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論文記事:メンタルヘルス不全が所得に及ぼす影響に関する実証分析 201705-01 | 一般財団法人厚生労働統計協会|国民衛生の動向、厚生労働統計情報を提供

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第64巻第5号 2017年5月

メンタルヘルス不全が所得に及ぼす影響に関する実証分析

岡庭 英重(オカニワ フサエ)

目的 本研究の目的は,メンタルヘルス不全や精神疾患が,所得に及ぼす影響を明らかにすることである。諸外国における先行研究では,メンタルヘルス不全や精神疾患が,労働供給や労働生産性,所得に対してネガティブな影響を及ぼすことが明らかとなっている。しかし,日本において当該分野の研究は少なく,客観的かつ包括的なデータを利用した分析が求められている。本研究では,メンタルヘルス不全の影響として,実際に得た所得が健康な人と比較してどの程度低くなっているのかを明らかにするものである。

方法 平成19年「国民生活基礎調査」の匿名データを利用し,メンタルヘルス指標を導入した所得関数を推定した。メンタルヘルス指標には,3つのK6ダミー(13点以上,10点以上,5点以上)と精神疾患通院ダミーを用いた。また分析においては,所得が低いためにメンタルヘルス不全が生じているのか,メンタルヘルス不全のために所得が低くなっているのかを区別するため,操作変数法を用いてメンタルヘルスが所得に及ぼす影響について実証分析を行った。

結果 基本集計結果から,精神疾患通院者の割合は就業者全体の1.0%,K6-13点以上の者は2.6%であった。また,K6-13点以上の就業者のうち,精神疾患通院者は1割程度となっていることから,メンタルヘルス不全の状態で医療機関を受診せずに就業している者が多く存在することが示された。また精神疾患通院者のうち,身体疾患でも通院している者が6割にのぼった。これらの基礎データを踏まえて推計を行った結果,メンタルヘルス不全や精神疾患は,所得に対して有意に負の影響を及ぼすことがわかった。K6が13点以上の者は,13点未満の者と比較して所得が62.5%低いことが明らかとなった。また,精神疾患通院者はそれ以外の者と比較して79.1%所得が低いことがわかった。検定結果から,最小二乗法よりも操作変数法による推計が妥当であることが示されている。

結論 メンタルヘルス不全や精神疾患の者は健康な者と比較して,逆の因果性を排除してもなお有意に所得が低くなることがわかった。また日本における所得低下割合は,諸外国の先行研究において報告された数値を大きく上回る推計値となった。

キーワード メンタルヘルス,精神疾患,所得,労働損失,国民生活基礎調査,操作変数法

 

 

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