論文
第68巻第6号 2021年6月 難聴者の福祉と生活の質の評価に関する先行研究メタ分析坂本 秀樹(サカモト ヒデキ) 永松 陽明(ナガマツ アキラ) 安川 文朗(ヤスカワ フミアキ) |
目的 これまで難聴者の社会的機能や活動の機会がどのように捉えられ,福祉や生活の質との関係性においてどのような研究がなされてきたのか,国内外で発表された先行研究のレビューを行った。また,これに加えてテキストマイニングの手法を用い,より具体的に難聴者福祉に対する研究の潮流を示した。
方法 難聴の人々の生活の質や社会的機会との関係や影響,また社会モデル的視点からの議論がどの程度深められてきたのかを知るため,1990年から2019年の間に発表された難聴福祉に関する文献を対象にレビューを実施した。また,難聴福祉の理論と生活の質に関する研究の動向を理解するため,レビュー対象とした論文に対し,先行研究の中ではどのような語彙が用いられ,それぞれの関係性がどのように構成されているかを検証し,研究の関心がどの分野に所在するのか明らかにすることを目的として,日本語論文と英語論文それぞれを対象にテキストマイニングによる共起ネットワーク分析を行った。
結果 難聴と生活の質,あるいは福祉に関する日本と海外の先行研究調査の結果,難聴者福祉の視点からの福祉改善に関する研究は発見出来なかった。また,生活の質を測定するICECAP-Oなどの質問項目により難聴者のQOLを測定する試みがなされているが,それらが示す結果は一貫していない。日本語論文4編の共起ネットワーク分析の結果,対象とする文章数は2,048件であり,対象語彙数は1,615件であった。生成した共起ネットワークを見ると,難聴高齢者の生活やそのレベルをどう捉えるか,難聴が社会的ネットワークにどう影響するかに関する論議が中心となっていた。同様に,英語論文13編の文章数は2,304件であり,対象語彙数は5,415件であった。描かれた共起ネットワークによると,“hearing”,“loss”など直接難聴を示す語だけでなく,“health”と“capability”,“quality of life”,“social”など,社会生活を営む上での難聴者と周囲のかかわりに関する語が頻出していた。
結論 今回の分析により,難聴者福祉に関する研究において,日本と海外の潮流は異なることが示された。また,日本国内における難聴者福祉の研究に着目すると,難聴者の生活の質改善に関する論議は充分であるとはいえず,難聴者の視点に立ってその福祉を議論するためには,難聴当事者が必要としている支援や施策についての理解を深め,改善の指標としての生活の質を測定する手法も併せて検討することが必要である。
キーワード 難聴者福祉,生活の質,評価,共起ネットワーク,テキストマイニング,メタ分析