0±13.3歳)のADLを「自立群」「非自立群」の2群に分けた。2群に分けたADLとASFP各項目などとの関係を.χ2検定およびt検定を用いて比較した。
結果 非自立群の方が平均年齢は高く,CAPDを開始した平均年齢も高かった。また,非自立群の方が主介護者の平均年齢は高く,体調も悪かった。検査結果の見方,かゆみ・むくみ・ふらふら感について,非自立群の主介護者ではより多く理解している者が多かった。一方,介護の具体的手順をだいたい知っており,適切に介護していた。
結論 療養者のADL低下に合わせた家族の介護力として,療養者の検査結果,合併しやすい症状に関心を持つなど療養生活を理解しようとしていた。そして,適切な介護の具体的手順を知って積極的に介護していることが推察し得る。非自立群の家族では,家族員の自立性や自由を尊重できるような家族関係を調整したり,家族関係を統合したりする力が低下していることが明らかにされた。
キーワード 連続携行式自己腹膜灌流(CAPD),家族生活力量,日常生活自立度(ADL),介護力,家族関係調整・統合能力

 

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第50巻第7号 2003年7月

要介護度別の介護サービス利用特性に関する研究

-生活場所(在宅,施設)の選択志向にかかわる要因-
後藤 真澄(ゴトウ マスミ) 若松 利昭(ワカマツ トシアキ)

目的 要介護認定調香結果と認定審査会の情報を手かかりとして,要介護者の生活場所と介護サービスの利用状況を明らかにし,生活場所の違いによる利用者の特性の違いを評価する。それらをもとに,在宅か施設(入院を含む)かの選択志向について考察し,適切な介護サービスを提供するための判断枠組みの一つを提示する。
方法 岐阜県のA市の認定審査会調査結果と審査会の情報(1年間の認定者数1、600人)に関して,利用者の生活場所(在宅と施設),要介護度別に,確定調査項目に基づく個別項目得点,分類別平均得点,領域別平均得点の違いを調べ,要介護度別の違い(水準)と生活場所による違い(格差)とを検討した。
結果 生活の場所は,施設利用者が全体の1/4を占めていた。要介護度別の在宅生活者の割合は,要介護Ⅲに向かって減少し,要介護度Ⅲで在宅生活者割合と施設利用者割合が拮抗し,要介簡Ⅳでは施設利用者割合が上回っていた。生活場所の選択は,要介護Ⅲが一つの大きな転換点となっていた。
認定調査項目についての領域別平均得点は,要介護度の上昇に伴う水準の上昇と,施設と在宅による格差とがみられた。格差が大きかったのは排泄と痴呆の領域であった。
結論 今後入所志向が強まる要介護Ⅲへの対応を検討し,マネジメントのための判断論理を根拠に基づき,明確に示すことが必要である。
キーワード 要介護認定,認定調査項目,支援特性,入所要図,ケアマネジメント

 

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第50巻第7号 2003年7月

スギ花粉症QOL指標作成の試み

小笹 晃太郎(オザサ コウタロウ) 藤田 麻里(フジタ マリ) 奈倉 淳子(ナグラ ジュンコ)
林 恭平(ハヤシ キョウヘイ) 渡邊 能行(ワタナベ ヨシユキ) 出島 健司(デジマ ケンジ)
竹中 洋 (タケナカ ヒロシ) 中村 裕之(ナカムラ ヒロユキ) 烏帽子田 彰(エボシダ アキラ)

目的 スギ花粉症の予防や治療の効果を患者の日常生活に沿って評価することを目的として試作されたQOL指標について妥当性,信頼性の検討などを行った。
方法 京都府内のある町の小中学生を対象として2001年5月に質問票およびスギ花粉特異的IgE抗体価測定による調査を行った。QOLに関する質問は,鼻閉,鼻汁,くしゃみ,目のかゆみ,流涙,ティッシュ等携帯の必要性,疲労感,不眠,家の手伝い・勉強・外出への障害,親しい人・あらたまった席などでの対人関係への障書,いらいら感,日常生活全体への障害(計15項目)で,各質問に4段階の回答を求め,それぞれ1~4点を割り付けて単純加算した値をQOL総合スコアとした。各項目の関連に関しては,因子分析および各項目への回答の包含関係の解析を行った。また,スギ花粉症に対して行った予防・治療の方法とその効果について5段階の回答を求めた。
結果 在籍465人中QOL質問票への回答者が378人,そのうち15項目すべてに有効回答を得たのは304人,さらにそのうち271人が血清抗体価測定者であった。QOL総合スコアとスギ花粉特異的IgE抗体価とはよく関連していた。因子分析では.主成分分析で抽出した固有値8.49(スギ花粉症全体の強弱を表現)と1.37(症状とそれによる影響とを弁別)の2成分が、パリマックス回転によって症状主体の因子と症状による影響主体の因子に集約された。15項目のChronbachのαは0.93であった。回答の包含関係からみると,ティッシュペーパーやハンカチの必要性,鼻水,くしゃみ,鼻づまりが最も先に出現し,目のかゆみ,けん怠感,いらいら感が次いで出現,不眠,勉強への影響,親しい人の集まりでの影響,流涙などは後で出現すると考えられた。QOL総合スコアと各予防・治療効果との関連はみられず,各処置が各人の判断によって選択的に行われるためであると考えられた。
結論 本質開票はスギ花粉症全体の強弱を表現する傾向が強く,下部構造はあまり明瞭ではない。したがって,質問項目数を減らせる可能性があるが,実際に予防や治療を行ったときのQOL指標の差を測定しで改良する必要があると考えられる。
キーワード スギ花粉症,QOL,血清IgE抗体,疫学,妥当性

 

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第50巻第8号 2003年8月

中山間地域における保健所の難病患者支援についての検討

足立 敬子(アダチ ケイコ) 梅藤 薫(バイトウ カオル) 犬賀 辰子(イヌガ タツコ)

目的 中山間地域における保健所の難病患者支援の方策を明らかにする。
方法 静岡県北遠保健所管内の国指定特定疾患医療受給者のうち,平成14年1月未現在で受給資格を得ている患者を対象として,記名自記式の調査票を用いた郵送法による調査を行い,34疾患227人中186人(81.9%)から有効回答を得た。調査項目は,生活の場・介護者の有無・日常生活動作・医療処置・サービス利用・難病患者に共通の主観的QOL・困っていること・災害時の対応とした。
結果 北遠圏域はその面積の90%を森林・原野が占める中山間地であり,県下で最も高齢化の進んだ地域である。圏域内には高度専門医療機関がなく,訪問看護や訪問リハビリ等のサービスも限られた地域でしか行われていない。患者の9割は在宅生活をしており,7割は日常生活動作も自立していた。しかし,北遠圏域においては複数の医療処置を要したり,介護度が高くなったりすると在宅生活を継続していくことが困難であることが示唆された。また,サービスを利用しているものは約2割であり,日常生活に介助を要するものの割合に比べサービスを利用しているものの割合が低かった。さらに.口常生活の自立度が難病患者に共通の主観的QOLに影響していた。患者のニーズとしては.疾患やサービスに関する情報提供や患者同士の交流を希望するものの割合が高かった。また,災害時への備えでは,近隣に避難時の協力を依頼しているものは1割であったのに対し,患者の情報を市町村防災担当者に知らせておくことを希望するものは3割と高かった。
結論 保健所は,患者の状況把握とニーズに応じた疾患やサービスに関する情報の掟供,より身近なところでの医療相談会や患者・家族交流会を開催していく必要がある。また,市町村および介護保険関係機関職員への研修と情報提供等が必要と考えられた。さらに,今後,市町村を始め介護保険関係機関,医療機関等との連携を図り,サービスのあり方や災害時における支援体制作りについて検討していく必要がある。高度専門医療機関がなく社会資源が限られている中山間地域においては,難病患者支援は今後も保健所として積極的に取り組むべき事業である。
キーワード 中山間地,保健所,難病,災害対策

 

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第50巻第8号 2003年8月

自殺と社会背景としての失業

谷畑 健生(タニハタ タケオ) 藤田 利治(フジタ トシハル) 尾崎 米厚(オザキ ヨネアツ)
黒沢 洋一(クロサワ ヨウイチ) 箕輪 眞澄(ミノワ マスミ) 畑 栄一(ハタ エイイチ)

はじめに わが国の自殺死亡は,1997年に突如急峻な増加を示し,年間3万人を超えた。自殺死亡の原図として経済状況の悪化によるものといわれているが,十分な検討がなされていない。われわれは経済状況と社会状況を示すマクロ指標として完全失業率を取り上げ,完全失業率が自殺死亡率とどのような関連を示すかを性・年齢層ごとに明らかにする目的で分析した。
方法 完全失業率は総務庁(省)統計局「労働力調査報告」から年次別,性別,年齢5歳階級別の完全失業率データを得た。自殺死亡数については厚生労働省の人口動態調査死亡票の磁気化データを目的外使用で得た。自殺死亡率は日本人人口を分母とし,自殺死亡数を分子として算出した。完全失業率および自殺死亡率の相関係数の算出にPearsonの方法、また時間的前後関係を明らかにするための時系列データ解析に交差相関を使用した。交差相関で示されるラグ値0の相関係数はPearsonの方法による相関係数にあたる。
結果 自殺死亡率は男が女よりも高い値を示した。男は1972年からなだらかに増加し,1982-9年に小山がみられ,その後一時減少した後,緩やかを増加がみられたが,1997年から急峻な増加がみられた。女は1982-9年に小山がみられるが,1972年から減少傾向にあり,1994年から増加がみられた。完全失業率は男女とも1972年から1986年までなだらかに増加,1990年まで減少し,1991年以降増加がみられた。完全失業率と自殺死亡率の相関関係は男にみられ,女たみられないことが多かった。交差相関は、男30-49歳で完全失業率と自殺死亡率の変化がタイムラグなしに同じ方向にみられるが、女は完全失業率の変化に比べて自殺死亡率が遅れて逆方向にみられた。
結論 男の30-49歳の年齢層において,マクロ経済指標の1つである失業の増加が自殺死亡の増加に直接影響を与えていると考えられる。また男女の50-64歳の年齢層においては,失業の増加が自殺死亡の増加に影響を与えることは確かであるが,失業以外にも自殺死亡に強い影響を与える要因があることが示唆された。その他の性・年齢層では,失業は自殺死亡に関連が少ないと思われる。
キーワード 自殺死亡,完全失業率,失業,経済状況,社会状況,マクロ経済

 

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第50巻第8号 2003年8月

三重県における感染症発生動向調査事業への新たな取り組み

大熊 和行(オオクマ カズユキ) 寺本 佳宏(テラモト ヨシヒロ) 福田 美和(フクダ ミワ)
中山 治(ナカヤマ オサム) 田畑 好基(タバタ ヨシキ)

日的 感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(感染症法)に基づく感染症発生動向調査事業を効果的・効率的に実施し,感染症の予防とまん延防止の推進に質するため,三重県における同事業の新たな取り組みを検討する。
方法 2001年に三重県内の指定届出機関(定点医療機関)等から提供されたコメント情報を分析するとともに,全国の地方感染症情報センターを対象とした感染症発生動向調査事業の実施状況に関するアンケート調査と,県内の小児科定点およびインフルエンザ定点を対象としたアンケート調査を行い,これらの調査結果をもとに三重県感染症発生動向調査企画委員会の意見を聴いて新たな取り組みを検討した。
結果 2001年のコメント情報を分析したところ,①小児科定点把握対象の四類感染症(法定12疾患)に加え,新たに追加して収集・分析・提供することが望ましいと考えられる疾患が認められたこと,②インフルエンザ定点からの患者報告数は症状・所見に基づくものと迅速診断キット測定結果に基づくものとが混在することの2点が明らかとなった。この結果を踏まえ,全国58の地方感染症情報センターを対象として実施したアンケート調査では,定点把握対象疾患を追加して感染症発生動向調査を実施していたのは6機関で,追加疾患は小児科定点の川崎病,マイコプラズマ肺炎等であった。また,インフルエンザ患者報告数の内容の認識状況について回答のあった26機関のうち三重県も含め23機関が,感染症法に基づく医師から都道府嬉知事等への届出のための基準(届出基準)に基づく症状・所見例と迅速診断キット陽性例とが混在していると認識していた。一方,県内小児科定点45機関を対象としたアンケート調査では,44機関(98%)が法定12疾患のほかに新たにマイコプラズマ肺炎等を追加して発生動向を把握すべきであると回答し,腸内インフルエンザ定点73機関を対象としたアンケート調査では,46機関(63%)が患者数とともに迅速診断キット陽性例数等の報告が必要と回答した。
結論 これらの調査結果と三重県感染症発生動向調査企画委員会の意見に基づき,小児科定点医療機関に対しては,県独自の把握対象疾患として3疾患(マイコプラズマ肺炎,クラミジア肺炎,RSウイルス性細気管支炎)を追加して患者数の報告を,また,インフルエンザ定点医療機関に対しては,迅速診断キットによる病原体診断の実施状況の報告を依頼することとし,2003年1月(第1週)から新たな感染症発生動向調査事業として調査を開始した。
キーワード 感染症,発生動向,小児科定点,インフルエンザ定点,迅速診断キット

 

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第50巻第8号 2003年8月

地域住民の健康関連QOLに関する満足度の測定

中嶋 和夫(ナカジマ カズオ) 香川 幸次郎(カガワ コウジロウ) 朴 千寓(パク キョンマン)

目的 本研究は,自身の健康と生活圏に対する満足度を測定する「健康関連QOL満足度指標」(Satisfaction Index of Health Related Quality of Life:SI-HRQOL)を開発し,その構成概念妥当性と信頼性を,地域住民の資料を基礎に検討することを目的に行った。
方法 統計解析に必要なデータは,O県F町在住の20歳以上の成人6,179人(2000年7月1日現在)から得た。構成概念妥当性の検討は,構造方程式モデリングによる同時因子分析で行った。信頼性の検討は,クロンバックのα信頼性係数で行った。
結果「SI-HRQOL」を構成する15項目の因子構造モデル,すなわち「環境快適因子」「環境利便因子」「身体的因子」「心理的因子」「社会関係因子」を一次岡因子,「健康関連QOL満足度」を二次因子とする二次因子構造モデルは,性別・、年齢階層別に分割した6標本すべてに適合した。また,本研究で取り上げた健康関連QOL満足度は,健康関連QOLと一般的QOLの中間的な概念として位置づけられることを明らかにした。さらに,「SI-HRQOL」の信頼性は,クロンバックのα信頼性係数で0.877となり,調査項目の加算性についても支持される結果を得た。その得点分布は,標本全体の平均が16.3点(標準偏差7.68),歪度が-0.087,尖度が-0.719と,ほぼ正規分布となっていた。
結論 本研究で取り上げた「SI-HRQOL」は,「地域住民の快適で利便性の高い生活圏の中で健康に生活する」ということについての満足度の測定尺度として.妥当性と信頼性を十分備えているものと推察された。
キーワード 健康関連QOL 妥当性,信頼性

 

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第50巻第8号 2003年8月

医療的ケアに関する介護福祉士
の対処の現状と意識

林 信治(ハヤシ ノブハル)

目的 日常生活を送るための医療行為(以下「医療的ケア」)を必要とする人々がいる。介護福祉士や訪問介護員(ホームヘルパー)等の介護職は法制上それを実施できない。しかし,実際には介讃職が医療的ケアを実施しているとの報告がある。今回介護福祉士の医療的ケアに関する対処の現状とその意識を明らかにすることを目的として調査を実施した。
方法 A県介護福祉士全会員485人を対象に郵送法で行った。調査期間は,平成13年11月10日から11月30日までである。
結果 回答は186人,回収率38・4%であった。調査項目に例示した12種の医療行為を1種でも実施した経験があるのは152例81・7%,現在所属している職場では139例80.3%であった。介謹福祉士の専門性から考えて,例示した医療行為を実施することについて,「必要ない」26例14.9%,「研修制度や医師・看護師による管理が保証されるなどの条件が整えばよい」128例73.1%.「現状のまま実施してよい」5例2.9%,その他3例1.7%であった。
介護福祉士の医療的ケア実施の要因は,①介護保険制度や福祉制度上看護職員定数が少ない,②看護職負や家族(介護者)の意識,③施設運営上の必要性,が考えられ,介護福祉士のみの意識や努力を超えた多岐にわたる問題の存在を示している。
介護福壮士の多数は,医療的ケアを実施せざるを得ない状況の中で,対症療法的ではあっても,利用者が日常生活を送れるような対応が行えることを望む意見であった。
結論 介護福祉士は「目の前に医療的ケアが必要な利用者がいるが,それに応える医療専門職員が不足している。しかし,自らは医療的ケアを実施することができない。利用者のこのこーズに応え,日常生活の継続を保障するためにはどうすればよいのか」というジレンマの中に存在している。現実として,自らが利用者の医療的ケアのニーズに応えざるを得ない状況にあるため,不安を感じながら,医療的ケアを実施している。
利用者が適切に医療的ケアのニーズを満たせる制度の整備が急務である。その際には,介護福祉士と医瞭専門職との連携のあり方や介護福祉専門職として,利用者主体の立場から医療的ケアと介護福祉士の専門性との関連についての検討を行うことが必要と考える。
キーワード 介護福祉土、医療的ケア,意識、専門職

 

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第50巻第10号 2003年9月

諸外国における生殖補助医療に係る
制度に関する研究

劔 陽子(ツルギ ヨウコ) 岩本 治也(イワモト ハルヤ) 棚村 政行(タナムラ マサユキ)
床谷 文雄(トコタニ フミオ) 松川 正毅(マツカワ ダダキ) 三木 妙子(ミキ タエコ)
菱木 昭八朗(ヒシキ ショウハチロウ) 松田 晋哉(マツダ シンヤ)

目的 近年,わが国においても生殖補助医療の発展ま著しい。 しかし,これまでのところわが国ではなんら法的な整備がなされておらず,既存の法律では生殖補助医療の発展に伴う様々な問題に対応しきれなくなってきている。こうした背景に鑑みて,本研究では諸外国の制度と実情を調査研究し,わが国に相応しい生殖補助医療の制度構築に資することを目的とした。
対象と方法 アメリカ,イギリス,フランス,ドイツ,スウェーデン,台湾・韓国における精子・卵子・胚の提供等による生殖補助医療(AⅡ),提供精子・卵子による対外受精,提供胚の移植および代理懐胎)に関する法律,規制を入手し,調査した。
結果 今回調査を行った国々では,生殖補助医療やそれに伴う親子関係について規定する何らかの法律や規制が存在し,詳細ま規定がなされていた。生姉補助医療に関する法令等の整備状況については,包括的な規制を行う法令その他の規制がない国(アメリカ,ドイツ,スウェーデン,韓国),人工授精や体外受精など特定の生殖補助医療に関する規制法を有している国(スウェーデン),広範な生殖補助医療関係の規制を含む法令を有している国(イギリス,フランス),実施上の技術的管理のための法的規制と倫理的指導を目的とした綱領などを有している国(台湾)など様々であった。包括的な法的規制がない固においでは,医師会等の専門的非営利団体のガイドライン等がみられるが,当該ガイドライン等は実務上の指針であり違反しても制裁措置があるわけではない。包括的な規制がない国においても,ヒト胚の取り扱いや代理懐胎についての規制法(ドイツ),親子関係,記録の保持,医療保険等に関する州法(アメリカ),生殖補助医療の適切な利用を担保するための技術的な法的規制や倫理的綱額(台湾)などの個別的法的規制を有している場合がほとんどであった。
結論 今回調査したほとんどの国においては,生殖補肋医療に関し,それぞれの国の文化的社会的背景を反映した何らかの法令等の規制か存在していた。近年の生殖補助医療の急速な進展を踏まえ,わが国においても,その文化的社会的背景に即した法令・制度の早期の構築が望まれる。
キーワード 生殖補助医療技術,法,欧米諸国,アジア

 

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第50巻第10号 2003年9月

1998年以降の自殺死亡急増の地理的特徴

藤田 利治(フジタ トシハル) 谷畑 健生(タニハタ タケオ) 三浦宜彦(ミウラ ヨシヒコ)

目的 自殺予防に向けて,1989年から1995年までの7年間と比較し,3万人を超える自殺死亡数が観察されている1998年から2000年までの3年間の自殺死亡急増にかかわる地域集積性について明らかにする。
方法 人口動態調査死亡票の情報を用いて,1989~1995年と1998~2000年との自殺死亡の発生状況について比較した。第1に,年齢階級別自殺死亡率を男女別に算出して,1998~2000年での自殺死亡急増の性・年齢階級別の特徴を整理した。第2に,都道府県間の自殺死亡増加の違いについて,両期間の粗自殺死亡率の差と比を用いて都道府県ごとの自殺死亡増加の状況を検討した。第3に,二次医療圈別の自殺死亡増加の違いを,粗自殺死亡率と年齢階級別自殺死亡率のベイズ推定値を用いて分析し,あわせて二次医療圈レベルの自殺死亡についての地図を作成した。
結果 年平均の自殺死亡数は、1989~1995年の20,556人から1998~2000年の30,849人へと1万人を超える急増がみられているが,その4分の3以上に相当する増加が15歳から69歳までの男において発生していた。特に45歳から69歳までの男での自殺死亡数の増加は,全増加の62%に相当する大きさであった。男での自殺死亡率の上昇は,従来から高率であった東北地域を含む日本海側および九州地域でも起きていたが,これまでやや自殺死亡率が低い傾向にあった関西および関東などの大都市部での増加が大きな関与を果たしていた。また,男と比較して女の自殺死亡数の増加はわずかではあるが,女の近年の自殺死亡数の増加が関西および関東などの大都市部において明らかであった。
結論 関西および関東などの大都市部における自殺死亡数の相対的増加は,社会・経済的要因の関与を推察させるものである。近年の自殺死亡急増の背景にはこれまでとは異なる要因の強い関与があると考えられ,自殺死亡急増こついてのさらなる構造的解明が必要とされている。また,都市部での自殺死亡増加という新たな事態に対して,的確な自殺予防対策を確立し推進することが強く求められている。

キーワード 自殺死亡,大都市,地域集積性,保健統計

 

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第50巻第10号 2003年9月

老人保健事業の参加状況と標準化死亡比(死因別),
入院・入院外受診率の関連

-北海道内市町村を対象として-
深山 智代(ミヤマ トモヨ) 桑原 ゆみ(クワバラ ユミ) 工藤 禎子(クドウ ヨシコ)
三国 久美(ミクニ クミ) 森田 智子(モリタ トモコ)

目的 老人保健事業評価の基礎資料として,保健事業参加状況の市町村による相異および参加状況と標準化死亡比(死因別),入院・人院外受診率の関連を明らかにする。
方法 北海道内208市町村の老人保健事業(健康教育,健康相談,基本健康診査等の保健事業)の参加率を変数としてクラスター分析を行い,参加状況を類型化した。人口5千,1万,5万,10万人で区切って市町村をグループに分け、グループごとに,参加類型間で標準化死亡比(脳血管疾思・急性心筋梗塞),循環器系疾患による入院・人院外受診率を比較した。
結果 保健事業の参加状況は7類型(Ⅰ~Ⅶ型)に分類された。ただし,人口5万人以上の市はほとんどが同一類型(Ⅶ型)であった。基本健康診査.健康教育,健康相談,訪問指導の参加率からみて,Ⅰ~Ⅳ型は基本健康診査に比して健康相談が多い。そのうちⅠ~Ⅳ型は訪問指導が,比較的多く,Ⅲ~Ⅴ型は健康教育が比較的多い。Ⅷ型は4保健事業とも少ない。参加状況と標準化死亡比(死因別)の関連について,人口5千人未満の町村グループでは,参加類型Ⅰ・Ⅱ・Ⅲ・Ⅵ型はⅦ型より,女性の標準化死亡比(脳血管疾患)が有意に低かった。標準化死亡比(急性心筋梗塞)と循環器系疾患による入院・人院外受診率に関しては,参加類型間に差がみられなかった。
結論 保健事業の参加状況(参加類型)に関して,市町村による相異がみられた。人口5千人未満の町村グループでは,参加類型と女性の標準化死亡比(脳血管疾患)の関連がみられ,基本健康診査,健康教育に加えて健康相談,訪問指導による個別的指導が脳血管疾患による死亡の相対的少なさに寄与する可能性が示唆された。循環器系疾患による入院・入院外受診率については,高齢化率との相関を踏まえ,年齢調整した受診率を指標とする必要性が確認された。老人保健事業の評価において市町村間比較を行う際,人口規模別に比較する必要性が示唆きれた。
キーワード 老人保健事業,標準化死亡比,脳血管疾患,循環器系疾患,受診

 

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第50巻第10号 2003年9月

ドラッグストアにおける禁煙支援者育成の試み

磯村 毅(イソムラ タケシ) 村手 孝直(ムラテ タカナオ)

目的 平成13年9月にニコチンガムがOTC(Ovcr-the-Counter)販売となるなど,薬局,ドラッグストアにおける禁煙支援者の育成が急務となっている。ドラッグストアにおける効果的な禁煙支援者育成の方法を検討した。
方法 ドラッグストアチェーンであるスギ薬局の新入社員97人に対し,講義形式60分,ロールプレイ20分による禁煙支援者育成セミナーを行った後,アンケートを実施した。
結果 過去に禁煙を勧めたことがある人は22%であったが,セミナー終了後に,今後,勧めると答えた人は78%に増加した。禁煙支援の能力について,やろうと思えばできた,だいたいできた,と答えた人は33%であったが,セミナー後は,できる,だいたいできると答えた人は78%に増加した。喫煙者と非喫煙者(過去の喫煙者含む)で比較すると,今までに禁煙を勧めた人の割合は,それぞれ順に20%,23%と低かった。セミナー後,勧めると答えた人は.両群ともに増加したが,喫煙者での57%と比べ,非喫煙者では85%となり有意に大きくなった(p=0.0052)。タバコ関連疾患について8問全部正解だった人は喫煙者の50%に比べ,非喫煙者では73%と多かった(p=0.028)。タバコを吸う動機について,喫煙者では「気持ちが休まる」と答えたものが22%であったが,非喫煙着では56%と多かった(p=0.0029)。上記のような違いは男女,出身学部によっては見いだされなかった。
結論 新入社員に対する禁煙支援セミナーの後,禁煙を勧めると答えた人が増加した。非喫煙肴に対し働きかけると,より効率よく禁煙支援者を得ることができる。喫煙者の場合,セミナーの直後でも,タバコの害を少なく見積もる傾向がある。非喫煙者では喫煙の理由について,実際の喫煙者と違うことを思い浮かべる場合が少なからずあり,両者の意思疎通の妨げになる。こうした違いは,性別,出身学部によっては認められず,タバコに対する態度は,喫煙者かどうかが決定的である。
キーワード 禁煙支援,ドラッグストア,OTC(Over-The-Counter)

 

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第50巻第10号 2003年9月

高齢者本人による雇宅福祉サービスの評価

早坂 聡久(ハヤサカ トシヒサ) 三田寺 裕治(ミタデラ ユウジ)

目的 本研究は,在宅福祉サービスを利用する要援護高齢者を対象に,高齢者本人が在宅福祉サービスをどのように評価しているのかを調査し,利用者評価と関連要因についての分析と今後の在宅福祉サービスのあり方について検討することを目的とした。
方法 千常県K市における平成12年11月現在の要介護認定者(施設サービス利肝者を除く)783ケースの認定結果と給付実績を基本データとし,以下の調査を実施した。①医療機関に入院している者を除き,調査可能な要介護認定者とその家族介護者704ケースに対する郵送調査(有効回答521ケース)。②要介護認定者のうち,在宅サービスを利用しており,調査可能な470ケースに対する訪問面接調査(有効回答369ケース)。調査期間は,①が平成12年11月6日~30日,②が平成12年12月1日~28日である。
結果 高齢者本人による主観的評価について,9項目からなる設問により測定した。その結果,在宅福祉サービスを利用することで,安心感や日常生活の張り合いなどの心理的な評価項目が高評価を得る傾向がみられた。要介護度との関連では,要介護重度群よりも軽度群において在宅福祉サービスを利用することで効果を認める回答が多く,また,サービスの利用との開運では,訪問系サービスや適所系サービスのみの利用に比べ,訪問系と適所系を併用している群で評価スコアが高い状況がみられた。また,友人・知人などの介護協力者や近隣からの協力が得られている場合や,高齢者本人が自立意欲や外出意欲をもっている場合に評価スコアが有意に高くなった。
結論 在宅福祉サービスに対する高齢者本人による主観的評価については,単一のサービスの提供よりも訪問系サービスと通所系サービスの効果的な組み合わせによるサービス提供が求められる一方で,介護協力者や近隣からのサポート等のインフォーマルな支援が総合的に提供される必要性がある。また,高齢者の主観的評価が自身の自立意欲や外出意欲等の生活意欲に影響を受けることからも、ケアプラン作成においては,生活目標の明確化と専門職による情緒的支援による生活意欲の向上の必要性が示唆される。
キーワード 要援護高齢者,在宅福祉サービス,評価

 

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第50巻第10号 2003年9月

家族介護者による在宅福祉サービスの評価

三田寺 裕治(ミタデラ ユウジ) 早坂 聡久(ハヤサカ トシヒサ)

目的 本研究では,在宅福祉サービスを利用した結果,介護者にどのような変化が生じたのかについてサービス利用者の主観的な尺度基準を用いて評価を行った。また,介護者の評価に関連する要因分析を通して,サービス効果を高めるためのサービス提供のあり方について検討した。
方法 千葉県K市における平成12年11月現在の要介讃認定者(施設サービス利用者を除く)783ケースの認定結果と給付実績を基本データとし,以下の調査を実施した。①医療機関に入院している者等を除き,調査可能な要介護認定者とその家族介護者704ケースに対する郵送調査(有効回答521ケース)。②要介護認定者のうち在宅サービスを利用しており,調査可能な者470ケースに対する訪問面接調査(有効回答369ケース)。なお,調査期間は,①が平成12年11月6日~30日,②が平成12年12月1日~28日である。
結果 介護サービスを利用した結果,介護者にどのような効果が現われたのか,8つの設問を用意し測定した。その結果,最も評価の高い項目は「介護サービスを利用できるという安心感」,逆に最も評価の低い項目は「金銭的負担軽減」であった。また,「サービス種類」「サービス給付量」「高齢者の要介護度」を関連要因として設定し,介護者の評価との関連性について検討した結果, 訪問系サービスでは.「身体的負担の軽減」「安心感」の2項目が,適所系サービスでは,「拘束時間の軽減」「友人との交流増加」の2項目の評価が有意に高くなっていた。サービス給付量と介護者の評価との関連では,「身体的負担の軽減」「精神的負担の軽減」の2項目において有意差(p<0.01)が確認され,それぞれサービス給付畳の多い群において介護者の評価が高くなっていた。要介護度と介護者の評価との開通では,要介護重度群の高齢者を介護している介讃者では「身体的負担の軽減」の評価が高く(p<0.01),要介護軽度群の高齢者を介護している介護者では「自由時間の増加」「友人との交流増加」の評価が高くなっていた。
結論 介護サービスを効率的かつ効果的に提供していくためには,利用者の生活全般の問題やニーズを収集・分析し,ニーズにマッチした多様で質の高いサービスが総合的に提供される必要性が示唆された。また,要介護度の高い高齢者を介護している介護者に村しては,在宅福祉サービス等の社会資源の拡充による物理的負担軽減とともに,専門職によるエンパワーメント・アプローチの重要性が示唆された。
キーワード  家族介護者,在宅福祉サービス,評価,効果

 

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第50巻第11号 2003年10月

奈良県内の事業所における事業所規模と産業看護職の
確保が産業歯科保健活動や喫煙対策に及ぼす影響

堀江 博(ホリエ ヒロシ) 青山 旬(アオヤマ ヒトシ)

日的 労働安全衛生法第3条には職場における労働者の安全と健康の確保がうたわれている。歯科に関しては労働安全衛生法施行令第22条第3項で有害業務に対する歯科健診が兼務づけられている。また,旧労働省が実施した平成9年労働者健康状況調査では9.6%の者が歯周病を持病にもつことが報告されている。しかし,事業所における歯科保健の現状は都道府県レベルではほとんど把掘できていない状態であり,奈良県も例外ではなく,今後の施策立案のための基礎資料となる実態把握を目的に調査を実施した。また,近年,対策が推進されているたばこ対策についても調査を行った。
方法 県内の30人以上の事業所1,980か所から594か所(30%)を無作為抽出し,衛生管理者あて,調査票を返信用封筒等と共に郵送し,返送された調査票を集計分析した。調査期間は平成14年8月27日から9月30日までで行った。督促はハガキにて1回行った。
なお,事業所のデータは,平成11年事業所・企業統計調査(総務省)の結果を利用した。
結果 郵送した詞査票594通のうち26通が該当なし等で返送された(到達率95.6%)。370件の回答があり,そのうち白紙回答が2件あった(有効回答数368,有効回答率64.8%)。
労働安全衛生法施行令第22条第3項に規定する有害業務には12件(3%)が該当した。産業看護職を57件(15%)が常勤または非常勤で雇用していた。従業員の歯科保健に何らかの取り組みをしていると回答した事業所は25件(7%)であった。喫煙対策に取り組んでいると回答した事業所は222件く60%)であった。また,歯科保健事業実施の有無について,歯科衛生士の確保,歯科診療室の有無により有意に差がみられた。
たばこ対策実施の有無を従属変数とし,産業看護職の確保と事業所規模をカテゴリー変数としてロジスティック回帰分析を行った結果,決定係数は小さいものの産業看護職の確保と事業所規模が関与している可能性が示され,一方,歯科保健対策の有無については,歯科衛生士の確保と産業看護職の確保が関与している可能性が示された。
結論 事業所内の歯科診療室の設置,過去1年間の歯科衛生上の雇用,産業看護職の雇用,歯科保健活動の有無は事業所規模により差があった。また,喫棲対策の実施状況も事業所規模により差があった。80%以上の事業所が産業看護職を確保しておらず,それらについては従業員の歯科保健活動のみならず健康づくり活動全般に関しての窓口の把握が必要になることが示された。
キーワード 歯科保健,産業保健,たばこ,喫煙対策,産業看護職

 

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第50巻第11号 2003年10月

成人における現在歯数と高血圧症
との関連に関する後向きコホート研究

森谷 俊樹(モリヤ トシキ) 阿部 晶子(アベ マサコ) 南 健太郎(ミナミ ケンタロウ)
染谷 美子(ソメヤ ヨシコ) 米満 正美(ヨネミツ マサミ)

日的 本研究の目的は,現在歯数と高血圧症の関連を検討し,これを全身の健康と歯科保健の向上につなげることである。
方法 岩手県沢内村の総合成人病検診および60歳代検診の受検者のうち,1977~81年度,1995~99年度の2期間とも受検していた510人を選び出した。そのうち同意の得られた254人を対象として,高血圧症が現在歯数に及ぼす影響,ならびに現在歯数の減少が高血圧症に及ぼす影響について検討した。
結果 高血圧症が現在歯数に及ぼす影響を分析するために,1977~81年度と1995-99年度の2期間にわたる高血圧症の罷患経過により群分けし,それぞれの現在歯数の変化を比較した。その結果,1977-81年度の検診時に高血圧症に罹患していないが1995-99年度の検診時には罹患している者,ならびに1977-81年度と1995-99年度の両検診時とも高血圧症に罹患している者は現在歯数の減少が大きかった。また,年齢,喫煙,飲酒,BMIの影響を取り除くために,現在歯数(1995~99年度)を目的変数として重回帰分析をした結果,高血圧症の罹患経過は有意な説明変数となり,高血圧症に罹患することは現在歯数の減少を進行させることを示した。現在歯数の減少が高血圧症に及ぼす影響を分析するために,1977~81年度と1995~99年度にわたる現在歯数20本以上の有無の経過で群分けし,高血圧症の累積罹患率を比較した。その結果,現在歯数の減少が高血圧症に結びつく傾向は,男性においてのみ認められた。しかしながら,年齢,喫煙,飲酒,BMIの影響を取り除くために,高血圧症の有無(1995~99年度)を目的変数としてロジスティック回帰分析をした結果,現在歯数の経過と関連はみられたものの,現在歯数の減少が高血圧症の発症に結び付くことは認められなかった。
結論 高血圧症は,現在歯数の減少,すなわち歯牙喪失の危険因子である可能性が高かった。特に,長い期間罹患している者は,歯牙喪失のリスクが大きいと認められた。逆に,歯牙喪失が高血圧症の危険因子である可能性は低かった。
キーワード 8O20運動,後向きコホート研究,現在歯数,歯牙喪失,高血圧症,危険因子

 

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第50巻第11号 2003年10月

児童虐待対応に伴う児童相談所への保護者の
リアクション等に関する調査研究

才村 純(サイムラ ジュン)

目的 虐待の対応では,立入検査や職権による一時保護など,児童の安全確保と福祉を最優先した毅然たる措置が児童相談所に求められることから,時には保護者との間で熾烈な対立関係が生じることも珍しくない。本研究では,保護者による児童相談所への加害・妨害事件等の実態を把握することにより,児童相談所の円滑な業務運営および職員の被害防止を図るための提言を行うこととした。
方法 児童相談所を設置・運営するすべての都道府県・指定都市を対象に,保護者による児童相談所職員への加害・妨害事件等の実態に関する質問紙調査を実施した(調査対象年度は平成10年度~13年度上半期)。
結果 調査の結果,①加害妨害事件は3年半で352件発生しており,年々急増していること,②加害・妨害の対象は児童福祉司が9割を占めていること,③加害・妨害事件の過半数が一時保護に絡むものであること,④加害・妨害の内容は,暴言,脅迫,暴行などが多いこと,⑤被害の内容としては精神的なものが大半であるが,公務災害手続きがとられたのはごく一部であることなどの実態が明らかになった。
なお,保護者からの行政不服申立て,行政事件訴訟,民事訴訟,自己情報開示請求の状況についても調査を行ったが,これらのうち,行政不服申立て,自己情報開示請求は事案が急増していることが明らかになった。
結論 加害・妨害事件を防止する方策として,①組織的対応の徹底,②警察との連携の一層の強化,③保安体制・危機管理体制の確保,④強権的介入における新たな援助技術の確立と職員への技術的支援体制の強化,⑤保護者の立場を代弁し,保護者に代わって児童相談所と調整を行う代理人制度の導入,⑥被害職員等に対する精神的ケアのあり方に向けた検討の必要性などについて提言を行った。
キーワード 児童虐待,児童相談所、児童福祉司,加害・妨害事件,行政不服申立て,自己情報開示靖求

 

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第50巻第11号 2003年10月

Age-Period-Cohortモデルによる
日本人中高年の損失寿命に関する分析

小田切 陽一(オダギリ ヨウイチ) 内田 博之(ウチダ ヒロユキ)

目的 日本人中高年(40~64歳)の早期死亡による損失寿命の過去35年間の推移に対する年齢,時代およびコホート(同年代出生コホ一ト)の影響について明らかにすることを目的とした。
方法 1960年から1994年までの全死因と主要死因(悪性新生物,心疾患,脳血管疾患,不慮の事故,自殺)の5年齢階級(40~44歳から60~64歳)のYPLL率を5年ごとの7期間について男女別に算出し,コホート表を作成した。それぞれのコホート表についてベイズ型Age-Period-Cohort分析を適用することにより,3要因(年齢,時代,コホート)の効果を分離して推定し,各要因の損失寿命に与える影響について考察した。
結果 全死因の損失寿命に対し,男性では後年生まれのコホートほど効果が減少する出生年代の影響が顕著であった。さらに50~54歳を最大とし,60~64歳で大きく低下する年齢の影響も認められた。これとは対照的に,女性では年齢やコホートの影響は小さく,むしろ時代進行に伴って一貫した減少を示した時代の影響が大きかった。死因別の分析結果では,脳血管疾患の損失寿命に対しては,男女ともに時代の影響が顕著であり,加えて,男性では1921-1925年生まれを底としたⅤ字状のコホートの影響が認められ,このコホート効果は同じ循環器疾患である心疾患の場合と類似していた。悪性新生物では,男性において50歳代における年齢影響が大きく,また,1921~1930年生まれ以降の効果減少を特徴としたコホートの影響を認めたが,女性では,3要因の影響は明瞭でなかった。不慮の事故についても,男性でのみ,年齢と時代の影響が強く認められたほか,1926-1935年生まれをピークとしたコホートの影響も認められた。自殺では,男女に共通して,年齢効果が相対的に大きく,若齢側の影響が大きかった。加えて,男性では1980~84年をピークとした時代の影響,さらには1916~1925年生まれから1936-1945年生まれにかけての効果の増大を特徴としたコホートの影響が認められた。
結論 ベイズ型コホート分析によって,日本人中高年の早期死亡による損失寿命の推移に対する年齢,時代および同年代出生コホートの影響が明らかにされた。とくに男性の場合,全死因の損失寿命に対してだけでなく,主要死因別の損失寿命に対しても同年代出生コホートの影響が明らかになった。一方,女性ではコホートの影響は小さく,むしろ全死因と脳血管疾患死亡の損失寿命に対する時代の影響が特徴として把握きれた。
キーワード 損失生存可能年数(YPLL),損失寿命,ベイズ型年齢-時代-コホート分析,日本人中高年,早期死亡

 

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第50巻第11号 2003年10月

訪問介護事業所におけるコーディネート実践に関連する要因

-サービス提供責任者による実践に焦点をあてて-
鳥海 直美(トリウミ ナオミ) 岡田 進一(オカダ シンイチ) 白澤 政和(シラサワ マサカズ)

日的 訪問介護事業所のサービス提供責任者によるコーディネート実践の状況を把接し,その実践に影響を与える様々な要因を明らかこすることを目的とした。
方法 調査対象は訪問介護事業所のサービス提供責任者387名であり,調査方法は自記式質問紙による郵送調査である。調査期間は2001年9月であり,有効回答率は54.8%であった。
調査項目は,所属機関要因4項目,個人要因2項目,コーディネートに必要とされる業務として62項目を設定した。サービス提供責任者によるコーデイネート実践の状況を把握するため主成分分析から得られた因子ごとに単純集計を行った。そして,コーディネート実践こ影響を与える要因を明らかにするために,それぞれの因子の項目の合計得点を従属変数とし,所属機関要因と個人要因を独立変数とするt検定または一元配置の分散分析を行った。
結果 因子別単純集計の結果,コーディネート実践度の平均値は「パートナーシップづくりが」3.72で最も高く,次いで「サービス導入」が3.68であった。一方,最も低かった因子は「研修受講の促進」の2.85であった。t検定または一元配置の分散分析の結果,すべての所属機関要因とコ一デイネート実践度のそれぞれの間に関連がみられ,そのうち,関係機関と連絡をとり合う時間が保証されている事業所,マニュアルの整備されている事業所,研修が開催されている事業所は,「訪問介護計画の作成とモニタリング」「利用者とヘルパーの関係づくり」「関係機関との連携」などにおける実践の程度が高かった。個人要因については,サービス提供責任者としての経験年数が長い者,研修の参加頻度の高い者が「ケアマネジメントの補完」「研修受講の促進」「サービス導入」などにおける実践の程度に大きな影響を与えることが明らかになった。
結論 サービス提供責任者によるコーディネート実既の特徴は,ケアプランを訪問介護計画に置き換え,利用者のニーズを継続的に把握することであり,ケアマネジメント・システムにおけるモニタリング機能を担う者として位置づけていくことの重要性が示唆された。サービス提供責任者によるコーディネート実践を確立していくためには,サービス提供責任者の配置体制を整備するなど職場環境を整え,利用者のみならず,担当ヘルパーやケアマネジャーと十分に連結を取り合う体制づくりが求められる。さらに,研修機会を確保しながら機関内外における役割認識を明確化し,職場内で共通認識をもてるようにすることが必要である。そのためには.身体介護や生活援助の直接業務に限定された介護報酬を見直し,コーディネートに関する間接業務や研修の開催にかかわる財政基盤を整備することが政策的課題である。
キーワード ホームヘルプサービス,コーディネート,ケアマネジメント,サービスの質

 

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第50巻第13号 2003年11月

医療関係者の睡眠習慣実態について

草野 昌樹(クサノ マサキ) 藁谷 暢(ワラガイ ミツル) 金子 信也(カネコ シンヤ)
佐藤 晶彦(サトウ マサヒコ) 前田 享史(マエダ タカフミ)
佐々木 昭彦(ササキ アキヒコ) 田中 正敏(タナカ マサトシ)

目的 睡眠習慣は日常の生活習慣のベースをなすものであり,睡眠習慣の乱れによって心身の疲労が生じ,うっかりミスや事故にもつながりやすいと考えられる。医療関係機関では夜勤が必須で,医師,看護師などは夜勤や交替制勤務などによって睡眠習慣を崩しやすい。看護師の場命には交替制勤務体制をとっているが,医師の場合には明確に体制化されておらず,医療関係者のなかでも睡眠習慣等については差異が大きいものと考えられる。今回は医療関係者の健康保持,増進を図っていく上で重要な睡眠習慣等についての基礎資料を得ることを目的に,医療関係者を対象に睡眠習慣の状況を調査した。
方法 某医科大学付属病院に勤務する医師,看護師,そして対照群として職員.医学部学生を含め,計1.341人を対象として睡眠習慣についてのアンケート調査を実施し,グループ間で比較検討を行った。
結果 医師の睡眠時間は短く,看護師,職員,学生の睡眠時間との間に有意差がみられた。また,いずれのグループにおいても,「睡眠は足りていない」と申告する割合が高く,グループ間に有意差はみられなかった。交替勤務体制が行われている看護師では,睡眠を確保している傾向がみられた。10項目からなる生活習慣(睡眠,入浴,過労,肉体的疲労,精神的疲労,慢性疲労,うつ状態,野菜嫌い,休日,趣味)をスコア化した生活習慣スコアでは,学生に比べ医師と看護師が有意に悪かった。
考察 夜勤については,睡眠時間との関係から日内リズムをなるべく阻害しないように夜勤勤務時間を短時間にとどめ,当直後の休息を確保できる勤務時間間隔への配慮,交替制勤務の場合には,社会環境,職場環境の影響,家庭内の男女の役割分担などについての検討が重要と考える。一般的に医師の勤務に交代制は取り入れられていないが,睡眠不足,睡眠習慣の乱れに伴う過労や医療ミスにつながることも憂慮され,医療従事者,労働者として交替勤務体制の導入が必要と考える。全体的に医療従事者の睡眠,ライフスタイルについては,勤務体制の検討,効率的に疲労回復できる環境条件の確保が求められ,個人においては,休養の取り方,睡眠の取り方、休日の過ごし方などへの配慮が必要と考える。
キーワード 交替制勤務,医療関係者,睡眠習慣,アンケート調香,生活習慣スコア

 

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第50巻第13号 2003年11月

大阪府守口市での医師会会員と市民の
「がん告知」に関する意識調査

寺西 伸介(テラニシ シンスケ) 吉田 宗永(ヨシダ ムネナガ) 中村 泰清(ナカムラ ヤスキヨ)
森崎 堅太郎(モリサキ ケンタロウ) 佐藤 正(サトウ タダシ) 辻 瀧太郎(ツジ タキタロウ)

目的 古くより「がんの告知」の問題は,医師にとっては大きなテーマであり,時代の流れとともに,その意識に変化がみられる。今回,大阪府守口市において,死を目前にした末期がんを想定して医師会会員と住民に対し,そのような場合の「がん告知」に関する意識を調査し,比較することによって,地域医療を担う医師が「がん告知」の場に直面した際に,どのように対応すればよいのかを検討することを目的とした。
対象と方法 本調査の対象は守口市医師会開業医会員(会員)145人と守口市在住住民(市民)1.500人で,アンケート調査を行った。内容は会員と市民のいずれにも共通の調査項目を3問設定し,会員にはさらに1間を追加した。すなわち,「がん告知」対象が問1は自分自身の場合,間2はパートナーへの場合,開3は第三者への場合について質問調査した。間4は会員のみに対する質問で,現在,実際に告知するようにしているかを聞いた。
結果 自分自身が対象の立場では「告知を希望する」と答えた人は,会員が83%で,市民が74%と大半を占めた。対象がパートナーの場合では,「告知をする」という意見は会員が47%,市民が40%で,いずれも最も多数を占めた。しかし,「告知をしない」という割合は,会員が15%で市民が33%と,市民の方が2倍強も多かった。対象が第三者の場合では,会員と市民とで大きく差がみられ,第三者に「告知すべき」としたのは,会員が26%で市民が40%であり,市民の方が14ポイントも多かった。「告知すべきでない」とした人は,会員が54%で,29ポイントも市民を上回り,過半数を占めた。このように,市民はいずれの立場に立っても,告知を希望するという意識が現れていた。これらの告知希望の理由として,病気のことを十分知りたい,がんと戦いたいという回答が多かった。また,対象が本人の場合よりパートナーの場合,第三者の場合において,会員と市民の考え方が大きく相違していた。
結論 会員と市民との「がん告知」の意識の相違は医師にとって憤重な対応が過られるものである。患者の人権や自己決定棒を念頭におき,告知後の支援も考慮した上で,思いやりのある丁重を告知を患者の立場に立って,まず,本人に告知し,本人の希望があれば家族にも告知をすることが妥当であると考えられた。また,伝えた後.どのように患者に対応し,授肋していくかという告知の質についても考慮しなければならか、。
キーワード がん告知.アンケート調査,意識調査,自己決定権,インフォームド・コンセント

 

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第50巻第13号 2003年11月

レセプト全傷病分析による町村間 ならびに月間変動の分析

岡本 悦司(オカモト エツジ) 田原 康玄(タバラ ヤスハル)

目的 レセプトは複数の傷病名が記載されることが多く,傷病別の医療費や受療頻度(日数)を把揺することは因難であった。そこで傷病ごとに一定の「重み」を仮定し,複数傷病レセプトの日数,点数を重みに従って比例配分するPDM法とよばれる手法を愛媛県の2町村の高齢者外来レセプトに適用し,町村間ならびに月間の日数,点数の傷病割合を比較することを目的とした。
方法 データは愛媛県のA村 Z町の65歳以上外米レセプトであり,分析した情報は.性,年齢,日数,診療行為別点数,傷病名(全傷病)である。対象レセプトの日数,診療行為別点数をPDM法により傷病割合を推計した。
結果 両町村の全レセプトの総日数と総点数の傷病割合は,Z町では高血圧が総点数の15%を占め実地しているが,A村では各傷病はおおむね均等に分布しており,点数割合が最も大きいのは「症状,徽候及び異常臨床所見」で.高血圧は2位であった。同様の分析を月別に行い月間変動を分析したが,対象が高齢者で慢性疾患が多いこともあって大きな季節変動は認められなかった。診癌行為別点数をみると,A村では投薬が43%,Z町では診察指導管理が36.5%で最大であ.った。しかし投薬点数のみをとりだしてPDM法による傷病分析を行ったところ,その傷病割合に両町村間に大きな相違はなかった。
結論 PDM法は分類者の主観に左右されない分析法なので,異なった市町村間で,あるいは同一市町村における異なった月間で,傷病割合を客観的に比較することが可能になる。今回の分析の結果,同じ年齢層の高齢者の外来レセプトでも,その日数,点数の傷病割合にはA村とZ町とで大きな違いがあることが明らかになった。しかしながら,投薬点数のみをとりだして傷病分析を行うと両町村間で大きな相違はみられず,対象が高齢者で慢性疾患中心であることから日数や点数の傷病割合にも顕著な月間変動はみられなかった。
本分析は,国保全被保険者について,1年間にわたり全傷病を入力され、点数も診察行為別に細分して分析された初のケースとして特筆される。PDM法によって,これまで困難だったレセプト点数,日数の傷病割合の変動を客観的に把握することが可能になった。
キーワード レセプト,PDM法,傷病分類,老人医療費,地域差,薬剤費

 

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第50巻第13号 2003年11月

国民生活基礎調査と国民栄養調査のレコードリンケージ
に基づく自覚症状と生活習慣の関連

川戸 美由紀(カワド ミユキ) 橋本 修二(ハシモト シュウジ) 松村 康弘(マツムラ ヤスヒロ)
小栗 重統(オグリ シゲノリ) 岡山 明(オカヤマ アキラ)
中村 好一(ナカムラ ヨシカズ) 柳川 洋(ヤナガワ ヒロシ)

目的 国民生活基礎調査の自覚症状と国民栄養調査の生活習慣の関連性について,両統計のレコードリンケージに基づいて検討を試みた。
対象と方法 平成7年の両統計を都道府県,地区,単位区,世帯,性.出生年月をキーとして個人単位にレコードリンケージした。自覚症状として44項目,生活習慣として10栄養素の充足率等と喫煙・飲酒・運動状況を用いた。20歳以上の7,233人について.男女ごとに,各自覚症状の有無を目的変数とし,各生活習慣と年齢を説明変数とするロジスティック回帰を行った。
結果 男女いずれかで,栄養素充足率等の1つ以上でオッズ比が有意であった自覚症状は23項目であったが,自覚症状と栄養素充足率等の組み合わせの中で男女ともにオッズ比が有意なものはなかった。喫煙習慣の「吸わない」に対する「吸う」のオッズ比では,男で歯が痛い、たんが出る,腹痛・胃痛,女で手足の動きが悪い,たんがでる,吐き気・嘔吐,発疹が有意に高かった。飲酒習慣の「飲まない」に対する「飲む」のオッズ比では,男では有意に高い項目がなく,女で眠れない,下痢,胃のもたれなど8項目で有意に高かった。運動習慣の「なし」に対する「あり」のオッズ比では、男でゼイゼイする,女で体がだるい,頭痛,胃のもたれが有意に低かった。
結論 上記の関連性については,今後詳細な検討を要するものであるが,個々の保健統計のみでは得られないことから,複数統計間のレコードリンケージの有用性を示唆するものと考えられる。
キーワード 自覚症状,生活習慣,レコードリンケージ,国民生活基礎調査,国民栄養調査

 

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第50巻第13号 2003年11月

障害者の介護に求められるもの

-障害者に対する介護労働に関する調査研究より-
中村 幸子(ナカムラ サチコ) 嶌末 憲子(シマスエ ノリコ)
山内 弥子(ヤマウチ ヒサコ) 石川 彪(イシカワ ヒョウ)

研究目的 障害者を支援する・介護(介助)は,平成15年度から措置から契約への転換という大きな変革を迎えようとしている。しかし,障害者介護労働の体系は,高齢者を対象とした介護保険下のものとは異なり,必ずしも明らかではない。そこで障害者の自立生活支援に寄与する介護職の役割について障害者団体の声をもとに明らかにし,「障害者を支援する介護労働等の特性に関する現状と課題」を整理する調査研究の基礎資料とする。
対象と方法 全国の障害者・患者団体7団体に調査依頼書とアンケート質問紙を送付し,38団体(54%)を有効回答として分析した。さらに協力の得られた団体にヒアリング調査を行った。調香期間は,平成14年3月から6月である。
調査結果および考察 ①マンパワーの資質・条件として,「対象者を埋解する態度」「人間尊重の価値観」が上位を占めている。「専門的技術・知識」も重視されたが,障害別のきめ細かい対応や,障害者の権利を守るための専門性が期待され,資格を介しての専門職性とは異なる。②サービス内容および利用状況は,障害により多彩であり,教育・就労・社会参加などの場面での支援をも求めていることが明らかになった。介護(介助)に求められるものも,身体介護という狭い対人サービス諭から脱却し,利用者の生活および人生を支える支援者としての認識と,熟練した技術が求められるようになったといえる。③実際に介肋を受けている状況として,家族介護に依拠している現実と.近隣への依頼も困難な状況があった。社会への権利意識の高まりはあるとはいえ,インフォーマルサポートへの期待は低くノーマライゼーション思想の理念と現実のギャップがうかがえた。
結論 障害者の介護にかかわるものとして,援助を撞供する対象として利用者を見ていくだけでなく,利用者の自立と社会参加のためにどのような支援と連携が必要であるか,あるいは資源開発まで含めて,利用者の立場から発想することが基本である。これは広くソーシャルワークの視点と,さらに利用者および家族をエンパワーメントしていくかかわりや,アドヴォケイトしていく重要性が示唆された。
キーワード 自立支援,社会参加,マイパワー、専門性,介護(介助)

 

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第50巻第15号 2003年12月

介護予防施策における対象者抽出の課題

高木 章子(タカギ アキコ) 味木 和喜子(アジキ ワキコ) 津熊 秀明(ツクマ ヒデアキ)

目的 女性食道がんの発生率の高い大阪府において,口常生活習慣と女性食道がんとの関連を解明する。
方法 大阪府立成人病センターで1990~99年に入院患者に対して実施した日常生活習慣に関する自記式の調査票のなかから,女性食道がん患者34人と,がん.循環器疾患,肝疾患を除く女性患者178人とを抽出,同定し,飲酒,喫煙,熱い食べ物に対する晴好,歯磨き習慣をとりあげ,症例対照研究を行った。
結果 食道がんの多変量調整オッズ比は,「飲酒経験なし」を基準とした場合,「飲酒経験あり」3.0(95%信頼区間1.2-7.5),「喫煙経験なし」を基準とした場合,「喫蛭経験あり」1.7(0.7~4.3)であった。熱い食べ物の嗜好は,「嫌い・ふつう」に此し「好き」1.5(0.6~3.4),「歯磨き1日2,3回」は「1日1回以下」に比し0.4(0.1~1.1)となった。飲酒と喫煙の組み食わせ別にみた年齢調整オッズ比は,「飲酒あり・喫煙あり」が6.3(2.1-18.6),「飲酒あり・喫煙なし」が3.4(1.1-10.2),「飲酒なし・喫建あり」が2.7(0.9~8.6)となった。人口寄与危険割合は,「毎日飲酒」37%,「喫煙経験あり」が14%,「歯磨き1日1回以下」が21%と推計された。
結論 大阪府の女性食道がん高リスクは.大阪府の女性の飲酒・喫煙歴が全国と比べて高いことに起因している可能性が示唆された。食道がん発生の予防には,「飲酒を控える」,「たばこを吸い始めない」,「歯磨きを励行する」の3点を広く生活指導することが重要である。
キーワード 女性,食道がん,飲酒,喫煙,熱い食べ物,歯磨き習慣

 

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第50巻第15号 2003年12月

DaySurgery導入・MajorSurgery増加に
対応した手術室増設が病床稼働に与える
影響に関する一般解の作成

康永 秀生(ヤスナガ ヒデオ) 今村 知明(イマムラ トモアキ) 大江 和彦(オオエ カズヒコ)

日的 総合病院において手術件数の増大(Day Surgery(短期滞在型手術)の導入,Major Surgery(術後入院必要手術)の増加)に対応して手術室を増設した場命に,病床稼働率に与える影響を明らかにする。
方法 現在実施されている手術を,Day Surgery適応手術とそれ以外のMajor Surgelyに区分し,前者を積極的に導入する場合としない場合に分けて.手術件数増加に対応する手術室の必要増設数および年間延べ入院患者数・平均在院日数・病床稼働率について一般解を作成した。さらに,用いた変数に適当な数値を代入して,手術件数増加に伴う手術患者および外科系全体の平均在院日数の変化を観察した。
結果 手術室の必要増設数は,現在の手術件数,手術1件当たりの平均手術室滞在時間,および手術の増加件数に規定される。Day Surgeryを導入しない場合は,積極的に導入する場合と比較して,当初の平均在院日数は長くなる。いずれの場合も,手術件数増加に伴って全体の平均在院日数は漸増するが,病床稼働率が100%に達した時点で,逆に平均在院日数の低減を迫られる。Major Surgery単独で増加する場合に比べて,Day Surgery・Major Surgeryともに増加する場合の方が,平均在院日数の最大値は小さくなり,満床に至るまでより多くの手術が実施可能となる。
結論 手術件数増加に対応して,手術室の増設により手術患者の受け入れ体制が充足されると,逆に病棟に対する負荷が大きくなる。特にMajor Surgeryを増加させた場合.病棟は平均在院日数の長い患者がさらに増加することで病床数が不足し,平均在院日数の短縮を迫られる。Day Surgery導入を伴わない手術件数増加に比べ,Day Surgeryを導入しさらにMajorSurgeryも増加させるケースの方が,手術室1室当たりの年間延べ入院患者数を多く確保でき,病床稼働率が100%となるまでより多くの手術を実施できるため,病棟・手術室ともに効率的な運用が可能となる。
キーワード Day Surgery,Major Surgery,手術室,平均在院日数,病床稼働率

 

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第50巻第15号 2003年12月

保健医療情報の地図表示システムの構築

伊藤 武彦(イトウ タケヒコ) 関 明彦(セキ アキヒコ) 吉良 尚平(キラ ショウへイ)

目的 保健・医鰍こ関する情報を地図上に表示し,誰もが簡便に統計地図を作成・分析することを可能とするシステムの構築を目標として,ソフトウェア開発を行う。
方法 Microsoft社のWindows98および2000で動作するExcel2000(以下「エクセル」)のワークシート上に国土数値情報を用いた電子地図(行政界地岡)を描くプログラムを開発した。そして,市区町村単位,地域基本メッシュ単位で編成されたデータおよび保健医療機関等の位置などのポイントデータを扱えるように設計した。保健医療情報等は,エクセルのファイルとして保存しておき,そのデータをエクセル上で展開・階級分けを行った。別に作成しておいた行政界の白地図をエクセルのワークシート上に用意しておき,白地図の各要素,あるいはその背景に作成するメッシュ地図などの図形を,展開・階級分けしたデータをもとに彩色し,統計地図が作成できるようなシステムを構築した。
結果 岡山県の国勢調査結果(市町村別・地域基本メッシュ別)および保健医瞭機関の所在のデータをもとに,岡山県内の市町村の白地図上に統計地図が作成できるシステムを構築した。また.保健医療機関の所在地を地図上にプロットすることや,異なる地図を重ね合わせることも可能となった。
結論 エクセル上で,市区町村別など行政界別の統計地図と地域メッシュ統計地図の両方を作成できるシステムが構築された。これを用いれば,既存の保健・医療に関する統計情報を用いて簡便に統計地図を作成できるので,地域の医療保健情報が一層活用されることに資するものであると考えている。
キーワード 保健医療情報,地理情報システム,地域診断,国勢調査,統計地図,数値地図

 

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第50巻第15号 2003年12月

循環器疾患死亡除去によるコホート生命表への影響

-特定高齢者と要支援高齢者の階層的な関係の検証-
渡辺 智之(ワタナベ トモユキ) 水野 裕(ミズノ ユタカ) 大森 正子(オオモリ マサコ)
福田 博美(フクダ ヒロミ) 宮尾 克(ミヤオ マサル) 大沢 功(オオサワ イサオ)
佐藤 祐造(サトウ ユウゾウ) 長谷川 敏彦(ハセガワ トシヒコ)

目的 わが国の平均寿命は現在,非常に高い水準を維持している。この主な理由として,結核をはじめとする感染症などが激減し,脳血管疾息 心疾患などの「生活習慣病」に村する効果的な対策がとられたことがあげられるが,依然として循環器疾患(心血管疾患および脳血管疾患)による死亡は総死亡の約3割と高い割合を占めている。本研究では,コホート(世代)生命表(同時出生集団を追跡して作成された生命表)を用いて循環器疾患による死亡を除去した場合に生存数がどの程度増加するかを世代ごとに比較検討することにより,循環器疾患死亡が各世代に与える影響を分析した。
対象と方法 コホート生命表を用いて,1900-1904年出生コホート(5年間同時出生集団)から1960-1964年出生コホートまでの13集団の生存数の変化を検討した。本研究ではまず,小林・南條の方法に準拠して,期間生命表(観察集団による生命表)の年命表死亡率および循環器疾患死亡を除去した場合の生命表死亡率からコホート生命表の死亡率を算出した。次に,これらの死亡率を用いて循環器疾患死亡を除去した場合としない場合の生命表生存数をそれぞれ算出し,それらの差(生存数差)を比較することによって世代ごとの循環器疾患死亡による影響を定量的に分析した。
結果と考察 循環器疾患死亡除去によって最も生存数が増加したのは男女ともた1900-1904年出生コホートであった。経年的にみると,全体的に新しい牡代ほど生存数差は小さくなっており,時代とともに循環器疾患死亡が生存数に与える影響が大きく変わってきている。男女ともに同様の傾向を示しているが.1960年代後半以降は男性の方が生存教養は大きい。年齢別の検討では,4n歳代後半から世代間に生存数差に違いがみられ.高齢になるにつれて生存数差が急増する傾向がある。新しい山隼コホートほど牛存数差は小さくなっているが,団塊の仲代前後になると世代間の差はなくなりつつある。
結論 循環器疾患死亡を除去した場令の生存数の増加は,世代が新しくなるにつれて減少傾向にあり,循環器疾患好亡が生存数に与える影響は小さくなりつつあるが、世代間の差は消失しつつある。今後はさらに追跡を行い、近年の出生コホートにおける影響についても検討していく必要がある。
キャワード 牛命表,平均余命,コホート,循環器疾患,特定死因除去

 

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第50巻第15号 2003年12月

介護予防施策における対象者抽出の課題

-タイムスタディにもとづく「あり方」の研究-
副田 あけみ(ソエダ アケミ) 梅崎 薫(ウメザキ カオル) 小嶋 章吾(コジマ ショウゴ)

日的 業務実態調査をもとに介護保険下における支援センターのあり方, とくに居宅介護支援事業(居宅事業)と支援センター事業(支援事業)の兼務・専務問題や,それぞれの場合の条件等についていくつかの提案を行う。
方法 東京,横浜,石川,富山の計399の支援センターを調査対象に自記式タイムスタディを,東京の20の支援センターを対象にシャドーイング式タイムスタディを実施した。
結果 自記式調査の協力支援センタ一数は242(有効回答率61%),タイムスタディシート回答者数は305であった。地域型支援センター(基幹で地域を兼ねているセンターを含む)の自記式調査結果では,平均実労働時間(573分)に占める居宅介護支援業務時間の割合は59.8%,支援センター業務時間の割合は40.1%であった。支援センター業務の実施を阻書している要因とその程度を探るために,支援センターに帰属する要因である開設からの期間,母体施設または併設施設,運営主体,職員配置数,地域で調整した多重ロジスティック回帰分析を実施した結果,支援センター事業のみを担当する支援事業専務者は,支援センター事業と居宅介護支援事業の兼務者よりも,約16倍支援業務を実施する可能性のあること,ケアプラン作成はプラン数が10増えるごとに支援センター業務を31%阻害することなど明らかとなった。
結論 調査結果と関係者に対するフィードバックの結果を踏まえ,今後も居宅事業と支援事業の双方の実施を求められるはずの支援センターのあり方について,居宅事巣と支援事業とを分担すること,その場合には,主として,あるいは.専ら支援事業を担当する支援事業主担当者は,居宅事業主担当者とのチームワークの下に事業を実施すること,また,居宅事業担当者の給付管理業務削減戦略を採用すること,居宅事業と支援事業を分担せず,会員兼務でいく場合には,1人当たりのケアプラン作成数を月平均20-30に抑制すること,など12項目にわたって提案を行った。
キーワード 在宅介護支援センター,介護保険,ケアマネジメント,介護支援専門員,介護予防,ソーシャルワーク

 

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第50巻第15号 2003年12月

RM-ODPを用いた保健所参照情報モデルの開発

桐生 康生(キリュウ ヤスオ)

目的 保健所と医療機関とのインターフェースを定義する目的で,RM-ODP(ReferenceMode)for Open Distributed Processing)を用いた保健所参照情報エンタープライズ・モデルを開発した。
方法 職員に対するヒアリング,法律・制度の調査を通して,以下の手順でモデルを開発した。まず,保健所における業務のうち医療機関と関係する業務をroleとして抽出し,これらの業務からSubcommunityとenterprise objectを抽出した。次に,各roleのprocessを定義した。最後に,これらのenterprise objectやroleに関連するpolicyを定義した。
結果 立入り検査,保健統計,食中毒,結核・感染症,特定疾患などの業務がroleとして抽出された。保健所の各担当部門がsubcommunityとして抽出された。enterprise objectには各業務担当者が抽出された。これらのenterprise objectとro)eをもとに各業務担当者の業務手順がprocessとして定義された。医療機関の開設許可,結核予防法・感染症法に基づく届け出,病院報告など,法律・制度に基づく医療機関・医師の許認可・報告兼務がpolicyとして定毒された。また,食中毒調査義務等の各担当者の業務上の義務や権限がpolicyとして定義された。
保健所は医療機関に対する行政窓口になることが多いことから,本モデルは,電子カルテ等の病院情報システムと行政情報システムとのインターフェース定義に有用であると考えられた。特に,保健所は,医師等の医療従事者の免許申請や医療機関開設許可申請の窓口となっていることから,医療分野の認許局としての役割も考えられた。また,本モデルは,保健所間の業務
の相互比較に有用であると考えられた。
結論 RM-ODPを用いた保健所参照情報モデルを開発した。保健所の業務がrole,担当者がenterprise objectとして抽出され,法律・制度の義務や権限がpolicyとして定義された。本モデルは,情報システムの構築のみでなく,保健所問の業務の相互比較にも有用と考えられた。
キーワード 保健所,RM-ODP,参照情報モデル,エンタープライズ・モデル,標準化

 

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第51巻第1号 2004年1月

わが国の中高生の喫煙行動に関する全国調査

-2000年度調査報告-
尾崎 米厚(オサキ ヨネアツ) 鈴木 健二(スズキ ケンジ) 和田 清(ワダ キヨシ)
山口 直人(ヤマグチ ナオト) 簑輪 眞澄(ミノワ マスミ) 大井田 隆(オオイダ タカシ)
土井 由利子(ドイ ユリコ) 谷畑 健生(タニハタ タケオ) 上畑 鉄之丞(ウエハタ テツノジョウ)

目的 2000年度におけるわが国の中高生の喫煙行動実態を明らかにするため,全国を代表するようなサンプリング方法に従った全国調査を実施した。
方法 断面標本調査を実施した。地域ブロックを層とし,全国の中学校と全日制高等学校をクラスターとする層別1段クラスター抽出により抽出された学校の在校生徒を調査対象とした。2000年12月から2001年1月にかけて,学校において無記名,自記式質問票による調査を実施し,中学校99校(学校協力率75.0%),高等学校77校(同75.5%)から回答があり,調査票107,907通が回収され,記入が不十分なものを除いた106,297通を解析対象とした。
結果 中学1年男子の喫煙経験者率は22.5%で学年が上がるにつれ上昇したが,中学での喫煙経験者率は1996年度調査(前回調査)より低下した。中学1年女子の喫煙経験者率は16.0%であり,学年とともに上昇した。初めての喫煙経験学年は前回調査と比較し差は認められなかった。月喫煙者率(現在喫煙者率)は,中学1年男子で5.9%であり,学年とともに上昇し,高校3年男子では36.9%にのぼった。毎日喫煙者率は中学1年男子で0.5%に過ぎなかったのが学年とともに急激に上昇し,高校3年男子では,25.9%に達した。女子の月喫煙者率は中学1年が4.3%で,学年が上がるにつれ上昇し高校3年では16.2%であった。毎日喫煙者率は,中学1年女子で0.4%に過ぎなかったのが高校3年女子では,8.2%に達していた。女子の喫煙率は前回調査よりやや高くなっていた。喫煙行動を前回調査と比較すると,1日平均喫煙本数が多い者(10本以上)の割合が上昇したこと,吸うたばこを自動販売機で買う者の割合,対面販売の場で買う者の割合が低下していないことが明らかになった。
結論 わが国の中高生の喫煙行動は依然高いレベルにあり,しかもいくつかの点で悪化している可能性が示唆された。より包括的で強力な未成年者への喫煙対策の推進と監視と評価のための全国規模での定期的な喫煙行動調査が必要である
キーワード 喫煙行動,未成年,全国調査,自己記入法

 

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第51巻第1号 2004年1月

福祉サービス第三者評価の試行と課題の概要

吉泉 秀典(ヨシイズミ ヒデノリ)

目的 平成15年度から障害福祉分野でも支援費制度が始まり,社会福祉サービスの多くの分野で,契約制度によるサービス提供が実施される。これは,選択の自由や事業の競争によるサービスの質の向上が最終的な到達目標として考えられたものだが,急激な施策転換は,様々な「変化のひずみ」を発生させる。需給関係のアンバランス等による契約当事者間の非対等性や公定料金制による競争性の低下等がそれである。本稿では,第三者事業者評価の実施によって,利用者に対する情報の提供と事業者間の競争の喚起を促し,当事者主体の福祉の実現が可能となるよう,江東区が試行した事業を紹介していくものである。
方法 第三者によるサービス評価の実施には,利用者が何を求めているかを把握した上でないと評価項目を設定できない。そこで,利用者満足度調査と並行実施しながら評価項目の設定を行った。これは,当事者主体を前提とする上で,重要な視点としてとらえた。対象となるサービスには,身体障害者ホームヘルプサービスと知的障害者生活寮とし,利用者満足度調査においては,利用者,家族,サービス提供者(ヘルパー・世話人)へのアンケート調査とした。評価項目の設定は,利用者調査の結果を受け,サービス向上と選択のための情報となる要素を選び設定した。
結果 利用者満足度調査では,満足への影響度と現状の評価を比較し,影響度が高く現状評価が低い事項を①問題項目とし,影響度,評価共に高い事項を②促進項目,影響度・評価共に低い事項を③注意項目,影響度が低く評価は高い事項を④現状維持項目とした,構造分析を行った。そして,評価項目抽出の優先順位を①→②→③→④として課題をとらえた。また,一方で,利用者と家族,本人と事業者,家族と事業者の各間の評価の差が20%以上のものを配慮事項とし評価項目を整理した。
結論 評価項目には,①利用者の意向への気づきマインドの要素,②法上の事業者の責務が訓示規定のため,事業者の資質の向上と消費者保護の役割,③当事者対等性と履行確認の方法等が取り入られることが重要であり,評価の実施にあたっては,評価者自身の資質が重要である。
キーワード 当事者主体の社会福祉,契約制度転換への変化のひずみ,対等性の補充,問題項目・促進項目・配慮項目,消費者保護と履行確認,評価者の資質

 

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第51巻第1号 2004年1月

精神病院での長期在院に関連する要因

-患者調査および病院報告に基づく検討-
藤田 利治(フジタ トシハル) 佐藤 俊哉(サトウ トシヤ)

目的 長期在院が問題視されている精神障害者の社会復帰・ノーマライゼイションを推進するため,在院患者における退院の発生率(incidence rate)である退院率を指標として,精神病院における長期在院にかかわる患者特性および病院特性を解明する。
方法 対象者は,「精神及び行動の障害」(ICD10:F00-F99)とてんかん(G40-G41)に分類された精神病院の15歳以上の在院患者および退院患者である。1999年の厚生労働省患者調査および病院報告を用いて,治癒・軽快による退院率と患者特性および病院特性との関連を,重み付きポアソン回帰モデルを用いて単変量解析および多変量解析により検討した。
結果 精神病院からの治癒・軽快による退院率は,精神疾患全体で56.4(/100人年。以下,単位省略),統合失調症等で41.5と推計された。精神病院からの治癒・軽快による退院の可能性が低いものの特性として,長期間の継続在院期間が最も強く関連していた。統合失調症等においては,治癒・軽快での退院の25%は継続在院期間が1か月未満のものであり,退院率は331.1と高いものであった。しかし,5年以上10年未満での退院率は3.6,10年以上では1.2であり,長期継続
在院している統合失調症等のものでは治癒・軽快による退院が極めて稀なことが示された。その他の要因で非退院リスクが高いものの特性として,男,高年齢,血管性等の痴呆,精神遅滞および統合失調症等,医師および看護師・准看護師1人当たりの在院患者数が多い,および病院開設者が個人ないし医療法人であることが明らかになった。
結論 治癒・軽快での退院可能性の低下に対して,入院以来の継続在院期間が長期間であることが強く関与している状況であり,治癒・軽快による退院が稀な長期継続在院患者に対する特段の対策を講じる必要性が定量的にも明らかになった。その他の退院可能性低下と関連する患者特性には,性別,年齢および診断があげられた。また,これまで退院との定量的な関係の検討がほとんどなされてこなかった病院特性についても,患者特性と比べて関連は弱いものの,医師および看護師・准看護師の不足が退院可能性低下と関連することを明らかにした。第四次医療法改正での職員配置基準が遵守されて退院可能性が高まることが期待されるとともに,医療の質を担保する取り組みが一層推進される必要性が示唆された。
キーワード 精神疾患,長期在院,退院率,精神病院,リスク要因,保健統計

 

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第51巻第1号 2004年1月

ホームヘルパーの就業実態

-都市部の指定訪問介護事業従事者-
石橋 智昭(イシバシ トモアキ) 佐久間 志保子(サクマ シオコ) 滝波 順子(タキナミ ノリコ)
西村 昌記(ニシムラ マサノリ) 古谷野 亘(コヤノ ワタル)

目的 都市部の一自治体において訪問介護事業に従事するヘルパーを対象に調査を行い,介護保険施行後のホームヘルパーの就業実態を明らかにすることを目的とした。
方法 東京都町田市内の指定訪問介護事業所27か所に在籍し就業中のすべてのホームヘルパー1,264人を対象として配票自計式の郵送調査を行い,1,068人から回答を得た(回収率84.5%)。
結果 回答者の95.5%は女性で,また50歳以上が6割を占めた。全体の平均年齢は51.2歳であった。雇用形態については81.4%が「登録型」で就業していた。登録型ホームヘルパーのヘルパー業務による平均月収は5.5万円であり,常勤のヘルパーや社会保険への加入のあるパートタイマーとの差は大きかった。ただし,登録型ホームヘルパーの65.4%は,収入を扶養控除内におさめることを希望し,就業理由は生きがい・社会参加を目的とする人が多かった。ヘルパー業務の経験年数は,全体では1年未満が2割を占め,介護福祉士資格を有する者は全体の6.7%であった。
結論 介護保険制度の施行により安定的な雇用の創出やサービスの質の向上が期待されたが,ホームヘルプサービス従事者の大半は短時間就業の登録型ヘルパーであり,しかも従事者自身は多くの収入を求めていなかった。十分な経験や専門性をもつ従事者の割合は低く,サービスの質の向上については今後改善されるべき問題が残されている。
キーワード ホームヘルプ,訪問介護員,介護保険

 

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第51巻第1号 2004年1月

介護保険制度下の介護サービス評価に関する変化

-痴呆性高齢者に提供された介護サービスと経年的変化-
筒井 孝子(ツツイ タカコ)

目的 居宅で生活する問題行動がある痴呆性高齢者に対応した介護サービスの提供方法に関する指針を得ることをねらいとして,介護保険制度の施行後,居宅で介護サービス提供を受けた問題行動がある痴呆性高齢者(以下「問題行動あり群」)と問題行動がない痴呆性高齢者(以下「問題行動なし群」)について,介護サービス提供実施から6か月後の状態像,要介護度,介護サービス利用回数の変動傾向を分析することと,問題行動の有無別の経年的な状態像の変化や介護サービスの提供実態の差異を分析することを目的とした。
方法 調査対象は,調査地域において要介護認定の申請を行い,調査を受けた者で,介護保険制度開始後の6か月後に認定更新のために再申請を行ったもののうち,転居せず同一地域で6か月間,居宅で生活をしていた高齢者333人とした。調査内容は,性別,年齢,初回申請時と6か月後の更新時の認定結果,介護サービス利用状況の変化,身体的・精神的状態像などの属性の変動である。分析は,これらのデータを問題行動あり群と問題行動なし群に分類して,介護サービス利用
状況の変化等を中心に,連続量についてはT検定と共分散分析を用い,離散量についてはχ2検定とMcNemar検定を行った。
結果 問題行動なし群に比べて問題行動あり群の方が悪化する高齢者の割合が高いことが明らかになり,しかも要介護認定項目のほとんどの項目(53項目)で悪化が示された。しかし,提供された介護サービスの種類や回数を問題行動なし群と比較した結果,「通所介護」にしか有意な差はなかった。さらに,問題行動あり群では,6か月間で状態は大きく悪化し,日常生活能力やIADLが有意に低下していたにもかかわらず,介護サービスの提供内容や提供回数は,変化して
いなかった。
結論 現在,利用されている介護サービスは,家族の介護を代替,補完するには不十分であり,このことが問題行動あり群の状態像を有意に低下させているとも考えられる。これらを科学的に解明するためには,第1に,全国的な疫学調査による痴呆の有病率,発生要因などに関する基礎的データの収集とそのデータベースの作成により経年的な変化を追跡する研究が一層,必要となる。第2に,痴呆性高齢者の家族介護の実態を明らかにしながら,その特徴や能力が痴呆の進行とともに変化することを明らかにするための研究を推進することが重要である。第3に,いわば痴呆の進行のステージごとに,「どのような」介護サービスが,「どの程度の」効果があるのかといった実証的な研究が実施され,多くのevidenceの蓄積が進められることが強く望まれる。
キーワード 介護保険制度,要介護度,痴呆性高齢者,介護サービス,経年的変化

 

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第51巻第2号 2004年2月

テレビドラマに見られる喫煙関連シーンに関する調査(2)

坂口 早苗(サカグチ サナエ) 坂口 武洋(サカグチ タケヒロ)

目的 1998(平成10)年4月1日のテレビでのたばこ個別銘柄の広告規制後に,ある人気タレントが主演するドラマでの喫煙シーンが増加していることを前報で報告した。その後も調査を継続し,調査対象ドラマ数を増やして,その現象を実証的に検証する。
調査方法 調査対象のドラマの収録ビデオから放送時間を計測し,その中から喫煙に関連したシーンの解析を行った。喫煙関連シーンは喫煙に関するすべてのシーンであり,喫煙シーンとセットの道具などの場面の合計である。喫煙シーンとは,実際の喫煙,たばこに火をつける,たばこの火を消す,副流煙,置きたばこ,銘柄描写シーン,せりふなどの場面である。セットの道具とは,火無したばこ,たばこ箱からたばこを出す,吸い殻,たばこ箱,灰皿などの場面である。調査対象ドラマは,広告規制後に制作され午後9時台に民放で放送された,ドラマ部門で週間高視聴率番組10位までに入ったことのあるドラマで,1998~2000年は4作品,2001年は9作品,2002~2003年は10作品の計23作品である。
結果 規制後のドラマにおける喫煙関連シーンの回数は1ドラマ当たり215.8回(1時間当たり24.4回)であり,そのうち喫煙シーンは111.1回(12.6回/時),実際の喫煙は68.9回(7.8回/時)であった。今回調査したドラマは,主人公が喫煙するシーンのあるドラマは全体で13/23番組(57%)であり,男性主人公の喫煙関連シーンは44.1回(5.0回/時)であった。一方,女性の喫煙シーンは4.0回(0.5回/時)であり,2002年以降増加した。銘柄描写シーンの回数は12.8回(1.4回/
時),1ドラマ当たりの平均描写時間は1分3秒,放送回数当たりの銘柄描写シーン回数は1.2回であった。
結論 テレビのたばこ銘柄広告が中止されることによって,憂慮されていたたばこ銘柄描写シーンの増加を確認した。すなわち,たばこ箱やカートンのアップシーン,銘柄の明らかに判読できるたばこ箱の描写シーン,判別できる銘柄たばこを喫煙するシーンが増加していた。また,女性出演者の喫煙シーンが増加していること,せりふの中に銘柄名が含まれる場面もあることも確認した。2003年のWHOの禁煙デーのスローガンともなっているように,テレビ番組制作者は
積極的に喫煙関連シーンのないテレビ番組の制作を実行し,国民は未成年者が喫煙行動をしにくい社会環境をつくりあげなければならない。
キーワード たばこ,喫煙シーン,ドラマ,広告,社会的環境

 

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第51巻第2号 2004年2月

わが国の中高生の飲酒行動に関する全国調査

-2000年度調査報告-
尾崎 米厚(オサキ ヨネアツ) 鈴木 健二(スズキ ケンジ) 和田 清(ワダ キヨシ)
山口 直人(ヤマグチ ナオト) 簑輪 眞澄(ミノワ マスミ) 大井田 隆(オオイダ タカシ)
土井 由利子(ドイ ユリコ) 谷畑 健生(タニハタ タケオ) 上畑 鉄之丞(ウエハタ テツノジョウ)

目的 2000年度におけるわが国の中高生の飲酒行動実態を明らかにするために全国を代表するようなサンプリング方法に従った全国調査を実施した。
方法 断面標本調査を実施した。調査対象は全国の中学校と全日制高等学校であった。地域ブロックを層とし,学校をクラスターとする層別1段クラスター抽出により抽出された学校の在校生徒を調査対象とした。2000年12月から2001年1月にかけて,学校において無記名,自記式質問票による調査を実施し,中学校99校(学校協力率75.0%),高等学校77校(学校協力率75.5%)から回答があり,調査票107,907通が回収され,記入が不十分なものを除いた106,297通を解析対象とした。
結果 月飲酒者率(現在飲酒者率)をみると,男女とも学年が上がるにつれ上昇する傾向にあった。中学1年の男子で24.5%,女子で22.8%であった月飲酒者率が,高校3年では男子で53.4%,女子で45.2%となった。飲酒機会別の飲酒経験率をみると冠婚葬祭が男女とも高かった。家族と一緒のときも経験率が高かった。「クラス会,打ち上げ,コンパの時」「居酒屋,カラオケボックス,飲み屋で仲間と」「誰かの部屋で仲間と」飲んだとする者の割合は学年が上がるにつれ急激に上昇した。初めての飲酒年齢を1996年度調査(前回の全国調査)結果と比較すると特に男子で飲酒経験年齢の上昇がやや認められた。よく飲むお酒の種類は男子ではビールが最も多く,次いでアルコール度が低く甘いお酒(果物味などの甘いお酒;リキュール類),焼酎類であった。女子では果物味などの甘いお酒の方がビールよりよく飲まれていた。焼酎およびサワー類は低学年では多くはないが,男女とも学年に伴って急激に増加した。酒の入手経路のうち「コンビニエンスストア等の店で買う」「居酒屋等で飲む」「酒屋で買う」「自動販売機で買う」は,いずれも学年に伴って割合が急激に増加した。しかも男女差があまり認められなかった。お酒を飲
んで失敗した経験は「吐いた」「記憶が消えた」「親に叱られた」の順に多かった。親にお酒を勧められたことがあると回答した者は,男女とも学年が上がるにつれ増加し,高校3年生では男女とも4割以上であった。
結論 わが国の中高生の飲酒実態は既に深刻な状況にあり,女子の飲酒者率など一部では状況の悪化も心配される。他方,飲酒経験者率の低下や酒の入手経路の減少など良い変化の兆しも認められたので今後とも全国調査による継続的監視が必要である。
キーワード 飲酒行動,未成年,全国調査,自己記入法

 

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第51巻第2号 2004年2月

成人男性自殺率の現状と推計

-ベイズ型コーホートモデルによる3効果の分離-
安藤 仁朗(アンドウ ヒトアキ)

目的 人口動態統計から得られたデータをコーホート分析することによって,成人男性の自殺率の現状と今後の趨勢を把握することを目的とする。
方法 1990年から2002年までの,20歳から89歳の男性の年齢階級別自殺率からコーホート表を作成し,ベイズ型コーホートモデルを適用して,時代効果・年齢効果・コーホート効果を分離した。また,分離された各効果のパラメータ値を再構成することによって,今後の年齢階級別自殺率と男性全体の自殺率・自殺数を推計した。
結果 時代効果は,1998年以降高い値を示し,99年に最大となる。年齢効果は,加齢に伴う単調な増加ではなく,50歳代後半を中心に隆起が見られる。コーホート効果は,戦前・戦中・戦後生まれの3期間に分かれ,戦中生まれのコーホート効果が低い。
結論 年齢階級別自殺率は20歳代から30歳代では既にピークを越え,40歳代前半で現在ピークにあると推定される。また,40歳代後半から70歳代前半では今後上昇傾向を示し,70歳代後半と80歳代では数年の低下期を経て,上昇期を迎えることが予想される。現状の傾向が続くと,20~89歳の男性全体の自殺数は2020年には23,320人と最高値に達する。その後,人口減少に伴い自殺数は減少するが,自殺率は上昇を続け,2030年には50人を超える。
キーワード 人口動態統計,自殺率,ベイズ型コーホートモデル,時代効果,年齢効果,コーホート効果

 

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第51巻第2号 2004年2月

耐糖能異常が病型別脳卒中死亡に及ぼす影響

-日本人の代表的集団NIPPON DATA 80の19年間の追跡結果より-
小野田 敏行(オノダ トシユキ) 西 信雄(ニシ ノブオ) 岡山 明(オカヤマ アキラ)
齋藤 重幸(サイトウ シゲユキ) 上島 弘嗣(ウエシマ ヒロツグ)

目的 日本人の代表集団において随時血糖値が脳卒中死亡に及ぼす影響を病型別に検討する。
方法 1980年に厚生省により全国から無作為抽出された300調査区の満30歳以上の全住民を対象に行われた循環器疾患基礎調査受検者10,897人を客体とした。同調査では病歴および生活問診ならびに身体計測,血圧測定,血液化学検査が行われた。1994年および1999年に追跡調査が行われ,生死が明らかとなった9,638人のうち,循環器疾患基礎調査受検時30歳以上75歳未満で随時血糖測定が行われ,かつ脳卒中既往なしの者9,074人を解析対象とした。観察期間中の死亡につ
いては死亡統計と照合して死因を特定した。
結果 解析対象者の平均観察年数は男17.3年,女17.9年であり,追跡期間中に観察された死亡は1,524人,うち脳卒中死亡は男126人,女104人であった。随時血糖値の上昇は男女とも有意に全脳卒中死亡を上昇させた。脳卒中の型別の検討では男において脳梗塞,女において脳出血が随時血糖値の上昇にともない有意に増加した。その他の脳卒中死亡と随時血糖値の間には関連はみられなかった。
結論 耐糖能異常が脳卒中死亡に及ぼす影響について全脳卒中や脳梗塞のみではなく従来明らかではなかった脳出血においてもみられたことから,今後脳卒中予防のためさらに糖尿病対策をすすめる必要性が確認された。
キーワード コホート研究,脳血管疾患,糖尿病,死因統計

 

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第51巻第2号 2004年2月

老人保健福祉計画と介護保険事業計画に
よる介護サービスの基盤整備状況に関する一考察

和気 康太(ワケ ヤスタ)

目的 本論は,2000年12月から2001年1月にかけて実施された「介護保険実施に伴う介護サービスの変化に関する調査」(以下「介護保険全国調査」)における関連質問項目のデータを用いて,老人保健福祉計画と介護保険事業計画によって介護サービスの基盤整備がどの程度図られたか,
あるいは図られようとしているか,またその特徴や関連する要因は何か,などについて分析・考察することを目的としている。
方法 介護保険全国調査は,全国3,252自治体(市区町村)の介護保険課または介護保険担当者を対象として,郵送調査(郵送配布,郵送回収)によって行われた。有効回収数は1,361自治体(市区町村),有効回収率は41.9%であった。なお,市部の回収率が高かったこと,また町村部は広
域連合で介護保険事業を実施しているところが多く,町村別のデータを把握しにくいという2つの理由から,本論では市部のデータに限定している。
本論では,介護保険全国調査を通して得られたデータに,既存のマクロ統計データをリンクさせて市区町村別のデータベースを作成し,それをもとに多変量解析法(重回帰分析)を用いてデータ分析を行った。
結果 老人保健福祉計画の達成率では,「ホームヘルプ」や「特別養護老人ホーム」などの5つの介護サービスで,また介護保険事業計画の見込み率では,「訪問介護」や「介護老人福祉施設」などの8つの介護サービスで,それぞれ特徴や違いがあることが分かった。さらに,本論では「パラレル仮説」と「トレードオフ仮説」という2つの仮設を立ててデータ分析を行った。その結果,介護保険事業計画の見込み率では施設サービスと在宅サービスの
間にはパラレル仮説が,また老人保健福祉計画の達成率と介護保険事業計画の見込み率の施設サービスの間にはトレードオフ仮説,在宅サービス(ホームヘルプと訪問介護)の間にはパラレル仮説が成り立つことが分かった。
考察 介護保険事業計画の見込み率には,老人保健福祉計画の達成率が様々な影響を及ぼしている。介護保険事業計画の見込み率を,老人保健福祉計画との「継続性」という視点から分析すると,施設サービスでは地域間格差が縮小していく可能性が,また在宅サービス(訪問介護)ではそれが拡大していく可能性があると考えられる。
キーワード 老人保健福祉計画,介護保険,介護サービス,介護保険事業計画,地域間格差

 

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第51巻第3号 2004年3月

口腔衛生教育が有効な勤労者の特徴

高田 康光(タカタ ヤスミツ) 前田 友希(マエダ ユキ) 礒田 千賀(イソダ チカ) 
中西 理恵子(ナカニシ リエコ)

目的 生活習慣病である歯周病の予防対策として実施する職域での口腔衛生教育がどのような特徴をもつ対象に有効であるか明らかにする。
方法 職域の40歳以下の勤労者全員を対象とし,歯科医師による歯科検診と歯科衛生士による衛生教育を定期健康診断と同時に2年間実施した。歯周病の程度はCommunity Periodontal Index Treatment Needs(CPITN)で評価した。問診票により調査した生活習慣と歯周病の改善度を比較検討した。

結果 歯科検診の受診率は1年目99.5%,2年目92.0%で,2年連続して受診した男性314人,女性195人の結果を分析した。CPITN値が3以上と重度の歯周病疑い例の割合は女性では初年度14%から2年目16%とほぼ不変だった。男性のそれは初年度43%と女性対象の約3倍認めたが,2年目には21%に低下した。CPITN値で評価した歯周病の重症度の説明因子を重回帰分析で検討した。男性群では歯周病改善因子に歯科受診の実施を,改善阻害因子に年齢,喫煙習慣を認め,歯周の健康維持因子には運動習慣,歯磨き時間を認めた。女性群では歯周の健康悪化因子に朝欠食習慣が,健康維持因子に歯科受診の実施が認められた。
結論 歯科検診結果にもとづく口腔衛生教育は定期的な歯科受診の動機づけとなり,40歳以前の特に男性対象の歯周病改善に有効に働いた。この教育効果が少ない男性群にはより年齢が高く,喫煙習慣が多く,運動習慣が少ない特徴を認め,職域の歯周病対策にこの習慣への教育も必要である可能性を示した。
キーワード 歯周病,口腔衛生,生活習慣病

 

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