論文
第67巻第1号 2020年1月 妊娠の種類別にみた多胎出生の特徴大木 秀一(オオキ シュウイチ) |
目的 国内で入手可能なデータを基に,過去10年間における妊娠の種類別多胎出生の動向について詳細に分析した。
方法 厚生労働省が公表している人口動態統計と日本産科婦人科学会(日産婦)が公表しているARTデータブック(ART:生殖補助医療)を分析に用いた。目的にかなった年齢階級別データが入手できる2007年から2016年の値を分析(推定)に用いた。
総多胎出生数=自然妊娠多胎出生数+不妊治療妊娠多胎出生数=自然妊娠多胎出生数+(一般不妊治療妊娠多胎出生数+ART妊娠多胎出生数)より 一般不妊治療妊娠多胎出生数=総多胎出生数-ART妊娠多胎出生数-自然妊娠多胎出生数 となる。自然妊娠多胎出生数の推定に当たっては,自然の多胎出生数は30歳代後半までは母親の年齢(階級)とともに上昇し,40歳以降で急減するという生物学的現象を用いた。1970年代は不妊治療の影響が非常に少ないと考えられるので,1974年から1978年までの多胎妊娠を自然妊娠とみなし,この5年間の加重平均を年齢階級別自然妊娠多胎出生割合の基準値とした。ART治療中の自然妊娠はないとみなし,あらかじめこれを除き,年ごとに(総出生数-ART出生数)×年齢階級別多胎出生割合 により年齢階級別自然妊娠多胎出生数を推定した。日産婦が公表しているARTデータブックの数値を基に,2007年から2016年(最新)までのARTによる年齢階級別総出生数と総多胎出生数の推定を行った。
結果 全体的な傾向は以下のとおりであった。①自然妊娠の割合は,不妊治療妊娠の割合よりも多く,2011年に最も高かった。②不妊治療妊娠では,一貫して一般不妊治療妊娠の割合がART妊娠の割合を上回っていた。年齢階級別にみると,35歳以上に関しては,2007年を除いて自然妊娠が最多であるが,その割合は現在横ばいであり,不妊治療ではART妊娠が一般不妊治療妊娠を上回るとともに,2011年以降上昇傾向にあった。
結論 不妊治療による多胎出生割合はピークを過ぎたとはいえ,今なお多胎出生全体の半数近くに迫っており重要な課題である。特に,35歳以上のARTによる妊娠の増加傾向が注目された。正確な疫学的な記述を求めるのであればARTだけではなく一般不妊治療の登録も必須であると思われた。
キーワード 多胎出生,自然妊娠,不妊治療妊娠,一般不妊治療妊娠,生殖補助医療,人口動態統計