論文
第63巻第7号 2016年7月 介護予防の優先順位づけのためのデータ可視化ツールの開発芦田 登代(アシダ トヨ) 近藤 尚己(コンドウ ナオキ) 近藤 克則(コンドウ カツノリ) |
目的 介護予防における地域包括ケアの推進には,地域課題の把握や資源開発などによる社会環境の整備が必要である。それらを進めるためには,地域ごとの課題の把握やリスクの高い地域を明らかにして,それらに優先的に取り組むことが必要である。そこで,多面的に地域間比較をする「介護予防事業優先対象地域選定シート」(以下,地域選定シート)を開発し,同ツールを用いた効果を質的に検証することを目的とした。
方法 地域選定シートの開発には,神戸市の業務上の集計データとJAGES(Japan Gerontological Evaluation Study,日本老年学的評価研究)プロジェクトにおいて開発した日常生活圏域ニーズ調査に相当する住民調査のデータを用いた。調査は,神戸市で2011年12月から2012年1月にかけて実施された。市内在住の要介護認定を受けていない65歳以上の男女15,014名を対象に自記式質問紙を郵送して行った(回収率65.9%)。地域選定シートの評価枠組みとして,「要介護リスク要因」「地域の資源」「地域活動の要因(人材の有無や力量,関係性,ボランティアの集まりやすさ等)」「その他」の4つを設定した。「要介護リスク要因」と「地域の資源」の各項目は,神戸市の介護保険課の重点課題であった高齢者の社会参加の推進に関連が強い9項目を選択した。集計単位は,78の日常生活圏域とし,各項目の該当者割合は年齢調整(直接法)を施して算出した後,5段階評価にして,各地域の合計スコアを算出した。また,自治体職員に対して,改良後の同ツールを活用した効果について質問紙調査とインタビューを実施した。
結果 各地域の担当者が同ツールを使って地域診断を行った結果,他の圏域と比べてリスク該当者の割合が高いといった情報を活用して各圏域の課題の設定が可能となった。その結果をもとに,神戸市の担当者らは,介護予防事業の優先対象地域として4地域を選定した。使用後の自治体職員を対象とした質的な調査から,ツールを活用したことによって,数値指標を用いて地域ごとの課題が明確になったこと,そのことで関係諸機関同士の他職種との共通認識を得るなど合意形成が円滑に進んだこと等が抽出された。
結論 地域選定シートを開発し,それを活用することで,地域づくりの介護予防を優先的に進めるべき地域を指標に基づき選定できた。
キーワード 地域診断,介護予防,高齢者,社会参加,ツール開発