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第57巻第6号 2010年6月 特別養護老人ホームを対象とした質問紙調査における依頼と回答の実態-アンケートがもたらす業務への支障-大西 次郎(オオニシ ジロウ) |
目的 質問紙調査(アンケート)は発信側にとって取り組みやすく,低コストで広範にデータを収集できる反面,十分に吟味されない調査が少なからず実施されることで,受信側にとって回答の作成・返送が重荷となる危険性をはらむ。他方,介護施設は高齢者の生活の場であるとともに,福祉の実践,社会保障政策の反映の場でもあり,複数の学術領域から関心を持たれている。とくに,最大数の定員を擁する特別養護老人ホーム(以下,特養)への調査は,その規模からアンケートの形をとりやすい。そこで特養を対象にしたアンケートの実態と,業務に与える影響を検証するため,あえて一片の質問紙調査を行った。
方法 兵庫県下の全特養(251施設)へ無記名,自記式の調査票を郵送し,記載を依頼した。休止1と移転1を除く249施設のうち,総回収数(率)は183施設(73.5%)であった。調査へ協力しない,ないし協力するが公表に同意しない意思を表明した23施設を除く160施設(64.3%)を総分析対象とした。調査期間は2008年10月から同年12月までである。
結果 2007年11月から2008年10月までの1年間で,中央値11~15件(最頻値6~10件)のアンケートの依頼があり,109施設でその半数以上へ返送(回答)を行っていた。ほとんど返送できないとした施設の数は7にとどまった。一方,154施設で返送に負担を感じており,123施設は業務に支障をきたす可能性があるとした。しかし,今後の対応は110施設において従来と同様か,それ以上に返送を続けると判断していた。
結論 アンケートに対する回答は,多くの特養において重荷となっている可能性がある。その上での返送には,施設の経営や職場環境の改善へ向けた願いがあり,発信側には質問量と内容を厳選し,かつ同種調査の重複を避けるといった受信側への配慮とともに,調査の社会的価値を高めていく努力が求められる。
キーワード 質問紙調査,アンケート,特別養護老人ホーム,介護福祉施設,調査技術