論文
第65巻第1号 2018年1月 日本における小児患者数の推移と疾病構造の変化内山 有子(ウチヤマ ユウコ) 田中 哲郎(タナカ テツロウ) |
目的 近年の日本では,少子化にともなう15歳未満の小児患者数の減少や医療の進歩により,小児が受診する疾病構造に変化が見られている。そこで,小児の患者数や疾病構造の変化,傷病別医療費などの年次推移より小児医療の現状を分析し,小児医療の課題について検討を行った。
方法 厚生労働省が公表している国民医療費,患者調査,人口動態統計を用いて,年齢階級別の推計患者数,受療率,医療費と小児の傷病別入院患者数を算出した。
結果 0~14歳の1日あたりの推計入院患者数は,1984年~2014年の30年間で約4割に減少した。また,入院受療率,外来患者数ともに約7割に減少したが,外来受療率は1.2倍に増加していた。1人あたりの年間入院医療費は1986年から2014年の30年間で約3倍に,入院1件あたりの医療費は約4倍に,入院1日あたりの医療費は約5倍に増加していた。また,2014年の0~14歳の1人あたりの年間外来医療費は15~44歳よりは高いが,45~64歳,65歳以上よりは低く,受診1回あたりの外来医療費は他の年齢階級の中で最も低かった。0~14歳の1人あたりの年間外来医療費は1986年から2014年の30年間で約2.5倍に,受診1回あたりの外来医療費は約2倍に増加しており,傷病別入院患者数は1996年から2014年の20年間で周産期における病態が増加し,呼吸器系の疾患が減少していた。
結論 この30年間で小児の1日あたりの推計入院患者数,入院受療率,1日あたりの推計外来患者数は減少したが,外来受療率は増加し,小児科の診療が外来を中心としたものとなり入院と外来のバランスに変化が生じている傾向がみられた。また,2016(平成28)年に行われた診療報酬の改定によりNICUなどの設備があり周産期および先天奇形の診療を行っている病院の診療報酬は高くなるが,新生児の診療を積極的に行っていない小児科や呼吸器・感染症等を中心に診ている小児科にとってはこの改定による利益は少ないことがわかった。今後,安定した小児科診療を継続していくためには,一般の小児科病院にも目を向けた診療報酬の改定等が望まれる。また,近年の行われている小児入院施設の集約化は,病院の体制強化や専門能力の向上により重症患者の治療成績を向上させることにつながるが,極端な集約化が進められると,地域によっては近くに小児医療施設がなくなる可能性があるため,少子化対策,育児支援という観点からも国民的議論として再考していく必要があると思われた。
キーワード 推計入院患者数,推計外来患者数,受療率,入院医療費,外来医療費,疾病構造