論文
第67巻第3号 2020年3月 レセプトデータからみた認知症の地域差-新潟県の全後期高齢者による検討-田代 敦志(タシロ アツシ) 菖蒲川 由郷(ショウブガワ ユウゴウ) 齋藤 玲子(サイトウ レイコ) |
目的 住民の高齢化に伴い増加が予想される認知症患者について,新潟県の全後期高齢者のレセプトデータより市町村別の男女別入院割合や住民当たりの入院医療費の地域差を明らかにし,将来的に認知症に伴う入院医療費がどのように変化するか検証することを目的とした。
方法 新潟県後期高齢者医療広域連合が保有し,外部委託機関で匿名化処理された2012年から5年間の医科レセプトデータを元に,市町村別の認知症入院割合(住民全体に対して認知症で入院した者の割合)と住民当たりの認知症入院医療費(認知症による入院総医療費を住民数で除したもの)について地理情報システム(GIS)を用いて可視化し,認知症の入院割合と住民当たりの認知症入院医療費の関連についてピアソンの相関係数を求めた。認知症に関連する入院医療費推計は,国立社会保障・人口問題研究所の市町村別人口構成の将来予測を参考に医療圏単位の人口構成の変化を年齢階層別に再構成し,2015年の世代別の住民当たり認知症医療費が一定という仮定の下で2040年までの予測を行った。
結果 認知症の入院割合は男性で3.5%~6.1%,女性で3.2%~6.7%(2012~2016年の5年間の平均値)と自治体によって大きく異なっていた。認知症の住民当たりの入院医療費は,男性で4.5万円~10.1万円,女性で3.9万円~11.4万円(2012~2016年の5年間の平均値)であり,入院割合と同様に地域差が大きかった。入院割合と住民当たりの入院医療費の相関は,男性でr=0.76(P<0.001),女性でr=0.78(P<0.001)の相関を認めた。医療圏別の認知症の入院医療費は,新潟市を除いて2040年までにピークに達し,人口減少が大きい佐渡医療圏では減少に転じると予測された。
結論 新潟県において認知症による入院割合や住民当たりの入院医療費は,自治体により大きく異なり2倍以上の地域差を認めた。認知症の入院医療費は人口減少により2040年までに都市部を除いてピークに達することから,今後は人口が集中する地域において介護分野を含めた認知症対策の重要性が増すことが予想される。
キーワード 認知症,入院割合,入院医療費,データヘルス,地域差