論文
第64巻第13号 2017年11月 社会医療診療行為別調査と健保組合レセプトデータ
谷原 真一(タニハラ シンイチ) 辻 雅善(ツジ マサヨシ) 川添 美紀(カワゾエ ミキ) |
目的 被用者保険の診療報酬明細書(以後,レセプト)から被保険者・被扶養者あたりの傷病大分類別レセプト件数を被保険者・被扶養者の性・年齢構成を調整した上でナショナルデータベース(NDB)から得られる人口あたり傷病大分類別レセプト件数と比較することで特定の保険制度におけるレセプトデータを用いた研究成果を日本全体に適用させる上での問題点を明らかにする。
方法 NDBによる調査として,平成26年社会医療診療行為別調査から年齢階級別傷病大分類別(主傷病)のレセプト件数を総務省統計局による人口推計(平成26年5月1日現在(確定値))に基づく総人口(0~74歳)に基づいて,人口10万人あたりの傷病大分類別レセプト件数を算出した。これを,複数の健康保険組合における性・年齢階級別被保険者・被扶養者10万人あたりの傷病大分類別レセプト件数を総務省統計局による人口推計(平成26年5月1日現在(確定値))に基づく性・年齢階級別人口に乗じた値を合算する直接法にて推計した人口10万人あたりレセプト件数と比較した。
結果 被用者保険の被保険者・被扶養者では30~69歳の者で男の割合が約56%となっていたことや65歳以上の者が占める割合が3%未満であったことなどの点で,総務省統計局による人口推計と性・年齢構成が異なっていた。NDBによる推計人口10万人あたりの傷病大分類別レセプト件数と健保組合の被保険者・被扶養者10万人あたりの傷病大分類別レセプト件数比は,性・年齢調整を行うことで,入院の「Ⅴ精神及び行動の障害」を除き,全体的により1に近い値となった。これらの比は大半の傷病大分類で統計学的に有意な差が認められたが,比の絶対値は1.1前後と,あまり大きくはなかった。
結論 被用者保険の被保険者・被扶養者の性・年齢構成は日本全体とは異なっていたが,年齢調整を行うことで人口当たりのレセプト件数の格差は小さくなる傾向が認められた。疾病大分類によっては性・年齢調整後においても統計学的に有意な差が認められたが,差の絶対値は大きいとはいえず,検定の結果以外に,影響の指標の絶対値や信頼区間を確認することによって,レセプトを用いた大規模データベースを用いた研究から得られた結果を適切に解釈し,研究成果を現実社会により適切に還元することができると考えられる。
キーワード ナショナルデータベース(NDB),被用者保険,診療報酬明細書,性・年齢調整,有病率