論文
第64巻第5号 2017年5月 地域在住高齢者の身体活動(運動と生活活動)と生活環境の関連-市街地と郊外地による検討-久保田 晃生(クボタ アキオ) 岡本 尚己(オカモト ナオキ) 印鑰 真人(インヤク マサト) |
目的 高齢者の健康づくり,介護予防において,身体活動を高めることは有益である。しかし,高齢者の歩数は低下傾向にあり,今以上に身体活動の促進を図ることが重要である。身体活動の促進には様々な要因が関連するが,近年,身体活動の多寡に影響を及ぼす要因として,生活環境が着目され研究が進められている。一方,先行研究では身体活動の総量の多寡と生活環境との関連についての報告が多く,身体活動を運動と生活活動に分けて検討した分析は少ない。また,これまでの先行研究は生活環境が大きく異なる場所,すなわち国単位での検討,州単位での検討,都市部と地方都市での検討などが行われている。そこで,本研究は地方都市で市街地,郊外地に在住する高齢者の身体活動を運動と生活活動に分け,居住地区の影響を検討するとともに,高齢者個人の生活環境と運動,生活活動との関連を検討した。
方法 本研究は,横断的研究である。調査は,静岡県三島市の市街地のN小学校区と郊外地区のS小学校区で実施した。各地区の800人(男性400人,女性400人),合計1,600人を住民基本台帳で無作為抽出し質問紙調査を実施した。調査期間は,2015年2月末日までの1カ月間である。回答は市街地363人,郊外地430人の計793人(49.6%)から得られた。回答者の内,データの使用を拒否した者と分析項目に欠損値がある者,医師からの運動制限がある者を除いた市街地150人,郊外地187人の計337人(21.1%)を分析対象者とした。分析は各地区の運動,生活活動の状況を把握した後に,居住地区の影響と,生活環境の影響をそれぞれ二項ロジスティック回帰分析により検討した。
結果 市街地と郊外地において,運動と生活活動のMets・時/週の平均値に有意差は認められなかった。二項ロジスティック回帰分析でも居住地区の影響は認められなかった。一方,生活環境の中で,近所の運動場所は,運動で全体と市街地,生活活動で全体と郊外地において,それぞれ有意な関連(p<0.01〜0.05)を示した。
結論 地域在住高齢者において,居住する地区は身体活動との関連が認められなかった。しかし,近所の運動場所と運動,生活活動との関連が示されたように,高齢者の個人的な生活環境が運動や生活活動に影響を及ぼすことが示唆された。
キーワード 身体活動,運動,生活活動,生活環境