論文
第68巻第2号 2021年2月 医療系大学の双方向型授業における
山本 隆敏(ヤマモト タカトシ) 田邊 香野(タナベ カノ) 登尾 一平(ノボルオ イッペイ) |
目的 大学教育における実習や演習などの双方向型授業はインフルエンザ感染集団発生のリスクとなることが考えられるが,感染拡大防止を目的とした授業停止の有用性についてはあまり論じられていない。本研究では,季節性インフルエンザ発生増加に伴い双方向型授業のみを停止する機会を得たことから,その感染拡大防止への効果を検証した。
方法 医療系K大学A学科2年次113名を対象に,2018/2019年シーズンのインフルエンザ感染症による出席停止者数を双方向型授業停止前後で約2週間モニタリングした。さらに全員に対してインフルエンザ感染の有無,インフルエンザワクチン接種の有無,感染時の症状,インフルエンザ感染への意識の計4項目のアンケート調査を行った。また,双方向型授業停止の実施時期の妥当性を検証するために過去のデータから基準値を設定し,分析した。
結果 調査対象集団のインフルエンザ感染による出席停止者数は経時的に増加し,出席停止者の割合が15%を超えた時点(113名中18名)で,6日間の双方向型授業のみの停止を実施した(一方向型授業は継続)。その結果,双方向型授業停止解除後の観察期間中の出席停止者の割合は1.8%(113名中2名)まで減少し,対象集団内の流行は収束した。アンケートは111名から回答が得られ(回答率98.2%),すべて有効回答であった。対象集団全体のインフルエンザワクチンを接種した割合は94.6%(111名中105名)と極めて高く,感染した割合は19.0%(111名中21名)であった。インフルエンザ感染者に限っても90.5%(21名中19名)はワクチンを接種していた。感染者の症状では発熱が最も多く(21名中19名),36.9℃以下から40.0℃以上と最高体温は幅広く分布していた。次に,今回行った双方向型授業のみの停止時期が妥当であったか検証したところ,今回の授業停止開始時には既にこの基準値を超えていたことが判明した。
結論 学内でのインフルエンザ感染拡大防止には,双方向型授業のみを感染拡大早期に停止することが効果的であることが明らかとなった。また,ワクチンを接種した割合は極めて高いが,ワクチンの効果に対する知識が乏しいことが明らかとなった。今後は,ワクチン効果の限界について学生への啓発が重要であると考えられた。
キーワード インフルエンザ,ワクチン接種,一方向型授業,双方向型授業,感染拡大防止