論文
第60巻第5号 2013年5月 要介護認定データを用いた
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目的 本研究の目的は,ケアの質評価指標の開発に向けた基礎的分析として,既存の要介護認定データから要介護度維持改善率など11指標を作成し,活用可能性を検証することである。
方法 A県内40保険者から提供を受けた要介護認定データと保険者向け給付実績情報を結合し,データセットを作成した。分析対象は,2007年6月と2008年11月の2時点で継続して特別養護老人ホームを利用していた者(n=4,923)と施設(n=91)であった。2時点における利用者の状態像変化を把握したうえで, 11指標を用いてケアの質評価を行った場合,施設間にどの程度の差がみられるのか,また指標間にはどのような関連があるのかについて検討した。
結果 指標ごとに,要介護度別の2時点における利用者の状態像変化をみると,大きく3つの類型に分けることができた。A群は軽度の人ほど悪化する指標であり,B群は重度な人ほど悪化する傾向にある指標,C群は中間にある要介護2~3の群で悪化する傾向にある指標であった。施設間比較では,より包括的な指標である要介護度維持改善率や寝たきり度維持改善率,認知症自立度維持改善率は,いずれも76%程度であった。これらの指標の平均値は全指標の中でも相対的に低く,悪化する人が多い傾向にあった。一方,褥瘡2時点でなしの割合は,平均値が92.2%(最小値75.0%,最大値100%)と高かった。指標間では,指標値に最小約21ポイント(歩行維持改善率)から最大約74ポイント(拘縮部位の維持減少率)の差がみられ,多くの指標で40ポイント程度の差があった。また,褥瘡2時点でなしの割合を除く10指標間では全体的に相関が高く,いずれも有意な正の相関がみられた。
結論 内容的妥当性の検討を踏まえると,今回試作した11指標のうち要介護度維持改善率は包括的指標として,食事摂取維持改善率と排尿・排便維持改善率は個別的指標として活用可能性があると思われた。指標を作成・解釈するうえで,分析対象をどうするか,死亡データを含めるかどうか,利用者の属性の調整をどこまで行うかについて検討する必要がある。既存データをケアの質評価に活用することは,評価のための新たなデータ収集が発生しないなどの利点がある。他方で,縦断データを作成する作業を簡略化するためのデータ仕様と収集・蓄積方法の開発や,事業所内で評価結果をうまく活用することができる仕組みづくりが求められる。
キーワード 特別養護老人ホーム,ケアの質評価,要介護認定データ,施設間比較