論文
第63巻第11号 2016年9月 壮年・中年期男性における産業別死亡率の
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目的 わが国で安定経済成長期からバブル経済崩壊を経て長期経済停滞となった期間(1980~2010年)に,その健康への影響を最も受けたと思われる壮年・中年期男性における産業別死亡率の経年変化を明らかにする。
方法 国勢調査の実施年に合わせて行われた人口動態職業・産業別調査での公表されている統計表と国勢調査(1980年から2010年までの7回分)の結果を用いた反復横断研究を行った。「農業,林業」「漁業」「鉱業」「建設業」「製造業」「電気・ガス・熱供給・水道業」「運輸業,情報通信業」「卸売・小売業」「金融・保険業,不動産業」「サービス業」「公務」の11分類と「無職」に分類し,直接法(1985年日本モデル人口)による年齢調整死亡率(男性30-59歳に限定)を1980年度から2010年度まで5年ごとの産業別に算出し,経年変化を調べた。また調査期間の前半で最も大きな人口割合を占め,死亡率が最も低い傾向にあった製造業を対照にした相対危険(死亡率比)を算出した。
結果 就業者総数の死亡率は1980〜2010年度の間に継続的に低下し1980年度には293.9であったが2010年度には150.6(それぞれ人口10万人対)であり30年間で49%低下した。産業別にみると1980~1995年度では「製造業」の死亡率が最も低く,その後は「卸売・小売業」が最も低かった。1980年度と2010年度の死亡率を比較すると,「漁業」と「鉱業」を除き死亡率は33%(「電気・ガス・熱供給・水道業」)から75%(「公務」)減少していた。無職では死亡率が上昇した期間があったが1980年度と2010年度の死亡率を比較すると死亡率は52%減少していた。製造業を対照にした死亡率比は,「公務」の1980年度の死亡率比は2.30で「農業,林業」の2.40と同程度の水準であったが,2010年度には「公務」で1.12,「農業,林業」で2.90と差が開いていた。
結論 壮年・中年期男性における産業別死亡率の経年変化の傾向は産業によって大きく異なっていた。1980年度から2010年度の間に「建設業」「卸売・小売業」「サービス業」「公務」などで死亡率が大きく減少していた一方で,「農業,林業」「漁業」「電気・ガス・熱供給・水道業」では他の産業に比べて死亡率が高く減少率が小さいことが観察された。産業ごとに就業環境,就業形態や仕事量の増減などの特徴が健康に影響し,死亡率の傾向の違いにつながっている可能性がある。
キーワード 産業,職業,産業別死亡率,壮年・中年,男性,人口動態職業・産業別調査