論文
第64巻第11号 2017年9月 就学前における教育・保育施設の選択が
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目的 就学前における幼稚園・保育所といった教育・保育施設の種別の選択が,就学後の学校適応や問題行動といった児童の非認知的な側面の発達に与える影響について,保育所入所と母親の就業の同時決定性等の特性を踏まえて,21世紀出生児縦断調査の調査票データを活用した傾向スコアマッチングにより実証分析を行った。
方法 本研究では,同調査の第4回(調査時年齢3歳6カ月)から第6回(同5歳6カ月)までの期間に母親が継続して週20時間以上就業していると推定される世帯(N=8,056)のうち,当該期間を通じて幼稚園に通園している世帯(N=263)(「幼稚園通園世帯」)および当該期間を通じて保育所に通所している世帯(N=4,816)(「保育所通所世帯」)を分析対象とした。分析方法としては幼稚園通園世帯を処置群として,保育所通所世帯から,処置群と同じ背景要因を持つ対照群のペアを,父母の特性,世帯収入,父母の就業状況,児童の特性,児童の発育状況,家庭環境,地域特性等を共変量として,傾向スコアマッチングにより抽出した。これらのペアについて,同調査の結果より作成した小学1年~中学1年の「学校適応指標」,小学1~6年の「問題行動指標」を従属変数,幼稚園通園ダミーおよび学年ダミーを独立変数として,固定効果モデルによる回帰分析を行った。
結果 母親が就業している世帯において,傾向スコアによる調整前の幼稚園通園世帯と保育所通所世帯の比較では,複数の学校適応指標および問題行動指標において有意差が認められたが,傾向スコアによる調整後の推定結果では,幼稚園通園の学校適応指標および問題行動指標への影響は有意ではなかった。
結論 大規模縦断調査を用いた実証分析の結果,母親が就業している世帯について,3歳児から5歳児までの就学前における幼稚園・保育所といった教育・保育施設の種別の違いは,就学後の学校適応や問題行動といった非認知的な側面の発育に必ずしも影響をもたらすものではないことが示唆された。
キーワード 21世紀出生児縦断調査,傾向スコア,幼稚園,保育所,学校適応,問題行動