論文
第65巻第13号 2018年11月 東日本大震災後の在宅介護における介護困難の特徴と
岩渕 由美(イワブチ ユミ) 佐藤 嘉夫(サトウ ヨシオ) 狩野 徹(カノウ トオル) |
目的 東日本大震災から6年半が経過した被災地の介護者の生活と介護の実態と課題を明らかにし,著者らが過去2回行った被災地の介護者調査と比較しつつ,震災後の介護困難の変化とその要因を明らかにする。
方法 調査対象地域は,東日本大震災被災地の岩手県沿岸4市町で,調査対象は,地震,津波,火災等の被災者と,被災しなかった人が,ほぼ6対4の割合になるよう10カ所の居宅介護支援事業所に任意に抽出してもらった。調査方法は,留置き,自記式,無記名アンケートで,450名に配布し,郵送により回収した。調査期間は平成28年11月~平成29年2月である。
結果 調査票の回収率は78.4%(回収数353),有効回答率は77.8%(有効回答数350)で,性別は男女比21対79,年齢は50歳未満(11%),50歳代(29%),60歳代(36%),70歳以上(23%)である。震災により約8割が物的・心的に大きなダメージを受け,また,約半数が現在も暮らし向きが厳しい状況にある。被介護者は中・重度化し,介護時間も長くなっていることで介護負担は軽減せず,体の不調が増している。介護からの解放希求も高く,利用しているサービスは通所(施設利用)型サービスに偏重している。今後の介護の継続意向は高いが,暮らし向きや介護負担の厳しい状況と介護の継続意向の高さにはギャップが感じられる。
結論 被災地全体の暮らし向きの厳しさと,震災の影響による居住地の移動を含む生活環境の変化が,買い物や通院等のアクセスの不便さを招いただけでなく,近隣,友人,親戚等との疎遠による社会関係の断裂も加わり,家族介護は,長時間介護が必要な,高齢化,中・重度化した被介護者を,同居の介護者が,拘束感と介護負担の過重化の中で行っており,介護から派生する複雑で多様な生活課題を自力で解決していくのは非常に困難な状況にあることが明らかになった。また,そういった状況が,多様な介護サービスの効果的な組み合わせで介護負担を軽減させる考え方に目を向ける余裕を失わせ,通所(施設利用)型サービスの利用や入所型サービス希望への偏重を招いていると考えられる。被災地の家族介護者支援には,単なる介護サービス利用のマネジメントにとどまらず,複雑な介護ニーズを抱えた被介護者とその家族の生活状況や思いをくみ取り,必要な支援へとつなげるソーシャルワーク的支援機能の強化とシステムづくりが求められている。
キーワード 東日本大震災,家族介護者,介護保険サービス,ソーシャルワーク