論文
第68巻第15号 2021年12月 末子が未就学児の子どもを持つ父親の労働日における生活時間大塚 美耶子(オオツカ ミヤコ) 越智 真奈美(オチ マナミ) 可知 悠子(カチ ユウコ)加藤 承彦(カトウ ツグヒコ) 新村 美知(ニイムラ ミチ) 竹原 健二(タケハラ ケンジ) |
目的 父親が家事・育児に費やすことのできる時間を延ばすことを目的に,政府は父親の家事・育児関連時間を1日あたり150分にすることを目標として掲げている。しかし,まだその達成には至っていない。そこで,本研究では基幹統計のデータを用いて,父親の1日の生活時間の分布を記述し,父親の家事・育児関連時間を増やすための方策を提言するのに必要な基礎資料として提示することを目的とした。
方法 本研究では,総務省が実施している社会生活基本調査の2016年データを用いた。調査参加者176,285人のデータのうち,①父親,②夫婦と子どもの世帯,③末子が未就学児,④就業している,⑤調査日が「仕事の日」の条件をすべて満たす3,755人を対象に分析を行った。対象者の1日の生活時間を「(通勤を含む)仕事関連時間」「家事・育児関連時間」「(睡眠や食事などの)1次活動時間」「(娯楽などの)休息・その他の時間」の4つのカテゴリーに分類し,「仕事関連時間」の時間別の分布を調べた。次に1時間ずつ分けた「仕事関連時間」の長さごとに,その他3つのカテゴリーの平均時間を調べ,「仕事関連時間」と他のカテゴリーの時間との関連をみた。
結果 「仕事関連時間」は,12時間以上の割合が36%と最も高かった。「仕事関連時間」が長いと,「家事・育児関連時間」や「休息・その他の時間」が短くなる傾向がみられた。一方,「1次活動時間」は「仕事関連時間」の長さに大きく影響されず,1日平均10時間前後でほぼ横ばいであった。ただし,全体の36%を占める「仕事関連時間」が12時間以上の群では,「1次活動時間」「休息・その他の時間」の平均時間が他の群と比べて1時間ほど短かった。また,この群における「家事・育児関連時間」は,1日平均10分だった。
結論 父親の「仕事関連時間」が長いほど,「家事・育児関連時間」が短くなる傾向がみられた。仕事がある1日において,健康維持に必要だと思われる10時間程度の「1次活動時間」と最低2時間の「休息・その他の時間」を差し引くと,政府の目標とする父親の家事関連時間150分を達成するためには,父親の「仕事関連時間」が9.5時間未満となることが重要であると示唆された。この結果は,長時間労働をどこまで是正すればよいのか,その一つの具体的な目安になり得るものだと考えられる。
キーワード 父親の生活時間,長時間労働,家事・育児時間,少子化,社会生活基本調査,ワーク・ライフ・バランス