論文
第64巻第12号 2017年10月 市町村国民健康保険による
鈴木 みちえ(スズキ ミチエ) 岩清水 伴美(イワシミズ トモミ) 酒井 太一(サカイ タイチ) |
目的 特定保健指導対象者が,メタボリックシンドローム(以下,MetS)に関する情報や知識を活用して自己の力で生活習慣を改善することができるよう支援することが必要である。本調査では,MetSの基礎知識,健康管理行動,健康情報把握行動で構成する「MetS改善のためのヘルスリテラシー」(以下,ヘルスリテラシー)の獲得状況と関連要因について検討した。
方法 S県中部F市の平成24年度特定保健指導対象者1,196名全員を対象に,平成25年12月に自記式質問紙調査を実施し,有効回答を得た452名(回答率37.8%)のうち,24・25年度継続受診した386名を分析対象とした。調査内容は,属性,背景およびMetSの基礎知識・健康管理行動・健康情報把握行動である。大学倫理委員会の承認を得て,回答は無記名とするが,調査票に任意の番号を記載し,行政機関の協力で,性別,年齢,2年間の健診結果と照合した。基本統計量の算定,「知識正答数」「良好健康管理行動数」「良好健康情報把握行動数」の3変数を用いてクラスター分析を行った。基礎統計量算出,各クラスターと属性・背景・健診結果との関連を検討した。
結果 MetSの基礎知識の正答者は「MetSと生活習慣病との関連」44.0%,「生活習慣病の診断基準との違い」21.2%であった。健康管理行動では「喫煙習慣なし」86.5%,「適正飲酒」65.5%であるが,「検査値変化注意」33.9%,「毎食野菜摂取」19.2%であった。健康情報把握行動は「健康関連のテレビ,新聞記事,行政機関の広報誌,リーフレットから得る」が高く,「インターネット・講演会や学習会」は低かった。ヘルスリテシ―はクラスター分析の結果「良好群」24.6%,「中間群」54.9%,「不良群」20.5%に分類された。「良好群」は女性,職業無し,一緒に運動する人がいる,保健委員の経験有りの割合が高く,翌年の健診結果の体重,BMI,腹囲,LDLが有意に減少し,HDLは有意に増加した。「不良群」は男性,職業有りの割合が高く,体重,腹囲で有意な減少があった。
結論 「MetSに関する知識」の獲得状況は好ましいといえず,良好な食習慣保有者も少なく,健康情報はテレビ,新聞,行政機関の広報誌等から得ていた。また,ヘルスリテラシ―の高低と検査値改善との有意な関連が認められた。ヘルスリテラシ―向上には,わかりやすく活用しやすい広報誌の配布,保健委員活動への参加促進によるポピュレーションアプローチが有効であると示唆を得た。さらに,有職男性には,商工会議所や農業団体等との連携による啓発活動の強化が有効ではないかと思われる。
キーワード 特定保健指導対象者,ヘルスリテラシー,ポピュレーションアプローチ,クラスター分析