論文
第64巻第8号 2017年8月 30代女性の14年間における介護選択,愛情,扶養義務感の変化-2000-2001年および2014年のパネル調査による2地区の比較-太田 美緒(オオタ ミオ) 甲斐 一郎(カイ イチロウ) 石崎 達郎(イシザキ タツロウ) |
目的 介護保険導入直後の2000-2001年,特徴の異なる2地区(東京近郊A市住宅地区,農村地区)在住の30代女性を対象に,親が要介護状態となった場合,どうするのがよいかを問う一般介護選択(自宅介護,施設介護),対象者が主介護者になる場合どうするかを問う主体的介護選択,およびその関連要因を分析した。同調査から14年後,介護が身近な問題となった対象者にパネル調査を実施,介護選択および前回調査で関連要因として指摘された愛情と扶養義務感の変化,2地区の相違点について分析し,介護者に対する適切な支援策の立案に寄与することを目的とした。
方法 2014年8月,2000-2001年に実施した一般介護選択および主体的介護選択に関する調査のパネル調査を実施した。前回の分析対象者256人(住宅地区176人,農村地区80人)のうち,引き続き同地区に在住している186人(各々114人,72人)に対し調査依頼の手紙を送付,承諾した45人(31人,14人)に質問紙調査票を郵送,回収も郵送にて行った。
結果 前回調査との比較では,実の親,義理の親に対する一般介護選択,主体的介護選択ともに自宅介護率は2地区とも低下傾向だった。特に農村地区の義理の親に対する一般介護選択では自宅介護選択率が41.7ポイントの大幅な低下を示した。前回調査で確認された関連要因の愛情は,対実母,義母ともに2地区において低下傾向にあった。扶養義務感は,前回調査では対実親,義理の親の区別をしなかったため,比較検定ができないが,2地区とも低下した。
結論 農村地区における対義理の親の一般介護選択では,自宅介護率が大幅に低下したにも関わらず,対義母の主体的介護選択では変化がなく66.7%と高いのは,自宅介護を望んでいないにも関わらず,現実には介護せざるを得ない嫁の現状が反映されている。義母に対する愛情や扶養義務感も低下している中,嫁としての立場上介護せざるを得ない状況を避けるためには,介護を家庭内のみの問題として抱え込まず,地域包括支援センター等に助言を求め,介護サービスに関する情報を積極的に取得する等,自らの介護選択に真摯に向き合う準備と覚悟が問われている。
キーワード 介護選択,愛情,扶養義務感,パネル調査,2地区比較