論文
第68巻第1号 2021年1月 虚弱高齢者の自己決定を尊重した
笠原 幸子(カサハラ サチコ) 畑 智惠美(ハタ チエミ) |
目的 本研究では,超高齢社会を支えるために,専門職としての成熟が求められている介護福祉士が,虚弱高齢者の自己決定をどのように支援しているのか,介護福祉士の実践の構造を明らかにし,その実践に関連する要因を検討することを目的とする。
方法 A県介護福祉士会の会員を対象に自記式調査票を用い,2017年7月15~31日に郵送調査を実施した。分析は,第1に,虚弱高齢者の自己決定を尊重する介護福祉士の実践の構成因子を実証的に捉えるために,因子分析を行った。第2に,介護福祉士の実践の関連要因をとして有能感を取り上げ,その構成因子を実証的に捉えるために,因子分析を行った。第3に,介護福祉士の実践の構造に関連する要因を検討するために,従属変数には介護福祉士の実践の因子ごとの合計素得点を,独立変数は「職場外のスーパービジョン」「実践の振り返り」,介護福祉士の有能感の因子ごとの合計素得点等を投入し,強制投入法による重回帰分析を行った。
結果 第1の因子分析の結果,虚弱高齢者の自己決定を尊重する介護福祉士の実践は,「意向と主体性の把握」「主体的実行を引き出す支援」「関係づくり」の3因子が抽出された。第2の因子分析の結果,「業務の達成」「仕事上の予測と問題解決」「自己啓発と能力発揮」の3因子が抽出された.第3の重回帰分析の結果,「意向と主体性の把握」では,「仕事上の予測と問題解決」「実践の振り返り」「職場外のスーパービジョン」が正の有意な関連を示した。「主体的実行を引き出す支援」では,「自己啓発と能力発揮」「実践の振り返り」「介護福祉士としての経験年数」が正の有意な関連を示した。「関係づくり」では,「実践の振り返り」「自己啓発と能力発揮」が正の有意な関連を示した。
結論 虚弱高齢者の自己決定を尊重する介護福祉士の実践は,①「意向と主体性の把握」(虚弱高齢者の主体性を尊重しつつ意向を把握すること),②「主体的実行を引き出す支援」(選択肢の提示や待つこと等によって虚弱高齢者の主体的実行を引き出すこと),③「関係づくり」(自らの心を開いて接すること等によって虚弱高齢者との関係づくりをすること)の3領域が確認された。また,自らの実践を振り返っている,仕事上の予測と問題解決ができる,自己啓発と能力を発揮していると回答した介護福祉士ほど,虚弱高齢者の自己決定を尊重する実践ができていた。
キーワード 自己決定,介護福祉士,虚弱高齢者,量的研究,主体性,関係づくり