論文
第66巻第7号 2019年7月 高齢化に伴う今後の外来診療需要の推計と総合診療の役割佐藤 幹也(サトウ ミキヤ) 前野 哲博(マエノ テツヒロ) 田宮 菜奈子(タミヤ ナナコ) |
目的 高齢化の進行に伴って国民の医療や介護の需要が急増すると予測されている。本研究では,厚生労働統計を用いて2025年の外来診療需要を推計し,高齢化に伴う外来診療需要増に対する総合診療の役割について検討した。
方法 2016年(平成28年)国民生活基礎調査,日本の将来推計人口(2006年3月推計),2016年度(平成28年度)介護保険事業状況報告を用いて2016年と2025年の外来通院者数,通院傷病件数,要介護認定者数を世代別(年少・生産年齢・前期高齢者・後期高齢者)に推計して比較した。
結果 2016年から2025年にかけて年少人口は179万人,生産年齢人口は28万人,前期高齢者は398万人減るのに対して後期高齢者は544万人増え,総数では61万人減ると推計されている。同期間の外来通院者数は年少で29万人,生産年齢で8万人,前期高齢者で248万人減るのに対して後期高齢者では392万人増え,総数では107万人増加する。同期間の通院傷病件数は年少で36万件,生産年齢で7万件,前期高齢者で499万件減るのに対して後期高齢者では969万件増える。また同期間の要介護認定者数は,前期高齢者では11万人減るのに対して後期高齢者では241万人増える。これらの変化を大都市部と地方部で比較すると,外来通院者数は地方部,都市部の年少,生産年齢で減少し,増えるのは主として都市部の後期高齢者に限定される。
結論 2016年からの10年間に外来診療需要は増加するが,この変化は都市部に限局的で,もっぱら多疾患併存によって後期高齢者の通院傷病件数が増加することに起因すると推測された。都市部で後期高齢者の外来診療需要が急増するのに対応しつつ医療の質を保ちながら医療費を適正化するためには,傷病ごとに診療する専門医型の外来診療から,1回の診療で1人の患者の多彩な健康問題に対応する総合診療医型の外来診療への転換が有効であると考えられた。
キーワード 総合診療,総合診療医,外来需要推計,外来診療,多疾患併存