論文
第68巻第13号 2021年11月 ヘルスリテラシーが主観的健康感に与える影響村松 容子(ムラマツ ヨウコ) |
目的 近年,疾病構造が変化し,慢性疾患等,病気を抱えたまま日常生活を送る人が増えている。慢性疾患は,必ずしも完治を望めないため,主観的健康感が重要となる。一般に,主観的健康感は,加齢や疾病を経験することで下がるが,加齢も疾病も避けることはできない。一方,主観的健康感にはヘルスリテラシーも関連しており,ヘルスリテラシーが低下すると,主観的健康感が低下するといった報告がある。ヘルスリテラシーは,加齢や疾病発症後も向上しうることから,本研究では,主観的健康感を向上させるための試みとして,ヘルスリテラシーが主観的健康感に与える影響を分析した。
方法 データは,ニッセイ基礎研究所が,20~69歳の男女個人を対象に2018年7月に実施したインターネット調査の結果である(有効回答数3,002)。分析は,主観的健康感とヘルスリテラシーの基本属性別分布を確認したうえで,主観的健康感を目的変数,ヘルスリテラシーや生活習慣,最近の治療歴や投薬の状況を説明変数とした重回帰モデルで推計を行った。
結果 主観的健康感を低下させる要因として加齢や疾病の発症があった。ヘルスリテラシーは加齢や疾病を経験することで向上していた。重回帰分析の結果,ヘルスリテラシーは,社会的経済環境,現在の生活習慣,治療歴や投薬の状況とは独立して,主観的健康感とプラスの相関関係があることが認められた。
結論 主観的健康感は,加齢や疾病の発症によって下がるが,ヘルスリテラシーは,年齢や社会経済的環境,治療歴等とは異なり,教育や経験によって向上することが望める。したがって,ヘルスリテラシーの向上によって,年齢や疾病経験による主観的健康感の低下を一定程度埋めることができる可能性がある。長寿化がますます進展する中,自分自身の健康状態について,過剰な不安を抱えずに暮らすためには,医療機関で治療を受けないで済む期間の延伸という視点での疾病の予防だけでなく,主観的健康感の向上が重要な課題と考えられる。
キーワード 主観的健康感,ヘルスリテラシー,疾病経験,加齢,生活習慣