論文
第65巻第5号 2018年5月 市町村保健センターにおける
鳩野 洋子(ハトノ ヨウコ) 島田 美喜(シマダ ミキ) 弓場 栄嗣(ユバ エイジ) |
目的 市町村保健センターにおける住民に生じたアクシデント・インシデントの内容を明らかにすることを目的とした。
方法 全国の1,741市区町村の保健・健康増進等を担当する部署の課長・課長相当職に対して,郵送自記式質問紙調査を実施した。過去に経験したアクシデント・インシデントについて,発生した事象,発生場所,発生した状況について,3事例まで記載を求めた。記載事例のうち,保健事業中に住民に何らかのアクシデント・インシデントが発生した事例を抽出し,事業別にそれぞれの発生内容をコードに整理し,類似した内容をカテゴリとして分類した。コードを『』,カテゴリを[]で示す。
結果 1,231通の有効回答(有効回答率70.7%)のうち,489自治体から814事例の記載が得られ,うち,392事例が住民に生じたものであった。最も記載数が多かったのは予防接種時で,結果的に投与してはいけないワクチンを投与した[誤接種]や,『針刺し事故』等の[接種手技の誤り]が生じていた。次いで乳幼児を対象とした健診時であり,中でも[転落][転倒]や,児の人や物に対する[衝突]が多く記載されていた。成人・高齢者を対象とした健診・検診では,[転倒]のほか,胃透視検査時の[誤嚥],バリウムの排せつ不良といった[副次的な症状の発生]などの記載がみられた。そのほか健康教室や窓口での相談や保健指導時,家庭訪問時においてもアクシデント・インシデントの発生が起こっていた。生じたものの中には,感染症の集団発生や,胃透視後にバリウムによる腸閉塞が生じ人工肛門の装着となったもの,アレルギー食品の接種によるアナフィラキシー状態の発生等,生命の危険性を伴うような重篤な事例もあった。
結論 アクシデント・インシデントは,保健事業の種別を問わず生じており,中には重篤なものもあった。これらには予防可能なものもあるが,予防的な行動をとったにも関わらず生じているものもみられていることから,予防的行動の強化とともに,発生することを想定した準備の必要性が考えられた。
キーワード アクシデント・インシデント,市町村保健センター,住民,保健事業