論文
第68巻第7号 2021年7月 労働者のインターネット依存とマインドフルネスとの関連廣江 陸(ヒロエ リク) 榊原 文(サカキハラ アヤ) |
目的 インターネット(以下,ネット)の普及と一般化は,人々のライフスタイルに多くの変化をもたらした。その一方で,ネット使用を制御できず,人間関係や社会生活に悪影響をもたらすネット依存が問題視されている。労働者がこのようなネット依存状態になると,ネットに夢中になるあまり仕事に集中できず,生産性や効率の低下,ヒューマンエラーや事故の原因になることが考えられる。そこで本研究は,「今この瞬間に生じている出来事や経験そのものに気づきながら注意をとどめること」を示すマインドフルネスに焦点を当て,労働者のネット依存とマインドフルネスとの関連について明らかにすることを目的とした。
方法 2019年8~9月,島根県内のA製造業事業所の全従業員530名を対象に,無記名自記式質問紙調査を行った。調査内容は,年齢,性別,勤務年数,生活習慣,精神状態,ネット依存度,マインドフルネスである。ネット依存度は,Young’s Diagnostic Questionnaire for Internet Addiction score(YDQ)の8項目を使用し,5点以上をネット依存と判定した。マインドフルネスは,Mindful Attention Awareness Scale(MAAS)の15項目を使用した。MAASの90パーセンタイル値である10点でカットオフし,10点以上をマインドフルネス低下と判定した。マインドフルネスを従属変数,ネット依存を独立変数とし,単変数ロジスティック回帰分析を行い,その後,朝食の欠食,睡眠時間,夜勤,気分の落ち込みを共変量として投入し,多変量ロジスティック回帰分析を行った。
結果 有効回収数(率)は384(72.5%)であった。MAASの平均点は5.32点,10点以上は54名(14.1%)であった。YDQの平均点は1.37点,5点以上は23名(6.0%)であった。多変量ロジスティック回帰分析の結果,ネット依存とマインドフルネスとの間に有意な関連を認めた。ネット依存の従業員がそうでない従業員と比べてマインドフルネスが低下する調整オッズ比は,6.72(95%CI:2.53-17.89)であった。
結論 ネット依存の従業員はそうでない従業員と比較して有意にマインドフルネスが低下していることが示唆された。ネット依存の場合,ネットに夢中になるあまり,ネット以外のことに無気力,無関心になることがマインドフルネスの低下につながると推察される。
キーワード インターネット依存,労働者,マインドフルネス,産業保健,労働災害,事故