論文
第67巻第15号 2020年12月 学童期におけるゲームに費やす時間と
射場 百花(イバ モモカ) 内藤 義彦(ナイトウ ヨシヒコ) |
目的 学童期は生活習慣の形成期であり,成人期の生活習慣に大きな影響を及ぼす大事な時期と考えられる。近年,ICTの生活全般への普及に伴い,学童期の日常生活におけるゲームに費やす時間(以下,ゲーム時間)の増加による様々な影響が危惧されており,望ましい生活習慣の形成を阻害するおそれがある。そこで,本研究では,一自治体の学童期の全員を調査対象として設定し,ゲーム時間と食生活および生活習慣との関連を明らかにすることを目的とした。
方法 大阪府S市の全公立小学校に在籍しているすべての児童3,524人を対象とし,家庭における食生活と生活習慣に関する17項目からなる質問紙調査を実施した。このデータを用いて,ゲーム時間と児童の食生活・生活習慣との関連を,単変量および多変量ロジスティック回帰分析によりオッズ比と信頼区間を求め検討した。
結果 解析対象者は,年齢・性別等に記入漏れがなかった3,235人とした。解析対象者のうち,ゲーム時間が「2時間以上/日」の児童は,男子716人(44.1%),女子370人(23.0%)であり,女子より男子においてゲーム時間が長かった。食生活について,学年とは独立して男女ともに,朝食,野菜,間食,味が濃い料理の摂取頻度および食事の挨拶とゲーム時間との間に有意な関連を認めた。さらに男子では,共食,果物,カルシウムが多く含まれる食品,油の多い料理の摂取頻度でゲーム時間との間に有意な関連を認めた。他の生活習慣では,男女ともに身体活動,起床・就寝時刻との間に有意な関連を認めた。ゲーム時間が長いと就寝時刻が遅く,身体活動が少ない関連を認めた。
結論 ゲームに長時間費やしていることにより,就寝時刻が遅くなり,その結果,起床時刻も遅くなり,朝食の欠食,野菜の摂取頻度の低下や間食頻度の増加など食生活の乱れにつながることが示唆され,児童が健全な食生活および生活習慣を身につけるためには,ゲーム時間の制限が必要と考えられた。長時間ゲームに費やすことは,ゲーム依存という精神疾患に関係するという問題だけでなく,将来の生活習慣病のリスクを高めるおそれがあることにもっと注意をはらうべきである。なお,具体的対策としては,ゲーム時間の上限の設定および啓発が現実的であり,今後,上限の根拠の検討が必要になると考えられる。
キーワード 学童期,ゲーム,食生活,生活習慣,生活習慣病