論文
第63巻第15号 2016年12月 The Parenting and Family Adjustment Scale (PAFAS)
藤岡 寛(フジオカ ヒロシ) 田中 陽子(タナカ ヨウコ) 涌水 理恵(ワキミズ リエ) |
目的 PAFAS/CAPESは,前向き子育てプログラム(トリプルP)の主要アウトカムである,子育てと家庭への適応,子どもの適応と親の効力感を包括的に測定できるツールである。PAFAS/CAPESの日本語版を作成し,その信頼性・妥当性を検証することを本研究の目的とした。
方法 保育園を利用している母親に,2015年7月から同年12月に,無記名自記式質問紙を配布し回答を得た。質問項目は,母親や家族の基本属性・育児効力感(PSE尺度)・育児負担感(育児負担感指標)・子どもの心理社会的問題(J-PSC17)・PAFAS/CAPES日本語版とした。PAFAS/CAPES日本語版作成にあたっては,原版からの翻訳および逆翻訳の過程を踏まえて,文意が明確に伝わる表記になるよう検討を重ねた。
結果 質問紙を1,443部配布し,682部を有効回答とした(有効回答率47.3%)。再テストについては,439部配布し,141部を有効回答とした(有効回答率32.1%)。PAFAS/CAPESの各ドメインのクロンバックのαは0.6-0.8程度で,全体を通じて,ある程度の内的信頼性が確認された。しかし,PAFASの子育ての一貫性ドメインのクロンバックのαは著しく低かった。PAFAS/CAPESの各ドメイン間の相関は,中等度もしくは軽度の相関がみられた(相関係数0.36-0.56)。他の一般的尺度との相関については,J-PSC17とCAPES(情緒および行動の問題ドメイン)との間で,中等度の相関がみられた。PSE尺度とCAPES(親の効力感ドメイン)との間で,軽度の相関がみられた。PAFASの因子分析では,原版と異なる8つの因子が抽出され,構成概念妥当性は部分的に確認されるにとどまった。PAFAS/CAPESの各ドメインにおける級内相関係数は0.7-0.8程度で,再テスト信頼性が確認された。
結論 上記の結果から,PAFAS/CAPESともに一定の信頼性・妥当性が確認された。トリプルPの介入効果を評価するのに適した尺度といえる。ただし,PAFASの子育ての一貫性ドメインにおいては,内的信頼性・構成概念妥当性・再テスト信頼性が低く,項目の再検討が必要である。
キーワード 前向き子育てプログラム(トリプルP),育児,尺度,信頼性,妥当性