論文
第65巻第4号 2018年4月 長時間労働とウェル・ビーイング-社会企業家を対象としたデータ分析からの示唆-松島 みどり(マツシマ ミドリ) |
目的 本研究は,長時間労働とウェルビーイングの関係について仕事特性と個人特性の一致を考慮して定量的に明らかにし,人々の働き方への示唆を得ることを目的とした。
方法 本研究で用いるデータは,2015年に社会企業家リーダーを対象に実施したアンケート調査の回答者(427名)である。アンケート内に社会企業家特性を測定することが可能となる設問を設けることで,社会企業家特性を考慮に入れた分析を行っている点が本研究の特徴である。分析には順序プロビットモデルを用い,被説明変数にはウェルビーイングの指標として,幸福度,主観的健康感,満足度(仕事,余暇の過ごし方,家計の状態,家族関係,友人関係)を使用,着目変数として労働時間と社会企業家特性を加えた。
結果 分析の結果,社会企業家特性を考慮に入れない場合には,労働時間の長さは主観的健康感,余暇の過ごし方,家計の状態への満足度と負の相関を示し,それ以外の指標については統計的に有意な関係は示されなかった。一方で,社会企業家特性を考慮すると,社会企業家特性が弱い,つまり仕事特性と一致しない場合には労働時間とすべてのウェルビーイング指標が負の相関関係を示したのに対して,社会企業家特性が強い場合には,労働時間が長い人ほど高い幸福度,主観的健康感,仕事満足度を選択する確率が高くなっていた。ただし,社会企業家特性が強い場合でも,余暇の過ごし方や家計の状態,家族関係,友人関係などについては,労働時間が長いと満足度が低下する傾向が確認された。
結論 一般的には長時間労働はウェルビーイングに負の影響を与えるものの,仕事特性と労働者の特性が合致している場合には,その限りではないことが明らかとなった。ただし,特性の一致に関わらず,長時間労働者は仕事以外の生活満足度については低い満足度を示しており,私的な時間については長時間労働の負の影響が認められる。本研究の結果は社会企業家の一部のデータを用いた分析結果であるため一般化には注意を要するが,長時間労働の心身への影響を考える上でも一定の示唆を与えるものと考えられる。
キーワード 長時間労働,幸福度,主観的健康感,満足度,社会企業家