メニュー

論文記事:労働者の収入とメンタルヘルス 201509-01 | 一般財団法人厚生労働統計協会|国民衛生の動向、厚生労働統計情報を提供

m header btn

一般財団法人 厚生労働統計協会

サイトポリシープライバシーポリシー

pmark     お問い合わせ

論文

論文

第62巻第11号 2015年9月

労働者の収入とメンタルヘルス

-職の不安定性による媒介効果に注目して-
堤 明純(ツツミ アキズミ) 井上 彰臣(イノウエ アキオミ) 島津 明人(シマヅ アキヒト)
 高橋 正也(タカハシ マサヤ)川上 憲人(カワカミ ノリト) 栗岡 住子(クリオカ スミコ)
 江口 尚(エグチ ヒサシ) 宮木 幸一(ミヤキ コウイチ) 遠田 和彦(エンタ カズヒコ)
小杉 由岐(コスギ ユキ) 戸津崎 貴文(トツザキ タカフミ)

目的 収入の低い集団は高収入の集団に比してメンタルヘルス不調のリスクが高いとされるが,労働者における収入とメンタルヘルス不調の関係,およびその媒介要因を検証した研究はわが国では少ない。労働者の健康格差の実態とそのメカニズムを解明することを目的として行われているパネル研究のベースラインデータを用いて,労働者の収入とメンタルヘルスの関連,その媒介要因としての職の不安定性の影響を検討することを目的とした。

方法 労働者の健康格差のメカニズム解明を目的とした多目的パネルのベースライン調査参加者の男性7,645人,女性2,241人を対象とした。税込みの世帯収入を世帯員数で調整した世帯収入の下位3分位を低収入とした。将来の職の安定性,季節雇用,過去および将来の失業の可能性を尋ねる4項目の得点和の上位5分位以上を職の不安定とした。K6得点の13点以上をメンタルヘルス不調とした。男女別に,低収入群がメンタルヘルス不調に陥るリスクを,年齢,教育歴,職業,労働時間を調整したロジスティック回帰分析を用いて算出した調整後オッズ比,および95%信頼区間で推定した。低収入群とメンタルヘルス不調の関連を,職の不安定性がどの程度説明するかを,それぞれの変数を投入したオッズ比を求めて検討した。

結果 男女とも,低収入はメンタルヘルス不調と関連していた。低収入の男性労働者がメンタルヘルス不調に陥るリスク(属性・就業状況を調整したオッズ比)は1.26で,女性では1.62であった。職の不安定性を調整すると,メンタルヘルス不調に対する低収入のリスクは男女ともに約9%減弱し,男性において低収入とメンタルヘルス不調の関連は統計的有意ではなくなった。職の不安定性とメンタルヘルス不調の関連性の変化は,低収入を調整してもわずかであった。

結論 日本人労働者において,低収入は労働者のメンタルヘルス不調と関連することが観察された。低収入の労働者におけるメンタルヘルス不調のリスク増加の一部は職の不安定性によって説明され,職の安定の確保は,労働者のメンタルヘルスの所得格差を軽減する方策となる可能性が示された。

キーワード 収入,職の不安定性,メンタルヘルス,パネルデータ,労働者

 

論文