論文
第68巻第3号 2021年3月 地域密着型介護老人福祉施設における
山中 克夫(ヤマナカ カツオ) 小松崎 麻緒(コマツザキ ナオ) 登藤 直弥(トウドウ ナオヤ) |
目的 本研究は多くの地域密着型介護老人福祉施設(地域密着型特養)に設置されている地域交流スペースの活用の実態を明らかにすることを目的とした。
方法 関東内の全地域密着型特養312施設を対象に郵送法による質問紙調査(平成29年7月~9月)を行い,返送された157件のうち完全無回答を除く155件を分析対象とした(有効回答率49.7%)。
結果 地域交流スペースを設置している施設は全体の72.9%であったが,十分活用していると回答した施設は12.9%であった。また,活用施設の利用回数(年間換算)の中央値は48回であり,分布は少ない方に偏っていた。活用使途の第1位は「入居者の交流を中心とした活動」(72.0%)であり,第2位は「施設の職員が参加する研修会や会議」(69.0%)であった。利用回数を目的変数とした重回帰分析では,併設・隣接の施設の種類(特別養護老人ホーム他)と活用使途の種類(介護予防,自治会の活動,地域のサークル活動や地域交流,入居者の交流)がプラスに影響し,立地(市)と他事業総数がマイナスに影響していた。独自な取り組みに関する自由回答では,子ども食堂をはじめ多くの例が挙げられた。活用促進のための周知方法では,「自治会や民生委員を通じて」(43.0%)が最も多く,次いで「特に何もしていない」(33.0%)が多かった。活用に関する意見(自由回答)では,特に利用回数が多い施設から,管理・運営上の問題(費用など)が指摘された。また,「あまり活用していない」「活用していない」と回答した施設に理由を尋ねたところ,「利用してくれる人がいない」が最も多く(63.6%),次いで「普段の業務が忙しく余裕がない」(61.4%)が多かった。
結論 地域交流スペースは全体の約4分の3の施設に設置されていたが,全体的に利用回数が少なく,活用使途は施設内の活動が多く,地域に向けた活用が少ない実態が明らかにされた。活用していない理由からは,職員の忙しさ等から施設だけで活用を推進していくことには限界があり,また施設の立地や地域交流スペースの構造等を踏まえた活用が重要であると思われた。地域交流スペースは今後介護予防・生活支援の拠点他で活用が期待されるが,そのためには地域密着型サービス連絡会などを介して組織的に運営の指針を検討したり,実際の運営に関しても生活支援コーディネーターをはじめ外部連携が必要であると考えられた。
キーワード 地域密着型サービス,地域交流スペース,地域密着型介護老人福祉施設,地域支援事業,生活支援体制整備