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論文記事:無料低額診療事業の利用者の特性に関する研究 202002-01 | 一般財団法人厚生労働統計協会|国民衛生の動向、厚生労働統計情報を提供

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第67巻第2号 2020年2月

無料低額診療事業の利用者の特性に関する研究

-無料低額診療の実態と効果に関するコホート研究より-
西岡 大輔(ニシオカ ダイスケ) 玉木 千里(タマキ チサト) 古板 規子(フルイタ ノリコ)
中川 洋寿(ナカガワ ヒロカズ) 佐々木 恵林(ササキ エリン) 長谷川 美智子(ハセガワ ミチコ)
植松 理香(ウエマツ リカ) 近藤 尚己(コンドウ ナオキ)

目的 医療アクセスの格差は世界的に観察されている。日本でも所得が低い人ほど受診抑制を経験するなど,経済状況による医療アクセスの格差が知られている。無料低額診療事業は「生計困難者が経済的理由で必要な医療を受ける機会を制限されることのないように無料又は低額な料金で診療を行う事業」として社会福祉法に規定されており,医療アクセス格差の是正に寄与している可能性があるが,実際の運用状況や利用者の特性等についてはほとんど明らかになっておらず,意義や効果を疑問視する政策議論もある。そこで本研究では,同制度の利用者の特性を分析することを目的とした。

方法 進行中の「無料低額診療の実態と効果に関するコホート研究」の2018年7月1日から12月31日までのデータを用いた。同研究は京都府の3つの医療機関で無料低額診療事業を適用した成人患者のうち,研究に対して同意を得た者を対象としている。適用を審査する際に用いた面談データ,および生活歴等を聴取する質問紙と健康関連QOL(SF-8)の調査データを用いて,利用者の背景要因を集計・記述した。

結果 対象者は80人で,平均年齢は68.3歳であった。40人(50.0%)が男性で,42人(52.5%)が独居であった。生活保護制度の支給基準額周辺の世帯所得の人が多く,無収入のものもいた。41人(51.3%)は友人知人に会う機会が月1回もなく,過去1年間に経済的な理由で受診を控えたことがある者は23人(28.8%)であった。傷病の罹患については,「糖尿病」が17人(21.3%),「脂質異常症」が20人(25.0%),「高血圧症」が26人(32.5%),「悪性腫瘍」が18人(22.5%)であった。利用者のSF-8のサマリースコア(偏差値)の中央値は,身体的スコアが37.4で,精神的スコアが41.9であった。

結論 無料低額診療事業の利用者は,実際の疾病の罹患に加え,一般集団に比べて健康関連QOL尺度のスコアが低く,無就労や友人知人との交流が少ないなど,心理社会的な課題を有している可能性が示唆された。同事業の利用をきっかけとして,経済的な支援に加えて,地域での社会的包摂につながるような制度設計が望ましい。今後は全国的なデータにより本研究同様に利用者や医療機関の特性,無料低額診療事業が及ぼす健康と健康格差への効果,および経済的影響を明らかにすることが求められる。

キーワード 無料低額診療事業,無低診,社会福祉,健康の社会的決定要因,健康格差,社会的処方

 

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