論文
第63巻第4号 2016年4月 協会けんぽのレセプトデータを用いた期間統計の方法による
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Ⅰ は じ め に
「電子レセプトによる保健・医療統計の改善に向けて-「電子レセプトを用いたレセプト統計の改善に関する研究」の概要(その1)-」(本誌28年3月号)1)(以下,前稿)では,電子レセプト統計について,社会医療診療行為別調査の向上のため,新たな期間統計の方法による診療エピソード統計を提言している。そして,その統計の概念規定や計算方法の詳細,さらには全国健康保険協会のデータを用いた統計作成のデモンストレーションは別稿で紹介するとしており,本稿はその別稿にあたる。本稿では,
・これまでのレセプト統計の考え方・分析方法と患者単位,患者の動向分析のための統計としてみた時の課題
・期間統計の方法による診療エピソード統計の考え方・分析手法の概要
・全国健康保険協会のデータを用いた統計作成のデモンストレーションの方法と結果
を述べる。
現在,医療提供体制の分野では地域医療構想とそれを含む医療計画が,また,医療保険分野では医療費適正化計画があり,その医療費適正化対策の一つとして保健分野の特定健康診査・特定保健指導が実施されている。さらに,各医療保険者はデータヘルス計画を策定し実施することとされている。これらの施策にレセプトデータを活用するとされているところであるが,期間統計の方法による診療エピソード統計は,従来のレセプト統計と異なり,患者単位で,患者の発生・受診の継続・受診の終了といった患者の受診動向を把握できるため,医療提供体制・医療費・保健の各分野との関連づけが容易であり,これらの政策立案・実施状況把握・評価にも有用と考えられる。
Ⅱ これまでのレセプト統計の考え方・分析手法と課題
電子レセプト導入以前のレセプト統計は,大量の紙レセプトを処理するという制約と審査支払優先のため,毎月得られるデータはレセプト件数,診療実日数,点数(医療費)に限られ,それらを用いた統計であり,以下の2つの考え方により構築されている。その1番目の考え方は,
・1枚のレセプトは,医療機関が暦月1カ月中に対応した患者ごとの入院,入院外,歯科別の調査票であり,記載されている診療実日数と点数は調査票の調査項目と考えることであり,レセプトを調査の調査票と考えるものである。
具体的には,この調査では,レセプト件数は標本数(調査票枚数に相当),診療実日数・点数(医療費)は調査項目であり,1件当たり日数・1件当たり点数は,診療実日数・点数を件数で割った標本平均である。