論文
第66巻第4号 2019年4月 地域の在宅療養支援診療所数に影響を与える要因-都道府県データを用いた実証分析-西本 真弓 (ニシモト マユミ) 西田 喜平次(ニシダ キヘイジ) |
目的 在宅療養支援診療所(以下,在支診)数は,全国的に増加傾向にあるが,都道府県ベースでみると在支診数にはかなりの地域差が生じている。本研究では,こうした地域差はどういう要因により生じるのかを明らかにすることを目的としている。
方法 データはすべて2010年の都道府県データで,被説明変数には在支診数として高齢者10万人当たりの在支診数を用いている。また説明変数として,在支診の地理的要因の1つである雪日数,経済的要因の1つである後期高齢者医療費,そして設置に関わる状況的要因として一般病院数,一般診療所数,療養病床数,医師数,看護師・准看護師数を用い,最小二乗法で推定を行った。
結果 分析の結果,以下のことが明らかになった。①雪日数が多い都道府県では在支診数が有意に少なくなる傾向がある。②後期高齢者医療費が高い都道府県では在支診数が有意に多くなっている。③一般診療所数は在支診数に有意な正の影響を,療養病床数は有意な負の影響を及ぼす。④医師数が多い都道府県では在支診数が有意に多くなる傾向がある。
結論 在支診数は雪日数が多い地域ほど少なくなる傾向がある。24時間の往診や訪問看護が求められる在支診にとって,雪はスムーズな移動を妨げる要因となり往診における労力がかかることが届け出を躊躇させている可能性がある。また,後期高齢者医療費が高い都道府県では在支診数が有意に多くなっている。この結果から,高齢者の医療機関での支払いが多い地域では経済的インセンティブが働き,在支診の届け出が促される傾向があると考えられる。一般診療所数は在支診数に有意な正の影響があることが示されたが,一般診療所が多い地域は,在支診として届け出を出せる診療所が多いことを意味しており,この結果は予想どおりである。一方,療養病床数は有意な負の結果が示された。在支診と療養病床は対象患者の属性がほぼ同じであることから,療養病床が多い地域では在支診の必要性が少なく,在支診として届け出をしない傾向があるという結果も予想どおりである。また,医師数が多い都道府県では在支診数が有意に多くなる。地域の医師数が少ない地域では,24時間対応を可能にするほどの医師数を確保できない可能性が高くなり,在支診の届け出を抑制することが考えられる。
キーワード 在宅療養支援診療所,終末期医療,療養病床,医師数,後期高齢者医療費,降雪