論文
第63巻第15号 2016年12月 咀嚼機能が低下した要介護高齢者における
大原 里子(オオハラ サトコ) 高田 健人(タカダ ケント) 吉池 信男(ヨシイケ ノブオ) |
目的 介護保険施設における要介護高齢者への効果的な栄養ケア・マネジメント実施のため,口腔の状況と低栄養状況の関連および咀嚼機能低下に対する,きざみ食の有効性の有無を明らかにすることを本研究の目的とした。
方法 平成25年12月に全国37介護保険施設に対し自記式質問紙調査票を郵送し,基本的属性,低栄養関連項目,摂食・嚥下能力,歯の数,義歯使用の有無等を調査した。平成26年7月に入院,死亡,退所等のイベント調査を実施した。BMI,血清アルブミン値,200日までの累積死亡関数と歯の数,義歯使用について関連を分析した。歯の数が19本以下になると比較的硬い食品群がかめなくなる傾向があるため,歯の数が20本以上と19本以下に分けて義歯使用の有無による解析を行った。平成24年に管理栄養士養成課程を持つ3大学の学生(以下,3大学の学生)に対して,生の人参5gを一口大と5㎜角程度にきざんだものを使用して,弱い咀嚼力でかみ砕けるか,また,通常の咀嚼力ですりつぶした状態になるまでの咀嚼回数を調査した。研究協力は任意とし,同意の得られた120名を対象とした。
結果 介護保険施設入所者調査では,35施設から1,646名の調査票を回収した。BMIの有効回答は1,273名(77.3%),血清アルブミン値の有効回答は972名(59.1%),200日までの累積死亡関数の有効回答は1,625名(98.7%)であった。BMIにおいて歯の数が19本以下では,義歯使用有は20.5(±3.5),義歯使用無は19.8(±3.5)であり,差は有意であった(p=0.003)。血清アルブミン値において歯の数が19本以下では義歯使用有は3.6(±0.4),義歯使用無は3.5(±0.4)であり,差は有意であった(p=0.006)。200日までの累積死亡関数において,19本以下では義歯使用無のハザード比は1.547であり差は有意であった(p=0.042)。3大学の学生に対する調査では,有効回答は112名であり,生の人参の一口大を弱い咀嚼力でかみ砕けた者は0名(0%)であった。きざんだものを弱い咀嚼力でかみ砕けた者は1名(0.9%)であった。通常の力ですりつぶすまで咀嚼した場合,平均咀嚼回数は一口大が66.7±25.2回,きざみは77.9±29.0回であった(p<0.001 対応のあるt検定)。
結論 義歯使用有の者のBMI,血清アルブミン値が義歯使用無の者より高いことにより,義歯の栄養改善に対する効果が示唆された。咀嚼力低下に対して,硬い食べ物をきざむことは効果がないことが明らかとなった。また,通常の咀嚼力においても,きざむことによりすりつぶすまでの咀嚼回数が増加することが明らかとなった。
キーワード 要介護高齢者,咀嚼機能,義歯,BMI,血清アルブミン値,きざみ食