論文
第67巻第1号 2020年1月 障害者支援施設の生活支援員の不適切なケアの実態と関連要因岡本 健介(オカモト ケンスケ) 時實 亮(トキザネ リョウ) 谷口 敏代(タニグチ トシヨ) |
目的 障害者支援施設で発生する虐待の背景要因には風通しの悪い組織風土や職員相互の指摘ができない人間関係が指摘されており,不適切なケアから虐待へと移行する可能性がある。不適切なケアの予防には職員自身のストレスのない活気ある働き方や風通しの良い組織風土は重要である。本研究は不適切なケアの実態把握と,職員の活気ある働きと組織の特性との関連を明らかにすることを目的とする。
方法 中国地方5県の障害者支援施設217施設の生活支援員を対象とし,1施設6名分郵送した。調査内容は,個人特性,不適切なケア尺度,日本語版組織的公正尺度,職業性ストレス簡易調査票の職場の支援尺度,日本語版ワーク・エンゲイジメント短縮版尺度を使用した。分析方法は,本研究で用いた変数の度数と割合を不適切なケアの「あり群」と「なし群」別に算出し,割合の比較にはχ2検定を行った。不適切ケアの下位尺度のうち,「あり群」が30%以上を示した項目を従属変数とし,組織風土,職場の支援,ワーク・エンゲイジメントの各変数を独立変数としたロジスティック回帰分析を行った。
結果 未記入などの欠損データを除いた616名(有効回答率47.8%)を分析対象とした。不適切なケアの下位尺度のうち,あり群は「不当な言葉遣い」が42.7%,「施設・職員の都合を優先した行為」が38.3%,「プライバシーに関わる行為」が5.4%,「職員の怠慢」が5.0%,「自己決定侵害」が3.2%であった。「不当な言葉遣い」と「施設・職員の都合を優先した行為」の有無では,それぞれ,「手続き的公正が高い群」を基準としたとき,中群と低群では「あり群」が有意に高かった。
結論 情報提供や意見聴取などの行動および組織内の意思決定への参加などの手続きに関する組織特性が高いことが不適切なケアの発生を防ぐ可能性が示唆された。しかし,風通しの良い組織風土は生活支援員の独自の努力で改善することには限界がある。障害者支援施設の管理者は,上司,部下間との信頼関係の形成や支援に必要な情報の共有や協力体制を整備し,組織として不適切なケアの防止に取り組むことが求められる。
キーワード 生活支援員,不適切なケア,組織の公正,職場の環境整備,障害者支援施設