論文
第68巻第7号 2021年7月 高齢の大腿骨骨折患者への支援に関する一考察-患者の性別に着目した医療ソーシャルワーカーの支援の特徴-畑 香理(ハタ カオリ) |
目的 大腿骨骨折患者への指導や支援等に関する先行研究は医学的な観点から行われることが多く,ソーシャルワーカーによる退院前後の生活支援に着目した研究はほとんどみられない。そこで本研究では,医療ソーシャルワーカー(以下,MSW)による大腿骨骨折患者への支援内容を分析し,退院後の在宅生活を支える方法を明らかにしていきたい。また,先行研究では日常生活における活動や役割において性別による違いが認められていることから,本研究では患者の在宅復帰を支援する際に,性別による日常生活上の活動や役割の違いが支援の内容や量に影響を与えるかどうかについても検討していきたい。
方法 全国の回復期リハビリテーション病棟を有する医療施設で,2018年8~9月にかけて当該病棟を担当しているMSWを対象者とした。質問紙にて,①調査対象者の属性,②これまでに担当した大腿骨骨折患者のうち高齢入院患者の状況,③大腿骨骨折の高齢入院患者への支援内容,④業務全体の実施状況について質問を行った。調査票は1,181カ所の医療施設へ郵送し,有効回答の339名を分析対象とした。
結果 大腿骨骨折患者の支援では,高齢男性患者よりも高齢女性患者に対し,以下の項目がより多く行われていた。具体的に「家事全般(炊事・洗濯・掃除等)」「屋外活動(散歩・買い物や受診時の移送・庭仕事等)」「受傷前の家事役割維持」に関するサービスや支援の導入・調整,「再転倒の不安・恐怖の訴え」「家庭内で担っていた役割を果たせないもどかしさや情けなさ,同居家族への気遣いや気兼ね」「痛みや疲労感の訴え」などを傾聴し受けとめる,「生活の中で楽しみ・趣味活動を見つける手助け」「社会活動参加(近隣住民や町内会との交わり)の維持」に関する支援である。一方,患者の性別によって支援状況の違いが見られなかった主な項目は,社会資源や制度に関する情報提供や活用の仲介等があった。
結論 大腿骨骨折患者に対してMSWが行う支援の量は,患者の性別によって異なることが明らかになった。さらに,患者の性別の違いによって支援に差が生じる背景として,患者が入手するソーシャル・サポートの違いが関係していると考えられる。MSWは,これまで入手できていたソーシャル・サポートが骨折のため入手しづらくなった高齢女性患者に対し,その代替となるサービス導入・調整やさらなる充実という視点で支援を行っていると考えられる。
キーワード 大腿骨骨折,高齢患者,医療ソーシャルワーカー,性別,ソーシャル・サポート