論文
第63巻第5号 2016年5月 勤労者における介護の有無と
中原(権藤) 雄一(ナカハラ(ゴンドウ) ユウイチ) 角田 憲治(ツノダ ケンジ) 甲斐 裕子(カイ ユウコ) |
目的 介護を必要とする人は年々増加しており,今後働きながら介護をする人が多くなることが予想される。仕事を伴いながらの介護は,心身ともに負担が大きいと推察されるが,勤労者における介護の実態ならびに,その精神的健康度や身体活動量を調査した研究は見当たらない。そこで本研究は,勤労者を対象に精神的健康度と身体活動量を介護の有無別ならびに性差について検討することを目的とした。
方法 東京都内の健診センターにおける受診者のうち,有職者かつ調査データに不備がない9,119名を分析対象とした。質問紙により,学歴や経済状況などの属性項目,介護の有無,精神的健康度(K6ならびに睡眠時間),身体活動量(IPAQ-long)について質問を行った。質問に関する調査用紙は,受診日の約2週間前に本人宛に郵送し,健診当日に回収した。
結果 介護者の割合は,男性は5,045名中200名(4.0%),女性は4,074名中276名(6.8%)であり,男性よりも女性の方が介護を行っている割合は高かった。男女ともに介護者は非介護者に比してK6の点数が高く,精神的健康度が低かった。さらに女性の介護者は非介護者より睡眠時間が短かった。自宅での活動量は男女ともに介護者の方が非介護者よりも多かったが,この傾向は女性において顕著であり,特に自宅での活動量が40メッツ・時/週以上の者はそれ未満の者と比べK6の点数が高かった。また,総活動量においても,女性では介護者は非介護者に比して活動量が多かった。一方,仕事,移動,ならびに余暇での活動量は,介護の有無や性別による違いはみられなかった。
結論 介護者は非介護者と比べ精神的健康度が低く,自宅での活動量および総活動量が多いことがわかった。特に,女性介護者は睡眠時間が短く,総活動量が多く,男性介護者とは異なることが示された。勤労者における介護は,心身ともに負担が大きく,女性においてはその傾向は顕著であることが示唆された。負担軽減のためには,家族のサポートやフォーマルサポートの活用が必要であると思われる。
キーワード 勤労者,家族介護,精神的健康度,身体活動量