論文
第67巻第5号 2020年5月 がん患者における医療保険の種別・本人家族別にみた
森島 敏隆(モリシマ トシタカ) 佐藤 亮(サトウ アキラ) 中田 佳世(ナカタ カヨ) |
目的 がん検診受診率は市町村国民健康保険(市町村国保)加入者よりも被用者医療保険加入者のほうが高く,被用者保険の中では被保険者本人は家族よりも高い。しかし,がん患者における検診発見や早期がんの割合について,保険の種類や本人・家族による差異は知られていない。就労世代のがん患者の検診発見がんと早期がんの割合を保険種別と本人・家族別に明らかにする。
方法 データソースは大阪府がん登録と府内のがん診療拠点病院36施設のDPCデータの連結データである。大阪府がん診療連携協議会のがん登録・情報提供部会に2017年にDPCデータを提供した病院で2010~15年に胃,大腸,肺,乳房(女性)のがん(上皮内を含む)と診断され,がん診断年月に保険診療を受けた40~59歳の患者と,子宮頸部(女性)のがん(上皮内を含む)と診断された20~59歳の患者を対象とした。がん診断時のDPCデータから患者の加入する保険を市町村国保と,被用者保険である健康保険組合(健保),協会けんぽ(協会),共済組合(共済)と,その他(国保組合,生活保護等)に分類し,さらに被用者保険加入者を本人と家族に分類した。がん登録に報告された発見経緯の「検診・健康診断・人間ドックで発見」を検診発見がん,進展度の「上皮内」と「限局」を早期がんと扱った。保険種別・本人家族別の検診発見がんと早期がんの割合の算出をがんの部位ごとに行った。
結果 分析対象のがん患者数は胃,大腸,肺,乳房,子宮頸部の順に,3,392,6,012,2,420,9,296,6,816人であった。5つの部位の検診発見と早期がんの割合は概して,保険種類別では健保か共済のどちらかが最も高く,それらに続いて協会,市町村国保の順であった。被用者保険の本人・家族別では家族よりも本人のほうが高かった。
結論 就労世代のがん患者において,市町村国保加入者と被用者保険の被保険者家族の検診発見および早期がんの割合が低いことがわかった。がん検診の受診勧奨において留意するべき知見であると考える。
キーワード 腫瘍,検診,二次予防,早期診断,医療保険,診療報酬明細書