論文
第68巻第4号 2021年4月 健康保険組合における被扶養者向け特定保健指導事業の
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目的 健康保険組合(以下,健保組合)では被扶養者における特定保健指導実施率向上が一つの事業課題となっている。本研究では保健事業のどのような実施方法・実施体制(以下,プロセス・ストラクチャー)が,特定保健指導実施率や指導による健康課題の解決に有意に関連しているのか,定量的に検証することを目的とした。
方法 「データヘルス・ポータルサイト」(以下,ポータルサイト)に蓄積された平成30年度の保健事業の実績データ(アウトプット指標・アウトカム指標の目標達成度)および保健事業のプロセス・ストラクチャーに関するデータを用いた。各プロセス・ストラクチャーの実施で,被扶養者向け特定保健指導のアウトプット指標・アウトカム指標の目標達成度が有意に異なるか検証した。
結果 被扶養者向け特定保健指導事業であり,かつアウトプット指標が「特定保健指導実施率(%)」に相当する内容で実施された事業は,計172事業(160組合で実施)であった。172事業のうち,プロセスでは「専門職による対面での健診結果の説明」,ストラクチャーでは「専門職と連携(産業医・産業保健師を除く)」の実施の有無によって,アウトプット指標・アウトカム指標の目標達成度が双方とも有意に異なっており(有意水準10%未満,ウィルコクソンの順位和検定で検証),各プロセス・ストラクチャーを実施している事業ではアウトプット指標・アウトカム指標の目標達成度が有意に高かった。また健保組合の属性(形態,扶養率,加入者数,被扶養者における特定健診実施率)も考慮してアウトプット指標の目標達成度に各プロセス・ストラクチャーが影響を及ぼしているか,重回帰分析によって検証した。健保組合の属性を考慮しても,「専門職による対面での健診結果の説明」を実施している事業のほうがアウトプット指標の目標達成度が有意に高かった(偏回帰係数=0.26,p値=0.05,自由度調整済み決定係数=0.01)。
結論 「専門職との連携」と「対面で本人の健診結果を説明する」という要素を組み合わせることで,被扶養者向け特定保健指導事業の効果的な実施につながる可能性が高い。今後もポータルサイトのようなシステムおよびそこに蓄積された大規模データを活用し,医療保険者の保健事業を効果的なものにするプロセス・ストラクチャーを定量的に検証していくことが必要である。
キーワード 被扶養者,特定保健指導,プロセス・ストラクチャー,専門職,データヘルス