論文
第66巻第12号 2019年10月 Age-period-cohort分析を用いた男児出生割合の変動と
内田 博之(ウチダ ヒロユキ) 小田切 陽一(オダギリ ヨウイチ) |
目的 男児出生割合は,震災後に受ける心的外傷後ストレス障害(PTSD)により低下する可能性が危惧されている。本研究は,2011年3月11日に発生した東日本大震災後に受けたであろう心的外傷後ストレスの影響が男児出生割合の年次推移に影響を及ぼす可能性について,年齢効果,時代効果およびコホート効果のトレンドを推定することで検討した。
方法 出生数は,1979~2016年(全国は1947年から)の人口動態統計から都道府県別に母の年齢別(15~44歳)の性別出生数を使用した。震災による死亡者数,不明者数および負傷者数から,PTSDの発症の危険が低かったであろうと考えられた33都道府県(非被災地域)および発症の危険が中等度以上であったであろうと考えられた14都道府県(被災地域)に分類した。男児出生割合の移動平均(3年移動平均)の年次推移を観察するとともに,ベイズ型age-period-cohort(APC)分析を用いて,非被災地域および被災地域の男児出生割合の経時的変動に対する年齢効果,時代効果およびコホート効果を推定した。
結果 男児出生割合の移動平均の年次推移は,全地域および被災地域では2011年および2012年において低下傾向,非被災地域では2012年に低下が観察された。全地域と比較して被災地域の方は低下傾向が強かった。また,非被災地域と比較して被災地域は,時代効果が震災前に比べ震災時の2011年および翌年の2012年に低減し,男児出生割合が震災前に比べて震災後に低下する可能性が観察された。そして,コホート効果が1967年生まれから1973年生まれのコホート,1987年生まれから1997年生まれのコホートにかけて低減し,男児出生割合が震災後,1967年生まれから1973年生まれの母親の出産,1987年生まれから1997年生まれの母親の出産で低下する可能性が観察された。
考察 男児出生割合の移動平均の年次推移の観察,ベイズ型APC分析の時代効果,コホート効果のトレンドの観察は,いずれも趨勢変化を伴うために,震災が男児出生割合に与える影響を明らかにするためにはさらなる研究が必要である。
キーワード 男児出生割合,震災,心的外傷後ストレス障害,出生コホート,ベイズ型age-period-cohort分析