論文
第66巻第7号 2019年7月 学齢期の障害児を育てる母親の就業についての実態調査-就業形態別の比較に焦点を当てて-春木 裕美(ハルキ ヒロミ) |
目的 本研究は,放課後等デイサービス事業創設5年が経過した2017年に,学齢期の障害児を育てる母親の就業実態を明らかにした。無職,非正規就業,正規就業別に対象児の属性,就業状況,福祉サービス利用,家族の協力について比較し,さらに,放課後等デイサービス事業創設後の就業状況の変化を比較した。
方法 近畿地区の肢体不自由,知的障害特別支援学校の在籍児を育てる母親を対象に質問紙調査を実施した。分析は,第1に,母親の就業状態を概観し,一般の子育て世帯と本調査の就業率の比較をした。第2に,従属変数を無職,非正規就業,正規就業とし,独立変数に属性,福祉サービス利用日数,家族の協力を用いて,クロス集計,一元配置分散分析を行った。第3に,従属変数を非正規就業,正規就業とし,独立変数に継続就業状況,職業,通勤時間,対象児の病欠時の家族の対応を用いて,クロス集計,t検定を行った。さらに,非正規就業,正規就業を階層にし,放課後等デイサービス利用の日数や時間の変化と労働時間の変化,就業形態の変化をクロス集計で比較した。
結果 一般の子育て世帯に比べ障害児の母親の就業率は極めて低いことが示された。無職である要因には対象児が肢体不自由校在籍,知的障害と身体障害の重複,医療的ケアが必要,介助度が高い,学校まで家族の送迎が必要または訪問教育という傾向がみられた。放課後等デイサービスは就業形態によらず利用割合が多く,他のサービス利用は極端に少なかったが非正規就業,正規就業は学童保育,日中一時支援など利用の傾向もみられた。家族の協力では配偶者の協力は母親の就業形態で差がなく,正規就業は祖父母の協力,きょうだい児の協力を得ている傾向がみられた。対象児の病欠時には就業形態によらず母親自身が仕事を休む割合が多かったが,正規就業は配偶者が仕事を休む,祖父母に頼むなどやや分散化傾向もみられた。正規就業は出産前からの継続就業,専門・技術的職業の傾向がみられた。放課後等デイサービス事業の創設前と比べると非正規就業は,同サービス利用が増えた場合には労働時間も増え,働いていなかったが働き始めた傾向もみられた。
結論 障害児の母親の就業状況は,障害児への福祉サービス向上により就業率についてはやや改善されたが一般の子育て世帯よりはるかに低い。特に医療的ケアや通学に送迎が必要であると就業が制限される。配偶者の協力は母親の就業形態で変わりなく,働く母親への負担は高い。非正規,正規就業の違いには継続就業できたか否かの影響が大きいと考えられた。
キーワード 障害児,母親,就業,放課後等デイサービス