論文
第56巻第1号 2009年1月 地域レベルのソーシャル・キャピタル指標に関する研究埴淵 知哉(ハニブチ トモヤ) 平井 寛(ヒライ ヒロシ) 近藤 克則(コンドウ カツノリ)前田 小百合(マエダ サユリ) 相田 潤(アイダ ジュン) 市田 行信(イチダ ユキノブ) |
目的 健康との関連が注目されている地域レベルのソーシャル・キャピタル(SC)指標として,アンケート調査から測定された指標と,地域の協調行動,投票率,地域特性を表す指標との関連を検討し,地域レベルSCに関する基礎的な知見を導出する。
方法 2007年10月から11月にかけて,三重県志摩市に居住する60歳以上の住民20,466人に自記式調査票を郵送し,12,197票を回収した(回収率59.6%)。SC測定のための7つの質問への回答を26地区ごとに集計し,地域レベルのSC指標とした。協調行動として,地域福祉計画づくりの座談会参加割合および社会福祉協議会へのボランティア登録割合,投票率として衆院選,参院選,市長選,市議選の投票率,地域特性として人口密度,平均等価所得,高齢化率,居住年数を地区別に求め,SC指標との地域相関分析および多次元尺度構成法による全変数の関連性の視覚化を行った。
結果 「地域への信頼感」と「地域への愛着」(r=0.821,p<0.01),「垂直的組織への参加」と「近所付き合いの人数」(r=0.747,p<0.01)のように,認知的SC同士,構造的SC同士には強い正の相関関係が確認されたが,両者の間にはほとんど有意な関係がみられなかった。協調行動との関連については,座談会参加割合は構造的SC,反対にボランティア登録割合は認知的SCとの有意な正の相関を示した。投票率は構造的SCとのみ有意な正の相関を示した。地域レベルSCは多くの地域特性とも関連しており,人口密度および居住年数10年以下の回答者の割合とは負の相関関係を示した。
結論 認知的/構造的などの概念上の性質の違いが,測定された地域レベルSCの地域差としても確認された。今後のSC研究においては,その性質を区分して健康とより深く関連するSCを特定すること,さらに,地域特性や個人属性との交互作用についても研究を進める必要性が指摘された。
キーワード ソーシャル・キャピタル,協調行動,投票率,地域特性