論文
第68巻第13号 2021年11月 東日本大震災被災地における
山下 真里(ヤマシタ マリ) 清野 諭(セイノ サトシ) 野藤 悠(ノフジ ユウ) |
目的 東日本大震災の被災地では,新しいコミュニティになじめず孤立や孤独に陥っている者への対策が喫緊の課題となっている。本研究では,被災地在住高齢者の孤独感の実態を把握し,孤独感と関連する可変的要因を横断研究にて明らかにすることを目的とした。
方法 2019年10月,気仙沼市在住の65-84歳の非要介護認定者(要支援者は含む)18,038名から,16社協区別に層化無作為抽出した9,754名を対象に自記式質問紙調査を郵送法により実施した。返送のあった8,150名(回収率83.6%)のうち欠損のない5,034名を解析した。孤独感の評価には,日本語版Three-Item Loneliness Scaleを用い,6点以上を高孤独感ありとした。高孤独感ありと関連する可変的要因として,週1日以上の運動習慣,長時間座位行動,同居人以外との週1回以上の対面交流と非対面交流,孤食,閉じこもり,社会活動(ボランティア,趣味・学習,自治会,交流サロン,スポーツクラブのいずれかに月1回以上参加),ソーシャルサポート(情緒的サポート,手段的サポート),震災後の相談環境の変化について尋ね,マルチレベルロジスティック回帰分析(全変数投入モデル)によりオッズ比(95%信頼区間)を算出した。調整変数は,性別,年齢,独居,婚姻状況,現在の住居,介護保険料の所得段階区分,就労状況,教育歴,既往歴,抑うつの有無,腰と膝の慢性疼痛の有無,移動能力制限,飲酒,喫煙を用いた。
結果 高孤独感を有する割合は,全体で18.2%(916名),男性で19.2%,女性で17.3%であった。また年齢区分別の高孤独感該当者は,前期高齢者で18.2%,後期高齢者で18.3%であった。男女に共通して高孤独感と関連していた可変的要因は,非対面交流なし,孤食あり,社会活動なし,手段的サポートいない,ネガティブな相談環境の変化であった。男性のみに見られた特徴としては無職と高孤独感との有意な関連が認められた。女性のみに見られた特徴としては,情緒的サポートいないと対面交流なしが高孤独感と有意な関連を示した。
結論 孤独感は,人との交流状況や食事環境,ソーシャルサポートと有意に関連していることが明らかになった。また,被災地の孤独の特徴として,震災後の相談環境のネガティブな変化が,現在の孤独感と強く関連していることが示された。被災地の取り組みとして,会食機会の提供等,食を通したコミュニティづくりが効果的であるかもしれない。
キーワード 東日本大震災,孤独感,日本語版Three-Item Loneliness Scale,コミュニティの再構築,身近な相談環境の改善