論文
第67巻第1号 2020年1月 大都市居住傘寿者のコホート調査-追跡対象者の特性と4年6カ月後の生命予後および介護・医療サービスの利用状況-長田 斎(オサダ ヒトシ) 古谷野 亘(コヤノ ワタル) 安藤 雄一(アンドウ ユウイチ)澤岡 詩野(サワオカ シノ) 甲斐 一郎(カイ イチロウ) |
目的 東京都杉並区は80歳の高齢者を対象に5年間のコホート調査を行う健康長寿モニター事業を実施した。本論文の目的は,基礎自治体が自ら企画・実施した後期高齢者対象のコホート調査の概要と結果の一部を示し,その意義について考察することである。
方法 2012年9月に杉並区が対象年齢の区民全員(3,749名)に郵送した質問紙調査に回答し,杉並区および東京都後期高齢者医療広域連合が所管する個人情報の利用に同意した1,846名を追跡対象者,無回答または不同意の者のうち9月中の死亡者を除く1,888名を非追跡対象者とした。追跡期間は2012年10月から2017年3月までの4年6カ月であった。住民基本台帳,介護保険情報,その他の区が所管する情報のほか,医療保険に関する情報を広域連合から提供を受けて追跡調査項目とし,追跡対象者の特性および調査期間中の生命予後,介護・医療サービスの利用状況の分析に供した。調査期間中の介護・医療サービスについては,月平均介護サービス点数および月平均医療費とその内訳を指標とした。
結果 追跡対象者は2012年10月時点の対象年齢集団全体の約半数(49.4%)だが,非追跡対象者に比較して男女とも介護保険料区分が低位である者が少なく,要支援・要介護認定者率,1人あたり介護サービス点数,1人あたり医療費が低かった。特に重度認定者率,入所・居住系サービスの利用点数,入院医療費において差が顕著に認められた。追跡対象者においては,調査期間中の死亡率は男性17.7%,女性8.7%,要支援・要介護認定率は男性43.6%,女性52.3%であった。月平均介護サービス点数はすべての指標において女性の方が高かった。月平均医療費は最大値を除く各指標で男性の方が女性より高かった。調査期間中の死亡による影響は介護サービス点数よりも医療費に強く現れていた。
考察 追跡対象者は対象年齢集団の中では比較的社会経済状態が良好で,より健康度の高い集団であった。自治体が実施主体となった調査では,選択バイアスを量的に把握できること,自治体独自の情報も付加して,生活保護受給者を含め漏れなくデータ収集が可能であることなどの特長が認められた。
キーワード 大都市,後期高齢者,コホート調査,生命予後,介護サービス点数,医療費