論文
第68巻第6号 2021年6月 公立小学校教員の不眠症に関する業務時間分析-公立小学校・中学校等教員勤務実態調査研究より-堀 大介(ホリ ダイスケ) 青木 栄一(アオキ エイイチ) 神林 寿幸(カンバヤシ トシユキ)クリスティーナ・シルビア・アンドレア 高橋 司(タカハシ ツカサ) 白木 渚(シラキ ナギサ) 池田 朝彦(イケダ トモヒコ) 池田 有(イケダ ユウ) 道喜 将太郎(ドウキ ショウタロウ) 大井 雄一(オオイ ユウイチ) 松崎 一葉(マツザキ イチヨウ) 笹原 信一朗(ササハラ シンイチロウ) |
目的 わが国の公立小学校の教員は睡眠を犠牲にして働かなければならないほどに多忙である。多様な業務を担っていることがその一因であり,業務の明確化・適正化が課題である。これまでの研究で,総労働時間が不眠症と関連することが示されてきた。しかし,具体的にどの業務に費やされる時間が不眠と関連するかまでは十分に明らかにされてこなかった。本稿ではどの業務が不眠のリスク因子となりうるのかを所要時間の長さおよび発生時間に着目した解析を行うことで明らかにし,業務の所要時間の削減のための手段について検討することを目的とした。
方法 平成28年に実施された公立小学校・中学校等教員勤務実態調査のデータを二次利用した。同調査は全国の代表的な公立小中学校教員を対象に実施された大規模横断調査であり,無記名の自記式質問紙,および26種の業務を含む業務記録表が用いられた。回答者は月曜日から日曜日までの連続する7日間,どの業務に従事したかを30分単位で記録した。各業務に費やされた時間は四分位でカテゴリ化し,上位7種の業務を解析に含めた。学級担任を受け持つ60歳未満の公立小学校教諭のデータを解析対象にした。アテネ不眠尺度の点数が6点以上の者を不眠群,6点未満の者を健常群と定義した。各業務に掛けられた時間と不眠症との関連を,χ2検定および二項ロジスティック回帰分析を用いて検証した。
結果 3,674名(女性62.7%,平均年齢38.3±10.9歳)のデータが解析対象となり,41.3%が不眠群に分類された。授業準備の時間が最も短かった者と比較して,最も長かった者の不眠に対する調整オッズ比は1.54(95%信頼区間1.23-1.92)であり,統計学的に有意な正の関連を認めた。他の業務では統計学的に有意な関連を認めなかった。さらに,不眠群は健常群と比較し平日時間外に統計学的に有意に多くの時間,業務に従事していた。
結論 公立小学校教員の不眠症は,授業準備の所要時間,および平日時間外の業務の発生時間と関連を認めた。授業準備の時間を短縮するための対策について論考した。
キーワード アテネ不眠尺度,学級担任,教員,業務記録,長時間労働,時間外労働