論文
第63巻第4号 2016年4月 介護保険サービスの利用と家族介護者の抑うつ症状の推移-パネル調査データによる検討-菊澤 佐江子(キクザワ サエコ) |
目的 パネル調査データを用いて,高齢者を介護する家族介護者の抑うつ症状と介護保険サービスの利用状況の推移を把握するとともに,両者の関連について検討を行った。
方法 公益財団法人家計経済研究所が2011年10月と2012年7月に実施した「在宅介護のお金とくらしについての調査」データを用いた。分析対象は,2011年10月調査時点から2012年7月時点にかけて同居する要介護の親(または義理の親)を介護している主介護家族で,分析に用いた変数に欠損値がみられなかった207人(女性145人,男性62人)である。分析は,介護者の抑うつ症状(K6)の変化(良好/不良)を被説明変数とし,各介護保険サービスの利用状況の変化,被介護者の身体的障害,精神的障害(認知症)の程度,介護者の性別を説明変数とするロジスティック回帰分析を行った。
結果 介護者のうち,2時点間で,抑うつ症状が「良好」な推移をたどった者は35.8%,「不良」な推移をたどった者は64.3%であった。介護保険サービス利用については,2時点間でサービス利用に変化がないケース(「継続して利用がない」または「同程度の利用を継続」)が多いものの,サービス利用を増加・減少させているケースも各々8~17%程度みられた。ロジスティック回帰分析によって,介護者の抑うつ症状の変化(良好/不良)との関連を検討した結果,介護保険サービス利用については,2時点間で「同程度の通所介護利用を継続」「同程度の短期入所利用を継続」の回帰係数が,5%水準で正の方向に有意であった。このほか,性別ダミー(女性=1,男性=0)の回帰係数と,被介護者の精神的障害(認知症)の程度についての回帰係数が,それぞれ5%水準,1%水準で負の方向に有意であった。
結論 短期入所や通所介護を継続して同程度利用している場合には,利用していない場合に比べて,介護者の抑うつ症状が「良好」な推移をたどる確率が高いことが示されたが,こうしたサービスの利用による介護者の抑うつ症状軽減効果は弱いものにとどまっていることから,これらのサービスの供給体制をより充実させることが課題の1つと考えられた。また,被介護高齢者の精神的障害(認知症)の程度が重い場合,介護者の抑うつ症状が「良好」な推移をたどる確率が低いという傾向がみられたことから,認知症のある高齢者が利用できる介護保険サービスを広げることも重要な課題であると考えられた。
キーワード 介護保険サービス,家族介護,ストレス,抑うつ,パネル調査データ