論文
第67巻第2号 2020年2月 市町村長申立事案を担う市民後見人の
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目的 市民後見人の選任が進まない現状を踏まえ,市民後見事業のモデルとなっている地域で活動する市民後見人に焦点をあて,市民後見人と被後見人の現況,後見事務実施状況,関連機関との連携経験と内容を分析することで,市民後見人の必要性と期待される後見事務を明らかにし,支援課題を検討した。
方法 2016年12月~2017年3月に,Z県10カ所の成年後見実施機関(以下,実施機関)を後見監督人とする個人受任の市民後見人142名に対して質問紙調査を実施し,市民後見人の基本属性と「市民後見人の定義」,被後見人の概要と受任調整時に用いられる「市民後見人選任基準」とを比較した。後見事務の実施状況は,契約を伴う法律行為と日常生活を支援する行為は頻度,非日常性の対応は経験の有無と内容,また,関連機関との連携経験と内容の回答を求めた。
結果 市民後見人は「国家資格等を所有」「受任経験がある」「実施機関の支援・監督下にある」点で最高裁判所の定義を超え,また,選任基準を超えた在宅生活者の被後見人への後見活動が確認された。後見事務実施状況では,受任ケースは純粋に財産管理のみの後見事務は極めて少なく,大部分は医療,福祉,介護サービスの受給を含む日常の契約行為や生活支援が多くなされていた。一方で「ケア会議への出席」は,「活動なし」が全体の1/4程度みられた。「緊急入院」等の非日常性の対応経験がみられた。市民後見人が連携した関連機関は,実施機関に集中しており,連携内容では「ケースの相談」「専門的助言」が多く行われていた。
結論 市町村長申立案件,低報酬等から,市区町村が市民後見人を公共的な後見人として活用している現状が認められた。これらの実績を他の第三者後見人との違いとして成年後見制度の利用支援システムにおいても明確にする必要がある。今後期待される後見事務は,施設ケアのプラン作成に関わるスタッフと意見交換するケア会議に,市民後見人が被後見人と共に参加することが望まれる。支援課題の検討では,非日常性の対応において実施機関担当者が適宜,市民後見人の活動報告書に対するフィードバックを行うことで,市民後見人自身の判断の振り返り,支援関係者との連携に役立つ基礎資料となる。一方で,実施機関は相談支援の要として関連機関との連携・調整といった役割が一層期待されており,市民後見人の選任促進のためには,実施機関の人員確保が課題である。
キーワード 成年後見制度,市民後見人,市町村長申立,成年後見実施機関,成年後見制度利用促進基本計画