論文
第67巻第12号 2020年10月 母子健康手帳に綴じ込まれた松井式便色カードの
顧 艶紅(コ エンコウ) 孔 元原(コウ ゲンゲン) 趙 金琦(チョウ キンキ) |
目的 2012年度から,デジタル印刷技術を利用した松井式便色カードが,改正された母子健康手帳に綴じ込まれて全国配布されるようになった。日本胆道閉鎖症研究会の報告では同便色カードの3番(陽性)と5番(陰性)の中間色である4番(陰性)が,約4割の胆道閉鎖症の患児で報告され,4番の新生児・乳児に対して,胆道閉鎖症の精査を行うかどうか議論されている。今回は北京市での追跡データを用いて,松井式便色カードの4番の回答頻度や転帰について解析し,生後4カ月までの便色の経時的変化,4番の便色と胆道閉鎖症の発症などの関係について明らかにすることを目的とした。
方法 2013年12月~2014年10月に北京市において,保護者が日本の母子健康手帳に綴じ込まれた松井式便色カードと同様のカード(中国語訳付き)を受け取った29,799人の出生児を研究対象とした。産科において訓練された産科のスタッフらが,保護者に家庭内で便色を観察し,1~3番の便色になったら,直ちに北京市新生児マススクリーニングセンターの外来へ受診をするように,また生後2週間,生後1カ月,生後1~4カ月の計3回記録するように説明した。記録情報は同センターの追跡システムや生後42日健診などを通して,フィードバックしてもらった。便色番号の報告頻度とその95%信頼区間を2項分布で計算し,検証した。
結果 有効回答数は27,561(92.5%)であった。生後2週間,生後1カ月,生後1~4カ月の3回の時点で最も報告の頻度の高かったのが5番で,次いで4番であった。4番と別の便色との組み合わせで出現する頻度が高い傾向にあった。しかし,4番と1番,2番,3番の組み合せと報告されたのはそれぞれ0人(0.0%),1人(0.02%),4人(0.07%)であった。4番便色と1~3番便色,5~7番便色と1~3番便色はそれぞれ交互に出現することもあったが,頻度は低く,両者の有意差はなかった。本研究で診断された2人の胆道閉鎖症患児では,3つの記録時点では,それぞれ4番→2番→(未観察),5~7番→5~7番→3番であった。
結論 健常児と胆道閉鎖症の患児において,生後4カ月まで,便色の経時的変化または複数の便色の組み合わせがみられた。4番の便色を示されてもすぐに精密検査をする必要はなく,引き続き観察し,1~3番に変化したら,すぐに受診するように勧める。胆道閉鎖症患児では必ずしも1番の「灰白色便」を呈するとは言い切れない。また,便色の変化を観察しながら,遅延性黄疸等のサインも見逃さないようにしてほしい。今後便色カードの異常便色のパネルを増やす選択肢を検討する必要がある。
キーワード 胆道閉鎖症,松井式便色カード,早期発見,陽性者,精密検査