論文
第65巻第5号 2018年5月 終末期の療養場所の選定における性差の検討大宮 朋子(オオミヤ トモコ) 福井 小紀子(フクイ サキコ) 中島 梨枝子(ナカジマ リエコ) |
目的 終末期を過ごす場所に関する意向について,男女で違いがあることが明らかにされているが,その理由や関連要因についてはこれまで検討されてきていない。本研究は,療養場所の選定について,男女別に関連する要因を検討し,在宅医療推進への提言を得ることを目的とした。
方法 層化2段階無作為抽出した全国の40歳以上80歳未満の男女2,000名を対象に,無記名自記式質問紙郵送調査を2010年3月に実施した。基本属性,慢性疾患の有無や自身の受療,介護・看取り経験,終末期に希望する療養場所(自宅,医療機関,ホスピス・緩和ケア病棟(PCU),老人ホームや民間のケア施設等(公的・私的施設)の4群),療養場所を選択する際に重視する事柄21項目について尋ね,単純集計,因子分析,希望する療養場所3群(レファレンスカテゴリ:自宅)を従属変数とした男女別多項ロジスティック回帰分析を行った。
結果 有効回答1,019名を分析した結果,療養・死亡場所として男性の51.5%,女性の36.6%が自宅を希望した。療養場所を選択する際に重視する事柄は,「Ⅰ療養における家族への負担」「Ⅱ医療やケア体制の充実度」「Ⅲ医療制度やケアの積極的利用意向」「Ⅳ自分の望んだ環境で自分らしく過ごすこと」「Ⅴ自分の死を経験する家族へのサポート」の5因子のほとんどの項目で男性より女性の得点が高かった。65歳以下で,娘がいる男性は医療機関より自宅を希望し,男性では身近な人のがん死経験があること,女性ではかかりつけ医がいることが医療機関選択と関連していた。女性は死後の家族のサポートを重視する場合,自宅ではなく医療機関や公的・私的施設を選んでいた。
結論 女性は男性より終末期の療養場所について慎重に検討する傾向があり,それには介護経験が関連している可能性がある。娘と同居している男性は自宅療養を希望していたことから,今後娘の介護負担の増大が懸念され,支援を考えていく必要がある。また,女性は自分の死後に残された家族への支援体制を充実させることで,終末期の在宅療養を推進していくことが可能になると考えられる。男女ともに,訪問看護やレスパイト施設,地域包括ケア病棟など在宅療養を支える選択肢の拡大とそれらを有効活用する方法について,医療関係者が情報発信を行っていく必要がある。
キーワード 終末期,療養場所,自宅,医療機関,性差,全国調査