論文
第66巻第7号 2019年7月 定年退職等により新たに国民健康保険の被保険者になった者の
小池 創一(コイケ ソウイチ) 古井 祐司(フルイ ユウジ) 磯 博康(イソ ヒロヤス) |
目的 特定健康診査・特定保健指導も制度開始から10年が経過し,将来的な健診・保健指導制度の在り方,特に生涯を通じた健康づくりに対して,保険者が制度を超えてどのように対応していくかについて検討することは重要になっている。このような状況を踏まえ,本研究では,定年退職等により新たに市町村国民健康保険(国保)の被保険者になった者の特徴,保険者による健康状況の把握や制度周知に関する取り組みの状況,国民健康保険団体連合会(国保連)が行う保険者支援の実態等について明らかにするとともに,今後の課題について検討することとした。
方法 市町村国保の保険者と国保連に,郵送による自記式質問紙調査を行った。質問項目は,保険者調査では,定年等による新規加入者の健康状態や受療行動の課題,前保険者に求めたい取り組み,国保へ異動してきた者への取り組み内容を,国保連向け調査では,国保へ異動してきた者の健康状態や受療行動,個々の保険者支援,保険者間異動時の情報のやり取り等の有無と内容について,選択肢を提示するとともに自由記載欄を設けた。
結果 1,225保険者(回収率71.4%),38国保連(回収率80.9%)から有効回答を得た。国保へ異動してきた者と国保に継続して加入している者の健康状態や受療行動に差があるかとの質問について,保険者調査では3/4,国保連調査でも4割強が分からないと回答していたが,差があると感じている場合には,国保移行者の方が特定健康診査の受診率や特定保健指導の完遂率などが高いと感じる保険者と,低いと感じる保険者はほぼ拮抗していた。保険者が,前保険者に期待していることには,制度変更に関する情報提供が約2/3と最多で,前保険者の健診結果等のデータ提供や,「健康問題への意識づけ」についても約半数の保険者が選択をしていた。国保連に関して,保険者間異動時の情報のやり取りや健康管理の引き継ぎに関しては,9割近い国保連から議論を行っているとの回答を得た。
結論 保険者,国保連に対するアンケート調査の結果,保険者間異動前後の保健指導や受療動向や,各種データの活用についてはいまだ課題があることが明らかになった。また,保険者間異動後も継続的に取り組める生活習慣病の重症化予防に向けた取り組みの重要性も示唆された。
キーワード 国民健康保険,保険者支援,保険者間異動,重症化予防